『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
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【視点転換】帰還の為の免罪符-終幕-
目が覚めたら、知らない天井だった。
ちなみに青天井である。
変な夢を見た気がするが、内容は特に覚えていない。
「知らない天井」
「かなり有名なセリフっすね。そこまで頭が回るなら、大丈夫みたいっすね」
何となくそう呟くと、近くに足を伸ばして座る青年が気楽な表情を浮かべながらそう言ってきた。
彼は日本人らしい黒い髪に傷だらけの体で当たり前のように隣に座っている。
「祐介」
「うっす」
彼の名を呼ぶと彼は片手を軽くあげてそれに応じる。先程まで殺し合いをしていたとは思えないほど、それが普通の表情だったからだろう。とても安心した。
なんか八つ裂きにされたり、サーヴァントと殺し合いさせられたりと不幸な人だったが、生きていることに間違いはない。
しかし彼より気になることが出てきてしまう。
「香子は?」
「ここに」
愛したサーヴァントのことを呼ぶと彼女は自分の後ろに正座していた。先程まで見られていた疲れなどもそこまで無さそうだが、少し申し訳なさそうな顔になっている。
恐らく自分が負傷したのに責任を感じているのだろう。これだけ戦いだったので仕方ないと言えば仕方ないのだが、彼女がそれで納得するとは思えない。仕方なく身体を起こして祐介達が眺めていた方向を見るとそこには跡形もなく崩れたせいで遺跡のようになっている建物があった。
「よく眠っていたっすよ。まるで白雪姫のように──」
「起きたか葵。体調は?」
先程まで何を言うのか考えていたのだろう。祐介が得意げに何かを言おうとする。しかしそれは、彼の隣に現れたアタランテにかき消される。両腕を斬られた彼女だったが、何事も無かったかのように両腕は治っており、紫式部と比べてもいつも通り、と言えるだろう。ゲームで見た落ち着きながらも柔らかい表情を見せていた。
「うん、大丈夫」
「それは良かった。先程用意した飲み物だ。飲むといい」
「ありがとう」
アタランテから渡されたお茶を受け取り、とりあえず喉を潤す。アタランテの登場にため息をついていた祐介も習うようにアタランテからお茶を受け取り、飲み出す...と同時に勢いよく噴き出した。
その勢いに紫式部が驚いた猫のように跳んだのが見えたがそれより祐介の動きが型にハマりすぎて逆に面白く見えてきた。
「祐介!?」
オマケに気を失ったように顔色が悪くなったと思ったら地面に頭を勢いよく打ち付けて立ち上がる。
「にっがっ!なんだこれ!?」
そんなことをしながらもお茶を吹き出した分を除けば全くこぼれさせずに支えている驚異的な体幹を見せつけながらそのお茶を差し出すように前につきだす。
「大丈夫...?」
「あっ、うん。大丈夫、っす。」
が、すぐに冷静に戻ったようでその場に正座する。
おそらく彼が飲んだのはセンブリ茶等のよくテレビ番組での罰ゲームとして扱われるものだろう。それにしてはリアクションが大きい気がするが、今までの彼を見てるとそんな感じになりそうな気もする。
祐介が飲んだお茶はアタランテから受け取った物。間違いなくアタランテの仕業だ。そう思ってみるとアタランテはプイッとそっぽを向いていた。
確実に拗ねている。恐らく祐介が何も伝えずにメレアグロスの宝具を起動して自分たちを庇って八つ裂きにされたことだろう。相棒として何も説明無しにそんなことをされたら怒るのも無理はない。しかし祐介はそんなことに気付く素振りもなくこちらを見ている。
「葵、よく飲めるな...こんなの」
「あ、いや。私の普通のやつだし。飲んでみる?」
苦いのに耐える顔をしながらセンブリ茶をチマチマと飲んでいる祐介に自分のものを差し出す。これで口直しになるだろう。
「あ......───いや、いい。いいっす。あんがとござんした」
すると予想に対して祐介は顔を明らかに赤く染めて逆方向を向いてしまう。
ああ、そっか。彼は間違いなく《普通》なんだ。だから関節キスとか考えて緊張してしまったのだろう。そんなことが他人事として考えられてしまった。
「あのぅ...祐介、様?」
「なんすか?」
そんな祐介に紫式部が罰が悪そうな表情で声をかける。一応アタランテから隠れるようにチラチラ見ているようだがアタランテはジッと恐ろしい顔でこちらを睨んでいる。
「その...アタランテ様に一度謝られた方がよろしいのではないかと...」
紫式部は彼女なりの配慮で話しかけるが祐介は何も気づかずに首を傾げる。
「え?なんでっすか?」
「それは、その...アタランテ様は祐介様が死んだと思われて心配しておられたので...何も告げずにした独断行動でしたので。心配なさるのも無理はないかと」
実際アタランテも気付いていなかったので、祐介が誰にも言わずに独断行動をしたという点は言い逃れできないだろう。自分は傭兵のアレコレなんて知らないが、流石に独断行動をしただけでなく、傷を負うなどしたら怒られるのは当然だろう。
「敵を騙すにはまず味方から。よく言う言葉っすよ?そもそも俺が死んだことぐらい想定して戦えなきゃ...」
戦えなきゃいけないっスよ。
そんなニュアンスの言葉が出てくると思ったが、それは飛んできた何かによって遮られる。
ヒュン。
誰が飛ばしたかなんて考えることもないだろう。話を聞いていたアタランテが手に持っていた宝具で矢を放ったのだ。
その矢は綺麗に祐介の頭に突き刺さる軌道だったが素早く対応した祐介が突き刺さる直前でその矢を掴む。
「あっ──ぶなぁ...今宝具起動してないっすよ!アタランテ!」
目で追う所か音の方が遅いとすら思えてしまうほどの速度をしかも頭のおかしい反応速度を発揮しながらもそれを当たり前のようにやってのけたのにはある程度の絆は感じる、が同時にとてつもない怒りを感じる。
「失礼。私は汝が宝具を発動してるかなんて分からないサーヴァントでな。許せ」
「めちゃくちゃ根に持ってるじゃねぇか!?子供か!?」
先程からつけていた「っす」がなくなっていることからして焦りを感じているのがわかる。というよりこれが彼の素なのだろう。
「ほう...なるほど。面白いことを言うな」
その発言で堪忍袋の緒が切れたのか獣のような速度で走ってきたアタランテが祐介の頭部の左右を拳で挟んでグリグリ動かし始めた。
俗にグリグリ攻撃と呼ばれるものだ。頭の横を押さえられているだけあってかなり痛そうである。
「いだっ!いだだだだだ」
「全く汝は...いい加減に、しろ!」
「あ、あの、アタランテ様。その辺で...」
英霊の強い締め付けに流石にやばいと思ったのか紫式部が遠慮がちとはいえ止めに入る。
「...そう、だな。すまなかった」
それに冷静になったのかアタランテが拳を離すと祐介の頭が地面に落ちる。側頭部を押えて痛そうにしてはいるが、抵抗しなかったことから見ると彼も反省はしている...のだろうか。
「ったぁ──!」
「汝は反省しろ、もう二度と独断行動はするな。死んでも治る、その驕りが敗北に繋がることなどよくある事だ」
アタランテは祐介の様子を見ながらため息をついて数歩下がって地面に腰をつける。その様子は子供に説教をしている親のようでもあり、部下の失態を叱っている上司のようにも見えた。
「...死んでも治るのは俺だけっすよ?」
「サーヴァントは再び召喚できるからな。本部の方にもまだ誰とも組んでないサーヴァントが何騎もいるだろう」
「ま、そーっすけど」
祐介の口調が戻ったことを加えても少し違和感の感じる会話をすると祐介が崩れた建物の方向を見て座り、アタランテの背中を向けた状態となる。
「ねぇ、祐介」
「なんすか?」
「あそこの建物は、どうなったの?」
崩れた建物を指さして祐介に訊ねる。
気になることは多い。あれだけいたサーヴァント、倒したと思った川本さんを名乗った誰か。彼の使った謎の魔術のようなもの。
祐介はそれを考えていることを見抜いたのか先程までの表情からうってかわり真剣な表情で崩れた建物を眺めた。
「中にいた子供たちを埋葬して術式も解体させておいたっす。流石にあれを世に広める訳には行かないっすから」
そう、遠い目をして言った。彼が何を考えているのか、どこまで見抜いているのかは分からない。しかし確実にわかるのは自分以上に、今回の事件に詳しいということだ。
「それは...難しかったでしょうに」
「いやいや、どちらかと言うとこっちの方が本業っすから」
魔術の基盤自体が違ったからか、その謎を最後までわからなかった紫式部が驚くが祐介は首を振ってそれを否定する。
「本業?」
しかし自分はそれより魔術を解体を本業と言ったのが気になった。魔術の解体というわけが分からないことを言っているだけではなくやってのけているので確かにそれだけの腕があるのだろうが。
「エインヘリアルは元々研究機関だ。我の強い傭兵みたいな連中がいるから傭兵集団のように見られているが前身となった組織からこの世界について深く調べているんだ。傭兵家業はあくまで資金調達と情報収集という訳だ」
自分の疑問に答えたのか祐介ではなくアタランテだった。相変わらず自分達とは逆方向を見ながらその疑問に答える。
そもそもエインヘリアルという名前自体そこまで聞き覚えがあるわけではなかったが、この強さは強さだけを追い求めていた訳では無いというのに素直に驚く。最初に傭兵と名乗っていたのはめんどくさい事に巻き込まれても傭兵だから、で突き通すためだろう。
「この世界の研究ということでサーヴァントや魔術を調べるのもやるっす。その中で使えるものをこちらで実験したりして、実用化してるってことっす」
祐介がそこまで話してやっと理解した。なぜあの時祐介だけが飛び出したか。それはエインヘリアルの仕事で魔術を扱う機会が多く、その対処に慣れていたからだろう。そう考えれば合点が行く。
この世界について研究している機関があるとは聞いたことがないが、確かに魔物やサーヴァントなど知らないことも沢山ある。それらを調べようとするのも不思議なことではあるまい。
「そんな研究を」
「いつかは、こんな世界でも普通に暮らせるようになるっすよ。法も秩序もいつかは戻る。そうしたら、普通の生活がまた暮らせるようになるっすから」
そう言って祐介は立ち上がってこちらに笑顔を向ける。笑顔、とは言っても少し引き攣っていたが。
─その顔を見て、少し思い出した。
夢の中で、家族を失った男を。彼は恐らく川本さんのフリをしていた誰かだ。世界が崩壊したことで、家族を失い、名を失い、自由を失った。
彼のその人生は不幸だった。そしてそこには自分の両親の陰があった。
その行為がなんであれ愛した娘を取り戻したいと思った夫婦と彼らに救われた恩返しとして娘を助けに来た男。そういえば彼は間違いなく正義の味方だった。
しかし、自分は彼を殺した。後悔はない。戻りたいとも思わない。これは自分で選んだ道なのだから。しかし、それはただのわがままではないか、と思ってしまう。
祐介も世界が崩壊した影響で多くのものを失った。彼は実験動物のように扱われた。その結果人間で居られなくなり、化け物となり、助けが来なければあのまま殺されていた。アタランテが言っていた。祐介は許していないと。ただ仕切りをつけているだけで、その暴挙は許せるものでは無い。
───だから──
「まぁ、難しい問題だよな」
「え?」
いつの間にか祐介が、そう言ってこちらに背中を見せたまま、心の中を覗いたような言葉を放った。語尾がまた無くなっている不安定さは置いておくとしても平然とした状態とは思えないほどその言葉にはどこか重みを感じた。
「どうしても人が作る世界だから誰かが幸福で、誰かが不幸で。そんなことも当然ある。だからこの世界でも、不幸な人は沢山いる。俺も、葵も知らないところで、誰かが死んで、苦しんで、泣いて、もがいている」
例を挙げるのは簡単だろう。サーヴァントのいない地域にいる人達なんかは特に。彼らにとってカルト宗教達は救いの手であり、ストレス発散にだってなる。善も悪も物事を一方的に見た時の力でしかないという必然は上から布をかぶせたように大まかな形しか把握されない。
「私は恵まれたから、助けるべきだって?」
「まさか。確かにそういう人助けることは、とてもいい事だよ。けど、そうすると人ってのは恐ろしいもので助けられることを前提に考える。気づかいはあくまで気遣いで強制じゃないって、わからなくなるんだ。だからあえて言うなら『好きにすればいい』だろう」
恐らく祐介が言っているのは何しても無駄だから好きに動け。ということだろう。確かに自分が何かをしたところで世界が変わるなんて思ってないし、変えたいとも思わない。今、香子がいて、普通に過ごせているだけで幸せだ。出来ればカルト宗教達がいなくなれば、もっといい。そんな程度である。
だから祐介の言い分も理解できる。この事件に巻き込まれる前の自分ならそのまま頷いていただろう。しかし今は違う。別に両親を許せるわけじゃない。人間同盟のやったことは葛城財団等と比べると規模は小さいものの、ただサーヴァント達を虐げているだけだ。そんなことでは何も変わらない。変わったとしても良くはならない。けど、そんな両親も腐っても親であった。
別に毒親と言われるような酷い人間ではない。ただ、祐介と同じくこの世界に狂わされた被害者の一人。許せない。許せないのに、心の中には何か引っかかるものが出来てしまう。
「...両親が人間同盟の人間なんだ。多分そっちでも偉い人で、信頼されてた。けど、香子の事を悪魔だって言って、無理矢理剥がそうとしてきた。許す許せないの前に訳が分からなかった。でも今は許せない。私は」
令呪のある腕ごと切り落とそうとした暴挙。愛するものを悪魔呼ばわりした無知による罵倒。思い出せば思い出すほど狂いたくなる。なのに、その足を強く縛り付けられたように上手く動けない。
このまま感情に任せてしまおうと思ったその口を、祐介の言葉が遮った。
「ストップ。口は災いの元だ」
「あいつの魔術か?...いやこの場合は深層意識か。人を呪わば穴二つってのを逆に利用した。いやこの場合はたまたまそうなっただけか。不味いな。これどうやって解除すんだ?代表、いや出来れば柳さん辺りに押し付けたいけど...無理だな。紫式部さんに言っておくか」
いつの間にかこちらに背を向けていた祐介の顔がこちらに向き、指で自分の額の辺りをぐるぐるの描いたと思ったら何やら不思議なことを言って同じくいつの間にか出てきた石に腰かけた。
「祐介?」
「ご両親の事は、よく分からない。けど、まぁ。色んな人は見てきた。明日が分からない環境で必死に生きる人、中には卑怯な手を使ってでも生きようとする人、その過程でサーヴァントを強く憎むことになった人も」
諭すように返してきた言葉はどこかふわふわしていた。何も分からないくせに。そう言いたくもなってしまう。
なぜ彼がまるで人間同盟を擁護するような発言をするかはわかる。同じマスターに苦しめられた被害者同士、わかることがあるのだろう。けど、それがどうしたと思ってしまう。
「自分で縁を切って来た親を信用しろって言いたいの?」
「そんな説教臭いことは言わない。別に許したくなければ許さなければいい。彼等の行動だってとても褒められたものでは無いし。ただ、理解はして欲しい。難しいとは思うけど、どんな人間の行動にも理由は存在するんだ。葵が紫式部を信用するように」
その返答として祐介の口から出てきたのはどこか悲しそうな言葉だった。
違う。悲し《《そうな》》ではない。悲しい言葉だ。祐介の本心は自分が両親や同じような人達を憎んで欲しくないのだろう。その中には祐介本人も含まれる。アタランテは祐介の両親がどうなったか、なんて言わなかった。おそらく知らないのだろうが、彼女の説明からおおよそ予想はつく。
けど、希望はあった。もう既に亡くなった深澤氏と彼のそばに居た男の発言がこの返答の根幹にはある。たとえそれが綺麗事だと言われても、そういうのだろう。
綺麗事で済めば一番いいのだから。
「誰も理解できない人は、どうしても行き過ぎた行動をする。それは、自分が正義だっていう免罪符を得てしまうことでブレーキを失ってしまうからだ。それは君の言う奴らと同じ...いや、それよりタチが悪い。なにしろ声だけの少数派より武力でなぎ倒せるわけだからな。《《1人の友人として》》君には、そんな人になって欲しくない。ただそれだけだよ」
「祐介...」
人の気持ちを理解出来ない人は行き過ぎた行動をする。そしてそういう人はその事に気付くのが難しい。理由はとても簡単。自覚が全くないからだ。悪としての行動ならどうしても後ろめたさや責任間などから行動を多面的にみる事になり、その行為を自覚する。しかし正義はどうだ。
正しい。
この言葉が意味するのは集団で生活する生き物の中では言葉以上の意味を持つ。正しいから何やってもいいと変換されるのに時間はかからない。強い芯を持っていれば持っているほど正義に酔っているのと見分けがつきずらくなる。その先は地獄だ。祐介の味わったような地獄が、その先にはある。祐介達を化け物にした牛若丸のマスターも、自分なりの『正義』で動いていたのだ、とやっと気付く自分がいる。『選ばれた人間』だとかその行為から悪として見てしまうがそれはこちらから見たからだけのこと。彼は化け物を作ることで外にいる魔獣に対する対抗手段を持つ。という字面だけなら誰でも考えるような行為を行動に移しただけなのだ。
自分が正しいと思うのが間違いなのではない。周りを見ずに、或いは小さい世界にしか視点を持たないことはそのまま出力される結果が多くの人達を苦しめるためだけと思うようなものになってしまう。
だからこそ分かり合うことが必要なんだと彼は言っているのだ。先程のアタランテの茶番をやったのとは同一人物とは思えないほどちゃんとした言葉に彼のことを見直した。
【とは言いつつもやっぱり気になるものは気になるのである。具体的に言うなら好みというやつだ】
後ろにひっそりと表示されている泰山解説祭が無かったら、だが。
ごめん。これは、流石に引く。
「マスター...最低だ」
「えぇぇ!今俺割といい事言わなかった!?」
いつの間にかこちらを見ていたアタランテが鼻の生え際を押えており、紫式部は顔を赤くしながらあたふたしている。可愛い。
「...泰山解説祭っ!式部さん!お願いしたじゃないっすか!」
「すみませんすみません!」
【上手く行ったら食事ぐらいは行こうと思っていたが失敗した。直球にナンパしたほうが成功率高かったのでは?】
事態を察した祐介が紫式部に対して声を上げると同時に新しい泰山解説祭が出てくる。
1周まわって可哀想に思えてきた。
「祐介...」
「なんすか!?その憐れむような見下すような目!」
先程の関節キスになりそうな時に察するべきだったか。完全にこちらに気があったのだろう。いつからか、は不明だがこれで説明がつきそうなことが一つある。
何故彼は切り裂かれて直ぐに復活しなかったか。あの登場は出来すぎていると思ったが、もしかして狙ってやったのではないだろうか。あわよくば惚れて欲しいだなんて考えていたのだろう。
彼の姿が先程までの大人な対応がうそのように子供に見える。
「マスター、一応言っておくが葵は...同性愛者だ」
そんな祐介にアタランテがトドメの一撃を突っ込む。
みるみる白くなっていく祐介の変わりようが面白くなって吹き出しそうになるのを押さえる。このようなやり取りが一度あったようなきがする。
「───へ?まじっすか?」
違うのは祐介が随分と気の抜けた声を出したことだろうか。
「マジ」
面白くなったので真面目な顔で一言で返す。
祐介の顔が青くなっていく様子からして今日一番のダメージが精神的に入ったらしい。なるほど、モテない人種か。
「全く。なんでこういうところは気づけないのだか。これだからモテないんだぞ。一番最初はトランスジェンダーだったか?いや、代表の話じゃ女の体にした男とかにしていたようだな。何故こうも絶対に結ばれない相手を追い求めるのか、お前を慕うサーヴァントとかにしておけば」
「俺はっ!生きた人間がいいんだよぉぉぉぉ!」
祐介の残念な雄叫びが、響いた。
後書き
そういったこともあり、今回の視点転換はこれにておしまいとなります。
かなり読み応えのあるお話だったと思います。
こんなクソ作者にこのような超絶圧倒的文章を送ってくれたんです。もう感謝しかないっすよ。
ほんっとうにありがとうございました。
さて、次からはまたいつもの外伝『紫』に戻りますのでまたよろしくお願いします。
それでは次回もお楽しみに。
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