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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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【視点転換】帰還の為の免罪符-拾参-

カリュドーンの猪。
 カリュドーンの王オイネウスがアルテミスへの生け贄を忘れたことで放たれた巨大な豬。

 それを討伐する為にカイネウス、ディオスクロイ、ペレウスにイヤソンといった後の世を変えたり、世界を変えた英雄たちが集められたが、そのイノシシによってその内何人かが殺された。

 英雄殺しの豬。しかしその猪もメレアグロスというオイネウスの息子の投槍によって討ち取られた。

 メレアグロス。
 オイネウスの息子であり、投槍の名手。アルゴノーツの一員でもあり、アタランテに恋をした一人の男。カリュドーンの豬討伐の手柄をアタランテに譲ろうとしたことにより、家族間に不和が広がり、結局彼はアタランテの目の前で焼き殺された。
 これを気にアタランテは結婚をしない誓いを立てることになる。

 そして、ギリシアで唯一ヘラクレスを恐れさせ、その逸話で涙を流させた英雄。
 後に彼の妹でありヘラクレスの妻であるデーイアネイラのミスによりヘラクレスが死ぬことになるがそれは別の話。

 そんな怪物と英雄がたった一人の男を器として中に吸収されている。
 かたや英雄殺しの豬。かたやギリシア最強の英雄を感動させ、自身の妹を妻として娶らせた英雄。

 交わることはあっても、反発することしか無かった両者の力が、真木祐介に取り込まれた。

◇◇◇

 心の中にフツフツと怒りが燃え上がる。
 それは誰のものなのか、検討もつかない。これは、呪いだ。誰に恋してもならない。誰を愛してもならない。堕落してはならない。憎悪を根に染み付けさせてから花を開かせる呪いの塊。

 全身の魔術回路が暴走し、地をふみしめる足から、呼吸する息から、魔力が生成され、痛みという力を伴って肉体を強化し続ける。
 痛いが、痛いだけだ。傷がある訳では無い。その証拠に自分の腕は丸太のように太くなり、変色した魔術回路が表面に浮きでているだけだ。
 
 それより自分には深い根を早す憎悪の方に意識が取り込まれる。本来ない感情を作り出す根ではなく、今あるものから新たに増やされる憎悪。 
 自分たちをこんな目に合わせたマスター。そしてそのサーヴァント。

 憎い。憎い。憎い。憎い。
 殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。

 壊して、根っこから全て壊して。殺して回って。本当なら撲滅したい。
 それを肯定するようにカリュドーンの毛皮は魔力を精製するスピードを早くしていく。痛いが怒りに、憎悪へとなる。この力をそのままふるえば確実に勝てる。

─けど、違うんだ。

 確かに憎い。殺したいと思う。けど、それはもう過ぎたことで。関係の無いマスターに対して抱くべきではない。彼らだってみんな同じなんだ。

 生きたい。
 楽したい。
 苦しいのから逃げたい。
 痛いものから体を離したい。
 恐ろしいものから目を背けたい。

 単純で、だけど叶うことの無い願いがあって、それを叶えようとするために道を間違える。どうしても目の前の人間を喰らうほどの悪性がある。けど、最初の願いはそんなものだ。それは悪くない。悪くないのに、悪いことに繋がるからと殺してはいけない。
 憎悪を抱くべき対象はただ一つ。

─そんな人たちを傷つける存在だ。

「俺だってさ、痛いし怒るんすよ」

 ため息をつくように言葉を並べる。
 周りに立つのは王の軍勢の名の通り一人の王に使えた騎士団達だ。数に任せた全力攻撃。あの時、自分がまだ弱かった牛若丸モドキとの戦いの時とおなじだ。
 あの時は弱かった。力はあっても使い方を知らず、サーヴァントになんて勝てないと決めつけ、逃げることすらしようとしなかった。深澤浩二に背中を押されなければ自分は一生あそこにいただろう。嫌だと言いながら、何も行動することは無かっただろう。
 しかし、今倒れている彼女たちは違う。勝てなくても、負けるとわかっていても、《逃げる》という手段をとった。とることが出来た。それは褒めるべき行為だろう。もし非難する場所があるとすれば初撃で《蘇生宝具》が無ければ死んでいた自分だろう。
 彼女達は悪くない。しかし負けて、いまこうして倒れている。その理不尽さが、更なる怒りに拍車をかける。

「だって、それが人間っすよね?」

 余裕を失いながらも自己を保つように「っす」の語尾を忘れず、構えをとる。

「ま、ァスタ...たァ」

 涙と泥で顔を汚した自分のサーヴァントが縋るように目の前に体を引きずりながら現れる。無様な姿だ。顔は泥と涙でぐちゃぐちゃで、両腕は肘の辺りで斬られ、残った場所にも弓矢が刺さっている。足はぐちゃぐちゃになるまでに変形しており、とても純血の狩人という2つ名を持つ高貴な彼女とは結び付くような容姿では無かった。しかし、逆に言えばそうなるまで戦ったということだ。単独行動があるとはいえ、マスターを失った、この環境で。彼女は主が死んだと思いながらもよく戦った。少ない魔力で、消えかかりそうな灯火のような自己を保ち、戦い続けた。立派な英雄だ。

「よく頑張った。アタランテ。後は任せろ」

 そういうとアタランテは安心したようにその場に倒れる。その顔は酷い有様ながらも安心したような顔をしていた。

「葵、紫式部。アタランテを、頼んます。それと、ありがとう。戦ってくれて。その雄姿はちゃんと見たっすよ」

 葵と紫式部が倒れたアタランテに駆け寄る。雄姿を見た、というのは実は嘘だが彼女達の様子からそれは察せられる。そして同時に彼女達ももう戦える状況ではない、という事もわかる。だから守るということは出来ないだろう。させる気もないが。
 これ以上彼女たちに戦闘はさせない。自分一人で、全てを倒す。

「...後は俺たちの仕事。そこで見ていてくれ...っす!」

 そう言い残して砂の大地を強く、強く蹴った。
 相手は一人だ、と叫ぶ大男達は片手に棍棒のような剣、片手に硬そうな盾を持ち、見るからに重そうな甲冑を身にまといながら濁流のように押し寄せる。

 その濁流に姿勢を低くして四つん這いになって突っ込む。自分の中にある英霊の力は《蘇生宝具》の発動と同時に眠ってしまった。今あるのはただの猪の呪いのみ。ただの獣ならこの時点で死が確定しただろう。しかし、かリュドーンの猪はアルテミスがつかわした幻獣。それも神獣に片足入っているとすら言われる幻獣だ。
 いくら征服王の配下のサーヴァントと言えどただの近衛騎士に勝てるような代物ではない。

 肩に当たる重圧。しかしそれはたったの一瞬だ。濁流のように押し寄せた男達の身体を容易く押し潰していく。

「なんだと!?」

 男たちが驚きのあまり足を止めたのを確認して一番近くにいる敵の腹に一撃パンチを入れる。金属の甲冑で塞ぎきれなかった一撃はその体を貫いて、破壊する。
 魔猪の突進に似た衝撃。神秘のない金属の甲冑では運が良くても凹み、運が悪ければ簡単に貫通する。これは盾や防具で防いだとしても衝撃だけは流す打撃だ。上手く脳を揺らせればそれだけで格上にすら勝てる。

「グルウオオオ!!」

 その後あいた隙を埋めるように喉を壊すほどの咆哮(バインド)を行う。耳を塞ぐほどの大音量であると同時に生物の本能的な恐怖に反応させて耳を閉じさせ、身体を硬直させる。隙を埋めるだけでなく、相手の隙を生み出した後耳を塞いだ男達の首を超強化された爪で引き裂く。爪そのものに魔力を込めるのと同時に呪いを纏うことで超強化された爪はリーチを除けば近衛騎士達が持つ剣や槍を簡単に破壊して持ち主を殺すことが可能だ。

 爪で相手の武器を破壊してそのままの勢いに任せて急所をもぎとる。文字通りの力に任せたパワープレイだ。

「囲め!盾を使って押し込むんだ!」

 しかしこちらが幻想種ならあちらは英雄。何人かの勇士を犠牲にすることであっという間に囲まれる。目の前にいるのは持ち手の姿が見えないほどの大きな盾を持った前衛部隊。先程の濁流のような流れではなく、統率された物量で押し寄せてくる。
 数を揃えた上で圧死を狙う。作戦としては簡単だが、ここまで早く完璧に仕上げてくるのはいい指揮官がいる証拠だ。先程の聞こえた声からして言ってきたのはイスカンダルではない。しかし王の軍勢には元々カリスマスキルを持った英雄も含まれているらしいのでその中の誰かだろう。

「まぁ、無駄なんだがな」

 そう切り捨てながら圧死させようと迫り来る盾を蹴って足場にして空中に身を投げ出す。
 途端に投げられた槍を前腕で薙ぎ払った後盾を持った部隊の後方に着地して、何体かちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返しながら後方に後退する。
 元より魔獣に常識は通用しない。骨、神経、筋肉。生物として当然としてあるものがこの身体には存在しない。
 流体のようにうねる腕が複数の兵士の首を一度に切り落とす。

「ぐ、がぁぁぁっ。はあっ、あああっ!」

 もちろん人体を好き勝手弄り回せば痛みは発生する。しかし繋ぎ止められた身体は変幻自在に敵を狙い穿つ。
 投げられた槍が前腕を掠り死体に突き刺さる。
 痛い。しかしその痛みが魔獣たる憎悪と欲を掻き出す。

 そうだ。俺は獣。
 アタランテが宝具『神罰の野猪(アグリオス・メタモローゼ)』で変身するのとは訳が違う。

「こい、こいっ!」

 頭がこねくり回される。
 しかしその中で野生由来ではない理性が残り、体を強く強化し続ける。
 
 大砂漠を自由に駆ける。未だに生きている兵士たちを見つけたら殺すという作業をかしながらも自由に、走り回る。

「グルウオオオ!!」

 それをもう一度感じるように強く吠えた。

◇◇◇

 崩壊世界の戦いというのは基本的に一方的だ、とは誰の言葉だったか。
 要するにアレは戦いではなく略奪だ。加害者(奪う者)被害者(奪われる者)が存在するだけの簡単な暴虐。生物の捕食のようにそれがひっくり返ることは基本的にない。今でも生息域が増えたり、数を増やしている魔物すら幻想種の劣化でしかない。サーヴァントを囲んだとしても余程戦闘を苦手とするサーヴァントでなければ蹴散らされるのみだ。そしてサーヴァント対サーヴァントの戦闘が基本的に起こらないということもあり、戦闘とは持つものが持たないものを蹂躙するのが基本。
 で、あるからして真木が引き起こしている災害のような蹂躙は特別珍しいものでは無い。戦っている相手が、サーヴァントであるということを除けば。

「...」

 たった何回か腕を振り回しただけで倒れていくサーヴァント。一騎一騎が一騎当千の実力、多くの人間を食いつぶしてきたエネミー達の大群を処理できるような力を持つ。しかしそんな彼らがただ一匹の獣に殺されている。
 彼らだって馬鹿では無い。獣を囲み、空中に出たら槍を投げて撹乱。そして何より戦えない状態である自分たちを人質として止めるような手段を取ろうとする。
 しかしその大半がその行動を取る前に倒されていく。

「強い...」

 言葉が、勝手に口から零れる。
 間違いなく最強クラスとすらいえるサーヴァント達がまるで無双ゲームの雑魚兵のように纏まって倒されていく。
 狂気を感じるほど縦横無尽に走り回っては獲物を捕食するように鎧を諸共せずに食らいつき、殺していく。

「あれが...カリュドーンの、猪。怪物と言われた...私の主の正体だ」
 
 小さな声が聞こえて振り向くとそこには倒れたまま、動かなかったはずのアタランテがうつ伏せから仰向けになっていた。

「アタランテ」
「私は、大丈夫だ。マスターとの魔力パスも繋がった。メレアグロス(あの男)の宝具が、上手く作用したらしい」

 見た目はまだボロボロだが、祐介との魔力パスが繋がったという言葉には間違いはないらしく、その声はいつものアタランテと変わらなかった。

「宝具?」

 しかしその言葉の意味はよくわからず首を傾げる。その言葉に答えたのはアタランテではなくまだ余裕が少しだけありそうな紫式部だった。

「メレアグロス様には生まれて7日目に三柱のモイライという女神が現れてこう告げたのです」
「高貴な人物になるであろう。武勇に優れた英雄になるであろう。そして残りの一柱の女神は炉に薪を投げ入れてこの薪が燃え尽きるまでメレアグロスは生きると」

 神が告げた予言。それはある種の因果律にも干渉する。つまり、逆説的にメレアグロスという英雄は薪がある限り死なないのだ。それならあれだけ切り刻まれながらも生存する理由にはなる。

「けどそれはメレアグロスってサーヴァントの逸話で、宝具となったとしても祐介が持ってるのは」

 しかし、それにも問題がある。それはどう考えてもメレアグロスという英雄の逸話であり、それが宝具に昇華されることはよくある事だ。しかし、それはあくまで英雄メレアグロスであり、祐介ではない。
 祐介がカリュドーンの猪の力を持っているというのは聞いた。しかし、それではメレアグロスの入る場所は無いのではないか。

 しかしそこまで言うと紫式部がハッとした表情に変わる。

「クラスカード。正式名称はサーヴァントカードだったか。それを使い、マスターは彼の宝具を発動させたのだ。...用意周到な男だ。私にも告げずに、作動させるとは」

 ハッとした紫式部の表情に頷きながらもつまらなさそうにアタランテは言って切られた腕を見つめる。
 あの斬られた瞬間に祐介が生きていたということはアタランテとの魔力パスは切れるわけが無いのだ。しかしそれが無くなった。つまり、祐介が斬られた瞬間に自分から切断したということになってしまう。
 アタランテもその宝具を持っていることを知らなかったということを踏まえればアタランテにわざと告げずに使い、アタランテの動揺から真木祐介は死んだと誤認させるのが狙いだったということになってしまう。
 そうなのだろう。短い付き合いだが、彼ならそうすると思ってしまう。軽そうな見た目ながらも芯はある。あくどい手を使ってでも非戦闘員を逃がそうとするかんがえは、彼らしいとすら思ってしまう。

「しかし、その場合薪が無くては始まりません。彼は薪をどこかに隠したのでしょうか」

 納得しながらも受け入れられないアタランテに紫式部は薪の存在を言う。
 もしかしたらだが、自分が死ぬと思って飛び出したのは間違いでは無いのかもーという考えをアタランテに言ったのだ。

「その可能性もあるが...いや、敵の陣地に置くほど私のマスターは愚かではない。考えられるとしたら結果的に守ることになる者に押し付ける...ああ、なるほど。葵。汝の背中になにか貼り付けて無いか?」

 しかしアタランテはその考えに首を横に振って少し考えると。とても楽しそうな表情を浮かべて斬られた腕でこちらを指してきた。

「───っ、あり、ます。」

 それに1番反応したのは当然紫式部。若干引き気味の表情をした後に自分の背中に手を当てる。そして、ビリッと音を立てると共に「ありました!」と大きな声で言って薪をアタランテに差し出す。
 なんてことは無い。ただの薪だ。固定に使ったのかテープが薪についているがそれを除けばその辺の野山で拾ってきたと言った方が納得できるほど普通のものだった。

「え?私?」

 いや、それよりその感覚がなかった方に驚くべきだろう。アタランテの言い方を信じるなら祐介が薪を張りつけたのは切られる直前、おそらく、自分と紫式部をはじき飛ばした時だろう。その時に背中に薪を貼り付けて置いたのだろう。しかしそれなら背中に薪が乗っていると思う所か違和感すらかんじなかった。

「マスターは汝が戦えるとは知らない。私が残った時に汝を守ることは当然予想出来ただろうからな。汝に押し付けるのが最適解だったと言えるだろう」
「すみません、全く気づきませんでした」
「何、相手に気づかせないように何らかの術を噛ませておいたのだろう。実際川本も気付いていなかった」

 また楽しそうな表情をしたアタランテが紫式部から薪を受け取って眺めている。何が楽しいのかは分からないが、祐介が頑張った甲斐はあったと思える。
 そう思いながら祐介の戦う姿を見ていると不意に、背筋に悪寒が走った。まるで背筋に長い蛇が走るような。首元にナイフを突きつけられるような。生理的な嫌悪ではなく、恐怖によって形作られた嫌悪。
 振り返っては死ぬかもしれない。動いたら死ぬかもしれない。
 そんな恐怖に駆られるものの、首と腰が動いて真後ろを見る。

「...あぁ、なるほど。そういうことだったのか」

 そこに居たのは一人の男だった。しかしその姿は記憶にあるものとは違う。

「川本...さん」

 藍色の和服は燃え尽きたのか衣類の類を全くしておらず、光の刃を出していたと思われる刀は半分に折れている。
 アタランテの攻撃で刺さった矢は抜けているもののその体は穴が開いたままになっており、左半身は酷いやけどで黒く変色しており、顔の左半分に至って潰れて原形を保っていない。

 しかし彼は立っている。その闘志は全くもって消え失せていない。それどころか、もっと強くなったように見える。
 川本敦という名の殻を破って出てきた無名の男は、残ったひとつの目でこちらを見つめている。

「なるほど。エインヘリアル(死せる戦士)と呼ばれるだけの事はある。私の敗北だ」

 一歩、彼が踏み出す度にロボットが軋むような音がする。
 もう、永くない。それは彼が一番よく知っていることだろう。サーヴァントと戦うことすらできた彼も今ではまともな戦闘すらできない。祐介がこれば一瞬で切り捨てられるだろう。しかしその祐介は大量のサーヴァントと格闘戦を行っている。ここに参加するのは厳しいだろう。
 つまり、自分たちで対処するしかない。

─出来るのか。

「しかし、最後の勝ちまでは譲らない」

 彼は折れた刀を構える。
 アタランテは両腕を負傷し、紫式部は格闘戦が出来ない。しかし自分もほとんど体力が残っていない。彼は魔性では無いので、紫式部と作った礼装も効果を発揮しない。
 純粋な格闘勝負。

─自分が何とかするしかない

 少なくとも祐介が来るまでは時間を稼ぐしかない。
 力のない身体にムチを打って立ち上がる。刀と拳、刀が折られているとしてもリーチはあちらの方が上。彼が永くないということを踏まえれば短期決戦で来るはず。
 構えをとる。一撃、たった一撃かわせばチャンスが生まれる。

「やめてください...って言っても聞かないですよね」

 一応彼にそう言って抵抗を止めるように言うものの彼は口を噤んだまま、刀を構えている。
 覚悟を決めるしかない。
 これは魔獣や葛城財団のようなヤツらとの戦いとは違う。

 純粋な、命を賭けた、殺し合い。

「どんな手を使おうとも、私は、君をっ...!」

 彼が飛び出したのを合図にラストバトルは始まった。 
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