『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
壊滅-かっこわるい-
前書き
書きたいこと書くだけ書いたら11000文字だって。
長いけどレジスタンス編もここで終わりとなります。
終わるっつっても、まぁほんとに綺麗な終わり方ではないんですけどね。
それでは本編どうぞ。
ひどいものだった。
どこを見渡せど、屍、屍、また屍。
大人のレジスタンスだけじゃなく、子供達も容赦なく殺され、力無く地面に倒れている。
悔しさを噛み締め、私は走る。
そんな時だ。
「…!!」
子気味良い蹄の音。
時折聞こえる短い悲鳴。
奴らを蹴散らしつつこちらに向かってきたのは…
「オロバス!!」
私達の旅のお供、オロバスだった。
走っている私に並走しつつ、その赤い瞳で私を見ている。
大和くんほどでは無いにしろ、彼女が何を伝えたいかは大体わかる。
なるほど、つまりはそういうことね。
「じゃ、遠慮なく!」
背中に飛び乗り、手綱を握る。
それからオロバスはぐんぐんスピードを上げ、寄ってくる実働部隊やゾンビ兵を蹴飛ばしながら進んでいく、
やがて…
「…!!」
いた。
特に爆破の跡が酷い場所。
ここに元々建物があったと言っても誰も信じないほどに荒れ果てた地。
その中心に、彼らはいた。
「葛城財団に楯突こうなどとくだらない思想を広げるな。お前達に代表を倒すことは出来ない。」
「私は…私とシャルは貴様ら程度などに負けん…!」
レジスタンスのリーダーもとい騎士団長。シャロン。
対するはやはり、葛城財団唯一のマスター、置鮎。
2人の視線の先には、剣を打ち付け合い激闘を繰り広げているシャルルマーニュとランスロット。
シャルルマーニュは何度も剣を交えたことがあるから分かる。
彼は一筋縄ではいかない。リーダーのサーヴァントをはるだけあって、その強さはかなりのものだ。
しかしおかしい。
あの戦い、どう見てもシャルルマーニュ側が押されている。
「夫と妹の敵を討つまで…無念の中倒れた者達の為に…私は膝をつくわけにはいかない!!貴様を倒し!財団代表の首を取るまでは!!」
「…やれやれだ。」
置鮎はため息をつくと、背後にて待機している部下を顎で使う。
そうすると…
「!?」
トラックから何かを連れてきた。
あれは…子供だ!!
「オロバス!!」
奴らは子供を使って何かをする。
そう思い、止めなければとオロバスを走らせる。
「とっとと歩けガキ。」
連れ出してきた子供の背中を蹴飛ばし、よたよた歩く子供を転倒させる。
そして隊員の一人は持っていた銃をかまえ、
引き金を、引く。
「させない!!」
そんなこと許してたまるもんですか。
間に着地し、オロバスが後脚で隊員に蹴りを入れる。
吹っ飛んだ隊員はトラックに激突し、車体をへこませて意識を失った。
「…武蔵!?」
「お待たせ。カッコよく真打登場ってところで。」
ランスロットと戦っていたシャルルマーニュが振り向く。
対するランスロットもそうだ。
そのマスターの、置鮎も。
「やはりいたか宮本武蔵…!」
私を見るなり、さっきまでの人を舐め腐ったような表情は消え、敵意をあらわにして睨み付ける。
「どうした?マスターが見当たらないが…?産廃ということを理解され捨てられたか?」
「互いを信じてるからこそ二手に別れました。生憎大和くんはあなたのような薄情者ではないので。」
「ハッ、まともな人間ならゴミに情けなど湧くか?やはり産廃共を連れたマスターはどいつもこいつも変わり者らしいな。」
減らず口を叩く悪党。
今すぐ叩き斬ってやりたいがまずは彼の援護だ。
「助太刀するわ!シャルルマーニュ!!」
刀を抜き、私はランスロットに斬り掛かろうとする。
だがしかし、
「っ!」
隊員が…いや、何者かが私の前に躍り出る。
猫背で開きっぱなしの口から涎を垂らし、焦点の合わない目でどこかを見てヘラヘラ笑っている人間。
これはもしかしなくてもさっきと同じ
「貴様の始末は後だ。セイバーがそこの産廃を処分するまでそいつらと遊んでいるといい。」
「こいつ…っ!」
あのイカれた男と同じ者だろう。
奴らは涎を撒き散らしながら意味の分からない言葉を叫び、私に襲いかかる。
「■■■■■■■■■■■!!!!」
「■■■■!■■■■■■!!」
何かを訴えかけているようにも聞こえるし、罵倒を浴びせているようにも聞こえる。
笑っているし、怒っているし、悲しんでいる。
彼らの意図は私に分からない。
でも、敵として立ちはだかるなら斬る。
オロバスも手伝ってくれている。
幸い彼らはサーヴァントほどの強さはなく、オロバスでも難なく倒せた
1人2人とまた斬り倒していき、奴らは順調に数を減らす。
当然、こんなもの私の敵じゃない。
でも、
「むさしだ…!てきだ!」
「あれを倒せば…れんさまはまたみとめてくださる…!」
「…ッ!?」
背後からはゾンビ兵。
私を見るなり覚束無かった足取りの彼女らはいきなり走り出し、一目散に駆けてくる。
「邪魔!!」
やってきたイカれ兵(今命名した)を投げ飛ばし、ゾンビ兵にぶつける。
敵味方の区別が付かない彼女らは勿論それを敵と誤認して覆い被さる。
「れんさまああああああああ!!!!てきを!!てきをたおしまし…」
そんな言葉を残し、彼女らは自爆。
一瞬儚い顔が見えたような気がしたけれども、私には関係ない。
ああはならないようにしよう。いや、なっちゃいけない。
ゾンビ兵の仲間入りを果たすという事は、大和くんは死に、更に身体は見ず知らずの誰かに体を穢されたことになるからだ。
「産廃の相手には産廃がちょうどいいと思ってたが、案外やるな。」
「そろそろその呼び方、辞めたらどう?」
鼻で笑いながら置鮎は私を見ている。
刀を握る手に余計に力がこもる。
あいつは…絶対に殺さないといけない。
「だがいくら強くとも守りは疎かのようだぞ?ほら。」
「!!」
何かを感じ取る。
咄嗟に振り向くと、そこにはゾンビ兵に抱きつかれているレジスタンスの団員が。
「離せ!!この野郎!!」
「れんさまあああ!!!!」
「危ない!!」
地を蹴り、駆ける。
隣のオロバスもまた走り出すも、私達の行方を阻むようにしてまた現れたのはイカれ兵達。
「…っ!!」
斬る。斬ってどかす。
でもダメだ。このままじゃ間に合わない…!!
「ふん。」
置鮎が軽く嘲笑うと同時、ゾンビ兵が爆発。
組み付かれていたレジスタンスの団員、さらに助けに来た仲間数人も巻き添えにして自爆した。
「……。」
そこにはもう何も残っていなかった。
何も言うことはできず、立ち尽くす私。
心配そうな眼差しで私を見やるオロバス。
「…すまない、すまないみんな…っ!」
悔しそうな顔をし、呟くように謝る団長さん。
シャルルマーニュもそうだ。
怒りの表情をより深く刻み、対するランスロットを睨む。
「お前…!どこまでそんなダサい手を使えば気が済むんだ!!」
「…。」
シャルルマーニュの問いにランスロットは答えず、ただ剣を構えるのみ。
しかし話さない彼の代わりに、置鮎がわざとらしくお手上げのポーズをとりながら話し始めた。
「ダサい、か。守るべき仲間を殺してしまった貴様が言えたことかシャルルマーニュ。それでも十二勇士を束ねる男か?」
「…っ!!」
「シャル!乗ってはダメだ!!」
マスターがそういうも、彼の煽りに乗っかってしまうシャルルマーニュ。
彼は跳び、ランスロットに斬り掛かる。
「カッコ悪い犠牲を出すのはここまでだ!!オレはアンタを倒す!!カッコ良くな!!」
ぶつかり合う剣。
だが次の瞬間。
「ふん…そうしてほざいてろ。産廃風情が。」
「…!!」
剣が、
ジュワユーズが弾かれる。
隙をさらしたシャルルマーニュに、ランスロットが更なる追撃を叩き込む。
「ゴミは磨いても輝かないだろう?産廃がいくら足掻いたとて、カッコ良くはなれないのだよ。」
「シャル!!!」
アロンダイトが、シャルルマーニュを袈裟にズッパリと斬り裂く。
団長が叫ぶも時すでに遅し。
彼は避けられず、ランスロットの強烈な一撃をくらってしまった。
「…!!」
そこで私は気付く。
シャルルマーニュは…〝あんな無様な戦い方〟はしない。
少なくとも訓練で私と戦った際、彼はもっと強かった。
太刀筋も速さも、何もかもがあの時とまるで違う。
何故なのか?
それは、
「『王道踏破』…だったか?産廃のくせに随分と妙なスキルを持つから、こうなるのだよ。」
彼の持つスキル、
『王道踏破』によるものだ。
⚫
「…。」
そこには慈悲や容赦などなかった。
非戦闘員だろうが、子供だろうが惨たらしく殺され、そこら中に転がっている。
この辺りは堂本が守ってたはずだが、居住区は既にボロボロ、人の気配など微塵もしない。
いや、あった。
「…!」
正確には人ではなくサーヴァント。
このレジスタンスの所持する内の一騎、フェルグスが大の字になって倒れていた。
「おお…大和じゃないか…無事か?」
駆け寄ってきた俺に気付き、フェルグスは俺にそう問いかける。
「五体満足だ。」
「そうか…なら、生き残りを…守ってやってくれ…俺はこのザマだ。」
いつものような力強さはない声で、彼はそう言った。
胸にぽっかり空いた穴から見てわかる通り瀕死の状態であり、既に座への返還が始まりつつある。
隣にはマスターが倒れているが、既に事切れていて下半身は無かった。
「まったく何だアレは…女に抱かれるのは大歓迎だが、爆発してしまうのは考えものだなぁ…。」
彼も彼で、サーヴァントとしてここを守り続けていたんだろう。
しかし数の暴力に対抗するのにも限界が来て、隙を見てやられたんだ。
マスターも、おそらくはゾンビ兵にやられた。
「この先に子供達…それに堂本やクリスがいるはずだ…」
「そうか。守ってくれていたんだな。」
守りきれなかったがな、とフェルグスは笑い、それから続ける
「オレンジ髪の、頭のおかしい奴がいた。サーヴァントではない。かといってアレを人間とするには逸脱し過ぎている。気を付けろ…大和。油断していると痛い目を」
「分かった。もう話さなくていい。」
もう既に戦った、とは言わず。彼にはもう無理するなと伝える。
彼の致命傷であるその胸の傷も、ゾンビ兵ではなくあのミッツと呼ばれたイカれ男によるものだろう。
「大和よ…」
「…?」
「最後に、伝えたいことがある…。」
「なんだ?」
退去する直前、フェルグスは最後の力を振り絞って俺にあることを伝えようとしている。
「宮本武蔵を…自分のサーヴァントを、大事にするんだぞ。」
「ああ、している。」
「あいつは…いい女だから…な。」
と、彼らしい遺言を残して消えた。
フェルグス・マック・ロイ
俺が来たばかりの頃、表情の変化が乏しいため周りからまだ不審がられていた時、分け隔てなく接してくれたのが彼だった。
戦いではバーゲストと同じく切り込み隊長を務め、その豪快さと恐れを知らない勇姿からレジスタンスの皆を引っ張り続けてきてくれた男。
時には酒を交わし、時には下ネタでからかったりなどもされた。
「短い間だった。しかしお前と過ごした日々は非常に濃かったよ。」
そう言い、立ち上がる。
いつまでも彼の死を悼んでいる場合では無い。
今生きているものを探し、生かす。
その為に俺は生存者を探そうとした。
すると、
「イヤァァァァァァハァァァッ!!!」
やつの雄叫び。
その直後に何かが砕け散る戦闘音。
間違いない。いる。
音のした方向へ走ると、そこには確かに奴がいた。
「その力はなんだ!?」
「んん〜?さっきも言ったろ?俺はイエス・キリストの疑似サーヴァントなんだよ。」
「嘘をつくなァ!!貴様のような聖人など…いる訳が無いだろうッ!!!」
戦っている。
あのイカれ男とガウェインが。
武蔵の時もそうだがあいつは当たり前のようにサーヴァントと互角にやり合えている。
いやそれどころか、押している。
さらにやつの手にあるのは
「俺のドリルは女を突くドリルゥゥ〜〜〜!!!!!」
虹霓剣だ。
本来フェルグスの得物であるはずの剣を、やつが使っている。
「おおおおおおっ!!濃いヤツが出るぞぉっ!!イクーーーー!!!!!!!」
剣をイチモツに見立て、どう考えても侮辱としか考えられない使い方でカラドボルグから衝撃波を飛ばす。
腕を掠めるガウェイン。
鎧が僅かに砕けた程度で一切気にもとめず、彼女は前進する。
「連続射精!!俺の聖剣は超絶倫〜〜〜〜!!!!」
「うるさい!!!」
強引に突き進むガウェイン。
ついにその手はやつの頭を捉え、鷲掴む。
「いってぇ!!ワックスに3時間かけた俺のデリケートな髪になにしや」
そのまま、無言で地面に叩き付ける。
石畳が粉々になるほどの力。
それほどの力で奴は叩きつけられるも、まだ生きている。
それはガウェインも分かりきっているのだろう。
「!!」
渾身の力、そして全体重をかけ、やつの頭を踏み抜いた。
ぐしゃりと言う音。
ここからでは見えないが、恐らく頭はもう原型を保ってはいないだろう。
「…。」
戦闘は終わった。
そう思い、俺はまず彼女へ近付く。
「誰だ!!…や、大和?」
「あぁ俺だ。助太刀に行こうとしたが、杞憂だったらしいな。」
俺に気付くとガウェインはその気丈な振る舞いから一変。
「助けて欲しい!私のマスターが!クリスが…!!」
「……。」
今にも泣きそうな表情へと変わり、俺にそう訴えかけてきた。
なるほど…嫌な予感というのはよく当たるらしい。
「……。」
ガウェインに連れられ、クリスがいる場所へと向かう。
その時、確認のため頭の無くなった奴の死体に目を向けるが……
「」
動かない。
今度こそ物言わぬ死体と化したようだ。
そうして俺はクリスの元へと向かったが…
「……。」
もうボロボロの居住施設。
そこに子供たちに囲まれ、息の荒いクリスが横たわっていた。
「クリスさん、死んじゃダメだ。あなたが死んだら誰がここの医者を務めるんですか!」
堂本がそう呼びかけるクリスの容態は、いいものでは無い。
まず第一に、右足が〝なかった。〟
ちぎれた足は一応包帯でキツめに締められ止血しようとしているものの、まだ滲み出ている。
そして彼の左手もまたあらぬ方向に曲がり、使い物にはならなくなっていた。
息もだいぶ浅い。これはもう時間の問題だ。
「私のミスです…ほんの僅かばかり隙を晒した瞬間、あの男がクリスに襲いかかり…。」
「友の手足を奪ったのか。」
そう言った瞬間、ガウェインが驚いた顔をする。
「…知っているのですね?」
「あぁ、あいつらが話していたよ。元々あの男はクリスと親しい仲だったと。イマイチ信憑性がなく嘘だと思っていたが…。」
「いいえ。」
俺の言葉に、ガウェインは首を横に振る
「彼らの言っていることは真実です。その様子だと、私が元々はクリスのサーヴァントではないことも、聞かされたみたいですね。」
彼らの言っていたことは真実だった。
しかし、なぜガウェインがあいつではなくクリスのサーヴァントになったか、多くの謎は残るが今はその謎を追求している場合では無い。
「堂本。」
クリスの容態を一通り確認し、俺はまず堂本に声をかける。
「柏原は?」
「ブーディカと一緒に薬を探しに行った。僕はここでみんなを守れって言われたけど…でも医療施設は重点的にやられてるし、もう薬は多分…。」
「…そうか。」
部屋を見渡す。
ここにいるのは重体のクリス、堂本、そして多くの子供達。
「サーヴァントはほとんどがやられた。ランスロットを連れたヤツが、セイバークラスは産廃だどうこうとか言って皆殺したんだ。」
「サーヴァント…そういえば…」
そこで俺はあることに気付く。
「堂本…あの子はどうした?田村将はどこだ?」
子供たちの中で唯一サーヴァントを所持している少年、田村将の姿がどこにもいない。
それに対して堂本は
「……」
何も話さない。
「…連れてかれた。」
「連れていかれただと?」
「うん。これは…僕のミスだ。」
項垂れる堂本。
あまり自分を責めるなと言ってやりたいが、今彼に言ったとしても逆効果だろう。
「ゾンビ兵とイカれた男に気を取られすぎてた。あのイカれた男の仲間に子供を人質に取られた。その時にサーヴァントと交換だって言われて…そうしたらあいつと鈴鹿御前は自分から…。」
「分かった。」
思い出すだけで辛いだろう。
俺は堂本の話を強引に遮り、踵を返す。
「…何処へ?」
「心配ない。少しキツめのお灸を据えてくるだけだ。」
セイバークラスのサーヴァント達を産廃だなんだとほざきながら倒して回る奴なんて、一人しかいない。
そしてそこにおそらく、捕らえられた鈴鹿御前も居るだろう。
「ついでに田村も連れ戻してくる。」
そう言い、クリスの処置は任せるとして俺はまず財団の排除に取り掛かることにした。
奴らの乗ってきた車両なら、おそらく怪我の処置くらいは出来る救急キットくらい一通り揃えてあるはずだろう。
クリスを治す。田村と鈴鹿御前を連れて帰る。
そして、ランスロットと置鮎を殺す。
その為には奴らの所へ向かうしかなかった。
⚫
『王道踏破』
シャルルマーニュが持つスキルのひとつであり、王たらんとする者や、王道を征くもの、何かしらの主義を貫く者が持つことが多い。
自らに課したその生き様を貫くことで、ステータスや宝具出力などが向上すると言ったもの。
逆にその生き様に背く、例えば王らしくない振る舞いをする、騎士道に反する行為をする。自分の決めた正義に反する行為をするなどすると、弱体化してしまうというスキル。
言ってしまえばそう、ケルトの戦士が自らに課す〝ゲッシュ〟が近い。
シャルルマーニュの場合は彼の定義する『カッコ良い』ことをすればステータスが上がるというもの。
あいつは…置鮎はそれを逆手に取って利用した。
「容易く侵入を許し、あまたの犠牲を出した。仲間達は今もなおゾンビ兵に殺され続けている。それはいかにも格好悪いことだなぁ?そう思わないかシャルルマーニュ。」
「…っ!」
わざとらしくそう語り、あくまでそれはここのリーダーのサーヴァントであるシャルルマーニュの失態のように語り、彼を弱めさせる。
さらに、
「ほうらまた死んだぞ?子供1人守れないとは格好悪いにも程があるな?」
見せしめに捕らえた者達を目の前で殺してみせる。
止めに行きたいが今戦ってるランスロットがそうはさせない。
置鮎がそう話し、周りにいる兵隊達はバカにするように笑う。
そう。シャルルマーニュの場合、『カッコ悪い』ことをするとステータスがダウンしていく。
カッコ悪いことをしている。そこを強調して話して置鮎はシャルルマーニュを弱体化させていた。
それが、ランスロットに押されている原因だった。
「卑怯者!!!!」
今起きていることを理解し、私は叫んだ。
「うん?」
「卑怯者と言ったのよ!真正面から堂々と挑まず、横槍不意打ちは常套手段!更には相手を罠に貶め自分は高みの見物!!自分のサーヴァントが負けるのがそんなに怖いか!!」
うるさいな、とでも言いたげに置鮎は嫌そうにこちらを向く。
「それに騎士道はどうした!?貴公はそれでいいのか!?円卓最強?聞いて呆れるわ!!」
「……。」
「セイバー。産廃と話すな。舌が腐るぞ。」
またそれだ。
サーヴァントと話すと舌が腐る。
そう言って彼はランスロットに他のサーヴァントとのコミュニケーションを取らせない。
実際、彼がマスターに対してどのように思っているのかは分からない。
でも、まだ騎士としての矜持があるのならば、このような行いを良しとしているはずがない。
「おい、あれを出せ。」
「はっ。」
置鮎にそう言われた部下はまた人質を車両から引っ張り出してくる。
そこにいたのは…
「なっ…!?」
「捕獲した際暴れたのでな。多少痛めつけさせて貰ったよ。」
連れてこられたのは鈴鹿御前とそのマスター、田村将だった。
彼に怪我は無い。しかし鈴鹿御前は所々服が破れ、さらには両手も後ろで縛られ動けないでいた。
「下手に動いたらガキを殺すぞ。なんて言ったら馬鹿みてぇに動かなくなりましてね。まぁ俺達で楽しませて頂きましたよ。」
「…つまみ食いはご法度だが?」
「おっといけない。ここはまぁなんとか代表に掛け合ってくださいよぉ置鮎さん。」
ヘラヘラ笑って媚びるように部下はそういうと、鈴鹿御前とマスターを蹴飛ばす。
「ちょっと!何もしなければ将に手を出さないって」
「黙ってろやメス風情が。サーヴァントに人権あると思ってんのかボケ。」
そうして隊員は銃を構える。
「…!!」
蹴飛ばされ、起き上がろうとしている将の背中に向けて、標準を合わせた。
しかし、
「!!」
「将!?」
なんと彼は走り出した。
子供であるのにも関わらず、銃を向けられた恐怖を押しのけて前進した。
「このガキ!!」
子供だからとナメて拘束しなかったのがアダとなった。
発砲するもそれは見毎に外れ、
「子供にそんなもの、向けるなッ!!」
「ぐわっ!?」
鈴鹿御前にタックルをもらい、銃を落として転倒する。
そして、逃れた将は、
「…?」
隠し持っていたナイフ。
それを手に取り、なんと置鮎の背中に突っ込んで深々と突き刺したのだ。
「…なんだ?」
「お姉ちゃんは…僕が守るから…!」
何をされたのか分からず、ゆっくり振り返る置鮎。
やがてスーツの腰の部分がじわりと真紅に滲み、それから激痛が走る。
「…っぐああ!?い、痛いッ!!!」
慌てて将を突き飛ばし、倒れ込む置鮎。
「こんのクソガキがァァッ!!!」
年端もいかない子供にやられた。
それは置鮎のプライドを大いに傷つけ、彼に銃を取らせた。
「ッ!!」
させるもんか。
間に割って入り、銃身を斬り飛ばす。
大体グリップしかなくなってしまったそれをカチカチと何度も引き金を引くも、それはもう動かない。
そして力無く落とし、彼は悔しさと怒りが混じった表情で怒鳴る。
「よくも…よくも!!!貴様ァァァァァァ!!!!!」
「私は何もしてません。あなたを倒したのはこの子。鈴鹿御前のマスター田村将君です。」
「う、うるさい!!黙れ黙れ黙れ!!!」
ヨタヨタと立ち上がり、彼は車両へと逃げ込もうとする。
しかしその逃げ道は
「ぶるるっ!」
「ひっ…!」
目の前に立ちはだかるオロバスに塞がれてしまう。
形勢逆転。
周りにいた部下達が一斉に焦り始めた。
「どう?お高くとまってたら子供にやられた気分は?」
「!!」
振り向いた置鮎の首に刀を突き付ける。
彼は震えている。そしてマスターの危機にサーヴァントはいち早く駆けつけようとするが
「!!」
「よそ見すんなよ…!アンタの相手は俺だぜ!!」
シャルルマーニュがそれを許さない。
そして、
「ハァッ!!」
彼の渾身の一撃が、ランスロットの鎧にダメージを与える。
大きく吹き飛ばされたランスロット。
そうしてシャルルマーニュは、一気に蹴りをつけることを決めた。
「マスター!宝具を使う!!」
「許可する!!その剣、存分に振るうがいい!!」
令呪をかざし、団長さんが命令する。
「やれ!!セイバーシャルルマーニュ!!その王勇で悪を切り裂け!!」
「ああ!!」
愛剣、ジュワユーズを胸の前にかざすシャルルマーニュ。
「この御佩刀こそ天下無双の聖剣。降臨するたび、世を輝かせるものなり!」
すると彼の背後に現れたのは剣。
翼を模したように並べられたそれは全部で十二本。
そう、十二勇士と同じ数。
「この輝きで、焼き尽くす!!」
地を蹴り、吹き飛ばしたランスロット目掛け飛ぶシャルルマーニュ。
周囲の剣もまた、彼に呼応するように共に舞ってランスロットへ襲いかかる。
空中へ投げ出され、思うように身動きが取れない彼。
とはいってもほんの僅かばかりの間だけだが、シャルルマーニュにとってはそれだけあれば充分だ。
これは勝てる。
宝具をくらえば例えランスロットでもひとたまりもないだろう。
そう、思っていた時だった。
「!!」
響く銃声。
何事かと思い振り返ればそこには…
「将!!!」
叫ぶ鈴鹿。
そして、胸を撃たれ倒れ込む将。
一体どこから?
「ガキが調子乗ってたんで撃ち殺しましたー。」
いた。
いつの間にかここに来ていたのは、あのイカレた男の仲間の3人組だった。
そのうち1人が、まだ硝煙の立ち上る拳銃を構えてニヤついていた。
「やっば、ガキ撃つとかこれ炎上するんとちゃいます?」
「していい系なんだわコレが。再生数稼ぐのには炎上ネタが一番いい的な?それに財団に楯突くんなら子供でも容赦しねぇよっていう意思表示的な感じにもなるだろ。」
「あっはは!きんもっ。」
あたかも他愛のない会話のように話し、笑う彼ら。
そのうち1人が将の頭を踏み付けると、鈴鹿御前は激高する。
「その汚い足で踏むなぁ!!!!将は…!将はァ!!」
「センセー、クソメスがうるさいでーす。」
「黙らせっか。」
男が銃を持ち替え、鈴鹿御前に撃ち込む。
サーヴァントに銃は効かない…はずなのだけれど撃たれた鈴鹿御前は痙攣し、しばらくすると動かなくなった。
そしてこれは…
「ははっ!!また死んでしまったなぁシャルルマーニュゥウ!!!」
シャルルマーニュの弱体化に繋がる。
「!!」
迂闊だった。
振り向けばもう置鮎はそこにおらず駆け出していた。
そして彼は袖をめくると、そこにあったのは
「アレは…!?」
「令呪を十五画重ねて命ずるゥ!!セイバー!!愚かな産廃にトドメをさせェ!!!!」
令呪。
それも手のひらだけでなく、肘までびっしり刻まれたものが。どう見ても三画じゃない。
彼はそれを全て、言った通り全十五画を全てランスロットに用いた。
迫るシャルルマーニュ。
しかしそれは想像以上の魔力ブーストがかかったランスロットの前では…
「『王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣』!!」
「…!!」
無力。
十二本の剣を瞬時に叩き落とし、さらに真正面から突っ込んできたシャルルマーニュを
「せめて安らかに。『縛鎖全断・過重湖光』…。」
こちらも宝具を用い、すれ違いざまに切り裂いた。
「な…にっ…っ?」
「シャル!!」
切り裂かれ、鮮血が迸る。
ジュワユーズは砕け散り、その破片は宙へと舞い散っていく。
そして、華麗に着地するランスロットと、マスターの叫びも虚しくドサリと地面に落ちるシャルルマーニュ。
決着は、ついた。
「ふ、ふふふ!ははははは!!やはり他愛もないなァ産廃風情が!!」
「ッ!!」
置鮎がそう捨て台詞を残して逃げようとする。
ついさっきまで追い込まれて、本気で焦っていたやつが何を言う…?
散々壊して、殺して、何もかもめちゃくちゃにしておいて……!
逃がしてたまるか、活かしてたまるか…!!
私がお前を……ここで斬る!!
「た、隊長!!まずは怪我の治療を!」
「あぁ、頼む。それとここにいる残りのゾンビ兵はすべて自爆させろ。」
部下に肩を担がれ、運び込まれる置鮎。
それに向かってまっすぐ駆けるも、間に合わない。
さらに、
「ガキとこのサーヴァントは俺達連れてくんで!こんぐらいの手柄はくださいよー。」
「!!」
鈴鹿御前とマスターが連れていかれる!
だめだ、このままじゃあの二人は…!
そうしてどちらを助けるか迷っていたその時、
「蝶のように舞い!隕石のようにズドーーーーーン!!!!!イィィィヤッホォォォォォォォォウ!!!」
私の前に落下してきたのは、あの男。
「おうミッツ!!生きてたか!親友は元気だったか!?」
「おう。感動の再会を喜びすぎて手と足と目を思わず貰っちゃったぜ!!」
仲間とそう話してから、下卑た笑みを浮かべて私の方を見る。
「よう。負け組。」
「……ええ、そうね。」
「なんだよ反論しねぇのかよつまんねぇな。」
負け組。
確かに、私達は負けた。
アジトはめちゃくちゃ。多くの人が死に、そしてリーダーは敗れた。
誰がどう言おうが、これはもう完璧な負け。『完敗』だった。
「んじゃ、俺たち人気配信者は負け組に構ってるヒマはねーんだわ。seeyou again!!」
そういうと彼はどこから持ってきたのか、ゾンビ兵の首を私目掛け投げつける。
斬って捨てるとそこにはもうおらず、動き出しつつある車両の上に乗り込んでいた。
「待て!!」
「待たねぇよ〜ん。」
その直後、爆発音。
辺りを見渡してみればゾンビ兵が爆発している。
そうか、徹底的にやるつもりなんだろう。
それこそ、跡形もなく。
「…。」
置鮎の後を追いたい。鈴鹿御前達を助けたい。
しかし、こんな爆発が起きては団長やシャルルマーニュ。さらに別行動中の大和くんが心配だ。
「…ッ!!」
悔しさを噛み締め、私はとりあえず踵を返す。
今回は完敗した。
でも次は…次は必ず…!!
「勝ってやる」
後書き
かいせつ
⚫武蔵ちゃんも平気で卑怯な手は使うのでは?
うん。使うね。公式でもそう言ってるし勝つためなら島ごと爆破するしね。
でも武蔵ちゃんが怒ってるのは置鮎のやり方と言ってることに違いがあるからなんだよね。
ランスロットの強さを証明するとか言っときながら平気で人の手は借りるし、普通に罠も仕掛ける。他のものに頼りまくってランスロット〝自身の〟強さの証明になってねぇじゃんかと。
正々堂々勝負するとか言っときながら、そういうことしてるからなんですよね。
まぁ武蔵ちゃんも強者との戦いではきちんと正々堂々1VS1の勝負挑んでる訳ですし。今回の置鮎のやり方にはほんとにもう怒り狂ってます。
今回の解説はここまで。
次回もお楽しみに
ページ上へ戻る