IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第467話】
前書き
早めに書けた
原作進みますん
――第六アリーナ――
第六アリーナに着くなり、俺は簪とは反対側のピットへと移動――先に使用してる専用機持ちが居た、今現在機体のチェックを行いながら空中戦を繰り広げていた。
モニターに映し出される白と紅の機体――白式と紅椿だ。
紅椿から放たれた光弾の速射を、霞衣で防ぎながら近接戦闘を行おうとしているのがモニター越しからも見てとれた。
『甘いぞ一夏! もっと接近戦はズバァーッ!と来るものだ!!』
……模擬ではなく、どうやら訓練のようにも思えた――まあ、教えてるのが篠ノ之の為、残念に他ならないが。
とりあえずモニターから視線を外すと俺は打鉄を展開――同時にコンソールを開きつつ雅に伝えた。
『雅、打鉄・弐式の機体ステータス及び搭乗者のバイタル等の詳細なデータの表示を』
『うむ、承知した。 …………主君、打鉄・弐式の搭乗者、更識簪の心拍数の上昇を確認した』
データを見る前にそう告げる雅、そしてデータがハイパーセンサーに表示された。
表面上での機体ステータスに悪い面は見当たらない――だが、雅の言う通り心拍数の上昇が見られる、それも徐々に徐々にと上がっていった。
――浮かれているというよりかは、何かを思って心拍数が上がってるような気がした。
各種ステータスを端に追いやり、今度は自身の機体のチェックを行う。
現状内部ステータスにも異常は見られない――まあ異常があれば雅が知らせてくれるだろう。
武装データのチェックも行う――特に変わった点はなく、此方も問題はなさそうだ。
と、ピットに響く着地音、視線をそちらに移すと――。
「よぉ、ヒルト。 お前も機体のチェックか?」
「一夏か。 ……俺は今回は簪の付き合いで飛ぶだけだよ」
「ふーん、そっか」
簡素な返事、いつもながら聞きはするが興味は無いのだろう。
――とはいえ、一夏が終わったという事は簪の機体のチェックもちゃんと行えるという事だろう。
プライベート・チャネル通信を開く――。
『簪、どうやら一夏達が終わった様だな。 準備はどうだ?』
『う……うん……』
控え目な返事の簪、映し出された表情を見ると頬に僅かな赤みが差していた。
『OK、俺が先行する形で飛ぶから、簪はその後を――んで、タワー頂上で合流って形で』
『わ、わかった……』
その返事と共にチャネル通信が切断された。
偏向重力カタパルトに両脚部をセット、外れないかを確認してから腰を落とす――。
ハイパーセンサーにシグナルが点る――ピット内に一夏の姿は無く、併設されたロッカールームで汗をタオルで拭ってるのが見えた。
マイペースというか、なんというか……。
――まあ下手に関わってくるよりは此方の方がいいかもだが。
二つ目のシグナルが点灯――意識を正面に向けて集中させる、気を抜くと怪我をするのは明白だ。
三つ目――緑のシグナルが点灯するや、偏向重力カタパルトが加速――射出されるや第六アリーナの空へと飛び出した。
機体のスラスターを点火し、機体制御は雅に任せて上昇していく――と、簪の打鉄・弐式をハイパーセンサーが捕捉した。
ズームインして簪の表情を見ると、緊張の色も見えるのだがそれ以上に自身の機体で飛べた喜びの方が勝って見えた。
とはいえ直ぐに集中し、背部スラスターの出力を調整しながら機体を加速させていった。
流石に打鉄の後継機なだけあってか、加速力は悪くない――と、ハイパーセンサーに打鉄・弐式の異常を感知、ステータスが右半分に大きく表示された。
どうやらシールドバリアーが展開した際にPICと相互干渉した結果、PICの機能が反転したらしい。
――勿論この程度で手助けするわけにはいかず、俺は機体を上昇させていって中央タワー頂上部へと到達するとその場で静止した。
タワー外周を簪の機体が螺旋を描くように上昇していく――速度は抑え目で、空中投影キーボードを左右に呼び出しながら飛行システムの構築を行っていた。
――ながら運転は危ないのだが、幸いにも他に訓練してる機体はない。
――というよりも、事故防止の為、制限をかけてるだけなんだが。
空を眺めつつ、表示された機体ステータスにも意識を向けてると飛行音が近付いてくるのがわかった。
「おっす」
簪が頂上部まで到着するや、俺は手を挙げて歓迎した。
それに面を食らった簪は、どう反応したら良いのか困ったのか小さく頷くだけに止まった。
そんな簪に苦笑しつつ、俺は機体の事を聞いてみた。
「機体の方はどうだ? さっき異常があったみたいだが?」
「大丈夫……」
そう返事をするだけに止めた簪に、俺も深くは聞かず――。
「なら良かったよ、とはいえまだ試運転。 無理すれば事故の元だからな?」
そう返事を返すと、簪は視線を慌てて逸らし――。
「じゃ、じゃあ……戻るから……」
言うや、俺の返事を待たずにタワー外周を螺旋状に下っていく。
そんな簪の対応に、頭を掻きつつもその後を追うように着いていく。
「流石は次世代機って奴か、速度は現状のブルー・ティアーズと同等って所かな、これが」
「た、多分……、データ上では……同じ……」
言いつつも、更に加速させていく簪。
まだ試運転だからそんなに加速する必要は無いのだと思うのだが――と、ここで打鉄・弐式の機体ステータスに異常を検知、アラート音が頭の中に響く。
機体のモデリングがズームされ、右脚部が赤く点灯し始めた。
直ぐ様簪の機体の右脚部をズームイン――すると、右脚部スラスター兼ブースターの放出するジェット炎が何度かちらつき始めていた。
それと同時に小さく紫電が放出――それを見た俺は、オープン・チャネル通信を開いた。
「簪! 今すぐ右脚部スラスターをオフラインにしろッ!」
「えっ――」
俺の言葉に振り向く簪、その刹那右脚部スラスター兼ブースターが爆発、彼女の悲鳴すら掻き消す程の爆発音がアリーナに響き渡った。
爆発の衝撃と共に脚部のスラスターが失った事が原因で姿勢が崩壊、くるくるときりもみする様に墜ちていく。
「チィッ! 雅、打鉄・弐式のステータスチェック! 他に異常があれば直ぐに知らせろッ!!」
言ってから全身のスラスターを点火――まるで、俺に応える様に機体から粒子が放出され、爆発的な加速力を得た。
落下する簪は、パニックに陥ってるのか正常な判断が出来なくなっていた。
「ヒルト君……! たす、けて……!!」
そんな声が聞こえてくる――と同時に、さっきのほほんさんが言ってたことを思い出した。
『……もしもって事は絶対無いけど……本気で危ない時はひーくんが助けてあげてねー? ――あ、でもでもー、もしひーくんから見てかんちゃんだけで対処が可能ならかんちゃんに任せてねー? ……って言っても、かんちゃん……無意識に人に甘えることに慣れちゃってるから……』
そんな先程のやり取りを思い出し、再度打鉄・弐式のステータスをチェックした。
反重力制御に異常を来しているものの、まだ生きてる他のスラスターがあることが確認出来た。
「簪! まずは慌てずに機体の制御だ。 スラスターをマニュアル操作に切り替え、まずはきりもみ状態を解除するんだ」
落ち着かせるように俺も声を和らげて伝えるのだが、簪は――。
「む、無理……! だ、だから早く……!」
――かんちゃん……無意識に人に甘えることに慣れちゃってるから……――。
また脳裏にこの言葉が過った――今が無意識での甘えという奴なのだろうか。
――多分だが、こうなったのも楯無さんに一因があるだろう……小さい頃から簪の代わりに何でもやってあげたのが、自身でも気付かず内に甘えが出るのでは――と。
心を鬼にして俺は簪に言った――もう既に側まで来て並行する様に落下しているのだが、助けではなくパートナーとして、補助する方が優先だと思う。
「簪、まだ自分で対処が可能だろッ! 確りしろ! 代表候補生なんだ、このぐらいの事態、自分で収拾出来なければいつまでたっても姉から自立出来ないぞッ!!」
「……ッ!?」
厳しい言葉に目尻に涙を浮かばせた簪――だが、それで発奮したのか、生きている機体のスラスターを点火、徐々に徐々にときりもみ状態を解除していく。
――だが、今度は機体の軌道が擦れ、中央タワー外壁に吸い込まれるように突き進む。
流石にこれは不味いと思い、俺は並行するのを止めて直ぐ様簪の背後に回り込む。
「簪、サポートするからそっちでも減速頼む」
「……ぅ、ん……っ!」
生きているスラスターを使い、機体を減速させる簪。
タワー外壁にぶつからないようにサポートしながら、何とか減速する事に成功すると飛行出来ない簪をお姫様抱っこする形で安全に地上へと降り立った。
降りるまでの間、俺も簪も互いに黙ったままで、俺自身もどう声をかけて良いのかがわからなかった。
簪を降ろすや、ピットから飛び出してくる白い機体――一夏だ、目尻を釣り上げ、何やら怒っている様にも見える。
地上に降りてきた一夏は、俺と簪の間に割り込むや胸ぐらをいきなり掴んできた。
「ヒルト! 何で直ぐに簪を助けてやらなかったんだ!? お前がもっと早く手助けしてやれば、簪だって怖い思いしなくてすんだんだぞッ!!」
「お……おりむら……くん……」
胸ぐらを掴んだままの一夏、一夏自身の優しさからくる感情なのかもしれない――だが、事情を知らない一夏が割って入ってくるのはナンセンスだと思う。
一方の簪は、一夏の名字を小さく呟き、何かヒーローを見るような眼差しで見つめていた。
「……一夏、何でもかんでも手助けするのが正解って訳じゃない。 簪にとっても、自分である程度の対処が可能なら彼女自身にやらせる。 ――代表候補生なんだ、時にはこんな事態でもちゃんと対処しなくちゃいけない場面だって出てくるはずだ」
当たり障りのない言葉に、一夏は感情を爆発させる。
「……代表候補生かもしれないけど……ッ! その前に簪は女の子だろッ!! 男ならッ! 女の子に危ない目に遇わせないのが普通だろッ!!」
胸ぐらを掴む力が強まる――と。
『ちょっとそこの生徒! 喧嘩は止しなさい!! 反省室送りにするわよ!?』
アリーナに響き渡る教師の声――数学担当であるエドワース・フランシィ先生だ。
先生の言葉に胸ぐらを掴むのを止めた一夏は俺を一瞥しながら口を開く。
「今度簪を危ない目に遇わせたら、俺は許さないからな! ――男なら、何があっても女の子を守るのが普通だろ。 …………」
それだけを言い残すや、直ぐ様ピットへと戻っていく一夏。
静寂が辺りを包む中、簪が口を開いた。
「……織斑くん、ヒーロー、みたぃだった……」
「……は?」
「……な、何でも……」
そう言ってかぶりを振る簪――彼女にとって、一夏の優しさが心地好いのかもしれない。
――だが、一夏の優しさは俺から謂わせれば人の成長を妨げる要素になりかねない――それこそ、楯無さんが小さい頃から簪の代わりに何でもやってきたのと同じ様に。
何が正解かは今の俺には見えないが、少なくとも現状の簪のままだと今の簪を脱却する事は出来ないだろう。
「簪、取り敢えず戻ろう。 ピット迄行けそうか?」
「……うん、ジャンプ……すれば……」
「OK、ならサポートはするから頑張ってみな」
「……織斑くんなら、多分連れてってくれる……かな……」
聞こえないように小さく呟いた簪の言葉が風に乗って耳まで届く。
それと同時にピット口迄跳躍――そのまま奥へと消えていった。
果たしてどうなるやら……一抹の不安が過るも、後を追うように俺も戻った。
後書き
ちょい改変
改悪?
はてさて……
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