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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第232話】

――自宅玄関先――


 玄関のドアを開け、中に入るとパタパタと足音を響かせながらリビングから出てくる母さん。


「うふふ、いらっしゃいシャルちゃん♪ ヒルト、案外早かったわねぇ? お母さん、一時間ぐらいは戻らないかと思ったわよぉ」

「ん? まああまり走り回ってても暑いしな。 それにシャルだって喉が渇くだろ?」

「ふぇ? ……う、うん」


 そうシャルに訊くと、もじもじしながら頷き、母さんも柔らかな笑みを浮かべて――。


「うふふ、さあどうぞシャルちゃん? あまり広い家じゃないけど、自分の家だと思って寛いでねぇ~」

「は、はいっ。 お邪魔します……」


 玄関先で靴を脱ぐと、それを揃えるシャル、そして母さんが用意したふわふわの猫のスリッパを履いた。

 その様子に俺も感心しつつ、靴を脱いで揃えると母さんに続いてリビングに入っていき――。


「よぉ! シャルちゃん久しぶりだな!」

「あ、お父さんっ。 ……お、お邪魔します……」

「わははははっ。 そんなに緊張せずに、自分の家だと思って寛げよ!」

「うふふ、あなた? それ、さっき私も言いましたよ~?」


 さっき母さんが言ったことを口にする親父に、シャルも母さんも笑みを溢した。


「わははははっ、まあ何にしても寛げよシャルちゃん? ほら、ソファーなり椅子なり、何処でも座っていいから」

「は、はい。 ……ん……しょ」


 そう言って自分の近くの二人掛けソファーに腰を下ろしたシャル。

 その間に俺と母さんはキッチンへと向かうと……。


「うふふ、何だかシャルちゃんが来たって事は他の子も来そうな気がしない、ヒルト?」

「ん? ……どうかな? とりあえず麦茶、持っていくよ」

「えぇ。 もう用意してあるからねぇ~」


 そう言って指差す先に、二人分の麦茶を入れたコップが用意されていた。

 トレイを探すも、何処にあるのか解らずそのまま手持ちでシャルの元へと運んでいく。

 ……と、何故かシャルは自身の頬を両手で押さえながら緩む表情を直していた。


「シャル? ……麦茶だぞ」

「……!?」


 びっくりした表情を浮かべるシャルに、疑問符を浮かべる俺だが――。


「ほら、家の麦茶、美味いから飲んでみてよ」

「う、うんっ、 ありがとうっ」

「いえいえ。 隣、いいか?」

「ふぇっ? ……う、うん」


 シャルの了解を得ると、ソファーに腰を下ろす。

 このソファーは、普段は俺と美冬が一緒に座ったりするソファーだ。

 親父も母さんも座るが、どちらかというと多人数用ソファーの方が好きらしく、主にそっちに座ったりしている。


「ヒルト、俺の分の麦茶は?」

「……親父、自分の分ぐらい入れろよ」

「わっはっはっ! それもそうだな!」


 そんな笑い声をあげながら立ち上がると、親父はキッチンへと向かっていった――。

 ふと隣のシャルを見ると、暑いのかはたまた俺が隣に居るせいなのか、頬が赤く染まったまま麦茶を飲んでいた。


「……リビングだと落ち着かないか?」

「ふぇっ!? そ、そんなことないよっ!? あはは……」

「そうか? ……落ち着かないなら美冬、起こそうかと思ったが?」

「あ……み、美冬、寝てるんだね? ならゆっくり寝かせた方がいいよ?」


 そう美冬を気遣うシャルに感心していると突如玄関の呼び鈴が鳴り響いた。


「あら? 誰かしらぁ? ……うふふ、ヒルト、代わりに出てくれる?」

「ん? 了解。 ……じゃあシャル、ちょっと待っててくれよ?」

「う、うん」


 小さく頷き、返事をするシャルをリビングに残して俺は玄関へと向かった。

 宅急便はまずあり得ないから……町内会のお知らせ辺りかな?

 そう思いながらドアノブに手をかけ、ドアを開くと――。


「はいはーい、お待たせしまし――セシリア?」


 開けた玄関先に居たのはセシリアだ。

 手には何やら紙袋を下げている所を見ると、何処かからの帰りだろうか?

 もう片方の空いた手には携帯が握られているが――。


「ど、どうも。 ご機嫌いかがかしら、ヒルトさん」

「ん? 機嫌ならすこぶる良いぞ? 夏の暑さにはぐったりしそうだが――って、まさかそんなこと言いたい為に来たんじゃないよな?」

「も、もちろんそんな訳ありませんわっ! ……その、ちょうど近くを通りかかったので、少し様子を見に来ましたの」


 そう普段通りの、皆が居る前で見せる口調と態度を見せるセシリア。

 香水をつけてるのか、軟らかな香りが鼻腔を擽る。

 しかし、様子を見に来るって距離なのだろうか?

 少し、セシリアに意地悪してみるかな。


「そっか、なら様子を見れたからもう用事はないな?」

「え!? あ、あの……その……」


 明らかに動揺を見せるセシリア。

 まさか俺がそう言うとは思っていなかったのだろう、若干涙目になっていた。

 そんなセシリアを見ると、相変わらず可愛いなと思い――。


「……ははっ、嘘だよセシリアっ。 ついつい意地悪したくなっちゃうんだよな」

「……うぅ、ヒルトさん意地悪過ぎますわ! もぅっ! ドS過ぎます!」


 涙目のまま訴えるセシリア、流石に悪いと思いつつも俺は――。


「なんだ? ……こんな俺、嫌いか……?」

「……~~~~っ」


 耳元でソッと呟く様に告げると、一気に顔が真っ赤に染まり、否定するように首を横に振った。


「ふふっ、なら良かった。 ……じゃあ上がっていくか?」

「は、はぃ……。 あ、あの、これ……。 最近美味しいと話題のデザート専門店のケーキですわ。 よ、良かったら……」


 そう言って差し出された紙袋。

 中にはケーキが入っている箱が二つ並んであった。


「……ふふっ、最初から来る気満々だったんじゃん? 素直に言えば意地悪しないのに……」

「うぅ……。 そ、それはそうなのですが……」


 うぅっ……という唸り声と共に見上げるように見つめてくるセシリア。


「……まあいつまでも玄関先に居たら暑いし、中に入ろうか?」

「え、えぇ……。 では、お邪魔します」


 言って、中へ迎え入れるとセシリアはそのまま上がろうとした。


「せ、セシリアストップ!」

「は、はい? ……ど、どうしましたか、ヒルトさん?」

「悪い、日本とイギリスだと文化が違うだろ? 日本はリビングとかに靴で上がる習慣は無いからさ、ここで靴を脱いでスリッパに履き替えてくれないか?」

「そ、そういえばそうでしたわね。 ……なかなか慣れませんわ、日本の文化……」


 困った様に呟くセシリアは、その場で靴を脱ぎ、他の靴同様きっちりと揃えると俺が用意した犬のスリッパに履き替えた。


「さあ、リビングへどうぞ」

「えぇ」


 そう短く返事をすると、俺に促され、リビングに入るセシリア――。


「あらあら? セシリアちゃん、日本の文化はなかなか慣れないでしょうけど我慢してねぇ~。 そして、いらっしゃい♪」

「お、お母様、お久しぶりです。 ……お、お父様も」


 スカートの裾を摘まみ、挨拶をするセシリアに親父も母さんも――。


「久しぶりだなセシリアちゃん! 狭いところだがゆっくりしていけよ!」

「うふふ、セシリアちゃんも家に来るなら、もっと張り切らないといけないわねぇ。 そうでしょ、シャルちゃん?」

「え? シャルロットさん……?」


 母さんがシャルの名前を出すと、セシリアがキョロキョロとリビングを見渡す――。


「あ、あはは……。 や、やあセシリア」


 眉を下げ、手を上げて合図するシャルに、目をぱちくりさせて見つめるセシリア。


「母さん、セシリアが手土産にケーキ持ってきてくれたよ」

「あら? うふふ、セシリアちゃん、ありがとうねぇ~」

「い、いぇ……やはり手ぶらという訳にはいきませんから……」


 照れた様にセシリアが言う一方で、シャルはしまったという感じに表情を変えた。

 ……手土産なら気にしなくても良いのだが、シャル的には今内心後悔してるだろう。


「はい、母さん。 ……ここって何処のケーキだ?」

「うふふ、これは【リップ・トリック】ね。 そうでしょ、セシリアちゃん?」

「え、えぇそうですわ。 ……やはり、お母様には解ってしまいますわね」

「うふふ、ここの店の店長さんとは顔馴染みですからねぇ~♪」


 ……確か、年賀状にも来てたな、リップ・トリックから母さん宛に。

 ……母さんという存在が色々謎に感じてしまうな、こういうのを聞いたり見たりすると。


「うふふ、あなた? 私たちは向こうでいただきましょうか?」

「ん? ……そうだな」


 何かを察したのか、親父は口元を吊り上げてソファーから立ち上がると、一階のリビングの反対側にある客間へと移動した。

 セシリアもシャルも呆然と見ていると母さんがやって来て。


「ヒルト、美冬ちゃんを起こしてきなさいな。 あの子、ケーキに目が無いんだし……ね♪ シャルちゃん、キッチンに四人分の飲み物を用意してあるから入れてくれるかしら? セシリアちゃんはお皿にケーキをお願いね?」

「わ、わかりましたわお母様♪」

「う、うん! ……えへへ、ありがとうお母さん……♪」


 シャルの言ったありがとうは、多分手土産を持ってこなかったシャルの罪悪感を取ろうとしたのだろう。

 ……まあ、母さんの本心は俺にはわからないが。

 栗色の長い髪を靡かせ、母さんはリビングを後にするとセシリアとシャルは言われた通りに準備を行い始める。


「ヒルトさん、美冬さんを起こして来てくださいな」

「そうだよ? それまでに僕たちは用意するから」

「了解~。 なら二人とも頼むよ」


 そう言い残し、俺は二階の美冬の部屋へと向かった……。 
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