IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第九十二話】
前書き
少し遅れました
今回の内容は……人によっては批判かも?ですね
客観的に見てもそう取られても仕方がない様な気がしなくもないです
駄文ですが良ければ見てやってください
批判は感想かメッセージにてよろしくお願いします
――第三アリーナ――
両腕で突き飛ばされた俺は、尻餅をつきながらただ形状が変わっていくラウラを見つめるしか出来なかった。
その深い闇がラウラの全身を全て包み込むと少し上昇し、その表面を流動させ、流動を繰り返すとゆっくりとアリーナの地面へと降りていく。
そして、地面に立つと、その全身を変化させ、成形させていった。
「くっ……ラウラ…何で…ッ!」
「…………」
呼んでも応えず――ただただ俺を見下ろすように立つ黒い全身装甲《フルスキン》のIS――。
いや、それに似た『何か』だった。
先月の謎の襲撃者とは似ても似つかない形状をしている。
ボディラインはラウラの細い線をそのまま表面化した――ラウラ特有のスタイルであり、腕と脚には最小限形作ったアーマーがつけられている。
先程まで俺を見ていた赤い瞳はもう見えず、ラウラの頭部を覆うようにフルフェイスのアーマー――誰かに似た頭部だが誰だか今の俺にはどうでもよかった――目の箇所には装甲の下にあるラインアイ・センサーが赤い光を漏らしていた。
そして、手に握られていた近接ブレードに俺は見覚えがあった。
「《雪片》……!?」
だが、一夏が手にしていた雪片とは少し違う――少し前の型の雪片だろう。
尻餅をついた時に手元に落とした天狼を無意識に手探りで探し、それを手に取ると――。
「――!」
「……なっ!?」
手にしたその瞬間、居合いの様に見立てた近接ブレードを中腰に引いて構え――一閃を振るう。
その刃が俺の首を狙っているのがスローモーションで映り、後数センチという所でぴたりと止まった――。
「……ッ!?」
寒気がすると同時に、恐怖にも襲われた。
もしも【バリア無効化攻撃】かつ【生身】にもダメージを負わせる威力だったなら俺の首は今頃はねられて俗に言う【マミる】現象に陥ってたかもしれない。
――だが、何故ぴたりと止まったのだろうか?
――もしかすると、まだラウラの意識はかろうじて保っているのだろうか…?
だがそれも束の間の事だった、両手で構えた近接ブレードを縦に構え一直線に振り落とす鋭い斬撃が襲いかかる――。
まだ恐怖が拭いされないなか、必死でランドローラーを使用して後ろへ回避行動を取った。
こんなとき、オートなら『後方退避』の命令を送るだけで自動で避けるのだろうが、俺の操作は常にマニュアル操作、第三世代兵装だけはオート操作による命令が一番効果が高いため、唯一それだけはマニュアルにしていない。
後方へ回避する中、その切っ先がシールドバリアーに触れ、そこからシールドバリアーが一気に崩壊するとそのままシールドエネルギーも一気に底をついたため、ISが解除されてしまった。
手に握られていた天狼も、光の粒子となり虚空へと消えていった――刹那、Aピットから誰かの叫びが聞こえてきた。
「うおおおおっ!!!」
「…っ!何だ!?どういう事だ、一夏!?」
叫びをあげたのは一夏だった、見るやピット口が吹き飛ばされていてその場から瞬時加速で黒いISに襲いかかった――。
俺の声を無視する一夏は、そのまま黒いISに肉薄――斬りつけるのだが、黒いISは半身をずらして避け、次の横一閃による一撃も近接ブレードの切っ先――本当に先の方だけで受け止め抑え込む。
「………がどうした……」
殆ど聞き取れない声で何か言っている一夏――そして一夏の叫びがアリーナを木霊する。
「それがどうしたああっ!」
受け止められた雪片を手放し、その場で勢いをつけてのバックスピンキックを繰り出すがそれを易々と避けたISはその一夏の着地際を狙っての袈裟斬り――その一撃を受けた一夏のISは光の粒子となって消えていった――。
そしていつの間にか篠ノ之も打鉄を纏ってアリーナに来ていたのか黒いISから一夏を引き離して――。
「馬鹿者!何をしている!死ぬ気か!?」
「離せ!あいつ、ふざけやがって!ぶっ飛ばしてやる!」
「ッ…、止めろ一夏!篠ノ之も!大人しくピットへ戻れ!!」
正直、何故この場に一夏と篠ノ之が居るのかがわからない。
シャルルも未来も、唐突に色んな出来事が起きて状況判断が追い付いていない様に感じた。
そんな中、怒りが収まらない様に見える一夏は――。
「どけよ、ヒルト、箒!邪魔をするならお前達も――」
「馬鹿野郎!!邪魔してるのはお前と篠ノ之だろうがッ!!」
腰を落とし、体重を載せたストレートを一夏の頬目掛けて放つ。
綺麗に決まったストレートは、一夏自身飛び出そうとしていた体勢も災いしてか横方向にきりもみしながら派手に転んだ。
「有坂!一夏にそこまでする事ないだろ!」
「篠ノ之、文句なら後で聞いてやる。だが今のお前たちはただ場を混乱させるだけじゃねぇか!大人しく戻れ!」
「そんなこと、貴様に言われたくないっ!!」
「……なら勝手にしろ」
何を言ってもこの二人は戻らないだろう。
正直、こんな状況判断がしにくい時に厄介に介入する方もどうかと思う。
――普段暴力になる行為とかは嫌いなのだが、今回は明らかに意味のわからない二人の介入が、更にこの場の状況を悪くしているだけに思えた――。
まだ先程の恐怖が残って、拳が震える中――。
「殴って悪かったが、いきなり意味も解らずこの場に来てラウラをブッ飛ばすだの何なの言われても正直頭がおかしいとしか思えないんだよ。訳を話せよ一夏」
殴られた頬を抑えながらゆっくりと立ち上がる一夏――そして、口を開く。
「あいつ……あれは、千冬姉のデータだ。それは千冬姉ものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを……くそっ!」
「……要約すると、あの太刀筋や剣技は織斑先生のものだ。だからあいつが使うのは許せねぇって事か?」
「あぁ…後、それだけじゃねえよ。あんな、訳わかんねぇ力に振り回されてるラウラも気に入らねぇ。ISとラウラ、どっちも一発ぶっ叩いてやらねえと気がすまねぇ」
「成る程、んで?」
「とにかく、俺はあいつをぶん殴る。その為にはまず正気に戻してからだ」
「……馬鹿かお前は?いや、悪い…馬鹿なんだな一夏は」
「なっ…!?」
俺の馬鹿発言に対して、明らかに表情が変わる一夏。
篠ノ之も俺の発言に対して怪訝そうな表情しながら此方を睨み付けてくる。
「データが織斑先生の物だとか言うが、織斑先生は『モンド・グロッソ』優勝者だろ?ならその太刀筋や動きを真似する国やそれを研究する奴なんて沢山居る。お前は俺が織斑先生の太刀筋を真似しても同じように怒るのか?」
「ぐっ……」
「後、ラウラの事ぶっ叩くか知らんが――お前、あいつの何を知ってる?…俺だって偉そうにあいつのこと、知ってるって言える立場じゃないが…それでも、互いに解り合おうとしてたんだ…。それに、あいつは…ラウラは望んでああなった訳じゃない…そうじゃなきゃ、俺まで取り込まれ様としていたのを突き飛ばしてまで助けたりしないだろっ!?」
――正直、俺が勝手に思い込んでいるだけなのかもしれない。
だがそれでも――俺を突き飛ばし、瞳を閉じる前に俺に視線で語ったのは『助けて』と――俺にはそう語っているような瞳を見せて閉じたんだ――。
「――てか、まずラウラを助けることが優先だろうが!……お前がやりたい事なんか、只の自分勝手な憂さ晴らしのエゴじゃねえかっ!?」
その発言に真っ先に食い付いたのが篠ノ之だった。
好きだからこそ、一夏がそう言われるのを許せなかったのだろう。
「有坂!貴様……!言っていいことと悪い事が――」
「篠ノ之、文句なら後にしろと言った!正直、言い争う時間ですら勿体ないんだ!!」
俺の怒声が響く中、緊急放送が流れ始める――。
『非常事態発令!全学年のトーナメント全試合は中止!状況をレベルDと認定し、現場鎮圧の為教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!――』
「ちっ!最悪じゃねえかよ…!このままじゃあ…」
「有坂、何が最悪だというのだ?このまま先生方が状況を収拾すれば――」
そう告げる篠ノ之、だがその解決方法だと――。
「悪いがその解決方法だと事態を収拾出来たとしても、この問題を起こしたラウラが国へ強制送還、代表候補取り消し、そして下手をすれば一生強制労働させられるかもしれないだろ」
「それが何だと言うのだ?あいつが招いた事だ、自業自得――」
「……なら見捨てろと?あいつ自身、人として変わり始めてきたのにチャンスすら与えず、大変な事態を起こしたからそうなっても仕方がないと言いたいのか?」
「……っ…」
「悪いが、一年一組のクラスに入った奴は皆俺の『仲間』だ。例え篠ノ之が俺の事嫌いでも、俺自身は『仲間』だと思っている。そんな仲間を――仲間がピンチな時に手助けも出来ず、何もしないなんてのは俺はラウラの事を仲間だ何て――『友達』だなんて言えなくなる!――だから俺が事態を収拾する!例えエゴだろうと偽善者だと言われようともなっ!!」
手に力を込め、ぐぐっと握りこぶしを作る――ISが無くとも、まだ俺には五体満足に動くこの身体がある。
「――偉そうに言っても有坂、エネルギーの無い貴様に何が――」
「無くてもまだ身体が動く、動くなら素手でも助ける!例え腕を切り落とされても足で開く!その足が無くなったとしてもまだ歯で噛み砕いてでもこじ開けてやる…!」
「……有坂、馬鹿だとは思っていたが本当の馬鹿だったのだな。素手で助けるなんて不可能――」
「そんなこと無いよ、篠ノ之さん?僕がヒルトの助けになるから」
「シャルル!……だがシャルル、お前のISは――」
「大丈夫だよヒルト、まだ少しだけエネルギーが残ってる――それをヒルトの村雲に移すよ」
そう言いながら状況を把握したシャルルは未来と共に歩いてきた。
「私の残った打鉄のエネルギーもヒルトに移すよ」
「未来、シャルル……だが出来るのか?」
「僕のリヴァイヴならコア・バイパスでエネルギーを移せると思うよ」
「ふふっ、効率は最悪に悪いけど打鉄も可能よ?――というより、多分打鉄からエネルギー移せる人って数えるほどしか居ないと思うけどね」
そう俺にウインクしながら答える未来に対して一夏が――。
「え?じゃあ何で未来も出来るんだよ?数えるほどしか居ないんだろ?」
「ISの仕組みと打鉄の事を一から全てを知ること、量産型だから知ることは表面上だけで良いわけじゃない。人によってはいつまでもお世話になるISの事を知るのは当たり前だよ?勿論、専用機を手に入れたとしてもこれまでに造られてきたIS全てを知るのも重要になるの」
「……??」
説明を受ける一夏、だが表情を見る限り理解出来てないように見えた。
「未来、今は説明よりも頼むよ――シャルル、準備は?」
「出来たよ、でも約束してくれる?――ボーデヴィッヒさんを絶対助けるって」
真剣な表情で見つめる、力強い言葉で俺に言うシャルル――。
「勿論……約束は守る。だから心配するなよ」
「……うん、わかったよ。じゃあ始めるね?――リヴァイヴのコア・バイパスを開放……エネルギー流出を許可――。ヒルト、村雲のモードを一極限定に。それで天狼を呼び出す事が出来るから」
「……あぁ」
シャルルのぼろぼろになったリヴァイヴから伸びたケーブル、それを首のチョーカー状態の村雲へと繋げる。
繋がったその瞬間――また女の子の声が――。
――ヒルト、村雲の力を信じて……――。
村雲の力を信じる……当たり前だろ?
――うん、そうだね――。
誰だか知らないが――力を貸してくれるか?
そう心の中で俺は問いかける――すると力強い返事が返ってきた。
――うん!もちろんだよ!――。
そう返事をする女の子の声が聞こえなくなると同時に、シャルルのエネルギーが村雲へと完全に委譲された。
「完了したよ、リヴァイヴのエネルギー残量、村雲に全て渡したよ」
そう告げ、ケーブルを抜くと同時にシャルルのリヴァイヴが光の粒子となって俺の身体の周りを回るように虚空へと消えていく――。
「じゃあ次は私の番ね。――多分、殆ど足しにならないかもしれないけど…」
そう言いながら申し訳なさそうに眉を八の字に下げた未来。
それと同時に先ほどのシャルルと同じくケーブルを首のチョーカーに繋げた――。
「気にするな未来、渡してもらえるだけでもありがたい――後は、ハグしてくれればもっと良いがな」
「な、何言ってるのよ!そんなこと、出来るわけないでしょ……」
「ははっ、それもそうか」
バレないようにはしているが、正直……恐怖で押し潰されそうな状況だ。
…エネルギー譲渡されてもIS完全展開は出来ない所かシャルルが言うように天狼だけかろうじて呼び出せるという状況だ。
……だがそれでも俺がやらないといけない。
『やりたいからやる』ではなく、俺だからこそ『やらなきゃいけない』――俺はラウラに仲間だと言い、友達だとも言った。
人によってはウザい奴だと思われたとしても、俺自身がそう思って正しいと思える選択をしているからだ。
流されたからやるのではなく、自主的に――大切な仲間の為にも…やらなきゃいけないんだ。
エネルギー譲渡が完了され、僅かながらエネルギーが回復され、天狼だけを呼び出すと――ずしりと刀特有の重さが手のひらから伝わってきた。
目を閉じ、深く深呼吸するも――やはり恐怖で押し潰されそうになる感覚。
だがその時、そっと背中に腕を回され、抱き寄せられた――。
目を開けてみると黒いロングストレート――流れるような日本人特有の美しい髪が見えた――未来だ。
「……どう…?落ち着く…?」
「ん……、あぁ…悪いな、未来」
不思議と恐怖感が薄れていく。
直接感じる肌の暖かさが気持ちを落ち着かせていく――そんな感覚だ。
決して疚しい気持ち等なく――その心地好さに涙が出そうになる。
「ううん…ヒルトなら大丈夫だから…ね?ボーデヴィッヒさんを助けてあげて…?」
「あぁ……ありがとう、未来――もちろんだ」
そう力強く返事をすると、未来は笑顔でゆっくりと離れた。
突然の出来事に、一夏も篠ノ之も驚いた表情しか見せず、シャルルは複雑な表情をしていた。
「シャルル、悪いがシャルルもいいか?ハグ」
「え…?うん、いいよ…?」
複雑な表情だったシャルルだが、俺がそう言うといつもの笑顔で応えてくれた。
そっと此方から抱き寄せる様にシャルルを抱き締めると、未来より少し小さな身体がすっぽりと収まり、シャルルも未来と同様に背中に腕を回してきた――。
「ん……シャルルも悪いな――でも、何で複雑そうな表情してたんだ…?」
「……ヒルトが…未来さんとハグしてたからだよ…」
「……ん、だから複雑な表情してたのか?」
「……うん…」
表情は伺えないが、声のトーンが沈んだように聞こえるシャルルの声。
「……嫌な気分にさせたならごめん。――だけど、シャルルも未来と同じぐらい気持ちを落ち着かせてくれるな…?」
「……え…?」
これは正直な気持ちだ、シャルルも未来と同じぐらい俺に安心感を与えてくれる――。
小さな声で喋ってるからか、回りには聞こえてないようで――。
「……ん……そう言ってくれると僕は嬉しい。…でも…いつかは一番に…ヒルトに……」
「……ん?一番にって…?」
「……な、なんでもない…」
そう言い、パッと離れたシャルルの頬は赤く、俺と視線が合うと力強く頷いた。
さっきまでとは違い、身体の震えが止まり――不思議と気持ちが落ち着いている。
――もちろん、全く怖くないといえば嘘になるのだがそれ以上に身体の芯から力が沸き上がる様な感覚がある。
今まで都合よく、あのISが動かなかったのは何故かはわからない――もしかするとラウラが抑えてくれていたのかもしれない。
だが、それはあくまでも俺の都合のいい解釈だろう――だが、そう思う方が俺には良い。
ラウラも――今、『自身』と戦って向き合っていると思えば――。
手に持った天狼に反応したのか、はたまた戦う相手をあの黒いISが待っていたのか――両手で構え直した。
――一夏が言ったのが本当の話だと、俺は織斑先生こと『ブリュンヒルデ』の戦闘データのコピーと生身で戦わないといけない。
――俗にいう死亡フラグって奴がたってる状態かもしれない。
だがそれでも――ラウラを助けるため…シャルルとの約束のため……セシリアとの約束は試合に勝つことだったが…これでも一応守られるだろうか?
――守れてないなら、素直に謝るしかないかな、これが。
黒いISの元へ歩を歩め、一定距離まで移動をすると俺はその手に持った天狼を構えた。
威圧するかのように見下ろすIS――ぎらりと鈍く光る雪片――静まり返ったアリーナ全てが俺の緊張感を高めつつもそれよりも鋭く俺は意識を集中させていく。
先程のシャルルのエネルギー譲渡で聞こえてきた『女の子』の声が未だに誰だかわからない――ただ、わかってる事は『村雲』が俺に応えてくれる――。
左手を前面に突き出し、俺はその拳を力強く握る――。
「皆との約束!それを果たしてラウラを助ける…ッ!俺に呼応しろッ!村雲ぉぉぉおおおッ!!」
叫びがアリーナを木霊する――その叫びが、俺の中に最後まで少し残っていた恐怖感を拭いさると同時に構えた天狼から光を放ち始め、辺り一帯を閃光で覆い尽くした――。
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