IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第661話】
夜、ヒーローショーも終えたヒルトは寮の外でいぬきちやにゃん次郎と共に公園を散歩していた。
「わんわんっ(お散歩たのしいわんっ)」
「ニャニャ(私はいつも自由気ままに散歩してるわよ)」
仲睦まじく歩く犬と猫、ヒルトも歩幅を合わせて夜の散歩を楽しんでいた。
冬の寒空の下とはいえ、それほど嫌な感じはしないこの一時に、思わずヒルトは呟く。
「こうしてると、平和だなぁって思うよ。 京都であんなことあった後に言うのは不謹慎だけどさ」
「わんっわわんっ(京都は楽しかったわんっ。 僕は火を華麗ないぬきちステップで回避したわわんっ)」
「にゃぅ……。 ニャニャウ(いぬきちステップって……。 それよりも、怪我とかはしなかったの?)」
「わふっ、わんわんっ(僕は怪我しないわんっ。 旅犬として旅してきた経験があるわんっ)」
「ニャニャ(何の経験よ)」
「わわん(お肉を美味しく食べる経験わん)」
暢気な二匹の会話、だがヒルトには二匹がただただ鳴いてる声をあげてるだけにしか聞こえなかった。
所変わってフランス北部、ソフィーの生まれ故郷である街では完成したIS【ブリズ・プランタニエール】をコンテナに積み込む作業を行っていた。
「ふぅ……。 流石に重労働ですね」
白銀の髪が美しいプラフタと呼ばれた少女が一人でクレーンを使って積み込んでいた。
搬入場所はフランスのデュノア社、其処から空輸して学園へと運ぶ手筈になっていて、ソフィーの代表候補生としての申請も彼女が済ませている。
「ソフィーの驚く顔、楽しみです♪」
「あら、プラフタ? 遅くまでご苦労様」
現れた金髪のロングストレートの眼鏡を掛けた女性はモニカだ、街の酒場で歌姫として活動してる彼女が珍しく現れたのでプラフタも――。
「珍しいですね。 オスカーは一緒では無いのですか?」
「オスカー? 多分今頃近くの森で植物の世話をしてるんじゃないかしら?」
「そうですか。 彼が居たら手伝ってもらおうかと思っていたのですが……」
「力仕事ならオスカーよりもハロルさん――って思ったけど、時計作りで忙しかったわね」
二人の他愛ない会話、極力ソフィーの話をしないのは寂しくなるからだろう。
とはいえ、この機体を贈れば連絡もあるかもしれないという一抹の想いもあった。
同時刻、パリのデュノア社ではシャルリーヌ・デュノアがコスモスに乗り込み、周囲にあるタレットを破壊していく。
こうして訓練を続けているのも、全ては姉を超えるため――愛人の娘とはいえ、腹違いの姉に目を掛けている父親の目を自分に向けさせたかった。
シャルリーヌがそう思うのも無理はない、ここデュノア社で高いランク適性を出したのはシャルロット・デュノアであり、シャルリーヌ・デュノアはB+判定。
この時点で落ちこぼれの烙印を押されたシャルリーヌは自身の適性の低さを呪い、姉を呪った。
「……姉さんさえいなければ!!」
ショットガンの銃口が火を噴き、最後のタレットが爆散した。
「シャルリーヌ、そこまでだ」
「……っ、まだ僕は訓練出来ます!」
アルベール・デュノアの室内音声が響くも、シャルリーヌは訓練を終えようとはしなかった。
それだけの想いがあるのだろう――アルベールは静かに見守るのだった。
宇宙の片隅では何かに惹かれる様に、隕石が進んでいた。
何を思い、かの者が目指すのかはわからない。
ただ――それが飛来した時、地球は新たな戦いの幕が開かれるだろう。
カナダにあるコンサート会場では二人のアイドルが歌い、踊る。
一人は水色の髪をサイドポニーにまとめ、もう片方赤みがかったオレンジの髪を、水色髪の少女とは反対側にサイドポニーとしてまとめ、愛嬌を振る舞っていた。
コメット姉妹――ファニール・コメットとオニール・コメットだ。
次の曲の前の小休止の為、ステージ袖へと消えていき、近くに併設された休憩室に入った二人。
「今日もお客さんがいっぱいだね♪ お兄ちゃんにも聴いてもらいたいなぁ……♪」
そう言って投影ディスプレイに映し出された織斑一夏を見るのはオニール・コメットだ。
爽やかな笑顔で映る一夏の姿を見て僅かに紅潮させるオニールに、呆れたようにファニールが――。
「そんな奴の何処がいいのよ。 男でISが扱えるだけじゃない」
「えー? お兄ちゃんカッコいいよ? それに、いっぱい活躍だってしてるよ?」
そう言って織斑一夏の活躍が記録されたデータを出すオニール。
表示されたデータ全て、改竄された物であり、有坂ヒルトが解決したものばかりだ。
「そりゃ、それだけ見たら凄いけど……。 そういや、もう一人の操縦者は何て名前だった?」
「え……と……?」
「……忘れちゃったのね、まあ私も思い出せないけど」
二人の会話もそこまでで、次の曲の為に慌ただしく休憩室を後にした。
場所はまた学園へと戻る、一通りの散歩を終えたヒルトは右肩ににゃん次郎を、左肩にいぬきちを乗せて歩いていた。
「わんっ(楽チンわんっ)」
「にゃうにゃ(私は仕方なくのってあげてるのよ、勘違いしないでよね)」
二匹を連れてきたのも遊び道具を与えるためだった、こっそりペットショップで購入し、今は部屋にある。
早速部屋に入り、紙袋から鈴が鳴る球とフリスビーを取り出した。
「にゃん次郎は此方でいぬきちはフリスビーだ。 休みの日はこれで遊ぼうぜ」
「わんっ(フリスビー楽しそうわんっ)」
「ニャニャニャッ(こんな玩具で私は靡かないんだからねっ)」
玩具を見て喜んでいると思ったヒルトも思わずにっこりと笑顔を溢した。
イルミナーティ本部、ウィステリア・ミストは書類に目を通していた。
「あぎゃぎゃ、ボス。 報告書の山だな」
「カーマインか。 仕方ないとはいえ、私が目を通さなければならないからな」
「あぎゃ、まあ無理はしねぇようにな。 ……あんたがいなきゃ、俺様は今も救いの無い闇に居たんだからな」
「ふふっ、無理はしないさ。 私は世界を間違った方向に進ませたくないのでな、その為の理想なら、私はこの手を幾らでも汚すことが出来る」
一通り書類に目を通したウィステリアは椅子から立ち上がると、シャルトルーズはてきぱきと未読と既読の書類に分け、其処から更に必要の無い書類を分ける。
「あぎゃ……シャルトルーズ、手際が良い女は俺様は好きだぜ?」
「え? ありがとう、カーマイン」
にこっと笑顔を返したシャルトルーズ、カーマインは靡きそうにない彼女を一瞥すると――。
「けっ、そろそろ俺様は寝るぜ。 あんたたちも早く寝ろよ、体に障るぜ?」
「そうだな。 シャルトルーズ、今日はここまでにしておこう」
「わかったよ、ウィステリア」
そう言って仕事を終えた二人、カーマインは静かに部屋を出ると自身の寝室へと向かう。
「チッ……そういやあの女と長く会ってねぇな」
伊崎千夏――スコールが拠点としているマンションに暮らす女を思い出したカーマイン、今になって思い出すのは何故か――カーマイン自身わからなかった。
一方で残されたウィステリアとシャルトルーズ――。
「ね、ねぇウィステリア」
「何かね?」
「あ、あの、ね? ……久しぶりに、ね……? えと、あの……」
顔を真っ赤にし、胸の前で指を絡ませたシャルトルーズにウィステリアは――。
「フッ……相変わらずエッチだな、シャルトルーズは」
「なぁっ!? ぼ、僕はエッチじゃないよ! う、ウィステリアの方が……」
「ハハッ。 ……そうだな、今夜は寝かせないぞ?」
「……!! よ、よろしくお願いします……」
顔を赤くしたシャルトルーズ、夜は更けていくのだった。
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