IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第357話】
若干一触即発な空気を察したのか、鈴音が話題を変えた。
「そ、そういえばさヒルト。 まだあんたの貸し出しは始まんないの?」
「貸し出し? 俺の?」
鈴音の言葉に思考を巡らせる――この間の学園祭での奴だろうか?
「生徒会の奴か?」
「そうよ。 それ以外無いでしょ普通」
「んと、とりあえず今日一夏と顔を出した時には楯無さんと布仏さん――姉の方ね、その二人が抽選と調整してる最中だったよ。 だから今日は生徒会としては特に何もしなかったな」
「ふーん……そっか……」
何でも無さそうに返事をすると、コップの水を一口飲む鈴音。
……と、ここで一夏が口を開く。
「そういやさ、皆も部活動入ったんだって?」
そう口にする一夏に、そういや休み時間、そんな話が耳に届いてきたな……美春はまだ入ってないらしいが――と。
「私は最初から剣道部だぞ、一夏」
そう応える篠ノ之――だが、俺は篠ノ之が部活動に行ってる姿を見たことがない。
「剣道部って言ってもお前、幽霊部員だろ?」
俺の指摘に、またも目尻をつり上げる篠ノ之。
「貴様には関係無いだろ」
「まあ関係無いな。 ――が、部活に入って参加しなかったら普通部長辺りが怒りそうなものだが――」
「生憎だが怒られていない。 一応私は中学校全国大会優勝だからな、先輩方も期待してくれてるのだ」
期待はしてるかもしれないが、怒らない所は多分篠ノ之束の妹という事と、せっかくの大会優勝者が入部したのだから多少の事は目を瞑るといった所だろう。
顧問の先生も強く言わない辺り、篠ノ之束の影響は計り知れないのだろう。
「ふーん、大会優勝者ねぇ……。 まあいいや、せっかくだし他の皆は何処に入ったんだ? 先ずは鈴音からどうぞ」
「へ? あ、アタシから?」
軽く目を見開く鈴音だが、直ぐ様軽く咳払いをして胸に手を当てながら――。
「ふふん、ラクロス部よ」
「ラクロスか……鈴音なら体操部に入りそうな気もしたが、まあラクロスも悪くないよな」
「ふふん、勿論体操部でも良かったんだけどね? ラクロス部入部早々期待のルーキーって事で皆にも期待されてるのよ。 参っちゃうわね」
胸に手を当てていたが、直ぐ様腕を組む鈴音。
経験があるのかは知らないが、期待されてるのはやはり運動神経の良さもあるのだろう。
鈴音自身、身の軽さはかなりのものだし。
「成る程、活躍を期待したいが――ISとか疎かになるかもしれないから程々にな?」
「へへっ、わかってるわよ!」
ニッと八重歯を見せて笑う鈴音に、俺も笑顔で応えると今度はシャルを見ながら――。
「次はシャル、どうぞ」
「えっ、僕!?」
まさか次に自分に振られるとは思わなかったらしく、吃驚した表情を浮かべたシャル。
「あぁ。 まあでも言いにくいなら無理に言わなくても良いぞ?」
「う、ううん。 い、言いにくい訳じゃないんだけど……その……ね?」
テーブルの上で指を弄ぶシャル。
言いにくいのではなく、周りの状況で言いづらいのだろうか?
そう思っていたのだが、意を決したのかゆっくりとシャルは言葉を紡ぐ。
「え、えっと……料理部……だよ」
料理部という言葉に、成る程と思って小さく頷くと俺は――。
「料理部か、もしかして日本の料理などを覚えたかったのか?」
「そ、そうだよ? 日本って様々な料理があるじゃない? 日本独特の和風料理や郷土料理、日本の家庭各々の味とかいっぱいあって僕、すっごく感動したんだ♪」
笑顔でそう言うシャル――多分、本当の目的は肉じゃがだと思う。
何気なく俺は花嫁修行の一環云々という事を言ったからだ。
だがこれをこの場で口に出せば荒れるから絶対口に出さないが。
「そっかぁ……シャル、肉じゃが作れる様になったら食べさせてくれるか?」
若干キザっぽく、キリッと表情を整えて言ってみる。
「あ……。 も、勿論だよ……えへへ」
ポッと顔を赤らめる、シャル――だけじゃなく、セシリア、鈴音、ラウラ、美冬、未来に美春まで何故か見惚れるかの様に頬を染め、俺の顔をずっと見ている。
――ダメだ、遣りなれていない様なカッコつけた言動や表情は俺らしくない――てか、中学時代の友達が見たら腹を抱えて笑い転げそうだ。
そう思うと、慌てて咳払いをしながらセシリアを見、口を開く。
「こほん! 次はセシリアだ、部活は何処なんだ?」
「わたくしですか? わたくしは英国が生んだスポーツ、テニス部ですわよ?」
まだ少し頬に赤いものの、即座に返答を返したセシリア。
「テニス部? セシリアは向こうにいる時からテニスをたしなんでいたのか?」
「そうですわ。 他にも色々とやってはいましたが、部活動という事で今回はテニス部へと入部致しましたわ。 もしよろしければ、ヒルトさんもご一緒に如何ですか?」
「ん? テニスか……そういやテニスはやったことないな……見たことはあるが」
「それでしたら今度わたくしが教えますわよ? ヒルトさんなら直ぐにコツを掴むと思いますわ」
微笑みを浮かべて俺にそう言うセシリアに、俺の中でテニスをやってみるのも悪くないなと思い――。
「そっか、なら今度時間があれば頼むよ。 火の玉スマッシュ打てるぐらいには」
「うふふ♪ 火の玉スマッシュはわかりませんが、わたくしが教えますから大丈夫ですわよ。 大船――いいえ、豪華客船に乗ったつもりで安心してくださいな♪」
そんな例えに、豪華客船乗った事無いからよくわからないと思うが――気持ち自体は嬉しいので小さく頷く。
とりあえず、フレキシブルの特訓が上手くいってないことは一時とはいえ忘れられたのだろう――解決にはなってないが、多少気持ちが楽になったのなら良いのだが……と、ここでパスタを食べ終えたラウラが口を開く。
「ヒルト、私は茶道部だ」
「茶道部?」
そう聞き返すと、ラウラは小さく頷く。
茶道部といえば、学園祭でラウラがウサギの和菓子を食べにくそうにしていたのが印象的だ。
「成る程……茶道部か。 そういやラウラは日本文化に興味があるんだよな?」
「うむ、色々と興味深い。 昔は黄金の国、ジパングと呼ばれていたそうだが……」
確かマルコ・ポーロの東方見聞録だったかな?
……うろ覚えだから記憶が曖昧だ。
――と、ここで黙って聞いていた一夏が口を開く。
「確かさ、茶道部の顧問って千冬姉だっけ?」
軽く首を傾げ、ラウラに聞く一夏を訝しげに見ながら口を開く。
「……そうだ。 教官――いや、織斑先生が茶道部の顧問だ」
声色に冷たさを感じるも、一夏は気にせず「成る程なー」っと頷きながら呟く。
てか姉なんだから顧問ぐらい把握してないとダメな気がする。
そういえば風の噂だが、織斑先生のファンの女生徒が茶道部に一斉に殺到して正座を二時間させて篩にかけたとか耳にしたことがある。
正座二時間は――足の感覚が無くなりそうな気がしなくもないが。
「織斑先生が顧問って訊くと、案外意外な気もするが……」
「む? 確かに教官のイメージだと、運動部の顧問という色の方が強いだろうが……茶道もたしなんでいると、ドイツで訊いた事があってな」
俺の言葉に直ぐ様反応、そして軽くだがドイツで教官していた当時の織斑先生の事について言ったラウラ。
心底尊敬しているのだろう――うちの親父も尊敬してるが、同じ女性だからか更に深く尊敬してるイメージだ。
「ふむ。 織斑先生の事はまた今度訊くことにして、ラウラは長時間の正座は大丈夫なのか?」
「無論だ。 あの程度の足の痺れなど、拷問に比べれば容易いものだ。 ――だが、痺れた足を触られるのは苦手だ、幾ら嫁でもそれだけは……な?」
そう訴えかけるラウラだが、俺のいたずら心としては触りたくなるのが心情――涙目のラウラ、可愛いかもしれないし。
そんな風に考えつつ、機会があれば是非触って悶絶させたいと俺は心に誓った。
てか、何気に拷問と比べられてるが……拷問っていったい何をされたのか――よからぬ妄想的な内容ではないとは思うが、想像してしまうぜ。
もやもやと脳裏にはラウラに行われるエロい拷問が過り、下半身に血液が集中するのを感じると俺は軽く頭を振ると共に、この話題を変えた。
「茶道部といえば――ラウラもやっぱり着物着て茶道してるんだよな?」
「うむ、勿論着物着用しての部活動だからな。 き、気になるの……か?」
「ん? 着物姿なら気になるな、中々ラウラが着物を着てるイメージ想像出来ないし。 時間があれば見せてくれるか?」
「む、無論だ。 嫁が見せてほしいと言うのなら、夫はそれに応えるのが夫婦の定めと謂うものだ。 今度見せよう。 あ、後、チャイナドレスも購入したのだ。 いつでも見たいときに言ってくれ」
瞳を輝かせ、そう言うラウラ――お金の使い方としては悪くない使い方だと思う。
とりあえずそれは今度の楽しみって事で、次は――。
「美冬、美冬は何処に入ったんだ?」
「私は女バスだよ? 女子バスケね、今度お兄ちゃん付き合ってよ。 主に壁としてさ♪」
IS学園にも女子バスケ部があったらしく、美冬はそこに入ったようだ――美冬も運動神経は良いから大丈夫だろう……てか、てっきり空手部に入るのかと思ったのだが。
「壁か……フッ、俺の鉄壁ディフェンス、抜かせないぞ?」
「ふふっ、それはどうだかね? お兄ちゃんに負けないからね♪」
目映いばかりの笑顔でそう言う美冬に、少しドキッとする――というのもやはり先日、双子の妹の美冬とキスをしたからだ。
――二人きりの時、美冬の俺に対して前以上にべったりとくっついてくる。
兄としても嬉しいが、このまま一線越えそうな気がしてならない――いや、これは俺が戒めれば良いだけだが。
何にしても、皆のいる前だといつも通りの美冬で、二人きりだとブラコン全開(?)の美冬になる――可愛いけど。
それはさておき、最後に未来だが――。
「んじゃ、未来は? 美春はまだ決まって無いんだろ?」
「うん。 私はまだ決まってない……っていうか、どういうのが良いのか……ね」
そう答える美春、まあゆっくり決めるのが良いだろうし――。
「んと、私は書道部だよ? 運動部と悩んだんだけどね?」
「書道? これはえらく妙なチョイスをしたな」
「だね? ……でも、精神統一には良いかなって、部活動の方も積極的にやってる訳じゃないし、コンクールの時に出展するぐらいだからISの訓練にもあまり支障ないかなって思ってね」
成る程と納得、というか専用機持ちは基本時間を訓練に費やす方が理にかなってると思うが……まあ所属しないと不味いみたいだし、仕方ないかな。
――一通り女子一同の部活の事は聞き終えたので、さっき話に上がった着物について再度ラウラに訊いてみる。
「ラウラは着物とか新調しないのか?」
「う……い、今それを少し考えていた所だ。 ……ふふっ、流石は私の嫁だ。 以心伝心というやつだな」
「以心伝心かはわからんが、話題に上がったからな。 ……んで、新調するのか?」
「そうだな。 新しく一着持っていても悪くはない。 それに、今後使う機会があるかもしれんしな」
瞼を閉じて小さく頷くラウラ、日本に居るなら確かに着物を着る機会は恵まれているだろう。
「だな。 もし年末年始も日本に居るなら初詣に着ていくのもいいし――まあ、年末年始ラウラがここに居るかはわからんが」
そう伝えると、ラウラは閉じていた瞼を開くと真っ直ぐと俺を見ながら。
「ね、年末年始は帰還命令さえなければ日本に居るつもりだ。 向こうにはヒルトは居ないからな……」
若干の照れの入った言葉で呟くラウラ――その言葉に自然と頬に熱を帯びるのを感じた。
――一夏は何を言ってるのかわからないといった表情浮かべているが――まあわからなくていいと思う。
そんな俺とラウラの様子を見て、複数のジト目の砲火に晒されるがそこは軽く咳払いをして俺は口を再度開く。
「他の皆はどうするんだ? 年末年始、帰国するのか?」
「あ、僕は日本に残るよ?」
シャルがそう口にしてニコッと微笑む――と同時に、俺は内心しまったという思いでいっぱいになる。
シャルは帰国出来ない身――忘れてた訳じゃないが、うっかり口を滑らせてしまった事に、俺は謝ろうと口を開くが――。
「ヒルト、気にしなくていいよ? 僕なら大丈夫だし、今はフランスよりも日本の事が好きだしね♪」
そう笑顔で言うが、本心としてはやっぱり自分の母親の墓参りにも行きたいだろうし、自分の生まれ育った場所にいる友人にも会いたいのだと思うのだが……。
自由国籍権――普通の一般人なら申請すれば他の国に国籍を移せるが代表候補生ともなればそう簡単にはいかない――だったかな……。
それをシャルが取得すれば問題は無いのだが……或いはフランス代表に選ばれるか……勿論、その道は険しいから複数の解決案が無ければシャルの待つ未来は真っ暗になるだろうし。
――最後の手段としては、俺がシャルを嫁に貰えばいいが……これはあくまでも最後の手段だ。
ともかく、後でまた謝ることにするかな……流石にさっきのは俺のミスだし――と、シャルが言い終えたからか、次にセシリアが言葉を紡ぐ。
「わたくしも年末年始は残りますわ。 イギリスには夏に帰国致しましたし、もしも国から何かあればわたくしに連絡はあるはずですから」
セシリアも笑顔でそう告げる――この様子なら鈴音も残りそうだな。
「アタシも残るわよ? 向こうに帰っても何かある訳じゃないしね?」
――とのこと、代表候補生になってから離婚した親とは会ってないのだろうか……気にはなるが、これは流石に俺が踏み入れられる領域じゃない。
そう考えをまとめ、俺は小さく頷くと鈴音はニッと白い歯を見せて応えた。
美冬や未来、美春は日本に居るのは確定だから訊かなくても問題は無いだろう――と、篠ノ之が一夏に――。
「年末年始か……一夏、年末年始は私は空いているぞ」
「ふぅん、そっか」
「……………」
まさかの一夏の言葉に、篠ノ之も口をパクパクさせ――。
「フンッ!」
ゴツンッ――と鈍い音が響き渡る――篠ノ之の拳骨が一夏の脳天にもろに一撃を食らわせた音だ。
頭を擦る一夏を他所に、食べ終えた篠ノ之はトレイを手に持ち、そのまま立ち去っていった。
「イテテ……何怒ってんだ……あいつ?」
そう言いながら首を傾げる一夏を他所に、セシリアが――。
「……篠ノ之さん、好きな殿方にはいつも手が出てますが自身が嫌われるとは思いにならないのかしら……?」
何気ない言葉だが、それは確かに俺も思う。
実際、俺はあんな感じに暴力振るわれたら絶対好きにはならないな。
「……一応ツンデレって奴じゃないのかな? 僕はわからないけど、暴力嫌いだし……って言っても、やっぱり嫉妬しちゃうけどね、あはは」
そう俺を見ながら応えるシャル――そういや、よく腕をつねられたな……まああの程度で嫌いになる方が難しいが。
「あ、アタシはちょっと耳が痛いわね……。 く、口より先に手が出ちゃうから……あはは……」
――とは言うものの、最近はわりと成りを潜めてる気がするが――。
「ふむ。 まあ私も嫉妬はするが、やはり暴力はな……セシリアや鈴、美冬を傷付けておいて言える立場ではないが――」
「――ラウラ、私もセシリアも鈴ももうその事は気にしてないから口に出しちゃダメだからね? そうやって気にするとラウラの好きなかき揚げ、目の前でこれみよがしに食べちゃうからね?」
「な、なんと!? お、お慈悲を……」
「じゃあ気にしないこと♪ 良いわね?」
「ぜ、善処しよう」
――まるで姉妹の様なやり取りにほっこりしつつも、食べ終えた食器を片付け始める俺。
「あれ? もうヒルト戻るの?」
「あぁ、今日の射撃訓練で目を酷使したからな。 目薬さして寝る前までちょい色々貯まった本を読まないといけないからな」
食器を片付けてると、いち早く反応した美春が俺にそう言い、俺は答えると納得したのか小さく頷く。
「まだ私達はここで皆とお話してるから、用事があったらここに来てね? ――てか織斑君居なくなってる」
未来がそう言い、確かに一夏が居ないと思って辺りを見渡す。
――と、篠ノ之が居なくなったからか他の女子に捕まっていた。
今日の授業での射撃の高得点を耳にしたのか、私にも教えてーって声が聞こえてくる。
――因みにだが、俺がセンサー・リンク等を切ってるのは専用機持ちと一部生徒(玲と鷹月さん、ティナ)にはわかっていたようで、多分この様子だと織斑先生や山田先生にもバレているだろう――言わない辺りは多分騒ぎになるからだと思うが。
まあ言及された訳じゃないから憶測だが――というか、そういえば今日は理央は体調崩して休んでるんだったかな――部屋に戻る前にちょっと様子でも見るかな。
そう思うと善は急げといわんばかりに片付けると俺は――。
「んじゃ皆、先に戻ってるよ」
「了解~。 お兄ちゃん、またね?」
美冬が代表して言うや、直ぐ様専用機持ちの女子は別の話題に入った。
聞こえてくる内容も気にはなるが、立ち聞きもあまり行儀は良くないと思い食器を片付けると足早に寮の食堂を後にした――。
後書き
長くなった
長いの疲れる
次回は栗原理央の部屋へLet's go
多分短いかも
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