IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第493話】
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今回はシャル&ラウラ編
荒い呼吸を調えるように、何度も肺に空気を送り込む二人――シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒ。
既に一機は機能停止に追い込んだものの、いつの間にか潜り込んでいた新たな伏兵に苦戦を強いられていた。
先の戦いで受けた傷が二人の体力の消耗を促している――シャルロットは右腕に火傷と、無数の小さな切り傷、ラウラはブレードによって大きく切り裂かれた傷が目立った。
脳内アドレナリンの分泌によって、思った程の痛みを感じてはいない――だけど、二人はこのままだと不味いと脳裏に過った。
「ラウラ……傷は大丈夫?」
「あぁ、既に傷は塞がった。 ……問題ないぞ、シャルロット」
額の汗を軽く拭うラウラ――シャルロットはラウラのその言葉が嘘だというのを見抜く、彼女は簡単に弱音を吐かないのも知っていた――だからこそ、早く相手を仕留めないとという焦りが見え隠れする。
膠着状態が続く――この時間、一秒一秒が二人には長く感じられた。
静寂が辺りを包む――襲撃者が先に行動を移そうとしたその矢先、アリーナ超上空から空気を切り裂き、まるで地表へと落下する隕石の様な轟音が轟く。
そして、アリーナを覆うバリアーを突破、地表数センチという所で完全停止――代表候補生なら誰にでも出来る内容だが、その鮮やかな停止と、全く砂塵を空中に舞うことのない繊細な操縦テクニックに唖然とさせられた。
上空から突如現れた漆黒の機体、各部に襲ってきた襲撃者の機体に似た部分が見受けられ、新たな増援だと思い身構える二人――。
『――No problem、ワタシハテキデハナイ』
「え……?」
全身フルスキンの漆黒の機体から発せられた機械音声、突然の事に戸惑うシャルロット、だがラウラは突然現れた介入者に対してリボルバーカノンの照準を向けた。
「敵ではないだと? ……戯れ言を、今この状況での身元不明のアンノウンの言葉を信じる私達ではないッ!!」
ラウラは力強く言い放つ、本来なら敵を増やすのは状況を不利にさせるだけなのだが身元不明の機体を信用しろと言われても到底無理な問題だった。
各国の登録機体一覧を参照――探すも、該当する機体が存在しない、更に言えば各国が介入出来ないこのIS学園に介入してきたのだ、思惑が見えない間は信用出来ない。
だが、そんなラウラの言葉を他所に、目の前の介入者は――。
『……キミハアイカワラズダナ、ラウラ』
「何……!?」
相変わらず――その言葉にギョッとするラウラ、名前を知られてるのはドイツ代表候補生という事もあるからだろうが、《相変わらず》という言葉は、昔から知っているという事に――。
「貴様は何者だ! 相変わらずというのはどういう意味だ!?」
『………………』
ラウラの言葉に沈黙する介入者、表情はフルスキンで覆われているため、シャルロットからも伺いしれなかった。
刹那、襲撃者から放たれる高出力圧縮粒子熱線――あのやり取りの間に最大までチャージしていたのだ。
油断した――シャルロットとラウラの二人はその自身の迂闊さを呪う。
だが、その熱線は介入者によっての遮られる、超反応によって正面に不可視の壁が張られ、二人に危害が及ぶ事はなかった。
『……フッ、コノテイドノフイウチデワタシヤカノジョタチヲタオソウナドト……ショウシダナ、コレガ』
ツインアイに青い光が灯る、ラウラは何故私達まで守ったのか、目の前の介入者の行為がわからなくなっていた。
一方のシャルロット、不用意かもしれないけど、この目の前にいる介入者が敵だとは少なくとも思えなかった、敵なら僕達二人を助ける義理はないはずだと。
「ラウラ……」
「ッ……不用意な真似をすれば、この私が拘束するからな……!!」
『……ゴジユウニ』
まるで不敵に笑うかの様に言い放つ介入者、ラウラはいざとなればAICで拘束すれば良いと思い、襲撃者へと意識を向けた。
「…………」
シャルロットは、銃を構えながらも介入者の様子を伺っていた、それと、介入者の言葉遣いが少し気になったのもあった。
『……ドウシタ? ワタシガキニナルノカ?』
「う、ううんッ!? た、ただ、見たことの無い機体だったから気になっただけだよ……」
『……ソウカ。 ……キミハカナラズマモル……』
「えっ……?」
聞き間違えじゃなければ、僕を守るって――その言葉に、この介入者はもしかすると学園関係者なのかもしれないという可能性が生まれた、無論無数にある可能性の一つに過ぎなかったが。
そして、戦闘が開始される――先ずは右に大きく回り込む様に動くシャルロットは、すかさずマシンガンによる射撃を開始した。
その面制圧射撃によって脚を止められた襲撃者は、左側からのレールカノンによる砲撃の直撃を浴びせられた。
そして、正面に居た介入者の圧倒的加速力による体当たりの一撃に、襲撃者の機体は大きく体勢を崩し、ぐらついた。
そのまま流れる様な格闘術によって破砕されていく襲撃者の装甲、一撃一撃の威力が既存の第三世代を圧倒する程だった。
――そして、ゼロ距離から放たれた掌打による一撃で空中へと打ち上げられる襲撃者。
襲撃者もただただ黙ってやられてる訳にはいかなかった、謎のイレギュラー登場によって狂った目標の修正を行う。
巨大な体躯を捻って回転させ、長大なブレードによる連撃を介入者に叩き込むのだが。
『……ソノテイド』
勢いのついた一撃一撃、身を逸らし、粒子化された剣によって受け流した。
そして、大きく隙を作った襲撃者に対して左脚部間接部に剣を突き刺した、紫電が放出され、小さな爆発と共に左脚部の膝から下が消失した。
『――――――』
『……フフッ』
圧倒的な力量差、端から見ても未だに本気で介入者が戦ってる訳じゃないのをシャルロットもラウラも直感した――ラウラは思う、本当に拘束が出来るのだろうか――と。
このアンノウンに対して、現状で拘束が出来そうな人物は二人の教官である有坂陽人、織斑千冬の両名しか思い浮かばなかった、介入者の力の片鱗しか見ていないがそれだけ自身との力量差を感じていた。
『…………オソイッ!』
ブレードと熱線による交差連撃を容易く避けるや、介入者の脚部装甲からワイヤーブレードが射出された。
だがこのワイヤーブレードは、刃部分にエネルギー粒子が帯びていて、ラウラの機体の物よりも技術レベルが遥かに進んでいた。
間断無く攻撃を続けるワイヤーブレードと介入者の剣撃に、ダメージが蓄積する襲撃者、アリーナ空中を縦横無尽に駆け回る激しい戦闘、だが誰が見てもやはり介入者の戦闘能力の方が高かった。
ISは表面上はスポーツとしての体裁をとられているが、実質兵器としての運用しかされていない、それが明確にされてるため、IS操縦者の訓練内容はまるで軍隊のそれと同様の内容を行う。
だがそれでも、命のやり取りという概念からは外れていた、絶対防御の存在故に――。
目の前の介入者の動きは、訓練で得た動きではなくまるで本当の命のやり取りを行った人間の様にも思えた、尋常ならざる殺気とプレッシャーが、シャルロットに鳥肌を立たせていた。
――だが、そんな状態でもシャルロットは介入者が此方を守るのが少し気になった。
ラウラやシャルロットに飛ぶ流れ弾一つ一つ、過剰とも取れるぐらい庇う――そんな些細な行動が、どうしてもシャルロットには敵だとは思えなかった、勿論心の奥底から信用したわけではないのだが――。
遂に激しい攻撃により、左腕が喪失した襲撃者、体勢を崩され、勢いよく地表に叩き付けられた襲撃者を介入者は叫ぶ――。
『シャル! ラウラ! 火線を集中するんだッ! 一斉射撃で仕留めるッ!!』
「「……!?」」
機械音声ではなく、聞こえてきたのは【男の声】だった、それも……シャルロットの事をあだ名である【シャル】と呼んだ。
だが、今はその事は置いておき、シャルロットとラウラは照準を向け、一斉射撃――介入者も、全身の装甲がスライド展開し、白く輝きを放つ。
『……終わりだッ!! シャイニング・ブラスタァァァッッッ!!』
キンッ――と甲高い高周波が鳴り響くや、高出力の白い圧縮熱線が全身から放たれた。
その威力は凄まじく、襲撃者の機体をコアもろとも消失させた――。
戦闘は終わった、だが……終わったからといって謎を残す介入者を野放しにするわけにはいかなかった。
ラウラは凄まじい速度の瞬時加速で介入者に肉薄、即座にAICによる停止結界で捕縛した。
『………………』
「大人しくしてもらおう、貴様が何者であるか、何故シャルロットを【シャル】と呼んだのか、そして……その機体の出所、コアの入手経路等を洗いざらい話してもらうぞ」
抵抗を見せない介入者、シャルロットも助けてもらった恩はあれど、謎のイレギュラーを放置する事は良しとしなかった。
銃口を向けるシャルロット、何故かそれを見た介入者は物言わぬ機械の目で見つめていた。
『……ワルイガ、マダキミタチニトラワレルワケニハイカナイ』
「……抵抗するならば……!」
そう言ってプラズマ粒子を収束させ、刃を形成させたラウラ。
介入者の覆うフルスキンヘルムを一刀両断しようと上段の構えで振りかぶった――だが次の瞬間、アリーナ上空から高出力の粒子ビームの雨が降り注いだ、一撃一撃がアリーナを覆うバリアーを貫通させる程の威力、その雨と共に現れたのは真っ赤な装甲のフルスキン型のISだった。
AICを解除し、距離をとるラウラ。
『……キテクレトハタノンデナイノダガナ』
「……兄さんのピンチに、駆け付けない訳にはいかないでしょ?」
『……ココデハボスダ、ボストヨブノガイヤナラ【ウィステリア・ミスト】トヨベバイイダロウ』
「……自分ばっかりカッコいいコードネーム着けちゃって……」
小声で話す二人の会話を聞き取れず、ラウラは新たに現れた介入者に対して先制攻撃を仕掛ける――だが。
「……単一仕様、発動かな?」
小さく呟いた新たな介入者、その瞬間――。
「……なっ!?」
「う、嘘……!?」
二人は信じられないといった表情を浮かべた、身に纏っていたISが『強制解除』され、装甲が粒子となって弾け飛んだ。
空中から強制解除された二人だが、訓練の賜物なのか、特別怪我を負うことなくアリーナ地表へと降り立つ。
まだエネルギーは二機ともあった、だがそれなのに強制解除されたのだから驚きを隠しきれなかった。
そんな中、更に新たな機影が現れる――だが、今度はアンノウンではなく、シャルロットやラウラの知る顔――想い人であるヒルトだった。
「シャル! ラウラ! 無事か!?」
ヒルトの第一声がアリーナに飛び交う、身元不明の機体より、彼女達の身を按じたのは彼なりの優しさから来るものだろう。
「僕達は大丈夫だよ、ヒルト」
「だがすまない、私達はもう……」
「……大丈夫だ、二人は休んでるんだ」
一目見て負った火傷や切り傷を見たヒルトは、空中に居る二機を睨み付ける。
「……言っておくけど、私達が彼女達を傷付けた訳じゃないからね」
「……!? 女の声……」
ヒルトは驚いた、自分が戦ってきたのは全て無人機ばかりだったからだ、だが目の前の二機の内一機からは女の声が聞こえてきたのだから。
「ヒルト、それだけじゃないよ……。 もう片方の機体には……【男の人】が……」
「……なっ!?」
そう告げたシャルと、空中に居る二機を交互に見やるヒルト、すると――。
「……隠す必要は無いという事だな、まあ……全ては私のミスによって暴かれただけだがな」
「……!!」
黒い機体の方から、機械音声ではなく確かに男の声が聞こえてきた。
亡国機業に居るもう一人の男とは違う新たな【男のIS操縦者】。
あまりの事態に頭の中が整理できないヒルトに、介入者である男は一人呟く――。
「……限り無く遠い存在であり、極めて近い存在でもある……か。 ――戻るぞ、シルバー……上の首尾はどうか?」
小さく呟いた後、側に居た女性介入者に状況を聞く男。
「回収は成功、後は私達が離脱すれば……」
「了解した、この学園の【ガーディアン】の足止めは?」
「カーマインに任せてるわ、後は後退信号を発したら離脱するって連絡が」
「成る程……。 ならば帰還しよう。 ――もう介入しなくても、今回は大丈夫だと思うしな、これがな……」
一通り会話を終えた二人は、離脱しようと全スラスターを展開した、それに気付いたヒルトは叫ぶ。
「ま、待て!!」
「……待てといわれて待つ奴は居ないさ。 ……有坂ヒルト、いずれまた会うこともあるだろう」
「ふふっ、じゃあね。 機会があれば刃を交えましょう」
そう言い残すと、その場を離脱する二機、加速力が段違いで離脱時の衝撃破がアリーナ全体を襲った。
「くっ……二人とも、大丈夫か?」
「ぼ、僕は平気だよ、ヒルト」
「私もだ。 ……すまないヒルト、AICで拘束していたのだが……」
全体の状況がわからないヒルトだったが、首を軽く振ると――。
「いや、構わないさラウラ。 ……二人とも、怪我の治療に行くんだ。 今回は間に合わなかったが、まだ先輩達が戦ってる」
シャルロットとラウラの傷の具合も気になるヒルトだったが、未だ戦いが終わってない所もあると思い、それだけを告げる。
「……うん。 ヒルト、気をつけてね」
「すまない……この程度の怪我で離脱するのは心苦しいが……」
「いや、ラウラはどう見ても重傷一歩手前だろ。 シャルだって火傷が酷い、二人ともその傷が残れば色々と嫌だろ?」
ヒルト自身は傷が残ろうとも彼女達は彼女達で変わる事はない、だけど世間で見れば傷が目立つ代表候補生を中傷する事もあるかもしれないと思った。
「じゃあ俺は行くから――」
「あ、ひ、ヒルト!」
飛び立とうとするヒルトを呼び止めたシャル、何事かと思い、振り向いた。
「……無茶だけはしないでね? 僕もラウラも、ヒルトが来てくれたのはスゴく嬉しいけど……君は、気付いたら一人で何でも背負おうとするから」
「……そうだな、無茶だけはしないようにするさ。 サンキューな、シャル」
柔らかな笑みを浮かべたヒルトに、シャルも微笑む、一方のラウラはそんなシャルロットを羨ましく見ていた。
私じゃ、そんな風に言えない、シャルロットのその性格が羨ましい――と。
ヒルトもそんなラウラに気付く――だが、声をかけることはしなかった。
そして、ヒルトは小さく頷くとまた大空へと飛び立っていった――一方。
「あぎゃ、後退信号が出たか……」
『……チィッ……!』
手負いのガーディアンである有坂陽人の相手をしていたカーマイン、黒夜叉は襲撃者との激しい激戦とカーマインによる足止めによって損傷は著しかった。
「……手負いのてめぇを倒しても、俺様は満足しねぇ。 次に対する時までに、その機体を万全にしときな」
一瞥し、その場を離脱しようとするカーマインに、有坂陽人は――。
『……今回の襲撃も、お前ら亡国機業が――』
「あぎゃ? ――けっ、亡国機業とは何も関係無いな。 どちらかといえば今回は学園を助けに来てやっただけだ」
『……何?』
「あぎゃぎゃ、俺様達が遥か上空で食い止めなきゃ、今頃学園は死傷者で溢れかえってた筈だぜ。 ――これ以上は自分で考えな、有坂陽人」
そう言い残し、学園から離脱したカーマイン――その凡そ十五分後、その場に倒れていた有坂陽人を救出したのはやっとセキュリティ解除の出来た教師部隊だった。
後書き
次回は多分先輩達の話、多分(ぇ
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