IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第227話】
未来の奢りでたこ焼きを頬張る俺。
味は普通だが、やっぱりちょっと身崩れを起こしていて食べにくかったが何とか完食。
「未来、ありがとな?」
「ふふっ、気にしないで? ……次はどうしよっか?」
屈んで、俺の顔を伺うように覗き込む未来。
少し顔が近く、顔に熱を帯びるのを感じた俺は視線を逸らしながら――。
「た、食べ歩きツアー続けてもいいが、食べてばかりも楽しくないだろ? また何か見て回ろうか?」
「ふふっ、ならそうしよっか?」
屈んだ未来は、立ち上がると空を見上げた。
都会とはいえ、空には星が輝いていて、遥か上空には航空機が飛行していた……。
まだ賑わう数々の屋台に、お腹を空かせた親子連れが焼きそばを購入してるのが見える。
夏に羽目を外した中学生のグループは、アロハシャツを着、髪は金髪に染めながら風船ヨーヨー釣りに夢中だった。
また、祖父母に連れられた孫も、祖父母と手を繋いで辺りをキョロキョロと見渡す姿が目に映る。
……何だかんだで、こういった縁日や祭には活気があって良いなと、改めて思った。
俺は食べ終えたたこ焼きの箱をゴミ箱に入れる。
めちゃくちゃ腹が膨れた訳ではないが、そこそこ屋台を楽しめるだけの体力は得たのでまた俺達は歩き始めた――。
来てからそれなりに時間が経ち、徐々にだがカップルの姿が目に映る。
……そういえば、花火もやるんだったかな、ここ。
――と、不意に未来の足が止まった。
「ふふっ、懐かしいなぁ……。 ヒルト、覚えてる?」
未来が立ち止まった屋台は、プラスチックで出来たおもちゃの指輪やアクセサリー等が売っている屋台だった。
「……あぁ、覚えてるぞ? あれは――」
記憶がフラッシュバックされるように思い出される……。
当時はまだ小さい子供の頃の話だ……。
「ん~! やっぱりフランクフルトは旨いなぁ」
「もぅっ! ヒルトってさっきから食べてばかりじゃない。 もっと色々見て回ろうよぉ~」
屋台で買ったばかりの二本のフランクフルトを食べるヒルトの服の裾を掴む未来。
まだ小学校に上がったばかりの二人だが、よく小さい頃から妹の美冬と三人で連れ立って公園の祭にやって来ていた。
だが、今年はヒルトと未来の二人だけで、妹の美冬は友達と約束して別に祭を回っていた。
「いいじゃん。 オレ、お腹空いたんだし……」
「むぅ……。 だってさっきからずっと食べ物ばかりだもん!」
「……わかったって。 なら次は何かの屋台で遊ぼうぜ!」
ニカッと笑顔で笑うヒルトを見て、まるで向日葵の様な笑顔を浮かべて喜ぶ未来は、直ぐにヒルトの手を引いて屋台巡りに向かった。
金魚すくい、くじ引き、花火を売ってる出店に輪投げ、色々と遊んでいる内に財布の中身が心細くなったあと、未来はある出店に目を奪われていた。
「わあぁぁ……。 綺麗だなぁ……♪」
出店に並べられていたおもちゃの指輪の一つに、未来の目は爛々と輝かせていた。
ヒルトはそんな未来の様子を隣で眺めながら、次は何を食べようかなと考えていた――だが。
「あぅぅ……」
「……? 未来? 腹が痛いのか?」
「ち、違うよぉ……。 パパから貰ったお小遣い……もう後二〇〇円しかないの……」
開けた財布から、二枚の小銭が未来の小さな手のひらの上に乗っていた。
屋台のおじさんも、苦笑しつつも特別扱いは出来ず、またお小遣い貰ってからおいでと声をかけたのだが……。
「うぅ……」
今にも泣き出しそうな表情で見つめる先にあるおもちゃの指輪。
それはガラス製で、他のより少し高い物だった。
「……ったく、他の遊びに夢中になるから足りなくなるんだよ。 はい、おじさん。 これで足りる?」
そう言ってヒルトは財布から残ったお金を取り出すと、店主のおじさんに手渡す。
「……うん。 ちょうどあったよ坊主。 良かったなお嬢ちゃん! はい、どうぞ」
出店のおじさんがガラス製の指輪を未来に手渡すと、最初はきょとんとした表情だったが、直ぐに笑顔になって――。
「えへへ♪ ありがとうおじさん♪」
「お礼ならそっちの坊主に言わないとな、お嬢ちゃん?」
「あぅっ、そうだった! えへへ、ヒルト……ありがとう♪ ……ごめんね……もう、ヒルトのお小遣い――」
「い、いいんだって! もう屋台の食べ物は食べ飽きたところだったし。 ハハハッ……はぁっ……」
強がりを見せるヒルトだが、最後には力無く笑っていた。
そんなヒルトが、自分の為に安くもないガラス製の指輪を買ってくれた事が、未来にはとても嬉しかった……。
――ってな感じで、小さい頃に未来にガラスの指輪を買ったんだよな。
しかも、あの頃は左手の薬指に填める指輪の意味も知らずに填めて帰ってきて、親父や未来のお父さんにからかわれる始末だったし――。
「……ふふっ。 ありがとうね、ヒルト?」
「ん? 急にどうしたんだよ、未来?」
昔の出来事を思い出していると、不意に未来の口から出たありがとうという言葉。
何に対してのありがとうかは解らず、未来に聞き返すと――。
「……あの時、ヒルトは自分が後で食べたいものを我慢して私に指輪買ってくれたでしょ? ……私、凄く嬉しかったんだぁ……」
未来はその場から立ち上がると、ゆっくりとした足取りで歩き始めた。
俺もそれを見、共に並んで歩き出す……。
「あの指輪、今も大事に箱の中に入れてあるんだよ?」
「そうなのか? ……今にして思えば、おもちゃの指輪だがな」
「……ふふっ、そうだけど……。 あの頃の私には凄く輝いて見えたんだよ? もちろん、今も輝いて見えるけどね?」
後ろに手を回し、くるりと振り返る未来の姿に一瞬心臓が跳ね上がった。
「だから……ありがとうね、ヒルト。 ……私にとっては、凄く大切な指輪だから」
「そ、そっか……。 未来、大事にしてくれてありがとな?」
「……うんっ」
俺の言葉に、未来は笑顔で応えた。
……昔あげたものを今も大事にしてくれてると知ったら、やっぱり少し嬉しく感じる。
そんな風に思っていると、不意に声をかけられた。
「あれ? 未来にヒルト……。 偶然だな、ここで何してるんだ?」
「あ、織斑くん。 それに、篠ノ之さんも」
振り返ると、そこにいたのは一夏と篠ノ之だった。
俺が振り返るのに合わせて一夏は手をあげ、篠ノ之に関しては視線を逸らした。
「……祭で何をしてるって聞くのもおかしくないか? 未来と出店ツアー中だよ」
「そっか。 てっきりヒルト達も箒の神楽舞を見に来たのかと思った」
神楽舞――その言葉に、篠ノ之は眉をピクリと動かす。
「一夏、行くぞ。 ……二人の邪魔をするわけにはいかないからな」
「え? 何でだ箒? せっかくヒルトや未来と会ったんだし、合流しようぜ?」
何の疑問も疑うこと無く言うその笑顔。
本人は皆でワイワイするのが良いのだろうが、篠ノ之としては二人っきりで居たいのだろう。
案の定、一夏のその言葉に腕を組み、イライラとした表情を隠す事無く見せる篠ノ之はある意味スゴいだろう。
「……織斑くん? 篠ノ之さんは織斑くんと二人っきりの方がいいんじゃないかな?」
「え? そうなのか、箒?」
「…………」
振り向いた一夏の問いに、篠ノ之はただ視線を逸らして黙ったまま――そして。
「……一夏の好きにすればいい」
「そっか。 ならせっかくだし、合流しようぜ」
……こういう時に、ちゃんと自分の意見が言えないのが短所だよな、篠ノ之の。
「……俺と未来はいいよ、二人でまだまだ出店回るし」
「そんなつれない事言うなよ。 せっかくここで会ったんだしさ、一緒の方が楽しいぜ?」
――そんな感じに、拒否してもしつこく言い続ける一夏に未来も折れて。
「……わかった。 じゃあ少しの間だけね? じゃないと、篠ノ之さんに睨まれちゃうから」
「え? 箒はそんなことしないって、なあ?」
「ぅ……む」
そんな明らかに嘘をついた篠ノ之に、俺も未来も苦笑した。
肝心の一夏は、何で二人とも笑ってるんだといった表情を浮かべていた。
そんな感じでなし崩し的に一夏達との合流になった俺は、ただただ頭をポリポリとかくだけだった……。
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