IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第203話】
――@クルーズ店内――
簡単な研修を受けた俺達三人は、早速ホールでの接客業をさせられていた。
「有坂君、六番テーブルにコーヒーとケーキセットをお願いします」
「……わかりました。 ……ふぅ……緊張する」
「ヒルト、大丈夫……? 落ち着いていつも通り……ね?」
そう気遣うのはシャルだ、表情を見る限り彼女は緊張してないように伺えるが――それはともかく、今のシャルはシャルロット名義ではなく、久しぶりのシャルル・デュノアだ。
……一応、執事という事でシャルもしぶしぶそうした方がいいかなってこっそり耳打ちしてきた。
一応ここのスタッフは皆女の子ってのは最初の自己紹介で言ってるのだが。
……っと、余計な事を考えてたら怒られるからちゃんと働かねば……。
カウンターからコーヒーとケーキセットを受け取ると、@マークの刻まれたトレーへと乗せて運ぶ。
一方のシャルも、カウンターの子に呼ばれて飲み物を受け取っていた。
単純な動作とはいえ、同僚のスタッフと@クルーズに居る女性客の殆どがシャルに見入っていた。
「お待たせいたしましたお嬢様方。 コーヒーのお客様は――」
「あ、私です」
そう言ったのは右側の女性で、見た感じは女子大生に思えた。
「かしこまりました。 ……どうぞ」
「ありがとう。 ……ふふ、良い香り……」
軽くコーヒーの香りを楽しむ女性客。
「お嬢様、ケーキセット、前に失礼します」
「ありがとうございます。 ……わぁっ、美味しそう……♪」
ケーキセットを置くと、小さく歓喜の声をあげる女性客。
彼女も女子大生だろうか、不思議とふわふわした印象を受けた。
「お嬢様、もし宜しければ私がお砂糖とミルクを入れさせていただきますが――」
「そ、そうですね。 ……では、お願いします。 ミルクたっぷりで」
「かしこまりました。 それではお嬢様、失礼いたします」
……不思議と、無下な扱いをされないのは執事服効果だからだろうか?
シャルの方も、同じく紅茶とコーヒーをかき混ぜているのだが――その姿が様になってるからか、シャルが担当してる女性客はその姿に夢中になってる様だった。
俺もゆっくりスプーンをかき混ぜていくのだが、内心は緊張といつ怒鳴られるかがひやひやものだが――。
「……どうぞ、お嬢様」
「ありがとう。 ……貴方見ない顔よね? 入ったばかり?」
「えぇ、今日一日だけですが――それではお嬢様方、また何かありましたらいつでも御呼び出しください。 ではごゆっくりおくつろぎください」
トレーを抱え、そのまま頭を五秒間下げ、上げると共に笑顔でその場を後にする。
……ヤバい、まるで俺じゃないみたいだ。
多分今の俺を見たら美冬も未来も驚きすぎて多分聞き返すだろう――貴方誰って。
一旦カウンターまで戻ると、少し遅れてシャルも戻ってきて――。
「……接客業って、やってみると大変だね、ヒルト……?」
「……あぁ、てか俺じゃないみたいだ……。 あんな上品に言ったの初めてだし……」
小声で喋りながら、互いに仕事をこなしていると、ラウラが男性客三名のテーブルで注文を取っていた。
「ねえ、君可愛いね。 名前教えてよ」
そんな風にまさか接客中のメイドさん(ラウラだが)をナンパする強者がいるとは思わず、少し俺は唖然としていた。
「………………」
冷めた瞳でナンパ男を見下ろすラウラ、だがそんな様子にも関わらず、ナンパ男は更に言葉を紡ぐ。
「あのさ、お店何時に終わるの? 一緒に遊びに――」
「……御主人様、生憎ですがメイドに手を出すのはご遠慮いただきたいのですが……」
「……ヒルト?」
流石に見過ごす事も出来ず、ラウラと男性客の間に割って入ると――。
「……君、邪魔しないでくれるかい? 僕は彼女に用が――」
「はい。 ですが……それは承る事は出来ませんのでご遠慮願いたいのですが……」
「君、それがお客に対する態度かい? 大人しく引っ込んでろ――」
その言葉にいち早く反応したのがラウラだ。
まるで叩き付けるようにコップを垂直に置くと、大きな音が店内に響くと共に、コップの中の滴をテーブルに散らかす。
いきなりの事に、面食らっている男たちに――。
「貴様ら、我が嫁に対してその態度とはいい度胸だな――飲め」
「へ? ――よ、嫁って……? ――で、でも君はとても個性的だね。 僕はもっと君の事よく知りたくなった――……あれ?」
ナンパ男の台詞の途中でラウラは急にテーブルを離れた。
「……ともかく御主人様? 我々は仕事中ですので、お誘いの方はご遠慮願いたいのです――」
「君、一体君は彼女の何なのだね? まさか白馬の騎士とでも――」
そんな台詞の途中で、ラウラが険しい表情のまま戻ってきた――ソーサーに乗ったカップを軽く音が鳴るのが人によっては心地いいかもしれない。
「飲め。 ――それとさっき説明したはずだ、【私の嫁】と」
さっきよりは優しく置いたようだが、それでもカップからコーヒーが溢れて――。
「え、えっと、コーヒーを頼んだ覚えは……――そ、それに、彼の事、嫁って言うのは――」
「つべこべ言わずに飲め。 飲めないのならば客ではない、この店から出ていけ。 ――嫁は嫁だ、それ以上でもそれ以下でもない」
まるで威風堂々とした佇まい、そして口から出る言葉の冷たさと嫁という事実を認めたくないのか――。
「ぼ、僕としては他のメニューも見たいわけでさ……。 そ、それに……嫁というのが……その……」
「……なんだ?」
恐ろしい程の冷たい視線で見下ろされたナンパ男は、流石にこれ以上聞けないと思ったようで、コーヒーに関して言い始めた。
「き、君と彼の関係の事はもうわかったよ。 ――で、でも、コーヒーにしても僕はモカとかキリマンジャロとかをオーダー――」
目が笑っていないラウラは、その男を見下ろしながら表情に嘲笑を浮かべた。
「はっ。 貴様らの様な安い舌を持つ凡夫に、コーヒーの豆の違いがわかる……とでも?」
「ラウラ、言い過ぎだぞ?」
そう俺が言うと、ラウラは表情を崩し、いつもの俺に向ける表情で――。
「し、しかしヒルト……私は嫁に対する態度が……」
「俺なら大丈夫さ、慣れっこって奴だよ。 ……御主人様方、そういう訳ですので、そのコーヒーをお飲みになられた彼方で会計を済ませられては如何でしょうか……?」
そう俺が可能な限り優しく接すると、さっきのラウラの言葉に萎縮しながら小さく――。
「……はぃ……」
「ではごゆっくりおくつろぎください。 ……ラウラ、戻るぞ?」
「ぅ、ぅむ……」
そんな感じで俺とラウラはテーブルから離れると、ラウラの冷淡で人を寄せ付けない態度と、今俺に見せてる少女の様な表情とのギャップが凄まじいのか、男性客も女性客も、あの子凄く可愛いという声が耳に届いた。
「有坂君、ゴミ出しお願い出来るかな?」
「あ、はい。 了解しました――んしょっ――」
店長に言われて奥にあるゴミを外に出そうと手に持つと――。
「ヒルト、少しいいか?」
「ん? 接客に戻らなくてもいいのか?」
「す、少しだけだ。 ――さ、さっきは間に入ってくれて……あ、ありがとう……。 わ、私だけでも対処は出来たが……その、だな……。 よ、よめが助けてくれたことが、私には凄く嬉しくて……」
そう顔を赤くし、メイド服のスカートの裾をきゅっと握っていた。
「気にするなって。 ……なんだかんだであまり役に立たなかったがな、俺」
「……ぅぅん。 ……私には、ヒルトが気にかけてくれたことが嬉しい……。 ……だからこそ、ヒルトには私の……その……可愛い所を……もっと……見て……くれ」
最後は消えそうな程のか細い声で言ったラウラ。
その瞳は気恥ずかしさからか少し潤んで見えた。
「……ふふっ、ちゃんと見てるから心配するな。 ……ほら、そろそろ戻らないとな?」
「ぅ、ぅむ。 ……ではまたな」
そうスカートを翻し、ラウラは再度接客に戻っていった。
「……ああいう所、可愛いと思うな、俺は」
そんな呟きが通路内に響くと、俺は外にゴミを出しに出た――。
後書き
このヒルト誰Σ(゜∀゜ノ)ノ
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