邪炎騎士の御仕事
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邪炎の産声
神様というのが実在するなら、それはとびきりに意地の悪い奴で根性がひん曲がっている奴だと俺は思う。なぜなら、俺は今現在進行形で二度目の死を迎えることになりそうだからだ。
二度目の死と聞いて、胡散臭く思われるだろう。うん、それも無理はない。当の本人である俺自身でさえ未だに受け容れ難く、胡散臭いと思うのだから。まあ、端的に言えば俺はいわゆる前世の記憶もちなのである。享年28歳という若年ではあるが、劇的でも何でもないありふれた交通事故で死んだ記憶をもっているのだ。その為、このわけの分からぬ宗教集団に誘拐された挙句、オカルト染みた儀式の生贄にされかけているのが二度目の死というわけだ。
別に望んだわけでもないのに死後に人生を別人として強制的にリテイクさせられた挙句、その終わりが僅か10歳で狂信者どもの手による生贄である。俺が神を口汚く罵りたくなるのも無理もない話だろう。
いや、この世には神も仏もないとすれば、ある意味正しいのかもしれないが……。
まあ、そんなわけで絶賛大ピンチである。誘拐されたのは俺だけではないようで、同じ場所には幾人もの子供がいるが、次々と邪教の司祭らしき男の刃にかかって死んでいく。ある者は心臓一突きに、またある者は脳天を貫かれ、首を飛ばされた者すらいる。酷いものだと達磨にされたり、上半身と下半身を分断されたり、縦に真っ二つにされたりとそれぞれ異なる殺し方をされる。その殺し方の違いになにか意味があるのかもしれないが、俺はそんなことを理解したくもなかったし、理解するつもりもなかった。ただ、一ついえることは自分に逃げ場はなく、死者の仲間入りする以外の運命は用意されていないということだ。
前世も併せて40年近く生きているのだ。ここで都合よく助けが来るなどというおめでたい頭はしていない。頼みの綱の今生の両親は誘拐される時に揃って細切れにされたし、他の親類は遠すぎるし、両親の死にすら気づくのは明日以降となるだろうから、頼ろうにも土台無理な話なのである。
そんなことをつらつらと考えているうちにとうとう俺の番が来たらしい。鮮血で染まった紅の刃を持った男は目が血走り、歪な笑みを浮かべて俺に近づく。完全に狂っているとしか思えない。どんな命乞いも無駄だろう。どうにか逃げようにも、そもそも逃げ場がない。俺も含め生贄役の子供達は祭壇らしきものの前に設えられた奇妙な台座の上にいるのであり、そもそも逃げられるスペースというものがほとんどないからだ。加えて後ろには咄嗟に庇った少女がおり、流石に盾にするのは気が咎めるしやりたくない。名も知らない縁も所縁もない少女だが咄嗟の反射的な行動とはいえ、ここまで護ってきたのであるから。どうせ死ぬなら、男として最後まで見栄を張りたかったのである。
他人からすればくだらないだろう。ただ少し少女の死ぬの早いか遅いかの無意味な愚かしい行動でしかないのだから。まったくその通りだ。俺が護ったところで、この少女は俺の後に殺されるだろうし、下手をすれば俺ごとぶち抜かれて殺される可能性すらあるのだから。
だが、俺はこうも思うのだ。男が女の前で見栄を張らずしていつ張るのだと。
とはいえ、二度目の死が怖くないわわけではない。むしろ、死を一度体験しているからこそ、何よりも恐怖しているし誰よりも忌避している。しかし、それでも死に際を汚したくはなかった。前世では事故死で死に際も糞もほぼ即死だったが、今生では無様は晒すのは御免だった。それに無様に足掻いたところで、目の前の狂人を喜ばせるだけだ。それだけは絶対に許せなかった。
狂人の刃が振り上げられる。真っ二つか、首切りか、果ては達磨か定かではないが、死の運命は揺るがないだろう。そう確信し、俺は覚悟を決めて目を閉じた。最後まで狂人の顔を見ているなど、絶対にごめんであったから。
ドーン!!
次の瞬間、劈くような爆音と共に地面が揺れる。まさかと思い目を開けば、飛び込んできたのは白煙と銃弾の嵐だった。それは狂人を襤褸布のようにかえ、当然の如く人体を貫通した銃弾の豪雨はその背後にいた俺達へと殺到した。
ここでまたしても予想外の幸運と不運が俺を襲う。本来なら、当たるはずだった銃弾を俺は何者かに押し倒されることで幸運にも回避することに成功したのだ。いや、誤魔化すのはやめよう。それは同時に不運でもあったのだ。護るべき少女が蜂の巣になったのだから。俺を押し倒したのは背後に庇っていた少女だったのだ。きっと助けようとしたわけではあるまい。突然の揺れと爆音に驚いて、不安になって目の前の人間に縋りついただけなのだ。それが俺が予期せぬ事態に動揺していたこととあいまって、押し倒すという結果になっただけなのだろう。それは偶然でしかない。が、結果的にとはいえ、俺は護るべき存在に命を救われてしまったのは紛れもない現実であった。
そして、最大の不運は俺がここで生き残ってしまったことだったのだ。ここで死んでいたらと、後で何度思ったことか……。
祭壇には少女と狂人で規定数の生贄が捧げられてしまっていたのだ。つまり、それは儀式の完遂を意味していた。なんとも皮肉な話である。儀式を中断すべく放たれた銃弾が、最後の引き金となったのだから。
狂人達の儀式はある神を招来する為のものだった。そして、本来拝謁するのは俺を殺さんとした狂人のはずであった。だというのに当人は死んでいる。だが、儀式は完遂されたのだ。ならば、代理が選出されるのは自明の理であった。祭壇にいる唯一の生者、すなわち俺である。
結果として、俺はそこで神に会った。まあ、神は神でも『邪神』であるが……。
旧支配者『クトゥグア』、それが俺の今生を決定付けた最悪の神の名である。
さて、クトゥグアについて語れることは少ない。姿形はどうだったかということはできない。なにせ、俺は奴と会っている間、奴自身に魂ごと灼かれていたのだから。一ついえることがあるとすれば、奴は紛れもなく邪神であるということだけは断言できる。なにせ奴は俺の滑稽さを嘲笑っていたのだから。
奴の言うところによれば、そもそもあの儀式は誤ったものであり、完遂したとしても本来なら奴を招来するどころか、似て非なるものを呼び寄せることになっていたというのだ。つまり、あの狂人の殺し方にも、犠牲となった生贄達も、そして今生の両親の死ですら無意味だったというわけである。それにも関わらず奴が来たのは、この世界に天敵であるニャルラトホテプがいると感じたが故である。そして、偶々普通とは違う魂を持っている人間がいたから、呼び寄せてみたというのが真相らしい。
奴は俺の誤解と真相を知っての驚愕を嘲笑うと、俺に命じた。この世界にいるニャルラトホテプの邪魔をしろと。手段は問わない。いかなる形でもいいから、ニャルラトホテプにいっぱい食わせろと。俺に拒否権などない。奴は俺の魂にその命令を刻印として奴自身の印と共に焼き付けたのだ。逆らうことなどできようはずもない。俺はこの世界における奴の走狗として生まれ変わされたのだから。
そうして、ふと気づけば俺は炎の海にいた。相変わらず状況はちっとも良くなっていない。俺は少女の亡骸の下敷きになったままだし、最早誰のものともわからぬ血の海に塗れている。五感が訴えるものは最悪なものばかりで、むしろ火が放たれ分、状況は悪化したというべきだろう。
「邪教の儀式は寸でのところで止めることができたようですね。後は一切合切を火で浄化してしまえばいいでしょう。メシア様の降りる地に穢れがあってはなりませんからね」
嘲るような声のほうに目を向ければ、炎を放つ天使を両脇に侍らせた白の法衣の女の姿があった。表情は遠すぎてよく見えないが、汚らわしいものを見るような顔をしているのは容易に想像できた。
いや、今はそんなことは重要ではない。あの女はメシアといった。しかも天使が実在するときた。クトゥグアが実在した以上、他にもいておかしくはないが、こうも簡単に姿を現しているとなると、俺の脳裏に浮かんだのは、前世において遊びつくしたあるゲームだった。
女神転生シリーズ、神仏・妖精・精霊等の類を一緒くたに悪魔として扱い、それを悪魔召喚士たる主人公が仲間ならぬ仲魔として使役し、敵を倒していくRPG。その中で、メシアの降臨を至上命題に掲げる宗教組織メシア教。今の状況は、それにピタリと嵌まり込んでいたのだ。
そこまで考えて、不意に笑いがこみ上げてきた。なんだそれは?ゲームと同じ世界観の世界に転生など、ありふれたネット小説のような展開ではないか?考えてみれば、邪神とはいえ神様と会うて、力を手に入れるあたりもそのまんまだろう。俺は下手な素人のネット小説の主人公だとでもいうのだろうか……。
ふざけるな!
それは火山の噴火の如き、激情の発露であった。身を焦がし、魂すら焼き尽くしても、なお消えることなき憤怒の炎。それが俺を支配していた。
少女を護れなかった自分のふがいなさへの赫怒、この状況を作り出した狂信者共への激怒、俺をあの邪神へ会う最後の引き金をひいた糞女共への震怒、そして何よりも何かの手のひらで躍らせれているかのような今生に対する憤怒。それら全てが薪となって、莫大な炎を生み出す。
気づけば俺は炎に包まれて、真っ裸で立っていた。だというのに、まるで熱さを感じない。この身は火傷を負う事もなく、五体には力が溢れている。
再びの銃声が響く。恐らくメシアの連中が異常を感知したのだろう。
しかし、今の俺に銃弾など無意味である。そんなもので俺そのものである炎を超えられるものか。
思ったとおり、銃弾は炎に触れた瞬間に尽くが蒸発した。それでも銃撃はしばらく続いたが、無駄だと気づいたのだろう。銃撃がやみ、中世の騎士のような格好をした者達が歩み寄ってくる。いわゆるテンプルナイトというやつだろうか。
いいだろう。元よりこの場から俺以外を生きて返すつもりなど欠片もない。一切合切を燃やしつくしてくれよう―――――いや、待てよ。
このまだとマズイと思い直す。肉体が十歳児であることもそうだが、このまま力を振るうのは色んな意味で今後の活動に支障がでるのは間違いない。今のところは炎のおかげで顔を見られていないが、万が一、一人でも逃げられたらことだし、この矮躯では力を振るう負担に耐えられるかも怪しいからだ。
正体を隠し、かつ自身の肉体を保護するしつつ戦闘能力を補うにはどうしたらいいかと考えて、あることを思いついた。それは騎士甲冑だ。目の前にテンプルナイトの連中がいたので、それは存外に早かった。しかし、連中そのままというのは気が進まなかった。
そこで再び考えに沈んだのだが、今回はすぐに思いついた。これまた芸がないが、前世で好きだったあるゲームを参考にすることにした。生憎と絵心などないし、都合よく騎士甲冑をデザイン出来るだけのセンスもなかったのだから勘弁して欲しい。
それに災厄とも言える焔の邪神で騎士甲冑ときたら、あまりにもまんま過ぎて、それ以外思い浮かばなかったのである。
「他愛もない。所詮、主の教えに服さぬ愚か者達、当然の結末ですね」
メシア教幹部にして、『神の火』の異名を与えられている女は、邪教徒の殲滅を命じられ、それを呆気無く果たしたところであった。女自身が力を振るうまでもなく、配下の銃撃だけで終わってしまい、拍子抜けしていた。一面には邪教徒の死体と生贄にされた子供達の遺体が無残に打ち捨てられて、血の海と化していた。どう見ても、生存者は皆無。後は炎で焼き浄め、穢れを払うだけのはずであった。
故にそれは予期せぬ出来事だった。突如、生贄の祭壇が火柱で包まれたのである。それは天を衝くが如く勢いで広がり、祭壇を包み込んだ。
「まさか儀式は成功していたというのですか?!―――――撃ちなさい!」
さしもの女も僅かに動揺するが、すぐに攻撃命令を下す。それに伴い、四方八方から撃ちだされる聖別された銃弾。しかし、その尽くが火柱に阻まれ、用をなさない。
「撃ち方止め!銃撃は無意味のようですね。仕方ありません。私が直接……」
「お待ちください」
自ら手を下そうとした女を止める者がいた。女の護衛である二人のテンプルナイトだ。
「ここは我らにお任せを」
「御身の手を煩わせるようなものではございません」
彼らは自分達が聖女と慕う『神の火』の手を邪教徒の血で汚したくなかったのだ。
「分かりました。ここは貴方達にお任せしましょう」
女としては、自らの力を振るいたいという気持ちもあったのだが、彼らの気持ちをないがしろにするのも気が引けたので、素直に譲ることにした。それにテンプルナイトの力量は女に劣るものの十分に信用に値する。彼らならば、何があっても対応できると判断したが故だ。
「「はっ、ありがとうございます」」
直立してあわせて礼を言ったテンプルナイトの二人は、ゆっくりと火柱との距離を詰めていく。それぞれの手には剣と槍が握られ、万全の警戒がなされているかに見えた。
そんな時だ、再びの変化があったのは。
突如として逆巻く火柱。それは一点に収束し吸い込まれるように消えていく。メシア教の者達が息をのんで見つめる中、それは姿を現した。
紅蓮の炎を思わせる紅に彩られた漆黒の騎士甲冑。成人男性よりやや大きめの体躯をしながらも、どこスマートで鋭い印象を受ける。
『WILD ARMS 2nd IGNITION』を知る者がいれば、その黒騎士を口をそろえてこう呼んだだろう。『ナイトブレイザー』と。
それは一瞬の出来事であった。槍持ちのテンプルナイトが心臓を黒騎士に貫かれ、そのまま内部から焼かれて灰にされる。不意を完全についた黒騎士のあまりのスピードに、犠牲者となったテンプルナイトは反応できなかったのだ。
「よくも!」
が、剣持のテンプルナイトはそうではなかった。同僚がの死に様をまざまざと直近で見せつけられた彼は激昂して、剣で斬りかかる。得物がない黒騎士は剣を防ぐすべはない。テンプルナイトの振るう剣はれっきとした聖剣である。黒騎士の甲冑がどれほど強靭なものであろうとも、斬り裂けぬ道理はない。終わりだと誰もが思った。
「……」
だが、黒騎士は容易にその予想を覆す。無造作に剣を手で掴み取ったのである。そしてあっさりと剣は融解した。
「なっ」
愕然とするテンプルナイトを尻目に、再び黒騎士の凶椀が振るわれる。固められた拳がテンプルナイトの頭を打ち、スイカの如く爆砕する。鮮血と脳漿が飛び散るが、黒騎士にはつく前に蒸発する。圧倒的な黒騎士の戦闘力の前にメシア教の兵士達は息を呑み、身構えた。
しかし、黒騎士の猛攻もそこまでであった。黒騎士を囲むように放たれた炎弾が四方八方から打ち、動きを止める。すかさず先に召喚されていた二体の天使パワーが斬りかかる。黒騎士はそれをいなしてかわしたものの、それを読んでいた女の追撃の炎弾で吹き飛ばされた。
「下がりなさい!けして手を出してはなりませんよ」
『神の火』の面目躍如というべき女の活躍であった。兵士達から歓声が上がるが、その実女は焦っていた。
(焼けた感触がない……。物理的に吹き飛ばすことはできたけど、私の炎が通じていないというの?!)
女の思った通り、あっさり何事もなかったかのように立ち上がる黒騎士。すかさずパワーをけしかけるが、その攻撃の尽くが空を切り容易にあしらわれてしまう。それどころか、何かを確かめるように遊ばれている始末だ。
(火炎に対する絶対的な耐性を有しているということ?私のパワーが遊ばれるなんて、LV40オーバーの可能性が高いわね。まずい、私以外では相手にもならない。)
パワーを仕留められそうになる時のみ炎弾で援護して妨害してはいるが、長くは続かないというのが女の結論であった。『神の火』の異名通り、女は火炎の扱いに特化した異能者であり、火炎を無効化するような相手とは相性が悪いからだ。
かと言って、邪教徒相手に逃走など認められるわけがない。主の加護がある自分達が邪教徒に敗れるなどあってはならないし、屈するなどもってのほかだ。故に女は切り札を使う決心をする。
パワーに念話で指示して下がらせる。すかさず、こちらを狙ってくる黒騎士に足を止めるべく、ありったけの氷結の魔法石を放り投げて足止めする。それもブフ程度ではない。ブフーラ、マハブフーラクラスのものをだ。
さしもの黒騎士も、連続して襲い来る氷雪の嵐に足を止める。
(炎を得意とするだけあって、やはり氷雪が弱点なのかしら。いえ、油断は禁物。ここは虎の子も使って、確実に切り札で仕留める!)
「これはおまけよ、とっておきなさい!」
彼女でも容易に手に入れることができない虎の子のブフダインの魔法石をトドメとばかりにたたきつけ、ダメ押しにパワーにメギドを連続して叩き込ませる。そうして、ようやく黒騎士が初めてその身をぐらつかせる。その隙を女は見逃さない。
≪タルタロスの支配者にして、法の執行者ウリエル。今こそ御身の御名の下、神を冒瀆する者を永久の業火で灼かん!≫
女の『神の火』の異名は伊達や酔狂ではない。彼女はウリエルの加護を得て、その裁きの炎の一端を与えられているのだ。女の聖句に従って、現れるのは巨大な炎の剣。撃ちだせば、火炎に対する耐性を無視して神の敵を焼き尽くす。正真正銘の切り札である。
「大いなる主の御名において、裁きを受けなさい!」
黒騎士に向けて射出される炎の剣。それはミサイルさながらに敵を穿たんとする。それに対し、黒騎士は避けようともせずに正面から相対する。そして、両腕を振り上げた。その手にはいつの間にか燐光に似た不浄な青白い光を放つ灰色の魔剣が握られていた。
ウリエルの炎を宿した巨大な炎剣と黒騎士が振り下ろした不吉な魔剣が正面からぶつかり合う。聖なる裁きの炎と極寒の冷気はお互いを相殺しながら鬩ぎ合い、そして最終的に勝者は無く核となる剣が砕け散ることで終結した。
「そんな……!」
ありえない!絶対の自信をもっていた切り札が相殺されるなど夢にも思っていなかった女は、ここにきて致命的な隙を晒してしまった。それを見逃す黒騎士ではない。
足元を爆発させ、火炎噴射の要領で爆発的な加速を生み出した黒騎士は一瞬で女との距離をつめる。慌ててパワー二体が主を守ろうと立ち塞がるが、黒騎士はものともせずに斬り抜けた。
「な、なぜ?ゴフッ……」
今際の際に女が見たのは、あの黒騎士の握る不浄な青白い光を放つ不吉な魔剣だった。自身の切り札と相殺して砕け散ったはずのそれがなぜあるのか理解できぬまま、『神の火』と呼ばれた女は死んだのだった。
テンプルナイトが死に最強戦力にして指揮官である女を失ったメシア教には、最早抵抗する余地などなく、一人また一人と屍を晒すこととなった。結局、30人中一人として生きて帰ることなく、彼らの神の御下へと送られたのだった。
この日、誰も知ることなく後に『邪炎騎士』と呼ばれることになる存在が、鮮血と紅蓮の炎に彩られた紅の祭祀場で産声を上げたのだった。
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