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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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憤慨するあたしは、彼女を殴る

 
前書き
こんにちは、クソ作者です。
今回はまぁまぁシリアスなお話。

時系列的には三笠防衛戦が終わって数日経った後、
本編だとまーちゃんが療養してた頃になります。
それではどうぞ。 

 
三笠防衛戦。

後にそう呼ばれることになる葛城財団との戦いは熾烈を極めることとなった。

あまりの物量。さらに捕らえて廃棄したサーヴァントを自爆特攻兵器に変えて使い潰すという非道さ。

三笠側も対抗策を練っており、三笠そのものにバベッジの宝具と探偵の刑部姫の宝具を重ね合わせた『スチーム三笠姫路城』なるもので徹底抗戦

一進一退の攻防戦。その対局を大きく崩したのは、諸悪の根源である葛城財団代表『葛城 恋』

彼は333画の令呪のほんの15画を用い、鈴鹿御前を規格外なまでにパワーアップさせ放った宝具でそれまで傷一つ付けられなかった三笠姫路城を大破させた。

途中、援軍が来なければやられていた程に追い詰められたのは紛れもない事実。

あの代表、葛城 恋の力は未知数だ。
魔力の塊でありサーヴァントを強化、もしくは強制的に命令を遂行させる令呪を333画も持っている。
さらには、自身の体液をサーヴァントの中に一滴でも入れてしまえば、たちまち霊基を汚染し所有権を奪え、洗脳出来るという能力まで持ち合わせている。

性格も最悪。女性をモノ扱いし、見下す。
さらにはあの舞の兄だというのに全く似ていない醜悪な顔。
今一度確認したがちゃんと血の繋がった兄弟…らしい。
性格も、見た目も、何もかもが似ていないどころか正反対の兄弟。
何をどうしたらあそこまでかけ離れた兄弟になるのだろうか?
それはそれで物凄く気になって


「葵様。」
「えっ、あっ、はい?」
「だいぶ私情が挟まれております…。」
「あ、ああ…ホントだ…。」

場所は横須賀、三笠記念艦
…を改造した居住施設。
ついこの前、ここでは大きな戦いがあった。
今では壊れかけた三笠を従業員や他の組織から派遣された者達、そしてあたしが宮本に頼んで発注したゴーレムがせっせと直している。

そんな中あたしは海でも眺めながら今回の一連の出来事をまとめようとしたけど、

「財団代表に関してはここまで書かなくてよろしいかと…。」
「まぁ…そっか。」

余程ムカついたんだろう。
財団代表に関してはかなり悪意の籠った書き方がされてる。

とりあえずメモに走り書きしたその部分は消しゴムで消し、とりあえず『極悪非道の人を人とも思わない人の形をした何か』とだけにしておく。

「にしてもさ…。」
「はい?」
「ホントに似てなかったよね…。」

兄弟は似るモノ。
ごく稀に似ていないものはいるけれど、それもやはりどこか、内面とかそういった目に見えない部分が似ていることもある。

でも、あの二人にはそれが無かった。

「はい。舞様のお父様なのではないかと一瞬思いましたが、お聞きした話ですとまだ21程と随分と若く…」
「21!?アレで!?」

また驚きの事実を聞かされた。
どう見てもあの顔は30をゆうに過ぎている。
そう思ったのだけど実年齢はまさかの21歳。
大人っぽく見える…というかこれまた随分と老け顔だ。

「腹違いでもなんでもなく、同じ母親からあんなにかけ離れたものが産まれるんだね…。」
「それに関しては、北斎様もそう仰ってました。」

そう呟き、今回のまとめを再び書き始める。

で、その舞なのだけれど…

「ところで探偵さんは?」

少し大変なことを起こしてしまっている。

「…いいえ、まだ彼は」
「そっか。」

あたしの問いに香子は首を横に振る。
探偵、あの一 誠がどうなったか、
そして舞が何をやらかしたのかというと…

いや、舞がやらかした…ではなくただ単に探偵の自滅とでも言うべきなのか…。





同時刻。
三笠記念艦にある病院エリア。
そこのとある一室に、探偵はいた。


「…。」

薄目を開けると、知らない天井。
腕には点滴。耳に聞こえるのは心電図のリズミカルな音。

「目が、覚めたんだな。」

そんな目覚めた彼に声をかけたのはここの医者ではなく、ホテル街『オーシャンビュー』からやってきた武田広海さんだ。

心理学を学んでおり、探偵との面識もあるため療養するなら自分達がと探偵の心を治す役割を買って出たのだ。

後ろには彼のサーヴァントもとい妻のマリー・アントワネットと、探偵の相棒でもある刑部姫が心配そうな面持ちで見守っている。

別にここの職員では無いので2人してナース服を着る必要はない。

「広海さん…俺…。」
「どうした?」
「おれ…何か、長い夢を見てた気がするんですよ…。」
「そっか…長い、夢か。そうだな。」

三笠防衛戦の後日。
探偵は精神崩壊を起こした。
別に戦争のせいでPTSDになったとか、人の死がトラウマになったとかそんな大層なものじゃない。

その実は

「現実は…受け止められるか?」
「…ええ、まぁ。」
「そうか…なら落ち着いて聞いて欲しい。探偵さん。あなたが前々から恋をしていたクズシロマキ…もとい葛城舞さんに関してだが…。」
「…!!」

葛城舞。
その名前を聞いた瞬間、探偵の目がカッと見開かれる。

「あ…あ…ああ…!!ああああああ!!!!」
「まだダメだったか…!!探偵さん!!落ち着いて!気をしっかり持って!!探偵さん!!」

バイタルは急上昇。心音も早くなり、探偵はパニック症状を引き起こしている。

「まーちゃん!!!姫だよ!!姫!分かる!?まーちゃんの大好きな姫!!」
「おれは…おれは…!ちんこ生えた男に欲情なんかして…!!」
「探偵さん!!ダメだ!!マリー!鎮静剤を!」


暴れようとする探偵を止める広海さん。
しかしそれでも止まらず、彼の相棒のである刑部姫が呼びかけたりするも、全く意味をなさない。

彼の精神崩壊の原因。
それが、舞だったりする。

「はい!あなた!!」

広海さんがマリーから注射を受け取る。
そうして暴れる探偵の腕になんとか針を当て、鎮静剤を無理矢理注入。

「…!…。」

少しして、探偵は大人しくなると気絶するように眠りについた。
次第に心電図も落ち着き、病室にはリズミカルな音が響くのみとなった。

「…誰にだって間違いとか、過ちとかはある。でも、逃げたり、背いたりしたらダメなんだ。向き合わないと…現実に立ち向かわないと前には進めないんだ…探偵さん。」
「まぁまーちゃんの自滅に近いんだけどね…。」

探偵の精神崩壊の原因、
それは葛城舞が〝男〟だったから。

葛城舞は財団から指名手配されている。
そのため身分を隠し、偽名を使い性別すらも偽った。
幸いその見た目は女性にしか見えず、誰も男だとは疑わなかった。

彼はその美貌を活かし、探偵のいる町姫路町にあるBARにて看板娘を勤めていた。

BARにはにつかわしくない着物。
優しく、柔らかな態度
誰にでも接してくれるし、サービスも良くしてくれる。
その笑顔は誰だって虜にした。

そして、その探偵すらも

いわば彼は…ガチ恋勢になってしまっていたのだ。
常連、バーソロミューと共にファンクラブも作ったし、舞の御美足と着物の上からでもわかる魅惑の腰付きに夢中になってチラチラ見たし、かきあげられた髪から見える色気たっぷりのうなじに興奮したし、時にはかがむとちらりと覗く乳首で抜いたこともあった。

そうして、彼は壊れた。
性別を明かされ、今までの過ちが脳内を駆け抜け、受け止めきれない現実に拒否反応を示し、精神は崩壊した。

そういうことで彼は今、三笠で療養中とのこと。

しばらくは帰れそうにないと担当医の武田広海は言ったそうだ。



場所は戻り、

「大変だなぁ…探偵さんも。」

一連の出来事を聞き、最初は変な笑いが漏れたもののあたしだって舞には騙されてる。
同じような道を辿っていたんじゃないかと思うと、ちょっとだけ肩がすくんだ。

「騙された…と言いましても舞様にはなんの悪意も無いのですけどね…。」
「ね…。」

舞が女性の格好を好むようになったワケは…いや、また今度にしよう。
彼の…いや、彼と北斎のここまでの物語は思ったよりも壮大だった。
そもそもこの世界の人間じゃないとか、ニャルなんとか?みたいな古き神?と戦ったとか、
で、この世界に来てからも大変だったとか。
いずれは細かいことも聞いて、本にしようかと思ってる。

「あの…。」
「?」

と、続きを書こうと思ったその時、声をかけられる。

「あ、」
「シェヘラザード様。」

そこにいたのは三笠に所属しているサーヴァントの一騎、シェヘラザードだった。
図書館設立当時から香子とは交友があり、たまに遊びに来たりして物語を作ったりしている。

「何かごようでしょうか?」
「あ、あの…少しお悩み事が…。」
「…?」

相変わらずの怯えきった困り顔で、彼女はたどたどしく話していく。
そうして分かったのが

「子供が…いない?」
「はい。それも日に日に減っているのです。」

子供の失踪事件。

三笠記念艦は孤児院の役割も担っており、中には大勢の子供が暮らしている。
財団との戦争中はホテル等にあずけられていたが、ついこの前やっと帰ってこられるようになった。

そこからだ。
子供達が、消えたのは。

「アタランテ様もまだ消耗しきっており、万全ではありません。なのでどうか…。」


孤児院の子供達はバーサーカーのアタランテが面倒を見ているらしいが、先の戦いでかなり消耗しているためしばらくは休んでいる。
というよりも戦いの直後だ。三笠の他のサーヴァントも万全では無い。
そして、この事実はまだアタランテ本人にも知らされていない。
もし知れば、そのボロボロの身体で無理矢理探しに行こうとするからだ。

「ことが大きくなる前に、私と葵様で解決してもらいたいと…。」
「はい…頼めるのは…あなた方くらいしか…。」

なるほど、
そんなわけで交友関係のある香子を頼ったわけだ。

それと、
あたしたちを頼った理由は、
もう一つあった。





同日、深夜。


「子供の幽霊?」
「はい。」

あたしと香子は三笠周辺を散策する。
そうしながら香子はシェヘラザードから聞いた噂を話し出した。

「深夜、子供の幽霊が手招きをする。そんな噂があるそうで。」
「怖…。」

夜中、トイレに起きた子供達が見たのだという。

遠くの方から複数の子供が、「おいで、おいで」とこちらに手招きをしているそうだ。
「たのしいよ。」
「こっちにきてみんなとあそぼう」
などと言いながら手招きする。
目撃した子供は怖くなり逃げ出し、大人に報告。
後日幽霊が立っていた場所を調べてみると、そこには何も無かったのだとか


「毎晩二〜三人程が失踪しており、それと関係あるのでは無いかと、シェヘラザード様は申しておりました。」
「…。」

よくありそうな怪談話…だけど
そういったことが有り得るのがこの崩壊世界だ。

幽霊ならば、陰陽術に心得がある香子なら何か解決できるのではないか?
シェヘラザードはそう思い、あたし達を頼ったのだ。
あと、

「アンタ達も頼まれたんだ。」
「まぁ一宿一飯の恩もありますし!それにここのうどんは美味しいのなんの!」

あたし達以外にも、調査に参加した人がいる。

それがこの2人、ついこの前出会った武蔵さんと大和さんだ。

「困ってあたふたしていたのでな。気になって声をかけてみたら任された。」
「まぁこの世界じゃゴーストだろうと普通に斬れちゃいますし、化け物退治なら私と大和くんにおまかせってことで!」
「なるほど…。」

そういって武蔵さんはニコニコしている。
緊張感が無いのだろうか?

「それとだ。葵。」
「はい?」

大和さんがあたしを呼ぶ。
というか、この人会って間もない人をいきなり下の名前で呼んでくる。
無愛想に見えてまぁ親しげだし、距離感がよく分からない。

「どうにも嫌な予感がする。油断はしない方がいいだろう。」
「嫌な…予感。」
「そうだ。ここの空気、昼はそうでも無いのに夜は何故だか淀んでいる。」

空気の淀みというと、やはり…


「…!!」

その瞬間、今までヘラヘラしていた武蔵さんが急に険しい表情になる。
キュッと結ばれた口、鋭い眼光。
刀に手をかけ、今にも鯉口を切ろうと戦闘態勢に入っていた。

「大和くん、予感的中。」

それだけ言って、前を見る。
そこには

「いた…!!」

本当にいた。
子供の幽霊。
青白く、少し地面から浮き、無表情で手招きをしている。

「子供の幽霊って言うと、あまり害の無いような気もするけど…」
「いいえ、葵様。あれは間違いなく悪霊です…!」

香子もかまえる。
間違いなく悪霊…そういった訳が、すぐに理解出来た。

「何か…変だ…。」

気の流れを多少操作できるようになった結果、大気の気の流れも読めるようにはなった。
そして今、ここに流れている気の流れは、良くない。

良くない方の気が漂っている。
後悔、渇望、羨望
それが子供達側からこれでもかと漂ってくる。

そうか…分かった。

「生きている子供が…羨ましいんだ。」

世界崩壊の際、多くの人がモンスターに蹂躙され死んでいった。
無論、その中には子供も含まれる。

子供というのは思いが強い。
それが死後残滓として残り、ここを漂い続けてる。
それが形を成して、それで…

「三笠の子供達を見て羨ましく思ったのでしょう。いつも笑顔で、暖かくて、大人達に囲まれ、さながら1つの家族のように過ごす。彼らには、それが羨ましかった。」

それが、幽霊の正体。
しかし、なんだろう。

羨ましい以外にも、何か、明らかな悪意が読み取れる。

これは…


「〝ぜんぶ、こわしてしまえ〟」
「!!」

次の瞬間、子供達が一斉にこちらを見る。
ニタリと笑い、その口は有り得ないほどに裂けて三日月形に。
目もまるでくり抜かれたように真っ黒で、そして頭を細かく震わせながらケタケタと笑いだした。

「これは…!!」
「前だけじゃない!周り見て!」
「周り…っ!?」

武蔵さんに言われ周囲を見渡すと、囲まれてる。
前後左右。子供達が皆三日月形に口を歪め、頭を細かく震わせながらケタケタと笑っている。

「囲まれております!!このままでは!!」
「ええ、私達もこの子達の仲間入りかもね!」
「それは勘弁だな。」

ケタケタケタケタケタケタ
笑い声の不協和音。
悪い気の流れが辺りを支配し、具合が悪くなる。
しかし、

「でも…悪意があるのなら…叩き斬るまでッ!!」

武蔵さんが動いた。
踏み込み、その刀で前方の子供達を纏めて切り裂く。

悲鳴をあげ、霧散する幽霊。
叫んで消えたあたり、攻撃は効いているのだろうか?

「血は出ないけど斬れば死ぬ!ならなんの問題もなし!!」
「既に死んでいるが。」

そうしてマスターの大和さんもまた、涼しい顔をしながら刀を抜き、魔力を迸らせ駆けた。

物理が効く。
なら…!

「切り抜けるよ紫式部!!」
「はい!!」

あたしの魔性絶対殺す攻撃も通るし
香子の魔性特攻はもっと効く!!

「…!!」

そうして抵抗すると、幽霊は皆襲いかかる。
両手を伸ばし、こちらに突進してくるも驚異では無い。
向かえば斬る、殴る、陰陽術のカウンターが待っている

やはり子供を殴る蹴るなどの暴行を浴びせるのは少し気が引けるが、ここで情けをかけてはダメだ。
下手したら、私も〝連れていかれる〟から。

「少し数が多い。ジリ貧で押しやられるぞ。」
「なら一掃してやる!!香子!!」

個々で撃破するのも良いが、少々骨が折れる。
だからあたしは、香子に宝具の指示を出した。

「それでは詠み上げます…『源氏物語・葵・物の怪(げんじものがたり・あおい・もののけ)』…!」

怨み、呪詛。
それらに紐付いた哀しみの詠が死に至らしめる。
ただの霊ではなく、悪霊となり魔性と堕ちた彼らには効果覿面だ。
宝具を受けた彼らは次々に消えていく。

が、

「…まだいる…!!」

幽霊は、まだまだいる。
次々とどこからともなく現れ、またケタケタと笑い出す。

しかし、

「…?」


何か、見えた。

「苦しい…?」

現れた幽霊。その気の流れ。
それが、一瞬だけ何かを訴えた


「あ、葵様?」
「助けて…って、言った?」
「た、助けて…?」

身体が動く。

右手に気の流れを集中させ、駆ける。
目指すは、先程の助けを求めた幽霊。

「あれだ…!!」

今は周りと同じようにケタケタと笑う幽霊。
しかし、現れた直後、本当にほんの一瞬。あたしは感じ取ったんだ。

「聞こえたんだ。確かに、助けてって。」

もっと気を集中させる。
そうして見える、ひとつの答え。
あたしはそれに、右手を伸ばした。

「っ!!」

幽霊の胴体に、右手を突き刺す。

「こいつだ…ッ!!」

〝何か〟を握る。
その、悪意の元を。
彼らを悪霊たらしめている、元凶を。

「あぁッ!!」

引き抜く。
そうすると、幽霊は霧散する。
しかし今までと違うのは、どこか満足気な顔をして消えていくところだ。

「…。」

そうして、握った拳を開く。

「葵様!!」
「ああ、やっぱりだ。」

あたしの方へ駆け寄る紫式部。

「これは…!!」
「うん。これは自然発生したものじゃない。人為的に引き起こされたものだ!!」

その手にあったものを見て、香子は驚愕する。

朽ち果てた御札。
以前どこかで見た、御札。

そしてあたしはそれを突き出し、叫んだ。

「これ、アンタのだろ!!
『蘆屋道満』ッ!!!」


持ち主の名を。

「あ、蘆屋…」
「道満だと…!?」

動揺する武蔵さんと大和さん。
そして答え合わせをするかのように


「おや、バレるのが思ったより早かったようで。」

現れたのは、陰陽師。
一度見ればそうそう忘れそうにない、あいつ。

「葵殿、紫式部殿。お久しぶりですお二方。それにあちらの方は…あぁそう、そうでした!京都でお会いした武蔵殿と大和殿でござりまするな?」
「お前…!!」

京都でも悪意を振りまいた、あの男。

「蘆屋道満!!」
「おやおや、拙僧のような者を覚えていただいてくれるなど…光栄です。」
「アンタみたいな悪名高い外道、忘れるわけないじゃない。」

と、怒りを向ける大和さん武蔵さんに道満は笑顔で返す。

そして、道満というサーヴァントがいるならば、

「ひゅ〜、どろどろ〜、うらめしや〜。」
「…ふざけんのも大概にしなよ。」

マスターもいる。

「あーあ、残念。幽霊ごっこ、ちょっと楽しかったのになぁ。」
「死後の魂操って、それでいて何が〝楽しい〟だって?」

背後から現れたのは、マスターの森川真誉。

「何しにここに来た?答えろ。」
「何をしに…ですか?目的は変わりませぬ。ただマスタァの願いを叶えるのみですとも。」
「…。」

大和さんが刀を向ける。
道満はさも当然のように答えるも、その願いってなんだ。

「すごいでしょー?ここにいる子達達の未練に御札を入れてあげて、形にしてあげたの。それで後は私の思いのまま!新しい子供をちょっとずつさらってー、幽霊にしてもっともっと子供達の未練を集めるの!」

と、真誉がいかにして幽霊を作り上げたかを嬉々として説明してくれる。

しかし、待って欲しい。

「子供をさらって、幽霊にする…?」
「そ。あそこの孤児院、子供いっぱいでしょ?ならそこから取っていけばいいやって!」
「違う!あたしが聞いてるのはそこじゃない!!」

幽霊にする。
じゃあ、さらった子供は…?

「単刀直入に言うわ!!答えなさい外道!!子供達はどうしたッ!?」

分かってしまった武蔵さんは、怒気を帯びた声で叫ぶように聞く。

そうすると道満はフフフと笑い、
真誉はさも当たり前かのように、
まるで普通に他愛ない話でもするかのように、


「殺したよ。」

と答えた。

「幽霊にするんだから、殺さないと意味無いでしょ?桜ちゃんもそう思うよね?うん。うん。ほら、死なないと幽霊にはなれないよーだって!」

人形と会話し、顔をこちらに向ける。


殺した?
子供を?
何のために?
目的?それは何?
子供を殺してまで叶えたい願いって、そもそも何?

「何を…するつもりなの?」

震える声で、確かに怒りの籠った声であたしは尋ねる。
マイペースを崩さず、真誉はゆっくりと、しかし確かに答えた。


「何って、前にも言ったでしょ?私は桜ちゃんになりたいから。」
「だから…それがなんなんだって、聞いてるんだよォオッ!!!!」

考えるよりも先に身体が動いた。
気が付いたら地面を蹴り、拳を握り、奴の顔面をぶん殴るべく動き出していた。

「葵様!!」
「援護お願い!!あたしにありったけの(まじな)いかけて!!」

そういい、香子にバフを盛ってもらう。

「ああぁッ!!!」

殴りつける拳。
しかしやはりそれは、彼女の生み出す黒い壁みたいなものに阻まれてしまう。

「喧嘩っ早いなぁ葵ちゃん。まーまーそう怒らずに。どうどう。」
「うるさい…黙れ!!」

天然なのか煽っているのかは分からない。
ただあたしは、異様にコイツにムカついている。

殴る、殴る、殴る。
壁を殴り続け、ヒビが入る。

「わっ、」

そうして割れる壁。
しかしそこに控えていたのは

「急急如律令…『口裂け女』」

血塗れの女性。
ニタリと笑い出刃包丁を振り上げる。

「ッ!!」

その瞬間、間に割って入り、包丁を受け止める男が1人

「大和さん…!」
「怒りに身を任せるな。ぶん殴りたい気持ちは分かるが…!!」

弾き返し、空いた胴体を横一文字に切り裂く。

『口裂け女』と呼ばれた女性は霧散して消えた。

「にしてもこいつ…怪異を…!」
「あちこち巡って集めたんだぁ。大変だったんだよ〜?怪異を調伏させて式神にするの」

そうして彼女は、またもや御札を取り出し呼び出そうとする。

「でも、今日は出血大サービス。たくさん呼ぶね。」
「させるかッ!!」

あたしと大和さん、式神を出させるものかと妨害しようとするが

「おっといけませぬ。」

道満に阻まれる。

「どけッ!」
「真誉殿は陰陽術を教えてからというものめきめきと頭角を現し始めまして、今では式神の使役もほれご覧の通り。」
「そんなの聞いちゃいないんだよ!!」

蹴り飛ばす。
同時に大和さんはその鉄の塊みたいな鞘に刀をしまい、鈍器と化したそれで道満をぶっ叩く。

「止めましょう!」
「はい…!なにかこの気配…とても嫌な予感がします…!!」

武蔵さんや香子もまた、この事態を止めるべく動き出す。
周囲の幽霊を蹴散らしながら、こちらに向かうも

「急急如律令…


姦姦蛇螺(かんかんだら)』。」

大和さんの一撃、あたしの蹴り。
道満に命中する瞬間、それらが何かに阻まれる。

「これは…!!」

鱗。
太く、長く、鱗に覆われたそれはまるで蛇の身体。

「何…こいつ…!」

現れたソレは、蛇ではない。
下半身は蛇そのもの、上半身は人間。
長い舌をだらりと垂らし、六本の手からは長い爪が伸びている。
さながらラミア。
長い髪から覗くその目には明らかな殺意が籠っており、あたし達を睨み付ける。

「ネット?掲示板?なんか噂から広まったんだって。それが神秘と結びついて架空の存在が実体化した姿。すごく強いよ!」
「拙僧も手伝いましたが、いやぁ中々骨が折れました。まぁその分、良い働きを見せてくれましょう。」

姦姦蛇螺。
確か、そう言ったよね…?
あたしだって聞いたことがある。
読み物が好きだったんだ。ネットだって少し覗いて見たことがある。

人の悪意によって殺された巫女の成れの果て。
強力な呪いを備えた、おぞましき怪異。

「こいつ…神霊の類か?」
「一応。」
「そうか…。」

まったく…
なんてものを呼び出してくれたんだ…!! 
 

 
後書き
かいせつ

⚫式神
森川真誉は陰陽術を学んでからめきめきと成長していった。
特に長けたのが式神の使役。
黒い影の化け物や道満のチェルノボーグやイツパパロトルも借りて使役することが可能(この場合、借りた式神は十全に力を発揮できないものの悪神であるためそれでも充分に強い)
そうして彼女は式神を増やすことに興味を示す。
まず目に入ったのが怪異。
都市伝説、伝承、それらの怪異のいくつかは世界崩壊の際満ちた神秘に触れ実体となっている。
森川真誉は、それらを式神にしようとしたのだ。
そうして使役させ、ありとあらゆる呪いを溜め込んでいく。
全ては、自分が間桐桜のようになるためである。


⚫子供
子供の思いは非常に強い。
それは死後、形となって残るほどに。
真誉、道満はそれらを利用し何かを企もうとしている。
あくまで最終目的は間桐桜になるためとそれ以外は一切話さないが果たして… 
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