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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第225話】

 日々の疲れが溜まっていたのか、眠りにつくのは早く、既に俺は夢のなかに――だが。


――夢の中――


 目の前で繰り広げられてる死闘とも言える戦いに、俺は目を奪われていた。


『兄さん! 悪いけど……ここで死んでもらうわよッ!』


 そう叫ぶ子は、俺と対して年も変わらない、流れる様な銀髪に蒼い瞳の少女だった。

 だが、その姿は見たこともない紅いISを身に纏っていた。


『何故だ!? ―――ッ! 何故【亡国企業】に手を貸す!?』


 もう一方の男も、俺と同い年だろうか?

 俺と同じ様に青みがかった銀髪に、深紅の瞳。

 ……違う点を探すとなると、俺より目付きが鋭い――。

 そして、彼も俺と同じく【男のIS操縦者】だ。

 世代がわからないが、見た目で解るのは重装甲かつ高機動というピーキーな仕様――一言で言えば、最強のロデオマシーンに乗るようなじゃじゃ馬仕様にしか見えなかった。


『……拾われた私には、他に行くところがないからよッ!!』

『くっ……! だからって……俺達で争う必要はないだろうッ!! ヒルアッ!!』


 互いのISが何度も交差し、煌めく様な粒子を放出させて戦うその姿は――まるで無理矢理兄妹で死闘を繰り広げさせられてる様に思えた。

 ……夢にしては妙に生々しい……そう思っていると、視界が目映い閃光に覆われ始めた――。


――夕方――


 ドスッ……と、下腹部に重い何かが乗っかってくる。

 何事かと思っていると、突如――。


「ヒルト! 起きろーっ!!」

「ぐあっ……未来……?」


 その声の大きさに、一気に意識が覚醒すると同時に、さっきまで見ていた夢をもう忘れていた――。


「もぅ……やっと起きた。 何だか魘されてたみたいだったけど……悪い夢でも見たの?」

「……いや、今の衝撃で忘れたよ」

「……そっか。 悪い夢なら忘れた方が幸せだよ、ね?」


 笑顔で言う未来――よく見ると、鮮やかな蒼い浴衣を着、髪も珍しくポニーテールに纏めていた。

 髪を束ねたシュシュも、白のふわふわしたフリル付きで可愛さをアピールしている。


「……未来、年頃の男子にこの起こし方は止めろって言った気がするが?」


 そう、未来は昔から俺が起きない時はこうして俺に跨がり、全身を揺らして起こしにかかってくる。

 それで中学時代の朝、見事に朝立ちした欲望の塊が未来のお尻に当たって色々騒ぎがあったりしたのだが……。


「べ、別にヒルトなら大丈夫よ。 ……それに、目が覚めるでしょ?」

「……当たり前だろ。 一発で目が覚めるさ、これがな。 ……未来」

「……? なぁに?」


 首を傾げ、目を細めて微笑む未来に――。


「浴衣、似合ってるな? 昔を思い出すよ」

「……えへへ。 やっと、誉めてくれたね? ……いっつもヒルトって馬子にも衣装って言ってたから……」


 そう言って頬を膨らませる未来だが、直ぐに笑顔になると俺から降り、スッと立ち上がって――。


「ヒルト、準備出来るまで玄関で待ってるからね? ……昔みたいに、公園で祭りをやってくれたらいいんだけど……」


 表情に少し影が落ちる未来。

 前までは近くの公園で櫓が組まれ、祭囃子の音色が聞こえてくるとわくわくしたものだが……ここ数年は、自治体の金銭面的理由でずっと出来ない所か、最近は隣の篠ノ之神社に取られる始末。

 今日行くのも、篠ノ之神社だが……名前的にも、明らかにあの【篠ノ之】関係なんだろうなと……。


「……しんみりしちゃっても仕方ないよね。 じゃあヒルト、玄関で待ってるからね?」


 無理矢理笑顔を作ると、未来はそのまま部屋を出て階段を降りていった。

 ……ちゃんと着替えるかな。

 一人ごちると、俺は着替えを始めた――。


――五分後――


 着替えを終えた俺は、二階から一階へと降り、玄関で待っていた未来の元へと向かう。


「よぉ、待たせたな未来」

「ううん。 ……ふふっ、ちゃんと襟元正さないと」


 そう言って近付き、少し形が崩れた襟元を正す未来。

 甘い香りが妙に胸をドキドキさせる。

 髪をポニーテールにしてる為か、何故かうなじが艶かしく見えた……。


「……はい。 ちゃんと正してあげたからね?」

「……悪いな、未来」

「ううん……。 ふふっ、じゃあ行こっ?」


 そう言って自然な流れで未来は俺の左手を取り、手を繋ぐ。

 伝わる柔らかな感触に、心落ち着かず、玄関の鍵をかけるのに少し手間取っているとクスクスと笑う声が聞こえてきた。


「わ、笑うなよな未来……」

「ご、ごめんね? だって何だか可笑しくって……♪」


 笑いを堪える未来を他所に、何とか玄関の鍵をかけると――。


「ほら、行くぞ? ……歩いて行ける距離だったよな」

「うん。 少し時間はかかるけど……たまには良いかもね♪」


 そんな風に話ながら、俺と未来は一緒に歩き出す。

 まだ夏だが、心地よい風が頬を触っていく……。

 この時の俺は、もうさっき見ていた夢の事を完全に忘れていた――。 
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