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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第468話】

 
前書き
こっそり更新 

 
――第六アリーナ――


 ピットへと戻った俺――そこに簪の姿はなく、隣を覗き込むと纏っていた機体を外からチェックしている所だった。

 ――一夏の姿が見えないが、多分篠ノ之が連れ去ったのだろう……独占欲が強い暴力的な幼なじみ――つくづく未来と比べると俺はまだ幸せな方だなと思う。


「簪、取り敢えず機体の方はどうだ?」

「……ぅん、脚部、の……交換と……他のシステム面をちゃんとすれば……」


 言いながら作業に取り掛かろうとする簪の腕を掴む。

 不意に掴まれたためか、驚きの表情を見せていた。


「独力での機体の完成は無理だ。 タッグマッチまで残り一週間……機体の完成を二日三日で考えると連係の訓練はフルに入れても四日か五日ぐらいしか無いんだし。 ――それに、試合中にまた不具合を起こして爆発すれば、簪が怪我をするだけじゃなく、他の人にも迷惑が掛かる」

「…………」


 黙って聞いてる簪――掴んだ腕を離すと俺は言葉を続けた。


「機体完成には今回ばかりは整備科の人間、或いはそれに携わってる人の力が必要だと思う。 ――時に人に頼るというのは、甘えとかじゃないからな」


 そう言葉を口にする――さっき厳しい事を言った俺に少し反発するかと思ったのだが簪は頷く。


「う……、うん……。 そうする……」

「あぁ、そうした方が良いさ、これがな」


 内心反発されると思ったのだが、意外にも素直に頷いた彼女。

 ――とはいえ、何処か態度が少し変わった気がする。

 ……一夏を見てヒーローみたいだと呟いた言葉を思い出す――根は深いのか、簪にとっての【都合の良い】ヒーローは一夏なのだろうか。

 この辺り、簪にとっての無意識な甘えの部分が出るかもしれない――俺にではなく、一夏に。

 最終的に人に頼るのがダメとは言わない、だが肝心な時に自分で道を開けないといつまでたっても殻から出ることは叶わないだろう。

 現状その問題は置いておき、頭を掻きながら俺は――。


「取り敢えず機体の整備に関しての人材は、のほほんさんがOKとして残り二~三人は必要だな。 ……手当たり次第にお願いしてみるかな」

「…………」


 黙ったまま簪は俺を見ている、視線には気付いているが俺はそれよりも誰に頼むかで悩んでいる。

 手当たり次第とは言ったものの、大して親しくもない男のお願いを聞く女子が居るだろうか?

 ――ましてや女尊男卑、一夏なら姉の威光で女尊男卑の煽りも受けないが俺や他の男性は違う。

 普通なら断られる、酷い場合は他の用事を手伝わされて此方はバックレ何てことも。

 ――という事は必然的に一年生主体になるだろう、俺自身親しい女子は一年生ばかりなのだから。

 母さんの顔も過ったのだが、流石に教師だから無理だろう――アドバイスを聞くだけにとどめた方が良さそうだ。

 腕組みしながら考えつつ、窓を見るや既に夜の帳が降りてきていて辺り一帯真っ暗闇になっていた。


「簪、取り敢えず協力出来そうな人には当たってみる。 もう夜だ、そろそろ寮に戻ろう」

「わかっ……た……」


 身体が冷えたのか、二の腕を擦る簪――もう十月に入ってる中でのISスーツ姿だ、寒くて当たり前だ。

 何かコートでもあればと思うものの、そんな気の利いた物などアリーナには用意されていない。


「じゃあ今日は一旦解散で、明日と明後日以内で機体を仕上げよう」

「ぅん……。 ……ヒルト、先に……帰る、ね……」


 言ってから駆け足で出ていく簪――少しよそよそしく感じるのは気のせいではないだろう。

 俺はロッカールームで制服へと着替えると、その足で母さんの元へと向かった――多分学園内の整備室に居るだろう、そう信じて。


――整備室前――


 校内はまだ明かりが点っており、校舎独特の静けさが辺りを包んでいた。

 途中親父に遭遇――何でも今日も前に来た金髪の坊っちゃんが来たらしい……一応ISに触れる許可などの申請書を渡したため近々その機会があるとか――「まあ、杞憂に終わるだろうがな。 ワッハッハッハッ!」――といつもの豪快な笑い声と共に言っていた。

 ――それはそれとして、彼の言ってる【ハニー】とは誰のことだろうか?

 考えても答えは当たり前の様に出てこない。

 ――今度、話す機会があれば聞いてみるかな。

 整備室のスライドドアの前に立つや、圧縮空気が抜けてドアが開く。

 中には繋姿で髪を纏めた母さんがISの整備をしていた――前に見たイザナギだ――とはいえ前回見たときとは違い、右肩には短砲身と長砲身に切り換え可能な荷電粒子砲、左肩には大きな鋏の様なのが付いていた。


「母さん」


 俺がそう呼ぶと、気付いたのか顔を上げて笑顔で応えてくれた。


「あらぁ~、もう遅いんだからいつまでも学園に居ちゃダメよぉ~?」

「ん、まあ用事が終わったら戻るさ。 ――てか母さん、今大丈夫?」


 そう聞き返すと一旦作業の手を止める母さん、手近に置いていた飲料水に口をつけ、水分補給を行うと――。


「ウフフ、お母さんになにか用事~?」

「ん、少しな。 実は――」


 簪の機体、打鉄・弐式の現状を説明した。

 うんうんと頷く母さん――一通り説明を終えると、空中投影ディスプレイで打鉄・弐式に必要な荷電粒子砲のデータとマルチロックシステムのデータを俺に見せてきた。


「荷電粒子砲のデータに関しては、多分問題ないかなぁ~? お母さんがアメリカに居る間にお父さんに頼んでテストしてもらったデータがこれですからぁ。 ――ただ、マルチロックシステムに関しては、打鉄・弐式のOSと相性が悪いかもしれないわよぉ?」

「そうなのか? ――ってまあ、IS自体全機体が規格に合わないっていう状態だし」


 というのも、各国で独自に開発してるのが原因だ、しかも数自体が決められてる……多少は互換性のある規格パーツ等があれば整備性も上がるのだが。

 その点母さんの作った村雲や天照は互いに互換性のあるパーツで構成されている――生産性は度外視らしいが。

 OSに関してもそうだ、此方も専用機になれば特別なOSになり、システムと噛み合わなければ使いづらくなるだけ。

 ――まあデータを参考にして打鉄・弐式に合うマルチロックシステムを構築すれば良いんだが。

 纏めたデータを受け取ると、それをポケットに仕舞う。


「母さん、データありがとう」

「良いのよぉ~。 うふふ、じゃあお母さんはもう少しこの子の整備するからぁ~。 ……念のために、ね」


 言ってからウインクすると、また整備に取り掛かった母さん。

 この機体は俺専用になるらしいが、現状【雅】が居る状態でイザナギを渡されても仕方がない。

 二機も機体を操るなら、他の子にその機体を譲る方がいいし。

 母さんにお礼を言うと、俺は整備室を後にし、寮へと戻っていった――明日の整備を手伝ってくれる子を探しに。 
 

 
後書き
若干イザナギの武装が見え隠れ

簪はどうなるやら…… 
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