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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第345話】

 
前書き
はてさて、第三アリーナで誰が待ってるのやら…… 

 
――第三アリーナ――


 アリーナ使用申請をその場で書いて提出し、めでたく使用許可が降りた。

 ……いや、お前はダメだと言われたらそれはそれでどうすればいいのかわからなくなるから困るのだが。

 ジャージをロッカーに入れ、下に既に着込んでいたISスーツへと手早く着替える。

 ――いや、ジャージ脱いだだけなのに着替えるはおかしいか。

 とりあえず着替えを終えたという事でそのままアリーナへと向かう。

 真っ先に視界に映ったのは粒子ビームが光の尾を引く光景だった。

 その射撃を視線で追うと、ターゲットに当たらずアリーナのバリアーに当たり、粒子の四散する独特の音が鳴り響いた。

 この射撃を行った主は勿論――。


「おっす、セシリア」

「あ……ヒルトさん。 こんにちは♪」


 声をかけると、俺に気付いて笑顔で手を振り、地上へと降り立つ。

 余程熱心に訓練をしていたのか、セシリアの額は汗で濡れていて、艶っぽく見えた。


「ヒルトさん、今日はどうなさったのですか? 振替休日ですのに……」

「ははっ、それを言ったらセシリアもだろ? 休み返上してまで訓練してるんだから――俺は今日、打鉄の慣らし運転に来たんだよ」

「……? 少しお話が見えませんが……ヒルトさんには村雲・弐式があるのでは――」

「ん? ちょい事情があって村雲は転入予定の子に譲ったんだよ」

「え?」


 驚きの声をあげると共に表情も変わるセシリア――だが。


「……何か事情がおありなのですか?」

「まあな。 事情ありだ。 ……機体に愛着がない訳じゃないが、転入する子には村雲が必要だったんだよ。 まあ俺には学園から用意されたから打鉄選んで改良、改修してたんだよ」

「そうなのですか。 ……うふふ、政府からの圧力で奪われた訳では無いのでしたら安心ですわ」


 そう言ってセシリアは一旦ISを解除すると、持ってきた鞄から高級感溢れるタオルで額を拭った。

 ――相変わらず、エロい尻のラインだなとセシリアを眺めつつも、ふとさっき外したターゲットへと視線を移す。

 端から見ても特に変わったターゲットの様には見えず、セシリアが外すようには見えないのだが――。


「なあセシリア、今日は何の特訓してるんだ?」

「え? そ、その……あの……」


 若干言葉を濁しつつも答えないセシリア。

 言えないような秘密特訓なのだろうか?

 ……だが射撃を外す特訓は聞いたことが無い。

 ――という事は、多分BT兵器の高稼働時に可能な偏光制御射撃、通称【フレキシブル】の特訓だろう。

 福音の第三形態移行で使ってたあの曲がるビーム――そして、昨日の青い機体を纏った女の襲撃者が行ったのもそれだろうし。

 ……新たな境地を目指すために高みに登るという事だと思うが――。


「……セシリア、フレキシブルの特訓か?」

「あ……。 ……うふふ、やはりヒルトさんには感付かれますわね。 BT関連の書籍もお読みになられたのも、わたくしは拝見してましたのよ?」

「まあな、何だかんだで相手を知り、己を知れば百戦危うからずって言うし……多分」

「うふふ。 ……ヒルトさんも昨日見たと思いますが、あの襲撃者……フレキシブルを使っていましたの。 現状ではわたくしがBT適性の最高値の筈なのですが……世界は広いという事なのでしょうか……」


 笑顔で応えるも、どこか無理をした笑顔に思えた。

 ……この問題に関しては俺が助言出来ることはない……適性値自体測ってもいない俺が何を言ってもダメだろうし。

 ――こんな時程、自分の無力さを痛感する。

 セシリアが悩んでる時に何の力にもなれない歯痒い気持ちに、力一杯拳を握りしめるしか俺には出来なかった。

 ……でも。


「セシリア」

「は、はい? 何でしょうか……?」

「フレキシブルに関しては力になれないが。 ……俺で良いなら話ぐらいはいつでも聞くよ。 ……何て、そっちでも力になれないかな、ははっ」


 乾いた笑いが出る。

 本当に大した力になってやれない事が俺の心の中で悔しさでいっぱいになる――だがそんな俺の心情を察したのか、セシリアは――。


「……うふふ、ありがとうございますヒルトさん♪ その時はわたくしの話を訊いてくださいませ♪」


 満面の笑顔でそう応えるセシリアに、悔しい思いが少し軽くなった気がした。

 ……セシリアの力になる所か、セシリアが俺の力になってる。

 ……何だか、力になるって言って逆になってる気がするな。

 苦笑を溢すと、セシリアは不思議そうに俺を見てから釣られた様に笑みを溢した。


「……っと、あんまりセシリアの邪魔をしても悪いしそろそろ慣らし運転始めるかな」

「そうですわね。 ヒルトさん、あのターゲット付近は飛行しないでくださいね? 当たりますから」

「大丈夫、あの付近飛行ではなくまずは地上で色々やるから」

「うふふ。 なら大丈夫ですわね? それではわたくしはまた特訓に移りますので……」


 そう言ってからまたISを纏うとそのまま飛翔し、スターライトmkⅢを構えて射撃を始めたセシリア。

 いつまでも見ていても仕方ないので、俺も打鉄を身に纏う。

 光の粒子が全身を包むと先程改良したばかりの打鉄を身に纏ったのだが――。


「……盾がでかいな。 後ろに全部移動させるか」


 打鉄の四方を固める様に展開されていた盾全てを背部へと集結させる。


「まずは各種スラスターチェックだな、不具合とかもあるかもしれないから徹底的に」

『了解した主君、此方でステータス確認をしておく』


 独り言をごちる様に言い、雅はそれで理解したのか声に力強さを感じた。

 姿勢制御用スラスターの可動域をチェックし、軽くその場で跳躍、わざと体勢を崩してからスラスターを稼働させて姿勢制御を行った。


「……少し出力絞った方がいいな」

『了解した。 ……主君、この数値で試してくれ』


 そんなやり取りを続けつつ、姿勢制御用スラスターを自分向けに調整を行うと次は加速テスト。

 ――だが、飛行はセシリアの射撃の妨げになるので不具合チェックのみ限定して行った。

 軽くその場で十秒程噴かせたが、特に不具合や違和感等は感じなかった。

 元々がちゃんと調整がなされてたのだろう。


『主君、後は模擬戦等で纏めてチェックするとして次は武装のテスト等如何だろうか? ……まずは北落師門からだ、刀は武士として必須だからな』


 ……何故か一番普通の北落師門のテストから始めろという雅。

 テストと言っても刀を振るうだけだが――まあいいか。

 あまり深く考えず、北落師門も呼び出すと粒子形成され右手に握る。

 黒い刃はまるで全ての光を吸い込むダークマターの様に見える。

 とりあえず横に一閃、勢いそのまま横に一回転しながら辺りを切り払う。

 刃が空気を切り裂く音を鳴らし、その場で跳躍して縦に振るう。

 鈍い音を立てると共に刃がアリーナ地表へとめり込む。

 それを引き抜いて北落師門のテストは終了――と。


『しゅ、主君! もっと刀を振るいたいのだ!』

『……おいおい、武装はまだ残り三つあるんだから北落師門ばかりに気を取られたらダメだろ?』

『そ、そうなのだが……ぅぅ、仕方ない、次のテストなのだ……』


 何故かふてくされた言い方をする雅、だがテストしないとどうしようも無いので北落師門を粒子化さて収納、そして次は対艦刀を呼び出す。


「――っとっと」


 その長大な剣に、バランスを少し崩すも何とか立て直し、上段に構えた。

 ――てか下段持ちや中段持ちはキツそうだ。

 そして、その重さを武器にして一気に振り下ろすと地響きと共にアリーナ地表を抉るように突き刺さった。


「……威力は高いが、やはり振りにくいな」

『しゅ、主君が浪漫武装を選ぶのだから悪いのだぞ! ……とはいえ主君、使いこなせば一撃で大幅に相手のシールドエネルギーを奪えるのは事実だ』

「……だな、さて次はチェーンハンマーだが……」


 対艦刀がその場で四散し、大量の粒子を辺り一帯に撒き散らせた。

 それだけ長大な剣って訳だ――そして、チェーンハンマーを呼び出すとズン……ッ!と地表に落ちただけでアリーナが揺れた気がした。

 セシリアは目の前のターゲットに集中してる為か、全く気づいていないが……。

 気を取り直し、予め申請していたターゲットが空中に姿を現す。

 それを見て俺はハンマーに勢いをつけてターゲットに向かって攻撃――その勢いに、機体事浮かびそうになるも何とか踏ん張り、ハンマーはターゲットの下を掠めだけだった。


「……うーん、やはり少し取り扱い難しいな。 思いきって投擲に使うのもありかな?」

『主君主君、そのつもりならそのハンマーにはブースターが内蔵されている様だから加速して相手に射撃が可能だぞ!』

『……さっきの解説には載ってなかったが……そんな機能があるのか?』

『うむ、一度改良を施したようだ。 ……まあそれによって扱いにくさも上がった様だが』

『……成る程、覚えておくよ。 残りはロケットパンチか……』


 地表に落ちたハンマーが四散――虚空へ消えていくと次は両手に巨大な手が粒子形成された。


「このままこれで格闘戦も効果が高そうだな」

『確かに……む? 主君、この手にも隠し機能があるようだ』

『ん? どんな機能が?』

『粒子撹乱膜発生機能だ。 拳全体にエネルギー粒子を分解する特殊な膜を発生させる様だ』


 ……よくわからん、撹乱膜だの何だのって、本を読んでも全部は覚えきれないし。

 そんな俺の考えを読んだ雅は――。


『主君、簡単に言えばビームや荷電粒子砲等を無効化するのだ。 あくまでもその【手】を射出した後に発生するので機体を守る事は出来ないが……』

『成る程……つまり簡単には迎撃されないって訳だな』

『うむ。 まあ一発限りなのだから迎撃されては意味がないという事で開発したとか』


 色々な事情があるんだな……まあ浪漫で開発し、改良して誰にも使われないのも悲劇だな。

 そう考えつつ、まだ浮遊してるターゲット目掛け、右手を突き出すと凄まじい轟音を響かせ、巨大な手についたブースターから火を噴き、ターゲット目掛けて加速していく。

 そのままターゲットをぶち破ると、アリーナのシールドバリアーに直撃――勢いが無くなるとそのままズシンッと音を立てて地上に落ちた。

 ――確かに空へ放てば星の彼方まで飛んでいきそうだな。

 ――と、ここでセシリアも流石に物音に気付いた為、俺の方を見ると驚きの声をあげながら。


「ひ、ヒルトさん? あ、あの巨大な手は一体――」

「ん? 俺がインストールしたロケットパンチ」

「……あ、そういえば訊いたことがありますわ。 何でも変わったISの武装を開発している企業があると――た、多分今ヒルトさんがおっしゃったロケットパンチ……かしら? それもその企業がお作りになったのかも……」

「デモムービーにはロケットパンチ作ってみましたってタイトルで流してたがな。 ……まあ、誰も使ってなさそうな陽の目の出ない武装ならせっかくだし、ネタ的にも使うと面白いかなって。 後別の意味で目立ちそうだし」


 そう言いながら地面に落ちたロケットパンチを右手に嵌める。


「……確かに目立つかもしれませんわね。 使いにくくは無いのですか? その手……」


 セシリアの指摘通り、若干使いにくいというか加速が少し遅いから多分避けられる気がする。

 ……とはいえ、一度選んだんだし、ある程度は使ってみてから判断しないと。


「まあ暫く使ってみるさ、使いやすい武装だけなら他にも沢山あるのは知ってるけどな」

「えぇ、最終的にはヒルトさんが決める事ですから。 ……今日はここまでで終わりにしましょうか。 ヒルトさんはどうなさいますの?」

「……俺も切り上げるかな。 残りのテストは模擬戦とかで纏めてもいいし、調整はちょくちょく出来るしな」


 時間が立つのが早く、既に夕日が空の彼方へ吸い込まれようとしていた。


「うふふ、せっかくですから今日は一緒に着替えましょうか、ヒルトさん?」

「ぶはっ!?」


 セシリアの衝撃発言に、思わず吹き出すとセシリアは口元を覆う様に手で隠し、笑顔になると――。


「うふふ、本当ならご一緒したいのですが……今日はヒルトさんとは反対側で着替えを置いてますの」

「あ……そうか。 …………」

「うふふ。 ではヒルトさん、アリーナ入口でお待ちしてますわね?」


 そう言って反対側のピットへと飛翔して中に入っていくセシリア。

 ……帰りはセシリアと一緒か、うん……悪くないな。

 そう思い、俺は着替えを置いてあるピットへと戻っていった……。 
 

 
後書き
セシリアでしたー

そろそろ振替休日編に終わりが見えてきた

振替休日は殆どSS感覚みたいに書いてますので 
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