IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第209話】
寮の通路を歩いて向かっているのだが、帰省中の子も多いからか全く女の子とすれ違う事すらないのに、珍しいなと思っていると――。
『ヒルト?』
『ん? よぉ、昼間はありがとな、ムラクモ?』
誰も居なかったからか、ムラクモの方から声をかけてきた。
『ううん。 ぱ、パートナーだから……。 ……たまには、相手してよね? してくれないとIS、起動させないんだからっ』
『ぅぁ……それやられたらめちゃくちゃ不味いから勘弁してくれ……』
『うふふ、じゃあたまには相手してね? ……今日は久しぶりに話せたから楽しかったよ。 ……あのね、また相手してって言ったけど……少しの間、ちょっと福音の方にアプローチしてみるから――』
『……そっか、そっちはムラクモに任せるよ。 ……俺じゃ、何も力になれないからな』
そう呟く俺に、気を使ったのか――。
『ううん、そんなことないよ? ……ヒルトには何か、不思議な力があるのかもね? 福音とだって直ぐに仲良くなったし――ロリコン疑惑がわいたけど』
『……何故に? 小さい子を恋愛対象に見たらヤバイだろ? だからロリコンじゃない』
『な、ならいいけどね? ……んじゃ、また戻ったら連絡するからね? ISは起動出来るから安心してね』
そんな言葉と共にムラクモの声が聞こえなくなった。
「……何でロリコンって言われるんだ? 確かに福音は小さな子だったが普段から俺、小さい子と接する機会なんかないんだがな、これが」
そんな虚しい独り言は虚空へと消えていく――聞かれていたら、変な噂がたつかも……。
一度頭を振って考えを払拭すると、また再度歩き始めた――。
それから二分ほどで到着。
そのままドアをノックすると中から――。
『はーい、どうぞ~』
フランクな声で答えたのはシャルだった。
何か良いことがあったのか声色が喜色に満ちていた――そして、ドアを開けて中に入りながら俺は喋る。
「よぉ、夜遅くにわるいな。 クッキー――……」
ポトッと手に持ったクッキーの包みを落とす俺の目の前にいたのは白猫&黒猫だった。
正確に言うと白猫パジャマを着たシャルと、黒猫パジャマを着たラウラなのだが――二人してじゃれあってたのか身体を密着させていたのだが……。
明らかに二人は硬直し、みるみるうちに顔を真っ赤に染め上げる。
「……猫?」
「あ、え、う……」
そんな言葉にもならない言葉を口から出すシャルを見て――。
「……ちょっとそのままで居ろよ? 直ぐに戻ってくるから」
それだけを言い残し、落としたクッキーの包みもそのままに部屋を出て俺は寮の外へと向かった――。
それから十分、俺は寮の外で【ある物】を採取し、意気揚々と二人の部屋に戻るとノックもせずに入った。
「悪い悪い、待たせたな。 ――うん、ちゃんと猫パジャマ?着たままだな」
「ぁ、ぁぅ……。 あ、あのねヒルト!? い、いつもはこんな子供っぽいパジャマじゃな――」
シャルの言葉を遮る様に、俺はある一言を発した。
「【ニャー!】」
「へ……?」
「な、なに……?」
いきなり発した猫言葉に、きょとんとした表情で俺を見つめる二人を他所に、俺は座ると外から採取してきた【ある物】を取り出すと、パタパタと上下にそれを振る。
俺が採取してきたのはエノコロクサ――又の名を猫じゃらし。
「ほらほらー、猫じゃらしですよ~」
満面の笑顔で俺はそれを振るのだが、困惑したように二人はそれを眺めているだけだった――そして。
「ひ、ヒルト? な、何を――」
「おいおい、猫はにゃーだろ? 人の言葉を話す猫は見たことないぞ、創作以外で」
「ぅ……そ、そぅだけど……。 ――やらなきゃ……ダメ?」
何とか逃れようと少し甘えた声を出すシャルだが――。
「うん、やらなきゃダメ。 例外は無し、ラウラもやらないとな」
「う、こ、断る……っ。 いくら嫁とはいえ、これは――」
「ふぅん?」
そう言って、もう一本猫じゃらしを持つと両手で交互に上下に振り始める――そして、真っ直ぐ二人を直視して強制的に参加するしかなくなる様な雰囲気を醸し出す。
「ぅ……にゃ、にゃぁ……」
おずおずと四つん這いでやって来たのはシャルだ。
気恥ずかしさからか、今にも顔から火が出そうなぐらい真っ赤になっていた。
一方のラウラも観念したらしく――。
「にゃ、にゃぁんっ!」
半場やけくそ気味に聞こえる猫言葉と共にベッドから跳躍――くるっと一回転して着地すると縦に振った片方の猫じゃらしにじゃれついた。
「おー! 流石はラウラだな、ほれほれ」
「にゃ、にゃ、にゃぁっ!」
パシパシとじゃれつくラウラの表情は真っ赤になっていたが、俺は気にせずに振り続ける。
そして、シャルも――。
「にゃ、にゃーん……」
ラウラとは違って消極的に猫じゃらしと絡むシャル。
「ははっ、この猫可愛いな……。 ご褒美、欲しいか?」
「「にゃ?」」
なりきってる為か、首を互いに傾げながら聞いてくる白猫&黒猫。
猫じゃらしを一旦動かすのを止めると、さっき落としたままのクッキーの包みを取り、中からクッキー一枚を取り出すと――。
「ほら、良い子の猫達にご褒美のクッキーだぞ?」
一枚取り出すと、ラウラの口元へと差し出す。
「……ッ!? ひ、ヒル――」
「ニャー」
言葉を喋ろうとしたラウラに、ニャーと言ってじっと眺めると、みるみると真っ赤になるラウラは――。
「……にゃ、にゃぁ……ん」
クッキーを受け入れる様にそっと小さな口を開くと、ラウラはその目蓋を閉じた。
「ふふっ、良い子だな。 ……シャルは次だから待ってろよ?」
「にゃ、にゃぁ……」
寂しそうな鳴き声(?)をあげるシャルに、笑顔で見るとラウラの唇にクッキーを当てる。
そのままあむっと一口かじり、少しずつ味わうように食べるその様子はまるで本当に飼ったかの様な――可愛いんだけど。
そのまま食べるラウラを見ながら、空いた片手で包みからもう一枚取り出すとそれを今度はシャルの口元へと運ぶ。
「……にゃぁ……♪」
待ちかねたかの様に嬉しい鳴き声(?)と共に、笑顔になるシャル。
「ふふっ、シャルにもちゃんとご褒美あげないとな。 はい、口開けて」
「にゃぁーん……んむっ……」
開いた小さな口に、クッキーを入れるとラウラと同じく小さく一口食べるシャル。
一方のラウラは食べ終えたのか――。
「にゃ、にゃぁ。 にゃぁー」
まるでもう一枚催促するかの様な鳴き声(?)をあげ、唇を開くラウラに俺はもう一枚取り出すとさっきと同じ様に食べさせた。
「ふふっ、たまにはこのパジャマを着るならまたこうやって食べさせても良いぞ? 代わりに猫言葉オンリーだがな。 そっちのが可愛いし、そのパジャマに合うし」
「「に、にゃあ?――……にゃぁ……」」
まるで二人はシンクロするかの様に同時に鳴き声を出すシャルとラウラ。
そんな二人の頭を優しく撫でると、共に笑顔になるのを見て――。
「ははっ、しかし二人とも似合いすぎだろ? この猫なら色々いたずらしてみたくなるな、可愛い反応見たさに」
「「にゃ、にゃぁっ!?」」
いたずらという言葉に、二人して驚きの言葉をあげつつも更に顔を赤く染め上げる
「ふふっ。 そうだ、まだ食べさせて欲しいか?」
「にゃ、にゃあっ!」
「にゃぁ!」
肯定的に首を縦に振るその姿がまた可愛く、笑みを溢すとまた俺は二人にクッキーを食べさせていった。
普段ならしない行為だが、猫二匹だからな、今回は。
そんなやり取りは、クッキーの包みから中身が無くなるまで続いていく。
最初の気恥ずかしさも何処へやら、二人は無くなる度に催促の鳴き声(?)をあげると不思議と俺もずっと笑顔のままで食べさせていった――。
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