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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第196話】

 ウォーターワールドに行ってから数日が過ぎ、まだまだ暑い夏真っ盛りの八月の朝。

 寮の食堂の一角に、テーブルいっぱいの料理をガツガツと食べている男子生徒がそこに居た。


「んぐんぐ……かぁーっ! 相変わらず美味いな、ここの料理は!!」


 そんな歓喜の声をあげたのは有坂ヒルトだった。

 その食べる量の多さに、部活動の朝練前の生徒は唖然としながらその光景を眺めていた。

 ――と、そこへブロンドとプラチナの髪を靡かせた女子生徒が近付いてきた。


「ヒルト、おはよう。 ……ふふっ、今朝も凄く食べてるね?」

「相変わらずの量だな。 ……嫁がこれだけ食べるのを見ると、いつかは私も手料理を振る舞いたいと思う」

「んぐんぐ……ごくっ。 ようシャル、ラウラ、おはよー。 ラウラが手料理? ……期待してるぞ?」


 ヒルトがそう言うと、顔を赤らめるラウラ――その様は、十代女子の恋する女の子の表情をしていた。

 そんなヒルトのラウラに対する対応を見て軽く嫉妬したらシャルロットも直ぐ様言葉を口にする。


「ね、ねぇ? 僕も今度ヒルトに手料理振る舞いたいなぁ……なんて」

「シャルもか? ……ふふっ、それは楽しみだな。 シャルにも期待するぞ? それもめちゃくちゃ期待大ってやつだ」

「う、うん♪ 美味しい料理、いっぱい作るね♪」


 期待という言葉に、シャルロットは少なからず嬉しさを感じ、表情を緩ませた――。


――十分後――


 テーブルの上の料理を平らげた俺は、コップに注がれた水を一気に飲み干す。

 そんな俺の様子をニコニコとした表情で見つめていたシャルが――。


「ねえヒルト、ラウラ。 後で買い物行かない?」


 俺が食べ終えるのを待っていたのか、シャルがそういうと俺とラウラは――。


「「買い物?」」


 同時に聞き返し、シャルからの返事を待った。


「うん、そうだよ」


 短くそう言うとトーストを一口はむっと頬張り、租借した。

 俺は既に食べ終えたが、シャルとラウラはまだ食事の途中だった。

 二人のメニューは朝食用に軽めのマカロニサラダとトースト、後はヨーグルトだ。

 ラウラはそれに合わせてもう一品付け足していた。


「ラウラは朝からステーキか。 大丈夫か?」

「む、問題ない。 ……食べきれない場合はヒルトが食べてくれ。 ……まだ私には、嫁のように大量に食べることが出来ないから……」


 無理して食べてるのか、はたまた俺に合わせようとしてるのかはわからないが――。


「おぅ、無理して食べても辛いからな? ……まあ、ラウラは少し軽いからちょい食べて胸に栄養を与えないとな」

「……ヒルト、それセクハラだよ」


 そうジト目で俺を見ながら言ったのはマカロニをフォークに通して食べるシャルだった。


「……それもそうだな、つい未来と同じ感覚で言ってしまった……。 ラウラ、悪いな」


 その場で頭を下げると、ラウラは慌てた様に――。


「あ、頭を下げるなヒルト! ……す、少なくとも私にはさっきの言葉は嬉しかったぞ? ……あまり凹凸のない身体だが、ヒルトが見てくれてると思うと私は……嬉しい」


 ……まさか予想の斜め上の回答に、俺もシャルも目をぱちくりさせて――。


「ラウラ……怒らないのか?」

「……何故だ? 嫁が少なくとも私の身体を見てくれたのだぞ? これは大いなる一歩と言っても過言では無いぐらいだ。 ……い、いつでも見てくれ……ヒルト」

「う……。 そ、そう言われるとセクハラじゃなく僕も嬉しいって思っちゃうかも……」


 ラウラの言葉に感化されたのか、ぶつぶつ独り言を呟くシャル。

 ……シャルも、出会った当時より少し大きくなった気もするが――。


「ところでシャルロット、訊いてもいいか?」

「ん? 何かな?」

「それは……なんだ?」


 そう言って指差す先にあるのは、フォークに通したマカロニだった。


「えと……マカロニ?」


 ……当たり前だが、マカロニを指差されて答える内容はマカロニとしか言い様が無いだろう。

 まあ、ラウラの言いたい事は何と無くわかるので――。


「ラウラが言いたいのはさ、何でフォークにマカロニを通して食べてるのかって事だな」

「うむ、流石は我が嫁だな。 ……何故刺すのではなく、フォークに通したのか聞きたくてな」


 シャルの隣のラウラは真剣な眼差しでシャルを見つめていた。

 それに少し後退りしながらも、食べたマカロニをこくんっと飲み込む。


「何故って言われても……何と無く……かな?」

「ふむ、何と無く……」

「シャルにとって何かのジンクスかなって思ったが……何と無くだったか」

「うん。 ヒルトもラウラもやってみたら? 結構楽しいよ?」


 そう言って笑顔でシャルはマカロニサラダを差し出すので、俺は自分のフォークを取る。

 一度シャルの顔を見ると、何やらハッとした表情になると共に考え込んでいるように思えた。

 俺もラウラも、シャルに言われた通りにマカロニをフォークに通して見る――。

 ……妙に癖になりそうだな、これをやると。

 そう思っていると、通し終えたラウラが――。


「シャルロット」


 そう名前を呼ぶと、面白いようにぴくっと身体を反応させたシャル。

 そんな様子に、俺も思わず笑みを溢すとかぁーっと赤くなって表情を見せないようにシャルは俯いた。

 そんなシャルの様子も気にせずに、ラウラは――。


「シャルロット。 これは、確かに面白いな。 ふむ……せっかくだ。 全部の尖端に通してみよう」


 そう言って直ぐに、他のマカロニも弄り始めたラウラ。

 俺から見ても本当に面白がっている様に思える。


「確かに妙に癖になるな。 ……シャル、マカロニありがとな?」

「ううん。 ……さ、さっきはセクハラって言っちゃってごめんね?」

「ん? ……いや、どうも最近皆の事、未来と同じ様な扱いになってきたからな」

「そ、そっか。 ……それって、やっと未来と同等の扱いされてるって事なのかな……。 ……えへへ」

「……?」


 何やら表情が緩むシャルだが、言ってる内容が聞こえなかった。

 最近、俺の地獄耳対策なのか呟く言葉が件並み小さすぎて流石に聞き取りにくくなってきた。

 そんな中、マカロニをフォークに刺していたラウラが――。


「できた」


 ――と、一言呟き、満足そうにその瞳を閉じるとシャルは――。


「おー」


 声をあげ、パチパチと手を叩き拍手したのである。

 そんな二人の様子に、周りの女子は何事かと遠目で様子を見ながら目をぱちくりさせていた。


「ははっ、良かったなラウラ。 ……んで、買い物には何時ぐらいに行くんだ?」


 机の上に腕を乗せ、シャルへと視線を移すとラウラもシャルを見て――。


「あ、うん。 僕は十時ぐらいな出ようかなって思うんだけど、二人はどうかな?」


 笑顔で指を軽くもて余しながら俺、ラウラと交互に顔を見るシャル。


「ふむ、私は問題ない。 ヒルトはどうだ?」

「大丈夫。 学園の用事は一昨日済ませたし、今日は空いてるからな」


 ラウラが先に言い、その後俺に聞くと俺自身も特に用事は無く、了承した。


「じゃあ、一時間ほど街を見てから昼はどこか良さそうなお店でランチって事で――後は他の皆も誘わないと――」

「あ。 美冬と未来にセシリア、鈴音は今日空いてないぞ?」

「む? そうなのか? ……ヒルト、理由は聞いてるか?」


 俺の言葉にいち早く反応したのはラウラだった。


「えと、美冬が実は今日、親父と母さんの帰国予定日って事で出迎えなんだよ」

「む? 教官とお母さんの……それは私たちも行った方がいいのでは――」

「いや、メールで来たが暫く――というか何かわからないけど日本にいるって連絡あったからな」


 ……と、俺は軽く嘘をついたが理由は知っている。

 財団の保護下にあったにも関わらず、テロリストの襲撃が絶えずに母さんを守るために何人かの護衛が命を落とした事を……。

 親父も場にいたが、人海戦術ともとれるぐらいの人数の襲撃だったとか――多分、テロリストが金を出してマフィアと手を組んだのかもしれない。

 ……あくまでも憶測に過ぎない推測だが。

 因みにこの事件、日本では小さな枠でしか取り扱っていないため、多分知らない人のが多いだろう。


「そっかぁ。 ふふっ、またヒルトのお母さんに会えるんだね、僕達」

「ん? そうだな、母さんも皆と話すのを楽しみにしてるってさ。 ――話は戻すが、未来は確か今日は親と小旅行、セシリアがイギリスから専用機の運用データ回収してそのデータをフィードバックさせた二号機がどうたらこうたらって。 機密扱いじゃないのかって聞いたがもう既に情報公開はなされてますので大丈夫ですわよって言ってたな。 ――後、鈴音も甲龍のデータ回収だって」

「……そっかぁ。 ……後残ってるのって一夏と篠ノ之さんだけど――」

「織斑が来るなら私は行かないぞ」


 そう言い切るのはラウラ――まだ許せないというか、流石に性格の不一致もあるせいか余計嫌いになっていた。


「……まあ僕も一夏には邪魔されたくないからね。 残りは篠ノ之さんだけど……ヒルトが居るなら多分来ないだろうしね」

「……だろうな。 あいつ、嫌ってるもんな~。 まあ今日はこの三人で良いんじゃないか?」


 そう言うと、二人とも頷いた。


「じゃあ、着替えを終えたら寮近くの駅前集合で」

「うん。 ……ヒルトの私服、楽しみにしてるね?」

「そうだな。 まあ私は嫁が例え着ぐるみを着てハイテンションでも気にしないがな」


 ……非公認妖精?


「……まあ、多分大丈夫だと思うぞ?」


 それだけを言うと、俺はテーブルの上の皿を片付け始めた――。 
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