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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第339話】

 
前書き
シャル→雅メイン 

 
 朝食を食べ終えたシャルを連れ立ち、現在ISが格納されている格納庫へとやって来た。

 ここを管理してる職員(先生)には既に話が通っていたらしく、難なく入ることが出来たのだが俺がコアを奪還したという話は眉唾だったのか、その事に対しては疑問を抱くかのような視線で俺を見ていたのが印象的だった。

 ……まあ、俺自身はどんな評価をされても気にしないんだけどな、これが。

 因みにこの格納庫から各アリーナへISを搬入するのはボタン一つで行くらしい。

 構造は秘密らしいのだが、多分地下を高速で移動して各アリーナへと運ぶのだろう……想像だが。

 授業だと近くの整備室に纏めて直すので、そこから何かがあるはず――見てないから確信を持って言えないが。

 それはそうと、格納庫だから様々な機械が入り乱れてそうなイメージだったのだがそんな期待を裏切り、中は綺麗に片付いている。

 とはいえ、出しっぱなしの工具類もあるが――それでも、イメージしていたよりも綺麗に片付いているのは何だか気持ちがいい気がした。


「ねぇ、ヒルト? どれを選ぶの?」


 着ていたジャージの袖口を掴み、引っ張るシャル。

 彼女もジャージ姿のままここにやって来た。


「うーん、まだ特に決まって無いんだよな」


 そう言って右側にある打鉄が並んだゾーンを眺める。

 ズラリと一斉に並んだその姿は、妙な威圧感を放っていた。

 一方のラファール・リヴァイヴ側も同じ様に、打鉄と向かい合う形で対面している。

 これだけISが一同を概して並んでる姿はまさに壮観だ――まあ、動いてないんだけど。


「じゃ、じゃあさ、ラファール・リヴァイヴはどうかな? この子、扱いやすいから教師も皆こっちを使ってるし。 ……そ、それに……僕と御揃いになれるし……えへへ」


 恥ずかしそうにしながら俯くシャル。

 ラファールか……悪くないかも。

 そう思い、近くのラファールへと視線を移すと不意に鳴り響く金属音。

 いきなりの事に、俺は小さく身を震わせ、シャルも小さく悲鳴を上げた。


「い、今の音……な、何?」


 びくびくと俺の後ろに隠れながら奥へと顔を覗き込むシャル。

 音は奥の方から聴こえてきたが――俺もこの手のホラーみたいなのは苦手なんだよな。


「……一応確認するか。 ほら、シャル。 手を繋げば安心だろ? ……まあ、俺も苦手だから繋いでくれると安心するし」

「う、うん」


 手を差し出すと、迷うことなくシャルは俺の手を繋いだ。


「……ヒルトも震えてる……」

「……ははっ、まあ俺だって人間だから苦手なものぐらいあるさ」


 若干引きつった笑顔を見せる俺に、シャルは両手で俺の手を握り返しながら。


「大丈夫だよ。 一人なら怖くても、二人一緒なら……ね?」


 そう言って擦る様に両手を包んだまま笑うシャル。


「……だな。 まあホラーは非科学的って奴だし」

「そうだよ。 ふふっ」


 軽く微笑を溢したシャルの手を引いて奥へと向かう。

 格納庫内に響く俺とシャルの足音――そして、音が鳴ったであろう場所に到着し、周囲を見るが打鉄が一機鎮座していて、その前には工具が落ちていた。


「……これが落ちたのか」


 その場で屈んで拾い上げると、工具箱の中にしっかりと入れ直す。


「誰かがちゃんと直さなかった工具が落ちたんだね」

「そうだな。 ……まあ原因がわかって安心したよ、俺」

「ふふっ。 何だかヒルトの意外な一面見られて僕は良かったけどね?」

「……ぉぉぅ、誰だって苦手なものはあるんだから仕方ないだろ?」

「あははっ♪ 確かにそうだよね♪ じゃあ、どれ選ぶかまた探そう?」


 そんなシャルの言葉に反応したのか、打鉄が小さく光を放った。

 一瞬の光だったため、シャルは気づかなかったが――何だ?

 シャルと繋いだ手を離す――小さく残念そうな声をあげるシャルに気を止めず、俺は打鉄へと近づいていく。

 見る限りは普通の打鉄なのだが――雅なのだろうか?

 昨日の事件で使った打鉄のコアにつけた名前なのだが――。

 ……昨日の事件、一応トップニュースにはなっていたが謎の組織の襲来という件で片付きそうだ。

 普通なら警備を強化――警察などの捜査があるが、IS学園の土地は何処の所属でもないためそれも出来ず、警備に関してもISがあるから大丈夫というコメンテーターの楽天的な発言がイラッとしたのは内緒だ。

 ラウラもそのコメンテーターの楽天的な発言には呆れ返っていたようで、色々言っていたが――。

 因みにニュースは直ぐに他に来た女子に変えられてしまい、朝やってる音楽番組になってしまった――少しはニュース見ろよ。

 ……話は置いといて、外側から打鉄を見たままでいるとシャルが――。


「ヒルト、その打鉄が気になるの……?」

「ん? ……まあな、何だかさっきの物音……この打鉄が俺を呼んだのかなって思ってな」


 そう言い、屈んで細部まで見るがやはり他の打鉄と同じに見える。

 量産型故に見た目的に違いは無いのだが、何と無く気になって色々見てしまう。


「うーん……何処からどう見ても打鉄にしか僕は見えないけど」

「……俺もそうだ。 ……とりあえず、他の機体も見て回る――」


 そう言いかけたその時、打鉄の側にあったプラスドライバーが床に落ち、金属音が反響した。


「……うーん、何と無く……打鉄が私を選べって言ってる気がしない、ヒルト?」


 眉根を寄せて困ったような表情を見せるシャル。

 流石にまた物が落ちたのは偶然とは言えない――現に、落ちたプラスドライバーは工具箱にしっかりと納まっていた物だから。


「……そうだな。 何だかそう言ってる気がするよ、俺も」


 そう言って打鉄に触れる――ひんやりとした装甲の冷たさが手のひらから全身に伝わった瞬間、俺の視界は真っ白な閃光に包まれた――。

 気が付くと、側にいたシャルは居なく、周囲も格納庫ではなく桜の樹が周囲一帯に広がっていた。


 風が吹くと、桜の樹が揺れ、桜吹雪が舞い散り、一瞬にして視界を覆う。

 ――そして、少しずつ舞い散る桜の花弁が晴れていくと、晴れた場所には女の子が正座したまま座っていた。

 その女の子は目を閉じ、正座したまま一礼を行い、顔を上げると瞼をゆっくりと開く。


「……主君、待っていました」


 そう言った女の子と視線が絡み合う――と、ゆっくり立ち上がり、緊張した面持ちで真っ直ぐと見つめてくる。

 髪は腰ほどまで長く伸びきったロングストレートだが、髪の色は紅蓮に燃え盛る様な真っ赤な色をしている。

 顔立ちはシャープなのだが、やはり女の子らしく睫毛も長く、目も少し大きいが相対的に見るとこの子も美少女と呼べるぐらい可愛らしかった。

 そして、着ている服装は鮮やかな色使いが美しい着物を見に纏い、端から見ても第一印象は大和撫子と言えるだろう――あくまでも見た目は。

 そして、主君と俺を呼んだことと、彼女の声色で昨日の事件で使った打鉄と俺の中で完全に一致した。 

 だが一応念のため、呼んでみる事にする。


「雅……か?」


 声を出したつもりだったのだが、思ってた以上に声が出なかった――だが、それでも聞こえていたらしく――。


「うむ。 こ、こうして主君と対面すると些か緊張してしまうな。 ……うむ」


 返答をしたという事はやはり雅なのだろう――まあ声色で大体そうだとは思っていたが。

 それはそうと緊張しているらしく、視線がさ迷っている雅。

 苦笑を溢しつつ、俺は――。


「そんなに緊張するなよ。 昨日は話したんだし、それとも対面して話すのが苦手か?」

「そ、そうではないのです。 い、いざ主君を目の前にすると頭が真っ白になるというか……ぷしゅー……」


 何故か湯気があがる雅――顔も赤く、いっぱいいっぱいといった感じに見られる。


「そんなに緊張するなって、ほら?」


 赤い髪を撫でて落ち着かせようとする。

 だが、撫でている途中で雅は――。


「しゅ、しゅしゅしゅ主君! わ、私と貴方はし、主従関係を結んでいるのでこのような事は――あわわわわっ」


 どうして良いのかわからなくなったのか、目まぐるしく表情を変え、更に顔を真っ赤に染める。


「ふふっ、主従関係を結んで良いのか?」

「ふぇ……? そ、その……結んでくれないと、何のために工具を落としたのかがわからなくなる……」


 やはり工具を落としたのは彼女の様だ――どう落としたのかは非常に気になるが、多分秘密なんだろう。


「……し、主君が訓練機を学園から支給されるのは直ぐにシャルロット・デュノアのコア、ラファからネットワークを通じて知ったのだが……わ、私は何故かいつも奥の方に格納されてしまうのだ……。 だ、だから……このままでは主君は他の子を選んでしまうと思って……ごにょごにょ」


 ――確かに打鉄の列の一番奥にあったもんな。

 手前のラファールとか打鉄ばかり見てた気がするし……。


「……まあ色々あって、俺に気がついて貰おうとやってたんだな?」

「ぅ、ぅむ……。 さ、最終的に選ぶのは主君なのだが……。 どうか、私を選んでほしい……。 み、短い間だとしても、やはり主君に遣えて支えるのが武士の定めなのだ……」


 既にいっぱいいっぱいな様子の雅――まあここまで言うなら断るのも酷というものだが、こういう子に意地悪したくなるのも人のサガ……。

 ――が、下手に機嫌を損ねてもダメなので素直になるかな。


「……わかったよ。 なら俺は君を選ぶよ」

「……!? い、いいのか! 主君!?」

「ん? そういうなら他の子にしようか?」

「わわっ!? しゅ、主君は意地悪だ! 主君が良いのだ!」


 ちょっぴり意地悪してみると、直ぐ様慌てる雅。

 武士なのか女の子なのか――多分両方だな。


「わかったよ、じゃあ君を選ぶよ。 何だかんだで色々縁があるんだろ、最初の受験然り、最初の訓練然りってね」

「う、うむ。 それでは主君、改めてよろしくお願いします」

 折り目正しく、頭を下げた雅――。


「あぁ、よろしく。 早速で悪いけど俺の意識を現実に戻してくれるか?」

「……や、やり方がわからないのだが、主君」

「へ? …………ドアとか出せないのか?」


 ドアに関してはムラクモこと美春が用意してくれる現実への帰還方法なのだが……蹴られて落とされたりしたが。

 だが雅は本当にわからないらしく、困っている様だった。


「……す、すまない主君。 呼ぶことばかり考えていて帰還方法までは考えていなかったのだ……」


 申し訳なさそうに眉根を寄せる雅――と、前に美春が言っていた様な気がする内容を提案してみる。


「……うーん。 んじゃ、キスで元には戻れないのか? 何か前にムラクモ――美春がそんなことを言ってたが」

「っ!? しゅ、しゅ、主君と接吻……!? た、確かにその方法でも戻れるとは訊いたことはあるのだが……。 せ、せ、接吻……」


 やはりコアといえども恥ずかしいらしく、かなり狼狽している雅。

 何だか三頭身ぐらいにデフォルメされた感じに見える。

 まあ俺もキス以外で戻れるならそっちを選ぶが……キスが嫌ではなく、色々恥ずかしいし。

 だが俺のそんな考えを他所に、雅は覚悟を決めたのか――。


「りょ、了解した! しゅ、主君がこのままここに取り残されては色々な人に迷惑をかける事になってしまう! ……そ、そう、これは主君の意識を現実に戻すために行うのだ……!」


 何やら力強くそう言い聞かせようとしてる雅。

 喋る口は饒舌で、かなりの早口だが聞き取れた。


「嫌だったら他の方法も模索するけど――」

「い、嫌ではないのだ!? しゅ、主君とは主従関係を結んだばかりなのにこのような事をして嫌われないのかが心配なのだ!」


 ……何の心配だろうか?

 どちらかと言うと、俺が嫌われそうなものだが……。


「嫌いにならないって。 逆に雅は嫌じゃないのか?」

「わ、私なら大丈夫だ……。 しゅ、主君となら……せ、接吻しても良いと思う……ぷしゅー……」


 二度目のオーバーヒート現象を起こす雅――苦笑を溢しつつ、あまり長居してるとシャルも心配してるだろうし。


「じ、じゃあ……するぞ?」

「う、うむ。 ……しゅ、主君、次に会うとき迄にはちゃんとした帰還方法を学んでおく……。 んっ……!」


 瞼をギュッと瞑り、口付けしやすいように上顎をあげる雅。

 両手を胸の前で握ってキスを待つその姿は、正直可愛く見える。

 いつまでも躊躇していても意識は現実に戻らないので俺は雅の肩に手を置いてゆっくりと唇を重ねた。

 その瞬間、雅はピクッと身を強張らせるもそれを受け入れる――そして、唇から伝わる柔らかな感触に酔いながら、瞼を閉じた俺の視界は真っ白に染まっていった――。 
 

 
後書き
ヒルトがキス魔になりそうな悪寒

いや、そう書いてる自分が悪いんですが


モッピー知ってるよ。
一夏とキスするのはモッピーって事。

    _/⌒⌒ヽ_
   /ヘ>―<ヘヽ
   ((/ ̄ ̄ ̄\))
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