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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第222話】

――1025室内――


 セシリアとおにぎりを食べてから一時間程の午後八時半。

 既に夜は更け、外は湿気でむしむしとしてるなか、室内は快適なエアコンの風で心地よかった。

 節電とは謳っていても、暑さを我慢して体調崩す方が馬鹿らしいので俺は遠慮なくエアコンをつける。

 設定温度はいつも通りの28度設定だが――。

 コンコンッ――軽くノックする音が響いた。

 八時半ならまだ誰か来る時間だから珍しくはないが――誰だろうか?

 ドアの方へと向かい、ノブを回して開けるとそこに居たのは――。


「あ。 良かった、起きてたんだね、ヒルト」

「おっす。 まだ起きてるよ、シャル」


 目の前に居たのはシャルだった。

 今日は珍しく髪を下ろし、ロングストレートでミニスカの制服という出で立ちだ。


「まあここでは何だし、中に入るか?」

「そうだね。 じゃあ、お邪魔します」


 そう言ってから中に入るシャル。

 横を通った時にふわりと良い香りがしたから、多分風呂上がりなのだろうと良からぬ考えを抱いてしまった。

 ……今でも瞼の裏に焼き付くシャルの全裸姿は――。


「ヒルト?」

「うっ? ど、どうかしたか?」


 いきなり声をかけられ、狼狽する俺を見たシャルがクスクスと笑いながら。


「どうしたの? 急に慌てちゃって♪ ……僕と二人きりだから緊張しちゃった? ……なんてね♪」


 楽しそうに言うと、そのまま室内に入ってベッドに腰掛けた。

 スカートが短いため、シャルの綺麗な脚と共に奥の三角地帯が見えそうで見えないのが……残念。


「……そういえば、さっきラウラと一緒にお風呂に入ったんだけど、何だか今日のラウラは機嫌が良かったんだ。 お風呂に入りながら鼻唄を歌ったりしてたから。 ……セシリアも何だか機嫌が良かった気がするけど……」


 シャルが自分の脚をパタパタと上下に動かす度に、対面した俺は色々落ち着かない気持ちになった。

 ……セシリアとラウラの二人が機嫌が良かった理由って――明らかに俺だよな、理由の原因。


「……ヒルト、どうかしたの?」

「ん? ……いや、何でもないよ」

「……嘘。 何か理由知ってるでしょ?」


 ……シャルって案外勘が鋭いよな。


「……よくわかったな、シャル」

「わ、わかるもんっ。 い、いつもヒルトの顔見てるから――あっ!?」


 言ってから口を塞ぐシャルだが、時既に遅く、もう俺の耳に届いていた。

 そして、真っ赤になったシャルは恥ずかしそうに俯く。


「ははっ、もしかして俺の顔に何か付いてたか?」

「……ううん。 その、ね? ……何だかヒルトの事、自然と目で追っちゃうから……。 い、言わせないでよヒルト……。 僕、恥ずかしいよぉ……」


 両手で顔を覆う様に隠すシャル。

 耳が真っ赤に染まっている為、顔も同じように染まっているのがわかる。


「ははっ、悪かったなシャル。 ……まあ、さっきの言ってたのは多分俺が原因だろうな。 ……理由は言わないが」

「……ふぅん? ……じゃあ、僕も理由は聞かないよ。 ……聞いちゃうと、ヤキモチ妬くもん」


 そう言ってシャルはジト目で見つめてくるが、スッと立ち上がると俺の隣に腰掛けて、俺の肩に頭を預ける様に乗せた。


「……そういえば、僕……まだちゃんとヒルトに告白してないよね? ……何だか、キスばかり先行しちゃってた気がする……」

「う? ……ま、まぁ確かにちゃんと告白されてないが――」

「ん……。 ならちゃんと告白する。 ……ヒルトと出会って、まだ二ヶ月と少ししかたってないけど……。 ……実を言うとね? 僕、最初は一夏の事が気になってたの。 ほら、やっぱりブリュンヒルデの弟で二番目とはいえ、男のIS操縦者だし……。 【あの人】にも、織斑一夏に優先して接触しろって命令されてたから……。 まあ、命令とは別に僕も彼には興味があったから」


 肩に頭を乗せながら言うその言葉は、何だか申し訳ない様な雰囲気を感じた。


「……でも、直ぐに僕の考えは払拭されちゃったかな? ……その、ヒルトと一緒の部屋になった時に言ってたでしょ? 朝は早朝トレーニングしてるって。 ……最初はまさかと思ったけど、その次の日にはちゃんと起きてトレーニングに出掛けてたから……。 それに、率先して夕方のトレーニングに向かうその姿に、少し好感を持ったんだよ」

「……あの頃は空は飛べないし、身体能力も平均男子高校生ぐらいしかなかったからな。 ……四月に始めた頃は、吐きながら無理矢理身体を苛めてたよ。 ……身体を鍛えるのに意味はないって、セシリアには言われた事があるが最初のクラス代表決定戦で体力の無さを痛感したからな」


 実際、あの頃と今を比べると持久力は遥かに上がったと思う。


「……話、少しそれちゃったけど。 ――それから僕の中で、ヒルトに対する見方が変わってきて――女の子だってバレた時も、僕の力になってくれるって言った時も、凄く嬉しくて……気付いたら、僕は君の事が――好きになってたんだよ?」


 そう言って、シャルは立ち上がると正面から抱きついてきた。

 突然の行為に、びっくりしつつも俺はさらさらの金髪を撫でて――。


「……そっか……。 俺にとっては普通の事をしてたんだけど……シャルにとっては特別な事だったんだな」

「……うん。 ……今は気持ちを伝えられただけで充分だよ。 ……なんて、もうヒルトと二回もキスしてて今さらだけどね。 あはは」


 そって肩に手を置いたまま、俺に対面になるように膝に座るシャル。


「……僕、上手く伝えられたかな? こういう時……僕って少し口下手になっちゃうから」

「……伝わったから安心しなよ。 ……ただ、これから気持ちに応えられるかわからないけど……な」


 実際、俺もまさかこんなに想いを寄せてくる女の子がいっぱい居るとは夢にも思わなかったからだ。

 ……去年までの俺が見たら、びっくりし過ぎて失神するレベルだろう。

 ――と。


「……うん。 ――でもね、僕は誰にも君の事……譲らないから。 セシリアにも、ラウラにも……未来にも――ね。 ……これから、ヒルトの事を好きになる子にも、想いでは負けないから」


 力強い言葉に真剣な眼差し、それとは裏腹に少し涙目になっているのは不安な気持ちの表れだろう……。


「……あぁ。 ……ありがとうな、こんな俺を好きになってくれて」


 今の俺には、こんな言葉しか彼女に言えない。

 人の想いは儚いものだし、いつまでも同じ気持ちのままじゃない。

 ……それでも、ちゃんと前を向いて気持ちと向き合わないといけないだろう――偉そうな事が言える立場ではないが。

 ――と、シャルは俺の言葉に首を横に振り――。


「ううん。 僕の方こそ……君と出逢えた事が、僕にとって一番だから。 ……君に出逢ってなかったら、多分僕は一夏の事を盲信的に好きになってたかも。 ……一夏が世界で一番カッコいい……何の疑いもなく、そう思っていたかも。 ……ふふっ、まあでも? 今の僕はヒルトに対して盲信的に好きなのかもしれないけどね? てへっ」


 舌をペロッと出し、悪戯っぽく微笑むシャル。


「……まあ世界の半分は男だからな。 ……俺も、もろに女尊男卑な昨今の影響受けて色々情けない所見せてるが……」

「……最初からカッコいい男の子何ていないよ? だから……情けない所、見たぐらいじゃ僕の気持ちは変わらないよ。 好きになるって、良いところも悪いところも好きにならないと……ね?」


 目を細め、柔らかな笑みを浮かべたシャルに母性を感じた。

 母さんとはまた違った感じの母性……。

 不意に顔が赤くなるのを感じると、俺は少し視線を逸らした。


「……そ、そういや……俺に何か用事があったんじゃないか?」

「……あ、そうだった。 んとね? 今度新しく装備が搬入されるんだけど……良かったらそのテストに付き合ってくれるかな? ほ、ほら、他の国の装備を見るのもヒルトにとって勉強になるでしょ?」

「……そうだな。 いつかは武器を使わないスポーツ特化のIS、出来ればいいんだがな」

「そうだね。 戦うためにISが生まれた訳じゃない――って、言いたいけど……今じゃ、篠ノ之博士の宇宙開発用っていうのも怪しいからね……。 現にどの国も、宇宙ステーションやら衛星の開発はしてても、ISを宇宙で使う計画は完全に頓挫して、防衛力に回す始末だもん。 ……アラスカ条約って、何なんだろうね? あはは。 ……でも、代表候補生って立場だから本音と建前は使い分けないといけないんだよね。 ……だから、今言ったことは内緒だよ?」


 唇の前に人差し指をたて、ウインクするシャル。

 その仕草に顔が再度赤くなると、クスクスと微笑んで膝の上からシャルは立ち上がった。


「……じゃあそろそろ僕は戻ろうかな? あまり長いこと戻らないと、ラウラに色々聞かれちゃうから」

「そっか……。 武器のテスト、するときは付き合うから呼んでくれよな?」


 ポケットから携帯を取り出し、ちらちらと見せるとシャルも笑顔で――。


「勿論だよ♪ じゃあヒルト、おやすみなさい。 ……いい夢、見てね」


 玄関まで見送ると、シャルは手を振って部屋を後にした。

 ……誰かが帰った後のこの静寂、実は好きじゃない。

 ……急な寂しさに襲われるからだ。

 そんな寂しさを払拭するように頭を振ると、俺は少し喉の渇きを感じたので自販機へと向かった――。 
 

 
後書き
うーん

陳腐な話かもしれませんが、読んでくれてありがとうございました

次の話でオリジナル終わりっす 
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