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王道を走れば:幻想にて

作者:Duegion
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幕間+アリッサ:妖精の慰み ※エロ注意

 
前書き
 後半部からエロ描写あり
 プレイ一覧:自慰、露出、放尿 

 


 顔の前に手を掲げる。このようながさつな手に女らしさが残っているとは、自分では思えない。掌には剣ダコが潰れたものが幾つも残っており、手をひっくり返せば鍛錬や実戦の際にできた擦傷や切傷の痕が数多くある。指も男性なみに太いかもしれない。こんな手にもいつか既婚の証を嵌める時が訪れよう。だが似合うとは思えなかった。
 がたがたと馬車の席が揺られた。傾斜を登っているため僅かに後ろのめりの恰好となる。アリッサはそろりと手を下ろす。常の凛々しさは潜められており、王国の冠たる近衛騎士とは思えない無気力さが顔に現れており、心中は言わずもがなである。王都の練兵場であってもこの弛んだ心は躾けられないように感じた。
 
「頭を冷やすか、か」

 真向いの座席に座るコンスル=ナイト、ミルカがちらりと見てくる。「何か」。「独り言だ。気にしないで良い」と横についてある窓を下ろす。きらきらとした新緑の木漏れ日が差しこむ道を馬車は進んでいた。
 王都近郊の平野部を南西へと向かって二十五リーグ(約百四十キロ)ほど進むと幅広い清涼な川があり、岩場を避けながら上流へと進むと小高い山が見えてくる。馬車はそこに作られた小さな林道を歩み、だんだんと起伏を乗り越えていく。オレンジの羽根をした蝶や菜の花のまわりを飛ぶ蜜蜂の傍に、まっすぐな轍が走っていった。
 王都にほど近い所にあるのに人の気配とまったく遭遇しないのは、ここが王家によって管轄された静養地であるからだ。見えないところには王家直属の警備兵の詰所があり、そこを拠点にこの秘境のごとき静謐で美しき自然を守り抜いているのだろう。
 アリッサはふと、ミルカが己に駕籠を差し出しているのに気付く。収穫されたばかりの新鮮な果物が入っていた。

「朝から何も食されていない御様子。果物でもおひとつ」
「そう構うな。私は平気だ。空腹などさほど覚えておらん」
「腹が減っているかどうかではありません。あなたが無事に静養される事を王女が御望みだから、私はここにいるのです。別荘に着いたら離れますが、体調管理くらいは自分で出来るようにーーー」
「分かった分かった。いただくよ」

 赤く熟れた苺を取って口に含む。齧るとつぶつぶとした食感の中に柔らかな甘味があるのが分かり、直後アリッサは目を俄かに開いた。「まだ酸っぱいぞ、これ!」。ミルカは聞かずにマンゴーの黄色い皮を剥いて食し始めた。
 遅めの朝食を堪能しながら、馬車は木漏れ日のアーチを潜っていく。実に穏やかな場所だ。木立が揺れるのに混じって、川のせせらぎの音が風に乗って届いてくる。新鮮な空気を身体で切っていくのが楽しいのか、馬もどこかリラックスした表情である。
 二度の緩やかなカーブを曲がると、御者はくいくいと手綱を引き、馬の足を止めた。目的地に着いたのである。

「さぁ、やっと着きました。お荷物は御者が持ちますので座席に残したままでいいです」
「ここがそうか。王族が使うという割には小さいが....まぁ、静養地か」

 一人納得するアリッサの前に小ぶりなロッジが建っていた。絹糸のような落ち着いた白の塗装と地味な茶色の屋根。派手な装いを嫌うような姿は、王国で誰よりも豪奢を極める資格がある一族が住まうものとは思えなかった。
 御者に荷物運びを任せて、二人はロッジの寝室へと上がる。樫製の立派な衣装箪笥やキングサイズの白い天蓋付きのベッドがあるあたり、やはりここは王族の別荘なのだと得心する。穏やかな春風に吹かれながら昼寝するのはさぞ心地いいものとなるだろう。
 だがベッドに無造作に置かれた特大の人形を見てアリッサは顔を引き攣らせた。人形の顔立ちはどこか慧卓に似せられていた。ぷにぷにとその憎たらしき頬を突くと、やけにリアルな感触ーー素材の無駄遣いだーーが返ってくる。

「ミルカ、これは一体?」
「寂しくならないようにと気を利かせました。結婚詐欺でしょっ引いた職人の蔵から見付けたものを持って来たんです。暇を持て余さないように、適度に遊んでやって下さい」
「やけに出来がいいな。目元などそっくりだ」
「その職には写実主義者で、リアルな風合いに拘るそうです。けどあいつはもう少し不細工でしたよ。憎たらしいからって乱暴にしてはいけませんけど、どうしても気に入らないっていうのなら、どうぞ」
「....なんだそれは」
「銀のフォーク。こう、柄の方でそいつの臍をずぶりと」
「抜けなくなったら大変だからいらん」
「では蝋燭などいかがでしょうか」
「ああ、それは便利だ。ご厚情に痛み入るよ....『コレ』には使わないけどな」

 抗議するかのように可愛らしくミルカの右頬が膨らむも、アリッサは取り合わない。むんずとばかりに人形の頭を掴み、「ほんと、妙にムカつく顔だな」とベッドの端っこに投げ捨てた。人形は腕をばたりといわせながら一回転し、虚ろな目玉を無粋な騎士に向けながらベッドから力無く落下する。
 
 こうしてアリッサの静養生活が始まった。必要な時は使用人がきて清掃・料理などを行ってくれるが、それ以外の時は基本的に一人きりだ。昼間は生命の羽ばたきや新緑の美しさを愉しみ、夜はキリギリスの響きを堪能する事が出来る。季節的にも曇天とは縁があまりないためか空にはほとんど雲がかからない。悪天候といってもにわか雨程度くらいである。静養中はずっと気候に恵まれるのではないかと思われた。
 基本的に此処でアリッサがやる事と言えば、『特になにも無い』。腕が鈍らぬよう剣の素振りと軽い稽古をするくらいで、後は書斎にある本を読んだり、ウッドデッキに座って安らかな風に目を閉じたりする程度であった。「折角ここまで来たのだから散策するなり、景色を楽しむなりすればいい」と使用人の一人は言った。だがアリッサのお気に入りは、ロッジに設置されたウッドデッキであった。
 そして彼女はここに来るに至った理由について思いを巡らせる。

「ケイタク、だよな」

 ごろりとデッキを横になりながら、そう呟いた。飄々として、やる時はそれなりに男らしさを露わとさせる異界からの若人。脳裏を過ぎるその笑顔が心に俄かに波を立たせた。
 さらにもう一つの不穏な波が彼女の心中にある。王女との間に生じてしまった深い溝であった。これまでの人生で彼女とこのように対立した事は無い。子供同士が我儘と言いつけとの間で攻防するのとは訳が違った。ここでどのような時間を送ればいいのだろうかとアリッサは考えを巡らそうとするも、その度に轟々とした剣戟の響きや余計な事が脳裏をリフレインしている。その煩わしさたるや雑音の交響楽団ともいうべきであろう。

「駄目だ駄目だ。寝ないといかん!」

 ぎゅっと目を閉じて、アリッサは心中の穏やかならぬ波長を拒まんとする。しかし彼女の想いは虚しく、蟠りのようなものが胸を支配していた。
 静養開始から五日目。何もない日常に転機が訪れる。朝食の柔らかな白パンを食べてリラックスしていた所を、全くの予告なしに来訪者が訪れたのだ。流れるような銀髪と愛くるしい猫の瞳をした女盗賊。春の温かさの御蔭ですっかりと露出度の高い恰好ーー臍・脛を出した黒い服装ーーにイメージチェンジした、パウリナであった。
 アリッサはウッドデッキから起き上がって驚く。よく自分がここにいるのが分かったな、と。「目立つところに建物がありましたすぐに分かりましたよ」と返された。そういう問題だろうか。

「目立つとは何だ、目立つとは。渓谷に挟まれた秘境がお前にとっては目立つような場所なのか、パウリナ」
「まぁ、そうともいいますね。こういう場所って貴族や金持ちの御偉方が好きそうな所だって誰だって勘づきます。だから真新しい馬車の轍を見付けたときは、『あっ、これだ!』ってわかりましたよ。宮廷の警備兵がいたのが更に分かりやすかったですね」
「そういえばお前って、元盗賊だったな。すっかり忘れていた」
「それにしても、いやぁ、良い所ですね!財貨を隠すにはうってつけの隠れ家です。私にとっちゃあぁ、盗んでくれと言ってるようなもんですけどね!
 あっ、ここまで来るのにも結構苦労しましたよ?さっき言いましたけど警備兵がいましたからね。でもね、御主人が教えてくれた登山術の御蔭でスイスイと、こう山羊みたいにね、安全な場所を登ってきてーーー」
「要するに、お前は私有地への不法侵入を犯したわけだ。列記とした犯罪行為だ。今回は見逃してやるが、仮に『此処』で手癖の悪さを働かせてみろ。騎士として相応の態度をもってお前を歓迎してやろう」
「冗談ですって。王族のモノなんて興味無いですし、盗りやしませんよ。懐はもう『温かい』ので」

 ぽんぽんと、脚絆のポケットを叩くと小気味よい金属音が鳴った。本職を忘れぬ殊勝な心は流石というべきか。逮捕されて罰を受けても懲りる事は無いだろう。アリッサは嘆息を零してしまった。
 「そうだ」と、パウリナは思い出したように背負っていた駕籠を床に下ろした。

「静養中って御話でしたよね?だから今日はですね、折角だからアリッサさんに料理を作ってあげようと思いまして。御主人と相談して、ほら!素材もこんなに!」

 駕籠を覗き込むと、出るわ出るわ、王都の高級市場で売られる色とりどりの野菜たち。アリッサは好物である二十日大根が入っていたことに一先ず喜び、見た事もない紫色の丸い野菜に不安を抱く。

「そんなに沢山も要るのか?何だか、凄い色をしたものが入っているが」
「あっ、この紫色のヤツですか?私もなんだかわかりません!面白かったのでつい買っちゃいました!」
「私は毒見係か?」
「ちなみにお金はキーラちゃんの奢りです」
「男爵家の教育方針はどうなっているんだ?おい、まさかお前が料理をするんじゃないだろうな?」
「いいから任せて下さいって。リタさんにレシピを渡されたんで、その通りに作れば大丈夫です!あの人の郷土料理らしいですから、間違って作っても不味くはなりませんって。
 ささ、料理の過程を見られちゃ愉しみが減っちゃいま。出来たら合図をするんで、それまでその辺をブラブラしてて下さい。どうせ引きこもってばかりだったんでしょう?」
「なんなんだお前は?押しかけてきてこの仕打ちは?これでも傷心中なんだぞ!」
「いいからさっさと行く!じゃっ、ちょっとキッチン借りますね」

 暴風に吹き飛ばされるかのようにアリッサはロッジを叩きだされた。我が物顔で女盗賊は戸を閉める。アリッサは半ば呆然としてロッジを見遣り、「しょうがない奴ね」と零しながら大人しく散策を始めていくーーなんだかロッジから視線を感じるようで落ち着けなかったのも一因であるーー。
 少し柔らかな地面を踏みながら青々とした草木の傍を通り、ざわざわと梢が囁くのを横目に、清らかな空気を肺に取り込んでいく。木葉を縫って注ぐ陽光を踏むのは解放的な遊戯だ。そして木の根に咲いた桃色の花弁に視線がいってしまうのはオアシスを求める心の気紛れだ。歩くだけでも心が癒されていくようでもあったが、それだけに自然の癒しは留まらない。散策を始めてから数分で、アリッサは幸運を感じる事となった。
 草むらを分け入って林道に姿を現したのは、白い毛並みをした動物だ。一見リスのようにも思われたが鼻から伸びる白髭や歯が大きい事からネズミに近い動物だという事が分かる。焦げ茶色の瞳をきょろりとさせながら木の実を齧る姿に、きゅんと、アリッサの心はときめいた。

「あっ、可愛い」

 ちょっと高くなった自分の声色に驚きながらも、アリッサはその辺の草を千切り、恐る恐るネズミみたいな動物へと近づかせる。気分はちょっとしたマダムのようでもあった。草をひらひらとさせるのは、『木の実を食べるんだからあいつはきっと雑食だろう』という偏見に基づいた行動であった。

「草は好きか、うん?好きだろう、好きならおいで。大丈夫だ。性根が良いんだか悪いんだかわからん盗賊なんて近くにはいないからな」

 空気の振動に気付いて、それは耳をぴくりとさせながらアリッサを凝視した。瞳孔がすっと窄まったが休養中の騎士はそれに気付いていない。足をすりすりと這わせながら近づいていく。近しい者にも見せた事の無い可憐な一面が現れていた。
 徐々に草がネズミのような動物へと近づいていたが、あと僅かという距離に迫ると、それは脱兎の如く毛を翻して去ってしまう。一瞬口を開きかけたアリッサは、落胆しながら草を地面に捨てた。 

「いいわよね。そっちは自由きままで」

 アリッサは立ち上がり、林道から外れて川辺へと寄ってみる。さらさらと水が癒しの斉唱を唱えていた。樹冠を被った川は淡い緑に染まっており、透き通ったその水に触れてみたいと思ったが川まで少し傾斜があるために躊躇われる。折角だから上流へ行ってみようと、アリッサは足を運んでいく。
 十分は経っただろう。ハイキングのように軽い気持ちで進んでいけば、ロッジの姿は指一本分くらいにまで縮んでいた。清流の流れに逆らって歩いていくと、川の音が一気に膨れ上がってくるのを感じ、その正体を眼前に捉えてアリッサは足を止める。高さ数メートルほどの滝が流れ、小さな滝壺ができていた。水の量はそれほど多くなく、木の葉も滝壺の水面に留まったままだ。
 きっとここで泳いだら気持ちいいだろう。そんな思いが心に走るのを感じて、アリッサはそろそろと周りを探る。人の気配はまったくない。草むらが揺れたとしても、それは小動物か風のせいだろう。

「どうせ誰もいないんだし....」

 そう言い訳しながら、アリッサは衣服を一枚ずつ脱いでいく。上はカーディガンと肌着を、下は膝丈のワンピースをそれぞれ高さのない木の枝に引っ掛ける。純白の下着を取る際は少々抵抗があったが、開き直りが大事だとそれも取ってしまう。
 鍛えられたアスリートの如き天輪のような美体を、アリッサは恥ずかしげに水へと滑らせた。春の清水は冷たく肌がびくりとしかける。しなやかな脚から水へと入れて下半身を落す。騎馬に耐えるために引き締められた臀部と、それを支えるには華奢とも思いかねない柳腰が水に浸った。アリッサは更に身体を沈めようとするも、足の裏がさらさらとした砂利を踏むのを感じた。川底は思ったよりも浅い。結局、彼女は臍までを清水へと浸からせ、その上は惜しげもなく日光の下に晒していた。
 すっと水の中へ身体全体を入れて、再び空気の下へと晒された彼女の身体は輝いていた。。水分を吸って焦げ茶色の髪はブロンドの煌めきを放ってしみの無い背中に張り付き、そこからつつと臀部の分け目へと水滴が落ちる様はえにもいわれぬ美しさがある。前へ背伸びのように腕を突きだすと、自然と美しき形をした乳房が強調された。水の揺らめきの中に見える肢体もまたそうだが、何より綺麗であるのはその表情であった。社会のしがらみと視線から解放されて、頬に無垢な弛緩が現れ、碧眼はきらきらと緑を仰ぎ見ている。戯れるように水を掻いたりそれを掬って頭から被せていく。
 今この瞬間、アリッサは泉の妖精とも呼称したくなるほどの楚々とした端麗さに包まれていた。女性としては長身である事も合わさり、挙動一つとっても至上の絵画となる麗しさに溢れていた。

「よっと」

 水へと潜って水底の浅さを身体をもって感じると、人魚のように水を掻いて滝壺の中央へと浮かび上がる。アリッサはけのびのように身体を伸ばすと、水流に乗るかのように力を抜いた。燦々とした光が真上から注ぐのも、木葉が身体に触れるのも気にならない。水面のゆったりと浮きながら透明な水しぶきが身体に浴びるのが心地よく、アリッサは束の間の癒しの時を愉しむ。
 ふと、アリッサは己の髪を見て気付く。いつのまにやら肩甲骨を過ぎるくらいの長さになっている。

 ーー髪、結構伸びてる。帰る前に切ろうかな。

 煙のように泳ごうとする髪を一束握り、掌で遊び、そして離す。アリッサは無垢な心のままに頭上に被さる大自然の煌めきを見詰めていた。
 数分か、或は十分以上はそのまま滝壺に浮かんでいたであろう。アリッサはちゃぷちゃぷと水を掻いて岸に戻る。草むらに座り込みながら水面にすっと足を伸ばして、すべすべとなった肌を揉んでいく。日々の苦労をいたわるように優しく、丁寧に。偶にはこのように自分を解き放つのも、悪く無いかもしれない。
 ゆっくりとした時間をかけて心身を安らげていると、身体の水気はすっかりと切れているのに気付く。手で肌をさっと払いながらアリッサは再び衣服を着用すると、元来た道を歩いていく。ロッジに近付いてくと、何やら食欲を促進させるような辛みのある香りが漂ってきた。「これは彼女の感謝だな」。軽くなった足取りは林道の斜面を降りていき、『ぱんぱん』と鍋を打ち鳴らす響きに迎えられた。
 


ーーーーーーーー



 静養を始めてから十日目。曇り空。雨の気配は感じられない。時折雲が切れては宝玉のような光と水色の世界の情景をこぼしており、風も暖かなものだ。

「向き合う、べきか」

 ころりと石ころが力無く転がり、水面へと沈んでいく。小さな水飛沫が上がって、川と一緒に下流へと消えていく。淡い新緑のアーチを被りながら止め処なく水は流れる様は、今呟いた言葉とまるで同じ運命を辿っているように思える。誰にも知られず、ただ流されるだけ。虚ろな気分に浸りながら、アリッサはすっかりお気に入りのスポットとなった滝壺を泳いでいた。
 パウリナの手料理の御蔭で気分が前向きとなったのは変わりがない。実際、寝心地の良いウッドデッキを仮住まいとするような事は無くなったのだから。代わりに新たな住処となった場所には、鮮やかな羽根をした蝶くらいしか訪れるものはいない。たまに風が揺れて、枝葉が囁きあい、枝にかかった自分の衣類が踊るだけだった。
 滝壺の住み心地はまさに至高で....麻薬的な解放感があった。燦々とした光や木漏れ日を受けて、空気のように浮かんでいるとつい考えを巡らせるのが億劫となるのだ。人間らしい高度な生活や人からのしがらみを感じない。一人の人間としてただあるがままの姿を晒す事が出来る。アリッサはその麻薬の虜となりかけていた。

 ーーーでも、こうしてばかりではいられない。

 かれこれ数十分は滝壺に浸かっていただろう。アリッサはゆっくりと滝壺から上がりそのまま草むらへと倒れ込んだ。青葉よりも深い碧をした彼女の瞳は静かに、風にゆらりと震えた梢を見詰めていた。
 陶磁のような美白で、それでいて騎士に相応しき引き締まった肌は無防備であった。項から胸部、そして脚にかけて水気が帯びている。時間が経てばすぐにそれも無くなり、手で払うだけで服を着れるようになる。十分かそこいらの時間ではあったが、何かを真面目に考えるには丁度いいだろう。事、異性に対する問題については。
 自分は、慧卓を想って何をしたいのか。今のアリッサの胸中に蟠った疑問だ。それは剣を振る気を麻痺させる程のものであった。

 ーーー皆は気楽に考えているかもしれないが、私は違うんだぞ。私だけは別だ。

 自然とその手が下腹部の辺りに置かれた。命の奔騰を受け止めた場所である。あの雷の日に慧卓と結ばれて、自分の中の何かが変わったのだ。慧卓を特別視するようになり、彼が傍に居るのを大事とするようになり、そして想いを交し合った。彼が行方知れずとなった今でもそれは変わりがない。
 だがそれを持ち続ける事が、王女への裏切りになるのではないだろうか。自分がやっている事は結局、王女への忠誠を誓いつつも彼女が唇を交わした男を寝取るという、およそ忠誠心とはかけ離れた所業だった。ともすれば王家断絶の企みを招きかねないようなものだ。

 ーーー真実を仕舞っておくか?私とケイタクが身体を重ねた事を。でもそれじゃ何もしないのと一緒だし、解決にもならない。悪阻が来ないからきっと大丈夫だとは思うけど、何時までも秘密にしたままじゃ任務に身が入らない。コーデリアから信頼を失ってしまう。
 やっぱり何かしなくちゃいけないんだけど....開き直って全てを伝えるべき?でもそうしたらコーデリアからどんな顔をされるか。もしかしたら、王都で、私は何もかもを失くすんじゃ....。

 崩れてしまった積み木が床に散らばるのではなく、そのまま虚無へと流れてしまう事をアリッサは恐れていた。悪い考えが悪い考えを呼び、考え得る最悪の結末が、まるでさも確実に訪れる未来のような存在となっていた。清流で洗い流したと思っていた心の澱みが再び浮かんでくるようで、自己嫌悪してしまう。
 と、アリッサは頭を振って己の両頬を叩く。意識が切り替わったように、瞳からは憂鬱な光が消えていた。

「これじゃ前と一緒じゃない。そうじゃないでしょ、私。何やっているの」

 両手はそのままに、彼女は大きく息を吸い込んだ。臆病な自分自身が拒もうとしていた言葉がもう喉にまで込み上げている。あと一歩、吹っ切れて言うためには剣を正面から受けるような覚悟が必要だ。鎧も、盾も兜もいらない。真っ直ぐ上段から斬り下ろされる一振りを、白羽取りするのである。
 怪物と対峙をするように、凛々しき女性は勇気を振絞る。己の不安を払うかのように、遂に口からその言葉が放たれた。

「私は、王女に、真実を、伝える!」

 森の静けさを声が突き破る。滝の音を貫くその大きさに驚いたのか、遠くの茂みでかさかさと動物が走り抜けるのが聞こえた。
 胸がスカッとしたような気分に陥る。自分で意識した訳でもないのに、上半身が起こされて、しかも大きく深呼吸をしたい気分だった。それに従って新鮮な空気を一気に取り込んで、邪気を払うようにすぅっと吐き出す。頭に巡っていた悪い考えが全部吹き飛んだような感覚である。

「言ってしまえば簡単よね....どうかしていたな、さっきまでの私は」

 堂々としていればいいのだ。何が来ようとそうして、胸を張るべきである。対外的に問題のある事かもしれないが、そうした方が最後には自分自身が納得のできる終わり方を迎えられるのである。
 騎士アリッサはその立場の重みよりも個人としての意思を優先した。爽快なまでの気持ちは、脳裏を駆ける肉体的なイメージを物ともしない。それどころか想い人の帰還を待ち遠しく思えてくるようになった。

「何時帰って来るんだ、ケイタク」

 王都に帰って来るまでに何年かかるのだろうか。その間に自分はどんどんと老いてしまうだろう。身体は張りと瑞々しさを失い、彼が熱く抱いたこの身体は様変わりする。ともすればあの時感じた情事の昂ぶりも変わるのではなかろうか。
 慧卓の身体が思い出される。ほんの僅かな時間で錬成されたとは思えない、未熟さと逞しさが混じった肉体や、男らしさのある硬い手。隆起した男性の象徴が己を貫いて、揺さぶり、最高の快楽を引きずり出す。つがいの雌にされるような恍惚感。桃色じみたイメージを想起すると、それが治まるまで付き纏うものだ。

「はぁ....はぁ....」

 そっと伸ばされた左手が艶やかに、肢体の中心、穢れの無い陰部へと届く。一息を挟んだ後にその手はゆっくりと膨らみを押して、徐々に温かな溝をなぞっていく。指で一掻き、二掻き。クレパスを刺激する。ごくわずかな面積を擦っているだけに過ぎぬ動作であるが、アリッサは淫猥な感情でいっぱいとなる。
 何度もそこに指を伝わせていくと、汗ともつかぬ湿り気が薄らと指先に付着した。独特のぬめり気がある。ひょんな拍子に指先が女陰へと突っ込まれた。肉が『じゅっ』と湿り気を帯びて指先を包み、アリッサの足がぴんと撥ねて水面を滑った。俄かな恍惚とした光が高貴な碧眼に浮かぶ。

「吃驚した....」

 躰が興奮を覚えている。こんなに正直に反応してしまうとは予想だにしていなかった。アリッサの頬に興奮の赤みが差す。これからもっと凄い事をするのだと思うと、自然と口から息が漏れてしまう。
 身体が熱くなってきた。裸体は色気づき、陶磁の肌に猥雑な桜色が走っていた。アリッサは一度尻を浮かせて態勢を整えると、中指と人差し指を何度も舐めて水気を帯びさせ、おずおずとしながらも、再び膣へと入れさせた。

「ぅぁっ。熱い....全部、ケイタクのせいだっ。あいつが勝手に居なくなるから」

 ここにいない誰かを責めながら、彼女は陰部を責めんとする。春の陽射しよりも温かな感触だ。第一関節までが入りこんで優しく膣壁を引っ掻くも、それなりの刺激しか返ってこない。勿論これとて興奮を促進させる作用を齎すも、アリッサが求めているのは慧卓との情事を想い起させるような情熱的なものであった。愛撫一つ一つに愛情を込め、心を高め合うものである。
 二本の指が第二関節まで入り、そして付け根の近くまで入った。本人は気付いていないが彼女の指は騎士のものとは思えぬ程しなやかで、器用であった。指をくいと曲げると膣肉を引っ掻き、その瞬間、「あっ!」とアリッサは悦びの声を漏らした。指先が秘所の奥に潜んである最高の性感帯を捉えたのだ。弾くような動きで指を返すと爪の表面がその部分を撫でて、またもアリッサは足先を震わせた。

「馬鹿っ。こんなになるまでぇっ、あああっ、あっ!わ、私を放っておく、なんてぇっ....」

 上擦りかけた声は彼女のはやる気持ちを表すかのようだ。指が熱っぽい膣壁をぬめりと撫でる。何度も、執拗に。初めての恋に浮かされた少女のごとく、アリッサは己の性器から込み上げてくる快感の波に身を委ねようとする。
 女陰だけでは物足りない。空いた右手が形の良い乳房ーー頬よりも少し淡い桜色が走っていたーーをゆっくりと掴み、揉んでいく。羽根布団よりも柔らかで温かく、それでいて汗の湿りのせいで生々しい。乳房の真ん中にあるまるで生まれたばかりの赤子のような綺麗な突起は、色付いた陶磁の膨らみの印象を変える。それがそこにあり且つ卑猥に硬くなっている事で、女体は雄の劣情を覚えさせる色香を放つ。
 アリッサは息を切らしながら己の恥部を責め立てていく。顔を背けて青々とした草に隠れようとしながらも、自然の中で本能の求めを慰める事に倒錯的な感情が湧き起ってくる。秘所から愛液が溢れ、指の悪戯をさらに潤滑にさせた。

「あっは....あん。嗚呼っ、あっ、ああ....」

 嬌声が喉元の堰を通り抜ける。何かに耐えるように右脚が砂利を転がして水面を驚かせ、左脚は折り畳まれながらも横に大きく開かれ、純白のショーツは草の臭いを思いきり吸い込んでいるようだった。文字通り股開きとなった場所では艶やかに手が蠢いて、濡れそぼった女陰の奥を掻きまわしている。

「ああっ、やだっ。なんでこんなにっ....ぅああっ!」

 誰にともなくそう言い訳を零しながらアリッサは頭を持ち上げた。二つの柔和な起伏ーー右手が絶妙なタッチで乳房を揉んでは突起をつねっているーーに挟まれるように左手の緩急ある動きが見れる。ただ一か所をひたすらに弄り回すだけで、これ程までに身体が興奮を覚えてしまう。
 肉体を交わらせる昂ぶりで硬くなった男根に抉られたい。あの鋭く奥深い快感と、鈴口から解き放たれ膣内を駆け上る熱い生命の源が欲しい。だがそれらが現実に手に入らぬ以上は、この自慰をもってあの日の快楽を再現しなければならない。冷徹な思考や現実的な理性も脇に置いて、『あの男』とまぐわう事を夢想する。一切合財の衣類を取りさって淫乱な裸婦のごとく乱れ、子宮まで届くような男根に襲われる事を夢想する。アリッサの快感はまさに階段を上っていくがごとく高まり、碧眼には悦びのために涙が浮かんできた。
 家屋の外で自慰に耽る事がまた彼女の心を追い詰めていく。何時、誰かに覗かれるか分かったものじゃない。警備の者が音に気付いて見に来るかもしれない。或はパウリナのように傑出した盗賊がここまで忍び込んで、覗き見して、更には劣情のままに冒涜を働かんとするやもしれない。嵐の中に消えてしまった異界からの騎士が『セラム』へ召喚された時のように、蒼い光と共に眼前に姿を現すやもーー。

「ああっ!ああんっ....ケイタクっ!見て、見てっ!」

 水流では消せぬような声が出てしまう。指の蠢きが一気に生々しさを増し、びちゃびちゃと聴覚が刺激される。格段の悦楽を催す部分を集中的に弄る。あたかも男が突き入れた状態で陰部を動かすかのように。不意に指の腹がクリトリスを強く押した。アリッサは思わず膣壁に爪を立ててそれまでの嬌声と比べワントーン高く喘ぐ。よくみると太腿の筋肉がびくびくとして、水に浸していた右脚がぴんと伸ばされた。
 小さな絶頂を迎えたのである。頭が参ってしまいそうだ。求めていた快楽の一端を迎えられたような感じに、心が満たされるのを感じる。しかしその程度ではアリッサの欲情を抑えるには到底足りなかった。一物の如きその感触を疑似的に得るには、もっと膣を虐めてやらねばならない。
 ふと、アリッサの脳裏に邪な考えが過ぎった。自慰をする際にーーこう言っては何だがーー心を恍惚とさせる『肴』にしていたのはエルフ領での行為である。それは勿論素晴らしき体験であるのだが、『経験した事の無い行為を夢想して自分を慰めれば、一体どうなるのだろうか』。得られる快感の多寡は大して変わらないのだろうが、彼女の性的な好奇心はそれの追及を望んでいた。
 喉に溜まった唾がごくりと鳴らされる。妄想は甚だしく捗っていく。今まで行ってきた体位は全て、座位という点で共通される。ではやっていない体位は何かと聞かれれば、答えはすぐに導かれた。

「こ、こんな所で、立ってやるの?」

 ここは滝壺の傍にある草むら。背の高い木立が周囲に巡らされているが、明るい時間だ、仮に遠くから様子を窺っても不自然な恰好をした女体はすぐに見えてしまうだろう。
 理性の言葉は上辺では反駁をしていたが、内実、それを明らかに求めていた。笑みとも怯えともつかぬように口を半開きとさせながら、アリッサは肌蹴かけた肌着をそのままに立ち上がる。そして彼女は、脚についた汚れを払おうともせず寧ろ汚れを見せびらかすように、半歩足を開く。左脚にかかっていたショーツは彼女の気付かぬうちに外れて、水流のままに流されていた。
 一切の言い訳のつかぬ痴態が川面に映された。興奮しきり、肌は艶然とした赤みを帯び、女陰からは愛液によるものであろう光がつつと流れており、その上指が突き刺さったままだ。「病的」とも罵倒できるほどの淫猥な情念に頭を狂わせた、阿呆の姿である。

「あっ....わ、私、こんな馬鹿な事に....」

 輪郭のない虚像が自分を見つめ返す。ゆらゆらと揺れている水面では何やら手らしきものがもぞもぞと蠢いている。えもいわれぬ刺激を受けて、アリッサの脚が早くもびくびくとし始めた。虚像が大胆に恥部を晒すにつれて身体に走る電撃もさらに強くなる。アリッサは熱に浮かされたように虚像を見詰める。
 彼女の両手が女性器を何の遠慮もなしに弄んでいた。左手は海藻のごとくひくついている膣壁へ抜き差しを繰り返し、右手はさくらんぼのようなクリトリスを摘み抓り肌に押し付けている。ぽたぽたと愛液が膣から落ちて、それ以上に手淫のせいで水が弾ける音が断続的に響いていた。滝から放たれる飛沫が身体に掛かり、欲情の熱ですぐに蒸発しているような感覚を覚える。
 新しき自慰は効果覿面であった。アリッサは、想い人に手淫されるかの如き悦びを完全に覚えていた。大自然に生まれたままの姿を晒して淫靡な感情に従う事が、こうも素晴らしきものだとは想像だにしていなかった。もし、慧卓が己とここで、或はどこか別の野外で姦しき行為をしたらどうなるのだろう。

「ああぁぁっ!!」

 背筋がぞぞぞと痙攣のように震えた。一度遠ざかった絶頂への梯子が急速に引き戻されていくのを直感する。野外で浅ましき行為をする事に、アリッサは悦びを覚え、騎士の名誉を何とも思わぬ低俗な行いに完全に『目覚めて』いた。  
 これまで以上の快感の波が迫ってきた。がくがくと身体中の筋肉がその到来に備えて引き締まっていく。虚像から目を離して緑のアーチを仰ぐ。心に残ったほんの一抹の理性が安定剤を欲していた。その純朴な思いを灰燼に帰すかのように、両手が女陰を激しく責める。

「いっくっ!いくいくいくっ!!嗚呼、ああっ、ケイタクっ!私をぉ....!」

 もう狂ってしまいそうであった。梯子の足が理性を蟻かなにかのように潰した。本能がそれに手をかけて、凄まじい速さで昇っていく。景色が明滅して身体が震えだし、喉元から心からの声が毀れ出した。
 
「イ....くぅっっ....!!」

 二本の指がクリトリスを潰しながら、強く膣内へ突き刺さったのが決め手となった。アリッサは瞠目し、声にならぬ悲鳴を口から溢れさせる。骨が無くなったかのように身体が震え、腰砕けとなりながらも立位を維持し続けた。この快楽の後にくる余韻の存在を無意識に求めているかのようだ。
 待ち望んでいた高々とした絶頂を迎えた。彼女の息は大きく乱れ、喉は渇きを覚えている。胸を上下させながら雲を仰ぎ見る。発奮のせいで涙が林檎のような頬を伝っており、視界はややぼやけていた。
 ねちょりと、指が卑猥な音を言わせながら女陰より抜かれた。まるで雨にでも遭ったかのように両手はびしょびしょだ。脚部には数えるのも億劫なくらいの雫が伝い、草を濡らしている。秘所に至っては、言及するのも愚かしくなる程だ。
 雨後の快晴のような余韻に浸ろうとした瞬間、絶頂を覚えた筈の膣がむずむずとし始める。下腹部の奥から、何かが下りてきた。

「....え、うそ」

 その感覚をアリッサは日常的に経験している。ゆえに狼狽する。放埓な事をして、それに匹敵するほどの放埓な事をしてしまうというのか。
 ぞくぞくとそれが下りてくる。我慢したくなったのか、物乞いのごとく両手が顎の近くに構えられた。しかしそれを実行するには筋肉も理性も緩み切っている。やがてそれは愛液だらけの膣部を通り過ぎて、まさにその先から放たれんしていた。

「なんで、うそ、ま、待ってっ、待っーーー」 

 虹のごとく放物線を描いて放たれる。無情であった。じょろじょろと川面が音を立てた。アリッサは意味の分からぬ身体の反応に途惑い、そしてそれ以上に昂揚感を感じる。非常識な事をしているというのに、性器は快楽を感じてしまい、小さくもまた絶頂を迎えたのである。
 性器から小便が放たれていた。愛液交じりの透明なアーチ。傍でざぁざぁと音を立てる滝のように飛沫が散り、清流に穢れを与えている。衛生的な危機を犯すような行為をして、アリッサは不埒にも悦びを感じていた。嘗ての自分とは到底かけ離れた、なんとも恥ずかしき様であろうか。言葉も文字も扱えぬ野生の動物になったかのような、主神に魂を洗われたような思いがアリッサを抱擁する。
 透明な放物線が、ちろちろと尾を引きながら治まっていった。最後は草むらを少し叩きながら消えていく。肉体は快楽の余韻に震えながらも、頭は狼狽しきっていた。思わず感じてしまった事に理解が及ばず、そして納得もできない。

「....うっ、ううっ....なんなのよ、これぇ」

 事が過ぎれば冷静さを取り戻す。羞恥心と放埓さのあまり、碧眼の涙腺が緩んでしまっていた。へたりと座り込んで自己嫌悪ーー先程のとは違って一過性ーーに打ち震え、アリッサは大きくくしゃみをする。身体は冷え切っていたというのに衣類を着ようとも考えなかった。自分は一体何をしていたというのだ。
 力無く立ち上がり、嗚咽を零しながらアリッサは衣類をそそくさとまとめて着込んでいく。浅ましき行為に走った自分自身を咎めながら、彼女はロッジへの道を戻っていく。途中、彼女が口にしたくしゃみの数は優に五回を超えていた。
 そして後日、王都に帰還して早々....。

「王女殿下。私は、へっくしょん!わ、私はいぃっくし!私はっ、ケイタクとっ....」
「....風邪を治してから聞いてもいいですか」
「あ、ずみまぜん」

 彼女は見事に風邪をこじらせ、王女から呆れ交じりの温かな視線を受けていた。


 
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