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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第195話】

――ウォーターワールドゲート前――


 陽は黄昏、夕闇のとばりが落ちていく。

 障害物レースの優勝は逃したものの、レース内の活躍と最後のセシリア、鈴音を救出するという行為が称えられて四人は特別賞なるものを貰っていて――。


「……貰えるのはありがたいのですが……」

「……ぬいぐるみ……ねぇ……」

「可愛いんだけど、ちょっと目立つかなぁ……」

「……もふもふ」


 貰ったものが、売店にあるイルカのぬいぐるみ。

 ……確かに、目立つよな……まあ、抱える程のサイズなのが幸いだが。


「皆、お疲れ様。 疲れてないか?」


 既に皆は着替えを終えていて、今はゲート前にいるのだが。


「……少し、疲れましたわ……」

「……途中から全力だったしね」

「うん……。 でも……参加してよかったよ」

「……もふもふ。 こほん、たまにはああいうイベントも良いものだな」


 顔に疲労の色が見えるのはセシリアと鈴音で、シャルは大丈夫なのか笑顔で応え、ラウラは気に入ったのかぬいぐるみをもふもふしていた。


「皆頑張ったもんね? ふふっ、途中の無双っぷりとか凄かったし」

「あぁ、後は最後の――よかったぞ? ああいうのを見るとさ、絆って良いよなって改めて思うよ。 ……セシリア、お疲れ様」


 そう言いながら頭を撫でると、撫でられたのが恥ずかしいのか少し頬が赤くなっていた。


「鈴音も、よくやったな? 確かにあの身体能力なら雑技団に入れるな」

「う……。 あ、ありがと……」


 ポンポンと軽く撫でると、しおらしくなり、抱えたぬいぐるみを抱き締めながら上目遣いで見上げてきた。


「シャル、お疲れ様。 活躍ぶりが凄まじかったな。 ……可愛かったぞ?」

「ふぇっ!? ……えへへ、ありがとぅ……♪」


 可愛いと言われて一瞬驚きの表情を浮かべるシャルだが、次にはセシリアと同じように頬を染め、撫でられるのが心地いいのか目を閉じた。


「ラウラ、そのぬいぐるみ気に入ったのか?」

「……ぅむ。 本来ならうさぎのぬいぐるみの方が好ましいのだが……このもふもふ感が私には心地好くてな」


 何度もぎゅっと抱くその姿は、まるで子供が大切そうに抱いて離さない様な印象を与えた。

 そんなラウラの頭を撫でると、もふもふしたまま上目遣いで俺を見上げた。


「……さて、皆頑張ったし――帰りに何か食べて帰るか? 美冬も含めて、今日は俺が奢るよ」


 そう俺が言うと、一様に皆の目がキラキラと輝き始めた。


「ほ、本当ですか!? うふふ、ヒルトさん。 ありがとうございます♪」


 満面の笑みでお礼の言葉を告げるセシリア。


「ふふん。 まさかヒルトが奢ってくれるなんてね? @クルーズ期間限定の一番高いパフェね!」


 ……あれって、確か二五〇〇円した気が――。


「ヒルト、良いの……? その、財布の中身大丈夫?」

「ん? シャルがそんなこと気にするなよ。 奢るときは奢る、だから甘えていいんだって」


 心配そうに言ってきたシャルだが、甘えてもいいという言葉に反応し、少し眉を下げながらも嬉しそうに微笑んだ。


「むぅ……。 夫としては嫁の奢りでなどと――」

「そんな小さいこと気にするなって、ラウラも頑張っただろ? それにシャルもラウラもだが、明日は忙しいんだ。 ここで鋭気を養わないとな?」


 俺がそう言うと、まだ悩みながらも静かに頷くラウラ。


「お兄ちゃんの奢りかぁ。 ……じゃあ私もパフェにするかな?」

「おぅ、構わないぞ。 妹なんだ、遠慮してもつまらないだろ?」

「うん。 じゃあお兄ちゃんに甘えちゃえっ♪」


 甘いものが食べられるからか、美冬も満面の笑みを浮かべた。


「……じゃあ行こうぜ? ほら、荷物も俺が持つから」

「え? ……よろしいのですか?」


 申し訳なさそうに訊ねたのはセシリアだった。

 こういうのは基本的にシャルから言ったりするが――。


「構わないさ。 それに女尊男卑だが――皆なら俺自身、納得した上で持つんだしな」

「ふふん。 そういう事ならあんたに預けるわ」


 そう言って鈴音が早速荷物を俺に渡す――ぬいぐるみ付きで。


「で、では……今日はヒルトさんにお預けいたしますわね? ……ありがとうございます、ヒルトさん♪」


 荷物を渡すと、頭を下げてお礼を言うセシリア。

 四月の頃のセシリアが今のセシリアを見たら、多分信じられないだろうな。


「ヒルト、ありがとう。 ……でも、僕は半分は自分で持つよ。 ……に、荷物多いと大変でしょ?」

「ん? まあ大丈夫だよ。 ……だが、気遣ってくれてありがとな、シャル?」


 そう俺がお礼を言えば、笑顔で返してくれるシャル。

 半分の荷物を預かると改めてシャルは頭を下げた。


「……夫が嫁に荷物を預けるのはどうも……」

「ん? ……まあ気にするなって、ほら? 持つから」

「ぅ……む。 すまない、ヒルト。 ……このお礼は、後でキスして返そう」


 そう顔を赤くし、指をもて余しながら言うラウラだが――。


「そ、それはいい……。 争いを生みそうだしな」

「……そう……か」


 断ると、しゅんっと悲しそうな顔をするラウラ。

 ……そんな顔されたら、凄く罪悪感が沸くのだが――。


「お兄ちゃん、私のもお願いね?」

「……おぅ、なら預かるぞ」


 そう言って預かると、美冬はニコッと笑顔で俺を見た。


「……じゃあ、@クルーズに向かうか?」

「うふふ、お供いたしますわ♪」

「もちろん、あんたの奢りで期間限定のパフェが食べられるなら何処までもついていくわよ♪」

「ふふっ、僕もパフェ頼んじゃおうかなぁ♪」

「ふむ……私も少し興味があるな」

「……お兄ちゃんの財布の中身、すっからかんになりそう」


 各々がそう言いながら、向かうは@クルーズ――。

 夏休みはまだ始まったばかりだが、財布の中身がピンチになるかもしれない……。

 ……だが、それでも俺は、今日の障害物レースでの四人の助け合いを見られた事に少なからずも感動したため、これぐらいは出しても問題ないと思った。

 八月の初頭――高校一年の夏休みの一夏の出来事だった――。

 
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