IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第239話】
――自室内――
皆が一様に興味を示す卒業アルバム。
それは俺の小学校の頃のやつだ。
――それよりも、今のこの部屋の状況が有り得ないな。
美冬と未来以外にここには女の子が四人。
――内三人は俺に好意を寄せ、キスまでした仲だという……。
鈴音は最近は色々悩んでいる様だが、一夏を見限って他の男子に移るというのも悪いとは思わない。
恋愛自体は自由なんだし。
「……小さい頃のヒルトって、昔から髪が銀髪だったんだ」
鈴音がアルバムと俺を見比べながら言う――てか、部屋への適応の速さは流石だなと思った。
「何か、先祖還りらしいんだが詳しくは解らないんだよ。 だから中学入った時は大変だったさ、これが」
「うん、いきなり先生に髪の色で呼び出し食らっちゃうし、上級生の不良グループにお兄ちゃん目を付けられちゃって……よく漫画にあるじゃない? 放課後体育館裏に来いって」
そんな昔の事を思い出す様に言う美冬に、シャルが――。
「ひ、ヒルト、大丈夫だったの!? 何処か大怪我したとか――」
もう昔の事なのに、今怪我をしたみたいに気遣うシャルは、立ち上がると俺の身体を触り始めた。
一方のラウラとセシリアは――。
「ほぅ……私の嫁に怪我をさせる様な事をしたのならば、黒ウサギ隊の威信にかけて全力で拷問をしてやるのだが……」
「えぇ。 この世の地獄というモノをお見せ致しますわ……」
そんな黒いオーラを、二人は隠すことなくさらし出す。
……これは、もし俺が何かあった時は相手が可哀想だな……。
「シャル、昔の事だから今は怪我何てないさ。 セシリアもラウラも、落ち着けって、昔の事だし」
そう言うと、一様にホッと胸を撫で下ろした。
「……なら安心ですわね」
本当に安堵したように胸に手を当てて一息ついたセシリア。
「……怪我がなかったならよかったよ」
シャルも同じように一息つくと、またベッドに座り直した。
「……ふぅ、あまり心配させるな、ヒルト」
安堵し、上目遣いで見上げるラウラ――。
「まあ全部は過ぎ去った過去の話だよ。 過去の俺の心配よりは今、これからの俺のが大事だろ? もちろん、俺だけじゃなく皆も大事だしな」
言っててちょっと気取った台詞かなと思い、全身の体温が上昇するのを感じたが皆は――。
「うふふ、何だか嬉しいですわ……。 ヒルトさん、ありがとうございます♪」
気取った台詞だったのだが、セシリアは気にすることもなく、逆に嬉しかったのかお礼を言ってくれた。
「ば、バカじゃないの……? ……でもまあ? ……う、嬉しい……けどね?」
そうベッドで胡座をかき、瞼を閉じたまま言った鈴音は何処か照れてる様にも思えた。
「ふふっ、僕も嬉しいよ? ……ヒルトの言葉って、何だかぽかぽか心が暖かくなる感じ……」
胸に手を当て、瞼を閉じ、シャルが言うのだがその言葉がまた俺の全身の熱を上昇させていた。
「私もだ。 ……好きだからなのかわからないが、ヒルトの言葉には思いやりや優しさを感じる」
真っ直ぐと見つめるラウラの眼差しに、照れ隠しで俺は視線を逸らした。
「ふふっ、ちょっとお兄ちゃんらしくない気取った台詞だけど……やっぱり、言われたらスゴく嬉しいよ?」
美冬は空いた俺の右手を握り、ラウラと同じように真っ直ぐと見つめてきた。
「……何だかんだで、皆、ヒルトの言葉が嬉しいのよ。 もちろん、鈴もね?」
「べ、別に嬉しい訳じゃないわよ……バカヒルト」
椅子に座った未来が柔らかな笑みを浮かべながら言い、鈴音は未来に言われた言葉に反応して壁側に視線を逸らした。
「……でも、今さら思うがこうやって皆と話をしてること自体が奇跡かもな……」
凭れかかかった壁から移動し、洋服タンスを開くと俺は【ある物】を取り出す。
「……ヒルトさん、それは――」
「……本当なら、俺が行く予定だった私立高校の制服だよ」
そう言ってハンガーにかけてあった制服を見せた。
未来はこの制服に四月までは袖を通していたが、転校してIS学園にやって来た。
制服は蒼を基調としたブレザーで、中はカッターシャツを着、首もとにはネクタイを。
制服のズボンは、黒と蒼のチェック柄で、女子の制服の可愛さはIS学園にも負けていないのだが……学園は、カスタム可能なのが大きなメリットなので、人気は一歩譲る。
「……そういえば、私が入学試験で忘れ物しなければ、お兄ちゃんは普通の高校生だったんだよね……」
二月の出来事を思い出す美冬。
あの時、慌てながら教室を出たのがまだ瞼に焼き付いていた。
「……僕もそうだけど、あの時は全世界が震撼したんだよね? 世界初の男のIS操縦者が現れるって」
「……そうですわね。 わたくしも、屋敷で知りましたわ……」
シャルとセシリア、二人が当時の事を思い出しながら言葉を口にした。
「……私もだが、あの頃はそういう事には興味がなく、ずっと訓練漬けだった。 ……今は違うぞ? ヒルトの事は、何でも知りたい」
フォローする様にラウラは言った。
二月のラウラは、出会った当初のラウラなんだろうなと容易に想像がついた。
「アタシもその頃は軍で訓練中だったわ。 ……でも、やっぱり気になったから一応目は通したけどね?」
真顔でそう言う鈴音――中国もやはり、まだ覇権を狙ってるのだろう。
鈴音が軍で訓練って言ったのが証拠だ。
だが実際に訊いても否定されるだけだろうが。
「……あの時は私もびっくりした。 ヒルトの家の前には各国のマスコミが集結してて、プライベートも何もなかったって感じだし……普通、そういうのってちゃんとマナーを守るものだと思ったんだけどなぁ……」
未来は当時のマスコミのマナーの悪さを思い出してるのか、怪訝な表情を浮かべていた。
「……でも、それ以上にお兄ちゃんが一番大変だったから……。 ……お兄ちゃん、ほぼ一ヶ月近くIS関連の研究所に無理矢理連れていかれて、お母さんから訊いたけど下手したら解剖されてたかもって聞いたから……」
そう告げる美冬の表情は今にも泣きそうなぐらい暗く、言ってて落ち込んでる様に思えた。
「……実際、解剖される一日前だったんだけどな。 ――てか、今でも学園にはその研究所の職員が人類の未来の為、有坂緋琉人の身柄を引き渡していただきたいって直接来てるぐらいだしな。 ……まあ、家に近づく事が無いのと、外で突然の誘拐が無いところを見ると学園の圧力が効いてるのかもしれないがな、これが」
そう俺が説明すると、明らかに空気が重くなったのかセシリアが――。
「……ヒルトさん、無事で何より……ですわね。 ……辛かったのではありませんか?」
「……まあな、時折夢に見るが……あそこの一ヶ月は正直キツかったな。 ……聞きたいか?」
俺がそう言うと、皆が首を横に振って――。
「……ぃぃぇ、聞けばわたくしは……その方達を許すことが出来なくなりますわ。 語らなくても、ヒルトさんの瞳が物語っていましたもの……」
悲痛な表情を浮かべると共に、その当時に俺がされたことを想像してか少し瞳が潤むセシリア。
「……まさか日本の研究所が――……でも、わかんないわよね。 その研究者って、ヒルトの人権を無視してまで人類の未来の為何て、何で言えるのかしら……」
言葉の節々に苛立ちを見せる鈴音。
……怒ってくれてるのだろうか?
「……僕もデュノア社でバイタルチェックとか、色々な検査をされたけど……解剖までは……。 ……ヒルトを解剖してまで、僕は人類の未来何て、いらないよ……」
シャルもセシリアと同じように悲痛な表情を浮かべ、瞼を閉じて口を真一文字に閉じた。
「……ヒルト、辛い思いをしたのだな……。 ……すまない、今の私には聞くことしか出来なくて……」
「……ははっ、まあ今まで言わなかったからな。 聞いてくれてありがとな」
そう言い、ラウラの頭を撫でるがやはり悲痛な表情のままだった。
「……何か、お兄ちゃんが死んでたって思うと……怖い……。 いつも傍にいたお兄ちゃんが居ないって考えたら……」
「……く、暗くなるなよっ。 こ、こんな話した俺も悪いんだし、皆スマイルスマイル、だぞ?」
ニッと笑顔を見せるが、やはり暗い表情のままの女の子達。
「……でも、もしその人達がヒルトを強行手段で連れ去ったら皆で取り返せばいいよね? ……私的理由でIS使っちゃいけなくても、非人道的な事をしてまで人類の未来の為何て言う馬鹿な人達に、制裁を与えるぐらいは――ってね?」
未来がそう言うと、皆が顔を上げて頷いた。
「……まあ、過去は過去さ。 どんな経験でどんな人生でも、これは贈り物みたいなものだよ。 ……辛い思いをしたが、今はこうして皆と遊べてるんだ、人生と人の数奇な運命に感謝しないとな? ――って訳で暗い話はお仕舞い!」
そう無理矢理話を終わらせる俺は、出した制服をいそいそと洋服タンスへと戻していく。
「……そうですわね。 暗くなってても、仕方ないですからね。 ……ヒルトさん、小さい頃のアルバムとかは無いのかしら?」
「……何処かの押し入れにあるはずだが、探すとなると下手したら一日潰れるぞ?」
綺麗に押し入れに整頓されてはいるものの、探すとなると全部取り出さないといけなくなるからだ。
流石にセシリア達も、一日が潰れると聞くと――。
「そ、それは困りますわね……。 また、別の機会に見ましょうか」
「そ、そうね。 ……ま、まああんたの小さい頃って想像つくけどね?」
「見たかったけど、せっかく遊びに来たから……ね」
「……ヒルトの小さい頃……か。 ふむ……」
各々がそう言い、諦めの表情を浮かべていた。
「……まあそんなに沈むなって。 てかそろそろお腹空いてきたな……」
「……そういえば、そろそろお昼だもんね? ……何気にしたから良い香りが……」
美冬の指摘通り、一階から料理の香りが俺の部屋まで届いてきた。
「……まずは昼食だな。 その後は……まあ、食べてから考えるか」
「そうですわね。 ……お母様が作ってくれたのかしら?」
そう呟くセシリアは、ベッドから降りるとスカートの裾を直していく。
「……何気に美味しそうな匂いね。 ……お腹の音、鳴りそう」
鈴音がそう言うと、照れ笑いしながらお腹を擦った。
「お母さんが作ってくれた料理かぁ……。 楽しみだな♪」
そうベッドの上に座りながら楽しげに言うシャル。
「……私も楽しみだが、久しぶりに教官のサバイバルで培った料理を食べたいものだ」
ラウラがそう言うと、思い出されるのは丸々焼いた豚しか思い出せない。
……いや、美味しかったんだけどな。
「何にしても、下に行こっか?」
美冬がそう言って立ち上がると真っ先に下へと降りていった。
……行動が速いな。
「ふふっ、じゃあ行こっか、ヒルト?」
「……だな。 手洗いは一階で出来るから、行こうぜ?」
そう言うと、皆が一様に頷く。
さっきまでの暗い雰囲気も、美味しそうな料理の匂いで全て払拭されるのは素晴らしい事だと思う。
ぐぅーっと、俺の腹の虫が鳴ると、皆が一様に笑顔になった。
……少し恥ずかしいが、笑顔になってくれたなら万々歳ってやつだな、これが。
後書き
解剖一歩手前とかΣ(゜∀゜ノ)ノ
まあこの辺りの話、暗くなるのでそこそこにしときます
子供時代の話を膨らませるのもよかったですが……何か長くなりそう
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