IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第234話】
――リビング――
未来からの提案は止まることなく決定され、更に美冬の更なる提案によりまず、俺が彼女達四人に食べさせる。
――つまり、【はい、あーん】というカップルがよく行う行為をしなければいけなくなった。
それも、美冬は俺の退路を絶つ様に過去にシャルとセシリアの二人に食べさせた事実を今ここで突きだしたのだから拒否権もなく……。
そんな俺の考えも他所に、四人の女の子達はケーキ選びから始めるのだった。
「……じゃあ、まずはセシリアからね? セシリアのお土産でしょ?」
そう言った美冬は、足をパタパタさせていて、その様子は既にケーキが待ちきれない様に思えた。
「……では、わたくしは此方の洋梨のタルトをいただきますわね?」
そう言って既に皿に乗せられたタルトを手元に引き寄せる、そして未来が――。
「じゃあ次はシャルね?」
「ぼ、僕が次に選ぶの? ……さ、最後でいいよ、僕?」
「ダメ。 来た順を考えたらシャルが次点だもん。 美冬ちゃんは寝てたし、私も最後に来たんだから」
未来も、シャルに選ばせるためにわざとそう言ったのだろう。
少し唸り声をあげるシャルだったが――。
「じゃ、じゃあ、その……苺のショートケーキがいいな」
「はいはーい。 はい、シャル?」
美冬が軽快に声を出すと直ぐ様ショートケーキの乗った皿をシャルの前に差し出した。
「……じゃあみぃちゃん、次は私が選んでもいい?」
「うん。 美冬に任せるよ」
「りょうかーい」
間延びした声で返答する美冬。
……未来は、美冬の事をちゃん付けで呼んだり、呼び捨てだったりするが美冬自身は呼び方に拘ってない様で、特に指摘したりはしないようだ。
そんな美冬が選んだのはモンブランで、必然的に未来はレアチーズケーキに決まった……。
「セシリア、ケーキありがとね? でも高かったんじゃない?」
「いえ、お値段の方はそれほどでもありませんが……やはり、人混みが大変でしたわね。 朝早くから並んでいましたから」
そんな何気無いセシリアの一言に、皆が申し訳ない表情を浮かべたのだが直ぐ様セシリアがフォローし――。
「うふふ、皆さんが気になさる事ではありませんわよ? 待つのも醍醐味ですし……ね?」
そう言ってセシリアはタルトを一口サイズに切り取ると、それを口に運んで食べる。
「うふふ、リップ・トリックのケーキは美味しいですからまずは一口、皆さん食べてくださいな♪」
……どうやら俺が食べさせるという話はどっかに飛んでいったようで内心ホッと一息つく。
セシリアに促されたからか、皆がそれぞれ一口サイズに切り取り、口に運ぶと――。
「んんっ♪ 凄くおいしいーっ♪」
まず最初に歓喜の声を上げたのは美冬で、頬を手に添え満面の笑みでケーキの味を堪能しては足をパタパタ上下させ、食べた喜びを表現していた。
「うん。 ……ふふっ、頬っぺたが落ちるってこういう事を言うのかなぁ♪」
未来も、その美味しさに笑みを溢すと頬が桜色に染まり、ゆっくりとレアチーズケーキの味を堪能していた。
「うん。 ……セシリア、すっごく美味しいよ、これ♪ ……えへへ、ありがとう、セシリア……♪」
シャルも一口食べたショートケーキの味に、表情を緩ませていた。
女の子四人、皆が幸せそうな表情をするのを眺めながら俺はアイスティーを一口飲むと、まだ溶けてない氷がカップに当たる軽快な音がリビングに鳴った。
「……うふふ、では一口堪能致しましたので……ヒルトさん?」
「う? ……どうしても食べさせなきゃダメか?」
やはり忘れていなかった様で、恐る恐る皆に聞き返すが――。
「当然ですわ♪ せっかくのケーキです。 想い人の手で食べさせてくれるのなら……」
「そ、そうだよ? 僕達にもっと夏の思い出、ちょうだい?」
両サイドから聞こえるソプラノ声に、流石に気持ちが揺らぐがまだ気恥ずかしさが勝っていて――。
「お兄ちゃん。 私だってお兄ちゃんに食べさせてもらいたいんだから恥ずかしい何て言っちゃダメだからね? それに、私だってお兄ちゃん好きだもん」
そう頬を染めて告げる美冬だが、兄妹愛は普通な気がする――まあ、この年でお兄ちゃんウザいって言われないのが奇跡にも近いが。
「ヒルト? 私からもお願いっ。 ……これでもう食べさせてって言わないから……ね?」
そうお願いする未来は、頭を下げて短くウインクした。
「……~~~~っ。 ……わかったってば……。 本当に今回が最後だからな?」
そう念を推し、伝えると――。
「えぇ、勿論ですわ」
そう肯定し、笑みを浮かべながらセシリアが言い――。
「うん。 だから食べさせて……?」
シャルも胸の前で手を組み、お願いする様に言って――。
「う~……。 ……一回だけ限定かぁ……。 ……わかったぁ」
美冬はしぶしぶと言った感じで納得した。
……まあ、美冬ならまたしても良いかもと思うのは兄妹だからだろう。
「ありがとう、ヒルト♪」
簡素にお礼を言う未来だが、下手に持ち上げるよりは此方の方が好きだったりする。
「……んじゃ、さっきと同じ順でいいな? 買ってきたセシリアからで次がシャル、美冬、未来が最後って事で」
そう伝えると、それには納得していたのか素直に頷く四人。
セシリアからフォークを受け取ると、一口サイズに切り取り、手で受け皿を作りながら口元へ運ぶと――。
「あ、あ……あーん……」
「お兄ちゃん、顔が真っ赤っかだよ?」
美冬の指摘通り、顔に熱を帯びてるのを感じるがここで止めたらセシリアが悲しい表情で訴えてくるかもしれないので……早く食べてくれないかと切に願う。
「ぁ、む……んぅ……」
フォークに乗った一口サイズのタルトを食べると、赤くなった両頬に手を添え、ゆっくりと味わっていた。
「……ん。 さ、さっき食べたやつだが味はどうだ?」
「うふふ。 も、勿論美味しいですわよ? ……やはり、想い人に食べさせてもらうタルトはどんなパティシエでも作る事が出来ない甘い想いが詰まってますわ……♪」
うっとりとした表情を浮かべ、まるでポエムの様な言葉を紡ぐセシリアに、更に俺は顔に熱を帯びるのを感じた。
「ひ、ヒルト? 次は……僕の番だよ?」
くいくいっと、服の裾を摘まみ、引っ張るシャルは待ちきれないのか俺に言ってきた。
セシリアはその一口の幸せを噛み締める様に大事に咀嚼していたが――気にはなるが、次はシャルに食べさせないと。
「ちょ、ちょっと待てよ? き、切り取るから……」
「ふふっ、去年までのお兄ちゃんが見たらびっくりするよね、今の状況♪」
更なる美冬の指摘に、思わず黙って頷いた。
エロい事は中学から考えたり、エロ本読んだりはしていたものの、女尊男卑の影響やら俺自身が色々した結果、女子に総すかん食らったのだからそれから見ると今の状況がある意味凄い。
昔の事を思い出しながら、シャルから受け取ったフォークでショートケーキを切り取り、さっきと同じ様に手で受け皿を作りながら口元へ運んだ。
「うぅ……。 あ、あ、あ……あーん……」
この一連の仕草が物凄く恥ずかしく、しかも美冬や未来が見てるという事もあってか血液が沸騰する思いだった。
「ん……ぁ……む……」
小さく開けた口で一口サイズに切ったショートケーキを食べるシャル。
瞼を閉じて味わうその姿を見ると、不思議とシャルと口付けを交わした時の事を思い出した。
どちらもシャルからだが、あの柔らかな唇の感触は忘れられない――というか、今年の夏はキスばかりだ。
ラウラに始まりセシリア、シャル。
臨海学校では未来と、福音の操縦者がお礼にと言って交わしたキス――。
……既に、五人の女性と唇を交わしている。
……どれだけ節操無いんだよって思うが……。
「ん……。 えへへ……やっぱり、好きな人に食べさせてもらうって……良いよね……♪」
「そうですわね……♪ 今はこの幸せを噛み締めたいですわ……♪」
二人して幸せそうな顔をすると、何だか嬉しい気持ちになる。
「じゃあお兄ちゃん。 次は私ね?」
「わ、わかったって……ほら、口を開けろよ?」
「うん♪ あーん……♪」
小さく口を開け、待つその姿は妹ながらも可愛く、キスを待っているように思えた。
……流石に兄妹でキスはまずいと思ったりするが……最近、よく解らなくなってきている。
皿に置いていたフォークを取るとモンブランを一口切り、フォークに乗せる。
それを美冬の小さく空いた口に運ぶと、ゆっくりそれを味わう美冬は……。
「んんんーっ♪ ……えへへ、やっとお兄ちゃんが食べさせてくれたぁ……」
またもパタパタ足を上下させ、モンブランを味わう美冬は嬉しそうな表情を浮かべていた。
「そ、そうだな……。 ……てかやっぱり恥ずぃ」
ぼそりと呟く独り言だが、他の子の耳には届いていなかった――そして、最後まで待たせた未来が。
「ふふっ、最後は私だからね? ……ありがとう、我が儘聞いてもらって……」
静かに、聞こえないように未来は一人お礼を言ったが俺の耳に届いていたので、敢えて聞こえなかった様に振る舞う。
「……ほら、未来……」
皿からフォークを取り、レアチーズケーキを一口切り、手で受け皿を作りながら未来の口元へ――。
「ん……。 ――ん……む……ぅ……」
そっと小さく開いた口で、切り取ったレアチーズケーキを食べる未来、
唇に少し付いたチーズケーキを舌で舐めとる仕草が妙に蠱惑的に映り、また熱が上がるのを全身で感じた。
「……ぅん。 やっぱりヒルトに食べさせてもらうってだけで足が変わるね……。 気持ちって……重要だね♪」
はにかむ未来は、皆と同じ様にその一口一口を大事に噛み締めた。
……恥ずかしい思いをしたが、皆が喜んでくれたなら良かったとは思う。
……出来れば、最後にしてほしいけどな、これが。
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