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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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【視点転換】帰還の為の免罪符-弐-

戦場ではたった一瞬の迷いが命を終わらせる。今回自分が早撃ちは運良く狙い通りに運良くその場にあったガス管を撃ち抜いて爆発。
 放たれた一撃を飲み込んだ。

 しかし、それで終わるとは思えない。基本的に奇襲は一撃で終わらせるものだ。一撃でしとめられなければ基本的には一度退いて体制を立て直す。しかしそれに該当しない、ということもある。そのうちの一つがもう一撃放てば殺しきれる場合だ。
 この場合相手が気付いていない、ということはもう一撃放てば防ぎきれるか分からない。もう一撃来る。

「アタランテ!」
「(わかっている!)」

 自身のサーヴァントに声をかけて拳銃を刃が放たれた方向に向ける。そこに敵の姿は見えないが確かに攻撃はその方向から放たれた。

「えっ!?何!?」
「こっちだ!」

 背後ではアタランテが一般人の手を引くか抱えて走り出す。彼女の足なら大抵の敵では追いつけない。上手くこの廃工場から出られれば自分も撤退しよう。
 それを分かってここは引いて欲しいがそこまで簡単な話でもないだろう。

「後ろから一般人を襲うだなんてかなり悪質っすね!」

 爆風で倒れた機械の上に乗り、相手の気配を探る。放たれたのは投げナイフに見えたがそれにしては射程が長すぎる。爆風に乗じて逃げたか、それとも気配遮断か。
 気配遮断はアサシンのクラススキルだ。先程の刃といい、奇襲はアサシンの常套句。ナイフを使うサーヴァントは数いるのでそこから特定するのは難しいが、気配遮断を持っているとするならこちらの方でも対策をしなければ次の標的は自分だ。

「どうしたんすか!怖くて出てこれないんすか!?ならこっちから探すっすよ!」

 わざとでかい声で挑発しながら廃工場の中を歩く。場所を明かすのは危険だが、アタランテ達が追われるよりはマシだろう。そう思って機械を背にしてグレネードの用意をする。
 姿を現した瞬間にトドメを指す。アサシンの気配遮断は攻撃の瞬間に大きくランクダウンをする。その瞬間が1番の隙であり、唯一の好機。機械を背にすることで注意する方向を限定させて、相手の手札を無理やり切らせる。

「さぁーて、何処っすかねー。コソコソ隠れてるから見つからないっすねー。これはさぞかし品のない英霊なんだろうなー」

 その場で足踏みをして歩いているように見せながら落ち着いてその場から離れない。勿論挑発も忘れない。
 わざと鳴らしている足踏みの音と衣服を擦る音。それ以外の音を拾った瞬間が勝負だ。

 カツン、カツン、カツン。
 
 リズミカルに響く足音。これは自分のものだ。しかし先程の接敵が嘘のように音はそれしか聞こえない。足音が金属で反響するのみ。
 それなりに戦い慣れている英雄ならこの足音がずっと動いていないことにも気付くはず。それなのに行動に移さないということは、逃げたか。 

 そう思った瞬間、背中の方から光が漏れ出た。音もない一瞬。背中にあるのは大きな機械だ。爆風で倒れ、地面にめり込んでいるとはいえ、形だけは保っているのでかなりの強度があると踏んでいたのだが、それを簡単に切り裂かれた。
 しかしこの瞬間こそ、自分が待ちわびていたものだった。

「決まった!」

 拳銃の引き金を引く。名だたる英雄ほどではないが速射にはそれなりに自信がある。グレネードを投げるより相手を捉えやすく、そして速い。

 相手の姿は見えない。しかし、当たった感覚が手の中にある。しかし相手がサーヴァントならこの程度では死なない。

「くらえっ!」

 グレネードに指をかけて思いっきり相手の方向に投げる。引っかかった指が安全ピンを引き抜き、爆発。
 切られた機械に隠れて爆風をやり過ごす。機械が少し動いた気がするが熱風を浴びることなく、耐えきった。
 サーヴァントであろうとマトモに喰らえば怪我では済まない一撃だ。しかしマトモにくらったかどうかなんて確認はできない。
 機械から飛び出て爆風のあった方向に拳銃を向けながら走る。しかしそこには何も無い。この空間もそこまで暗いわけではないが見えないものは何も見えない。

「...逃げたか」

 血の痕があることから確実に当たってはいる。しかし上手く逃げられた。
 手傷を負ってアタランテの方を追うほど相手も馬鹿ではないだろう。奇襲を狙うとしても相手は自分だ。

 そしてそれすらも仕掛けてこない。どちらにしろ強襲用の装備をしている訳では無いのでここは退却するべきだ。
 そう判断して奇襲を警戒しながら再び姿勢を低くして走り出した。

◇◇◇

 廃工場から2人を抱えて飛び出す。2人とも最初は振りほどこうとしていたがいつの間にか諦めたようで素直に従っている。

「ここまで離れれば大丈夫だろう...おい、大丈夫か?」

 抱えていた2人をその場に降ろす廃工場からはかなり離れているため、追っ手が来ることは無さそうだ。そもそも、追っ手が来たとしてもマスターが食い止めるのだろうが。
 いや、そもそもだなんていうなら役割が逆だ。マスターが2人を抱えて逃げて自分が囮になるべきだった。サーヴァントは霊体化すれば撤退も簡単だがマスターは転移魔術などの使い手でもなければ走るしかない。決してマスターが遅いとか弱いとかそういうことは無いが、それでも心配なものは心配だ。
 そう思いながらも降ろされた2人を見ると流石に警戒しているようですぐにこちらから距離をとる。

「な、何とか」
「えーっと、ありがとうございます、でいいんですか」

 彼女達からしたら急に後方が爆発したと思ったら誘拐された、という話なので状況が掴めていないのは当然だろう。
 もう少し彼女達に気付くのが早ければ話は違っていたかもしれないがその可能性を考える時間は必要ないだろう。

「礼ならマスターに言え。もうすぐ来るだろう
...そうだな。私の名前はアタランテ、というのは分かっていると思う」
「まぁ、はい」

 誠に不思議な話だが数ある平行世界で自分を召喚したマスターの記憶がこの世界のマスター達にある、という話をよく聞く。中にはその世界から召喚されたサーヴァントもいる、となればサーヴァント達がよくやるクラス名で真名を隠すという行動はほとんど意味が無い。

「私たちは...いや、もうすぐマスターが来る。話はそれからだな」

 とりあえずここまで来た理由と知っている情報があれば聞き出したいと思ったがそれはやめておいた。マスターがいない状態で聞いてもマスターに聞かせる時には念話ですることになる。戦闘中なら彼の集中力を乱すし、帰ってきてから纏めて話すとしても入れ違いが起こる可能性がある。マスターの方はともかくこちらには余裕がある。サーヴァントが二騎もいる場所にわざわざ仕掛けようと思うやつも少ない。マスターさえ戻ってこれば話はいつでも出来る。
 そう思って来た方向、退却してきたマスターが通るであろう道を見る。

「その...アタランテ、さん?」

 後ろから声をかけて振り向くともう一騎のサーヴァント、紫式部が立ち上がって一歩前に、こちらに寄っていた。
 それなりの警戒はしていても知りたいことがあるようだ。

「アタランテでいい。なんだ?」
「川本、という名前の方を御存知でしょうか。あたし達、一緒にここまで来たのですけれど」

 川本、という名前には覚えがある。勿論自分が知っているのとは別人だろうが、彼女達が探して呼んでいた名前だ。恐らく彼女達と共に来た傭兵。戦闘があったようには見えないため何かしらのトラップに引っかかってはぐれてしまったのだろう。トラップがあるなら歩き回るのも危険だが彼女達がそこまで戦場慣れしているとも思えない。
 となるとまだ中にいるかもしれないがあれほどはげしく戦闘して再び突っ込むのも危険だ。残念だが、マスターを待つしかない。

「はぐれたのか。なるほど...ん?ああ、マスター」

 そう思っていると噂をすればなんとやら、マスターが戻ってきた。髪は多少チリチリしているが怪我も見られない。
 同年代にしては少し高めの身長に恵まれた体格。似合わない迷彩服に緑のマント。少しトゲトゲした髪にピアスと少しチャラい雰囲気を出しているがそれは演技。実際はそれなりに落ち着いている紳士。

「急に申し訳ないっす。俺の名前は真木。エインヘリアルってところでマスターをやってるんすけど...そちらは?」

 真木祐介。数いるマスターたちの中でもエリート中のエリートの戦闘員がいると言われるエインヘリアルのマスターの一人だ。 
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