IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第201話】
……当初のシャルの予定とは違い(俺が居なければ多分疑問も抱かずにサード・サーフィスで買い物を済ませただろう)、他の店でラウラの服を購入したはいいがラウラの希望もあってか可愛い服をシャルが選んでは着せ替えるというまさかの昨日の俺状態になっていた。
ラウラ自身は満更でもなく、シャルが他の服を選んでる間に俺に感想を聞いてきたりした。
正直、どれもラウラの背格好に似合う服装で、色のセンスも流石だと思った。
……やはり、こういうのは女の子同士の方が一番良いのだろう、俺なんかが役に立つのはせいぜい荷物持ち程度だ。
そうこうしてる間に時間は十二時を過ぎ、現在はオープンテラスのカフェで俺達はランチをとっていた。
ラウラは日替わりのパスタ、シャルはラザニアで俺は軽くサンドイッチを食べていた。
「ふむ。 ヒルト、シャルロット、今日はいい買い物が出来たな」
そうパスタを食べながら言うラウラだが、服装は制服だ。
買った服をそのまま着れば良いのにと思ったりするが――。
「ふふっ。 ――でもラウラ? せっかくだからさっきのワンピース、着てれば良かったのに、ねえヒルト?」
「そうだな、似合ってて可愛かったのに」
シャルが言ったワンピースとは、色が黒で部分部分にフリルがあしらってる可愛らしい印象を与えるワンピースだ。
因みに、サード・サーフィスにも同じものがあったのを確認してる――多分、今流行りの服だろう。
「う……そ、その、だな? せっかく買ったのに汚れては困ると思って……」
そう伏し目がちに力弱く呟くラウラを見たシャルは、少しいたずらっぽく笑むと――。
「ふうん? もしかして、ちゃんとしたお披露目はヒルトと二人っきりの時に取っておきたいとか?」
「なっ!? ち、違う――い、いや、違わなくはないが! と、とにかく違うんだ! はわわ……」
目の前に俺が居るためか、違うのかそうじゃないのか、その取り乱し様は凄まじく、目はぐるぐる回っていた。
そんな様子を見たシャルは、クスッと笑みを溢しながら。
「そっか。 変な事言ってごめんね、ラウラ」
その言葉を聞いたラウラは、安堵したのかホッと一息つきつつも――。
「ま、ま、間違ってはないのだが……ヒルトの前で変な事言うから取り乱したではないか……シャルロット……」
唇を尖らせ、ジト目でシャルを見るラウラ。
「……んじゃ、今度お披露目してくれよ、ラウラ?」
「ふぇっ!? ……よ、嫁がそう言うのであれば、今度見せてやろう」
照れ隠しからか、腕組みしながら言うラウラは、その頬を赤く染めていた。
俺の視線に気付くと慌てたように顔を明後日の方向に向けるので、思わず笑みが溢れる。
「そっか、楽しみにしてるよ」
「う、うむ……」
そう簡素に楽しみと伝えると、ラウラも肯定し、頷いた。
「と、所でシャルロット。 ご、午後はどうする?」
「そうだな、さっき生活雑貨を見て回るって言ってたが――」
「うん、日本に来てまだ二ヶ月だけどまだまだ足りないものもあるし。 ……それにね、日本製の製品って僕、憧れてたんだ。 と、時計とかね」
そう言いながら俺に視線を送るシャル。
テーブルの下で指を軽く弄ぶ様に弄っていた。
「……時計か。 やっぱり腕時計が欲しいのか?」
「ふむ。 シャルロットは腕時計が欲しいのか……」
「そ、そうだよ。 前にカタログで見たけど、可愛いのとかあってね♪ ……だから、時計を見てみたいなぁってね。 ……ラウラは、何か日本製の欲しい物ってないの?」
「む? ふむ……」
腕組みし、瞳を閉じて考えてから数秒後、ラウラの口から出た言葉は――。
「……日本刀だな」
「刀か? ……うーん、模造刀なら手に入るかもしれないが、本物になると――一応、家に一振りあるが」
「む? 嫁の家に日本刀があるのか?」
「あぁ、親父のお父さん――つまり俺のおじいちゃんだが、親父が若いときにおじいちゃんから貰ったって言ってたな。 親父の趣味の部屋に飾られてるよ」
……まあ、押し入れの奥にあるんだが。
流石にあれを居間なりリビングなりに飾るわけにはいかないからな。
「ふむ、ならば一度拝見してみたいものだ」
「……一応篠ノ之も帯刀してるぞ?」
そういうと、ラウラは少し怪訝そうな表情を浮かべた。
「……すまない、私は篠ノ之もあまり好きではなくてな。 ……嫁に対する態度がどうしてもな」
「……そういえば、篠ノ之さんってヒルトの事嫌ってるよね? ……専用機の事、ヒルトに色々言われたからかな?」
「……何か、俺は他の男と同じなんだって。 ……篠ノ之にとっては、一夏が思い出補正で見えるのかもな」
そう俺が言うと、思わず納得したのか頷くシャル。
「そっかぁ……。 確かに子供の頃に想いを抱いてそのまま大きくなって、久しぶりに出会った幼なじみが格好よく見えるのは仕方ないかもしれないね」
「……そのようなものなのか、シャルロット?」
「……僕にはわからないけど、フランスの友達にそんな子がいたから……。 元気にしてるかなぁ……」
そう呟き、空を仰ぐ様に見つめて思い出すシャルの表情は、何処か寂しさを感じさせる様だった。
「……いつか、また会えるさシャル。 仮に保護観察的に大人の人が付き添わなきゃ帰国出来ないってならさ、俺の母さんに言えばいい。 力になってくれるから」
いつものようにニッと歯を見せて笑うと、シャルは――。
「……ありがとう、ヒルト。 ……うん、その時はお母さんに相談してみるね?」
俺の笑顔に応え、シャルも笑顔を返してくれた。
「……とりあえず話は戻して、ラウラ。 何か日本刀以外には無いのか? 女の子として欲しいものは」
「……すまない、ないのだ……」
言葉数少なく、申し訳なさそうに告げるラウラにシャルは笑顔を見せながら――。
「そっかぁ……ならラウラ、ゆっくり探そ? 探せば見つかるかもしれないし。 ほら、ウォーターワールドでもらったイルカのぬいぐるみみたいなのとか」
「む……。 ……そ、それなら……ウサギのぬいぐるみ……とか」
か細い声で答えるラウラ、何とかウサギのぬいぐるみという単語は聞こえたので――。
「ぬいぐるみか……ゲーセンか、玩具屋辺り見に行くとあるかもな。 ご当地系とかだと厳しい可能性もあるがな、これが――ってシャル、どうかしたか?」
言ってる途中でシャルが隣のテーブルの女性を見てるのに気付く――と、その問題の女性の呟きが聞こえてきた。
「……どうすればいいのよ、まったく……」
……年は二十代後半――多分二十八ぐらいだろう、かっちりとしたスーツを着た女性は困ってるのかため息をついていた。
注文したペペロンチーノにはあまり手をつけず、冷めきったそれが事の深さを表してる――あくまで、俺が見た感想だが。
「……ねぇ、ヒルト、ラウラ――」
「……一度見た以上、ほっとけないよな」
「……うむ。 だがシャルロット、お節介は程々にな」
俺達二人の言葉に、嬉しそうな表情を浮かべて続けた。
「うん。 ……えへへ、何だか二人に僕の事わかってくれてるって思ったら嬉しいね」
「……俺も気になったしな、まあ俺が声をかけたら色々不味いが」
「わ、私はたまたまだ。 ……で、シャルロットはどうしたいんだ?」
ラウラの言葉に、人差し指を顎に当てつつ――。
「うーん、とりあえず話だけでも聞いてみようかな。 二人とも、いいよね?」
「構わないぞ? 時間ならあるしな」
「私もだ」
俺もラウラも、首を縦に振って頷くとシャルは直ぐ様席を立ち、隣の女性に声をかけた。
「あの、どうかされましたか?」
「え? ――!?」
声をかけられた女性はシャルとラウラを見るなり、勢いよくその場で立ち上がった。
そのまま、目の前のシャルの手を握ると、握られたシャルはいきなりの事に驚きの表情を浮かべた。
「あ、あなたたち!」
「は、はい?」
女性は瞳を輝かせたまま、シャルに迫る勢いで――。
「バイトしない!?」
そんな言葉に、目をぱちくりさせて二人は――。
「「え?」」
……まあそうとしか答えられないよな、普通。
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