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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第302話】

 鈴音のチャイナドレスに目を奪われていると、視線が気になったのか急にもじもじし始める鈴音。

 チャイナドレスは一枚布のスカートタイプで、背中は開いてお尻が見えるんじゃないかというぐらい露出。

 スカートのスリットは大胆に入っていて、そこから覗き見える健康的な脚がまた妙に鈴音の魅力を引き立たせていた。

 チャイナドレスに視線を移す――生地の色は赤で龍をあしらい、金色のラインと製作者の気合いの入れようが目に浮かぶ――。


「じ、じろじろ見ないでよバカ……。 は、恥ずかしいでしょ……」

「あ、悪い悪い……。 てかチャイナドレス姿でどうしたんだ?」


 そんな疑問を投げ掛けると、鈴音は少し怒ったような口調で――。


「せ、せっかくあたしたちのクラスも喫茶店やってるってのに、あんたたちのクラスも喫茶店やってるから暇なのよ! だ、だから敵情視察も兼ねて来てあげたんだからッ! あんたの執事が見たいからじゃないんだからねッ!? 勘違いさないでよ!?」


 腕を組んでそう言う鈴音、スリットから生足が覗き見え、いつもと違う感じでやはり少しドキドキしてしまう。


「……? そういや、今日は髪型違うな。 ……確かその頭の丸いのって、シニョンだったか?」

「よ、よく知ってるじゃない……。 ふふん、似合ってるでしょ?」


 そう言って軽くシニョンに触れ、八重歯を見せる鈴音に素直に俺は――。


「あぁ、よく似合ってるぞ? ツインテールも悪くないが、そういうのもいいな? 後、下ろした髪も似合ってたぞ?」

「へ……? ……~~~~!! ば、バッカじゃないのッ!? そんなに誉めても、何も出ないんだからねッ!?」


 そう言って明後日の方向を向く鈴音だが、流石にここでこんなやり取りをしてると文句が出そうなので――。


「さて、お嬢様。 席に御案内しますので此方へどうぞ」


 そう言ってお辞儀をすると、目をぱちくりさせつつ、お嬢様と言われたことにびっくりしながら――。


「な、ななな、何でお嬢様なのよッ!?」

「ここではお客様の事を男性ならばご主人様、女性ならばお嬢様とお呼びするのがルールでございます故――堅苦しいかもしれませんが、我慢なさってください、お嬢様」


 そう言いながらお辞儀を再度行うと、鈴音は視線を泳がせ、腕を組みながら――。


「る、ルールなら仕方ないわね。 ……うん、仕方ないわね。 ……へへッ♪」


 同じことを二度呟き、最後に笑顔を見せた鈴音。


「ではお嬢様、席へと案内させていただきます」

「ぅ、ぅん……。 ……燕尾服、似合ってんじゃん……」


 小さくそう呟く鈴音に、俺は振り返ると頭を下げながら――。

「ありがとうございます、お嬢様」

「き、聞こえてたの……!?」

「ええ。 お嬢様のお言葉は全て聞こえます故――」

「い、いいから席に案内しなさいよ!」

「分かりました。 ……では改めまして此方へどうぞ」


 空いたテーブルへと案内し、椅子を引くと座る様に促す。


「う。 ……な、何だかいつものヒルトじゃない……」

「……ははっ、まあ似合わないのは重々承知してるから、我慢してくれよ。 ……こほん。 ではお嬢様、メニューを……」


 そう言ってテーブルに備わったメニュー表を開いて見せる。

 鈴音も、いきなり隣で俺がメニューを開くからか少しビクッと小さく身体を震わせた。

 話は変わるが、内装は高級な調度品で溢れかえっている。

 これ等は全てセシリアが手配していて、テーブルと椅子はセシリアの拘りからか、オーダーメイドしたとか。

 ……流石はお金持ちって所だろうが、ここまでする必要があったかは謎である。

 後、ティーセットも俺が誕生日に貰ったエインズレイ製で、それを知った調理担当の女子は手の震えを止めるのに必死らしい――セシリア自身は、割っても怒らないとは言ってたが。

 ……試練すぎる、調理担当。

 この話はこの辺りにしておいて、鈴音の様子を伺う。

 数々の調度品から放たれる高級感に落ち着かないのか、軽く身を捩って椅子に再度座り直すと俺が開いたメニューを凝視してくる。

 ……今俺が行ってる行為は、クラスの接客班全員が徹底して覚えた内容だ(無論篠ノ之も)。

 ご主人様やお嬢様方にメニューを持たせるのは失礼らしく、こうして見やすくメニューを開き続ける必要がある。


「……ヒルト、何でメニューに二つも『執事にご褒美セット』があんのよ?」


 そう言ってメニュー表を指差す鈴音。

 しかも料金が違うとなれば誰だって疑問に思うはず。


「畏まりました。 少々ご説明させていただきます。 ……此方の料金が少々割高になってる『執事にご褒美セット』は、もう一人の執事、織斑一夏様へご主人様、又はお嬢様が食べさせるのでございます。 そして此方の御安い方はわたくし、有坂ヒルトにお嬢様が食べさせるセット内容となっています」


 ……料金に関しては、一夏の方が高い――というか、この金額でも頼む女性は圧倒的に多く、今なお一夏は食べさせられ、じゃんけんやらダーツをしたりしてる。


「ふ、ふぅん……。 じゃあ、こっちの『執事がご褒美セット』は反対って訳?」

「そうでございます。 そちらのメニューは、わたくしや織斑一夏様がご主人様、又はお嬢様に食べさせるシステムとなっています」

「な、成る程ねぇ……。 ……てかさ、何でメニューにこんな恥ずかしい名前がいっぱいあんの?」

「……それは、メニュー表を作られたメイドの方々が面白半分でつけた名前ですので」


 ……まあ流石に俺もこれを言うのはかなり嫌だ。

『湖畔に響くナイチンゲールの囀ずりセット』と『深き森にて奏でよ愛の調べセット』とかは、一夏が何度も復唱させられてたな。


「……せっかくだから、こっちの『執事にご褒美セット』と『執事がご褒美セット』、頼んであげるわ。 ……どうせ、あんたまだ一夏みたいに呼ばれてないでしょ?」

「えぇ。 ……正直、値段が高くても一夏にご褒美あげたり、ご奉仕されたりするのを選ぶ人の方が多いんだよ、これが」


 そっと耳打ちで告げると、くすぐったそうに身を捩る鈴音。


「じ、じゃああたしが最初のお嬢様になってあげるわ。 ……感謝、しなさいよね?」

「ありがとうございますお嬢様。 ……では、『執事にご褒美セット』がおひとつ、『執事がご褒美セット』がおひとつですね。 ……それでは、暫くお待ちください、お嬢様」

「う、うん。 ……何か調子が狂うわね……」


 深々とお辞儀をし、俺はメニュー表を直すと一旦鈴音の元から離れる。

 キッチンテーブルへと向かうと、既に頼んでいたオーダーが用意されていた。

 ――というのも、胸元のブローチ型マイクからキッチンへと音声で通じるらしい……金の掛け方が違うな。


「おー。 ヒルトー、待たせたー」


 そう言って『執事にご褒美セット』と『執事がご褒美セット』を渡す玲。

 彼女も勿論メイド服である。

 ……調理担当だと少し不安もあったが、マイペースで続けてるようで安心だ。


「サンキュー」

「おー。 またオーダーが入ったから戻るー」


 そう言って戻る玲を他所に、俺はアイスハーブティー×2と冷やしポッキーをトレイに載せる。

 ……因みに、一夏だと千五百円で俺だと三百円という五倍差――それでも一夏の方を選ぶ客だけなので、商売としてはボロい商売だろう。

 まあそれはそうとして、鈴音の待つテーブルへと向かう。


「御待たせ致しました、お嬢様。 此方が執事にご褒美セット。 そして此方は執事がご褒美セットとなっております」

「……両方おんなじ内容なのね。 ……まあいいけど」


 特に不満はないようなので、一礼してから俺は鈴音の正面の椅子に座る。

 二人掛けのテーブルに差し向かう俺と鈴音。

 ぱちくりと瞬きした鈴音は、状況が理解できたのか少し顔を赤らめていた。


「先程ご説明した通り、執事にご褒美セットは、お嬢様がこのわたくしめにポッキーを食べさせるセット内容でございます。 そして、その逆が執事がご褒美セットとなっております。 ……お嬢様、先にどちらからお召し上がりになりますか?」

「な、何か調子狂うわね……。 いつものヒルトじゃないし、そういえば眼鏡掛けてるし……。 じ、じゃあ……先に食べさせてあげるわ」


 そう言って冷えたポッキーを一本手に取り、その先端を俺の口元へ運ぶのだが鈴音は恥ずかしいのか、顔を横に向けながら――。


「ほ、ほら……。 口……開けなさいよ。 ご、ご褒美……あげるから……」

「畏まりました」


 軽く口を開くと、鈴音はポッキーで俺の唇に触れる。

 心地よい冷たさが唇に伝わる――が、食べないと進まないのでそのままポッキーを食べる。

 弾ける音が響き、少しずつ咀嚼――うん、流石にポッキーは美味い。

 ……仕事とはいえ、本来なら食べさせてもらうとかは遠慮したいんだが……。

 ……それに、セシリアやシャル、ラウラ、美冬に未来に鷹月さんと突き刺さるような視線が痛い。

 ……因みに、執事がご褒美セットは一夏の場合だと、篠ノ之が客を睨み付けてビビらせるという強硬に出てるため、基本払い損になっている。

 ……しかも、一夏自身は何で篠ノ之が怒ってるのかも解らずじまいだし、何気に篠ノ之も楯無さんに指摘された一夏への依存が更に悪化してる気がする。

 ……この辺りは流石に楯無さんも諦めたらしく、指摘はもうしてないらしい。

 ――と、鈴音が身を軽く捩り、指を弄びながら。


「つ、次はこっちの執事がご褒美セットよ! ……は、恥ずかしいけど、食べさせてよね……?」

「畏まりました。 ……ではお嬢様、そのお口を開いてくださいませ」

「……ん」


 俺の指示通り、口を軽く開くとポッキーの先端を鈴音の唇に当てる。

 軽く反応すると、瞼は閉じたまま、頬は蒸気させて小さな口で少しずつ食べていく。

 その様子はまるで小動物が餌を必死に食べてる様に見えて可愛いと思った。


「も、もう良いわよ……。 あ、後は一人で食べれるし……」

「畏まりましたお嬢様」


 椅子に座ったまま軽く一礼すると、鈴音は俯きながら残ったポッキーを食べていく。

 ――と。


「あらあら? 鈴ちゃんがヒルト君を独占? 羨ましいわね♪」


 そう言って現れたのはIS学園生徒会長更識楯無――だが、着ていた格好は何とメイド服姿だった……。 
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