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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第488話】

 
前書き
お待たせしたっす( ・ω・)

続きをどうぞ 

 
 つばぜり合いを続ける二機のIS、一方は学園を襲撃してきた黒い機体、もう一方は学園を守るために戦う飯山未来の機体【天照】。

 当初は未来が優勢だったのだが、一瞬の隙を突かれての相手の一撃によって一部装甲が砕かれ、露出した生身部分に強烈な一撃を受けた。

 一時的な身体能力の低下に伴い、徐々に劣勢へと立たされていた。


『――――』

「っ……、ま、まだ……だぁッ!!」


 自分を奮い立たせる為に叫ぶ、不思議と天照自身が未来に呼応するかのようにパワーが上がっていった。

 だが――力押しで続いていたつばぜり合いは唐突な終わりを見せた。

 相手がわざと力を抜き、横に避けた――押していた未来の体勢が前のめりで崩される。


「え――――」


 自分の中でも気付かぬ内に、そういった駆け引きが出来なくなるほど余裕がなかったのかもしれない。

 完全に無防備な背中を露にした未来、その隙を襲撃者は見逃さなかった。

 機体にプログラムされていた命令――【イレギュラー】要素のある人間の抹殺を実行する為に巨大な大剣を突き刺そうと動く。

 振り向く未来の瞳に映った光景は絶望だった、自身の命が奪われる――脳裏にそれが過ると恐怖が心を支配していった。


「……す……て……ルト……」


 無意識に唇が動く未来、掠れて、誰にも聞こえる筈もなかった。


「……たす、けて……ヒルト……」


 死の恐怖が支配する未来が口にしたのは、想い人である幼なじみのヒルトだった。

 巨大な大剣が未来を貫こうと構え、一突きに突き刺そうと振るった。

 走馬灯の様に幼かった頃の思い出が蘇ってくる、その中の一つの思い出が鮮烈に未来の中で蘇った。

 まだ小学校低学年の頃、近所でも吠えて怖い犬が居る家の前を通らなければならなかった未来、いつもは母親と一緒に買い物に行くのだがこの日だけは醤油が足りないという事もあってか未来一人での初めてのお使いだった。


「……グルルゥ……ッ!」

「…………ッ!」


 歯を剥き出しに此方を睨んでくる犬に、未来は前に一歩踏み出せずにいた。

 この家の前を通らないと、車通りの多い大通りへと迂回しなければならない、帰宅時間という事もあって往来は激しく、自転車の無謀運転や大型車等小学生一人で行くには危なすぎる場所だった。

 剥き出しの歯に涙目になる未来、だけど勇気を振り絞り、未来は一歩を踏み出したその時。


「……! ガウッ! ガウッガウッ!!」

「……ひっ……!?」


 一歩踏み出した未来に容赦なく吠える犬、未来は小さく悲鳴を上げた。

 時間だけが過ぎていき、夕日が徐々に落ちていく――一歩の勇気を踏み出せず、今にも泣き出しそうな未来の背後から――。


「どうしたんだよ未来? おばさんが心配してたぜ?」


 後ろからの声に驚き、振り向いた先に居たのはヒルトだった。

 産まれた当初から黒髪ではなく、青みがかった白銀の髪で一発でヒルトだとわかるぐらい町内では有名だった、いい意味でも悪い意味でも。

 唐突に現れた幼なじみに目をぱちくりさせる未来。


「なんだ? また泣きそうになってたのか、未来?」

「な、泣きそうになんかなっていないもんっ! ゆ、夕日が眩しかっただけだもんっ!!」


 涙目を指摘され、未来はそう言った。

 そんな中でも吠える犬に、未来はやはり怖いのか徐々に涙目に戻っていく。


「……ったく、強情だなぁ。 ――ちょっと待ってな、未来」


 そう言ってヒルトは吠える犬の目の前に行く、幾らリードを繋がれているからとはいえ、噛まれたら大怪我は免れない。

 だけど未来が呼び止める間も無く、ヒルトはポケットから何かを取り出し、それを見せると家の庭に向かってそれを投げた。

 リードに繋がれてるとはいえ、習性なのか投げられた物に向かって駆けていく犬、ヒルトはその間に通れと未来に向かって合図した。

 慌てて家の前を駆け抜けていく未来、通り過ぎ、荒い呼吸を調える為に何度も深呼吸を繰り返した。


「これで通れただろ、未来?」

「……べ、別に、未来だけでも通れたもん」


 強がりを口にする未来、本心ではヒルトに感謝しているのだが素直になれずにいた。


「本当かなぁ? 俺が来なかったら、今もあそこで佇んでたんじゃないのか?」

「むぅ……大丈夫だもん!」

「そっか。 なら俺はこれで帰ろうかなー」

「え……?」


 ヒルトの言葉に、未来は戸惑う。

 帰りもこの道を通る――つまり、またあの家の前で立ち往生する展開が見えていたからだ。

 未来はまたも涙目になりそうになるが、そこでヒルトが白い歯を見せて笑う。


「うそうそ、未来が心配だし、ちゃんと着いて行くって! おばさんにも頼まれてるしな」

「……し、仕方ないから、付き合わせてあげる。 ほ、本当は未来だけでも大丈夫なんだからね? ほんとにほんとだよっ!?」

「はいはい、わかったわかった」

「むぅ~、信じてないなー」


 そんな微笑ましい二人の姿を、電信柱から覗く一人の女性が言葉を洩らした。


「フフッ、未来ったら素直じゃないんだから」


 クスクスと笑みを溢し、様子を伺っていたのは未来の母親だった。

 そんな昔の事が鮮烈に蘇った未来、後で自分の母親がその様子を見ていたのを知った時は顔から火が出る思いだった。

 迫る巨大な刀身、キュッと瞼を閉じる未来――だが、襲撃者の刃が未来の身体を貫く事は無く、金属音が激しくぶつかる音だけが鳴り響いた。


「未来、無事か?」

「ヒル、ト……」


 間一髪の所をヒルトに救われた未来、安心すると共に瞳から一筋の涙が伝う。


「……大丈夫だ未来、俺が居る限り――俺が守るさ! ……頼りない幼なじみかもしれないがな、これが」


 振り向き、未来を見つめるヒルトの顔が未来には眩しく映った。


「……うん。 ――でも、ヒルトに守られてるだけじゃ嫌だから。 ――大好きなヒルトの力になりたいから、私もヒルト――貴方の背中を、守りたいから」


 言葉を発する未来に呼応するように天照が光輝く。


「頼りない幼なじみ何かじゃない。 ――私にとっては、ヒルトはずっと頼りになる大事な人だから――だから!」


 天照を包む光が、周囲に強烈な閃光としてアリーナ中心を包む。

 楯無の面倒を見ていた簪も、紅い機体と戦っていた一夏や箒迄もその閃光に目を奪われていた。

 閃光が収束し、その中心から現れたのは第二形態移行した【天照・神】を纏った未来の姿だった。


「だから私も戦う! 私も……学園を守るために、ヒルトを守りたいからッ!」


 ヒルトの横から抜け出た未来は、強烈なハイキックを襲撃者の頭部に叩き込む、体勢を崩した襲撃者にすかさず連撃を入れたのはヒルトだった。

 北落師門・真打ちによる袈裟斬りからの逆袈裟斬り、その一連の動作の隙を補うように未来は右腕の【クサナギブレード】による胴抜き一閃、息のあった連続攻撃に襲撃者のシールド・ビットによる防御すら許さない怒濤の攻撃に、堪らず後退をする襲撃者――だが。


『マスター! 動きを止めるですよぉ!( `皿´)ノシ』


 イザナギのコアが露出、先程同様に襲撃者に対して粒子力場を形成するウェーブを放出、動きを固定した。


「未来!!」

「任せてッ!! ――ハァァアアアアアッ!!」


 周囲に展開していた【九式・禍乃白矛・神式】――第二形態移行に伴い、より洗練され鋭く、まるで天を貫く西洋の槍に変貌していた第三世代兵装が粒子の刃を纏い、全てが襲撃者の機体を貫いた。

 そして、構えたクサナギブレードによる一刀両断――その一撃に機体は縦に裂け、第三世代兵装と共に離脱するや、襲撃者の機体は爆発四散した――貴重なISコアと共に。


『マスターマスター! 動きを止めた僕を誉めて誉めて!( ̄^ ̄)』

『はいはい、良くできました良くできましたっと』

『むぅ(`ヘ´) 心がこもってないのですよぉ!(`o´) おこですよぉ!(`o´)』


 そんなイザナギの声はヒルトには届いていなかった、傷を負っていた筈の未来の柔肌は完治されていたからだ。

 艶やかな黒髪が風に靡く――そんな未来に見とれていると、未来はその視線に気付いたのか視線を此方に向けた。

 慌ててヒルトは視線を逸らした。

 だがその視線の先には――まだ【紅い機体】が残っていた。

 一夏達二人の攻撃を適当にやり過ごし、時には加減した攻撃で応対していた紅い機体。

 今なお二人を応対しつつも物言わぬモノアイを此方に向けていた。


「クッ……! お前の相手は私達だぞッ!」


 二対の刀を振るい、攻撃を行うもその剣閃は相手には容易く見切られていた。

 そして、箒の大振りの隙を狙い、加減した攻撃を行う――プログラムに従うように。

 だがその攻撃は一夏が二機の間に身体を滑り込ませ、一撃を受け流した事で特に大事に至る事はなかった。


「――箒は、やらせねぇッ! 箒だけじゃねぇッ! 学園も、仲間も――皆を守れなくて、何が男だ!」

『――――――』


 互いにつばぜり合いを続ける二機、一夏は力押しで五枚刃のブレードを押しどけようとするが機体パワーの差が激しく、びくともしなかった。

 空いた左手を翳す――第二形態移行したと共に、手のひらには砲口が開いていた。

 粒子が集束――放たれようとしたその時、箒が叫ぶ。


「一夏! 危な――」



 叫ぶ一夏よりも早く、割って入り、翳した左手を弾く。

 翳した左手の粒子砲は明後日の方へと向き、アリーナの内壁へと直撃した。


「はぁっ……はぁっ……!」

「簪……」


 割って入ったのは更識簪だった、心の奥深く、ほんの少しの勇気の欠片を握り締め、一夏の窮地を救った。

 それが災いしたのか、ヒルトに向いていたモノアイが簪の方へと向く。

 周囲の邪魔になる一夏、箒の二人をシールドビットをぶつけて分断させる。


「くっ……このっ!! 邪魔だ……!」

「ッ……! 簪ぃぃぃッッッ!!」


 一夏の声は簪の耳には届いてなかった、目の前の紅い機体が放つプレッシャーに、振り絞った勇気の欠片が呑み込まれそうになる。

 だけど、簪は退かない――退けば、前の自分に戻ってしまう――そう思ったからだ。

 右腕の五枚刃のブレードを振りかぶる紅い機体。

 自身の武装である薙刀、夢現を構えて防御の姿勢をとったまさにその時、紅い機体の背後から黒と白の二機の機体が交差攻撃を行った。


「悪いな、簪。 ……そして、ありがとうな。 勇気を出してくれて」

「わ、私……も、学園の生徒、だもんっ……! 死ぬのは、怖いけどっ。 も、もう、後ろ向きな自分にっ、さよならするからっ!」


 言いたいことを上手く口に出来ない簪だが、未来はふわりと笑みを浮かべると。


「うん、皆で戦えば大丈夫だよ。 ……怖いのは皆一緒だよ、私も死ぬのは怖い――でも、皆が居るから、ヒルトが居るから――」


 言葉を遮るように、紅い機体は強襲を仕掛けてくる。

 明らかにさっきまでとは違う攻撃頻度であり、破壊された黒い襲撃者の無数のシールドビットのコントロールを得て間断なく攻撃を続けてきた。


「チィッ……明らかに殺る気満々だな……」


 ヒルトは一人ごちる、脚部からワイヤーが伸びるとそれが周囲のシールドビットを弾いた――先端にはラウラの機体同様のブレードが備わっているのだが、刃は粒子で覆われていて威力が増していた。


「うん、特に私とヒルト相手にはって感じ」


 一方の未来も、両手にアサルトライフルを構え、的確にシールドビットを落としていく。


「私だって……負け、ないっ!」


 打鉄・弐式に迫り来る無数のシールドビット、それを自身の機体に備わったミサイルで迎撃していった。

 マニュアル操作によるミサイル迎撃、負担は大きいものの不思議と今の簪なら出来ると。

 ミサイルは多角的軌道を描くシールドビット一基一基に直撃、空中で連続して爆発音が鳴り響いた。

「このまま……っ!!」

『――――――』


 何発か抜け出たミサイル群、推進部分のみを切り捨てる紅い機体――有効打にはならず、ミサイルは地表で爆発した。


「ったく……しつこいやつだよ」


 射出されたワイヤーブレード四基全てを巧みに扱い、無数にあったシールドビットを一刀両断して落としていくヒルト。

「でも、アイツが隊長機ならこれで終わりだよ、もう増援も降りてこないもん」


 未来はそう言う、散発的に来ていた襲撃者も途中から降りてこなかった。

 学園上空には黒夜叉と飛行するフライヤーユニット一機が其処にいた。

 終わりが近い――そう思えば、疲労も無くなっていくのを感じた。

 そんな一瞬、一夏達の足止めをしていたシールドビットの一部が簪へと向かっていく。

 ミサイルのマニュアル操作に集中していた簪の隙を突くように迫る。


「…………!?」


 ヒルトや未来が気づいた頃には、迫り来るシールドビットに間に合わない状態だった。

 直撃――したかに思えたその時、重傷の身を押して、意識が戻った楯無がシールドビットを一閃。


「……っ、さ、流石にキツい……わね……」

「お姉ちゃんっ……!」


 体勢を崩した楯無を、簪は支える。

 血の気が引いた青い表情の楯無に、ヒルトは言葉を口にする。


「……無理はしないでください、こんなことで死んだら……つまらないですからね」

「ん……そ、そぅね……。 っ……くぅ……!」

「ヒルト、私が少しの間抑えてるからッ! 楯無さんをよろしく!」


 痛みに苦悶の表情を浮かべた楯無、未来が紅い機体を抑えてる合間にヒルトは楯無に近付いた。

 背中の斬り傷が開き、また血が流れ出ていた楯無。


「……いくら学園最強でも、無理すれば死ぬ可能性だってある」

「あは……妹のピンチに、姉が出来る事って……これぐらいだから……」


 力なく笑う楯無に、ヒルトは一喝する。


「だからって、無茶をしていい筈ないだろッ!!」

「…………ご、ごめん……」


 まさか怒られるとは思わず項垂れる楯無、簪もそんなヒルトに戸惑っていた。


「……後は俺達に任せてください、貴女に死なれたら……目覚めが悪いですから」

「……ふふっ、お姉さんはそう簡単には死なないわよ。 ――じゃあ、少しの間……頼むわね? ……失敗したら、お姉さん……ヒルトくんボコボコにしちゃうから」


 力なくそう告げ、地表に降り立つとISが解除され、その場に座り込んだ。

 今なお一夏達は足止めを食らっており、未来は楯無の為に囮となって交戦、簪も立ち上がれたのか真っ直ぐと力強い眼差しで相手を見据えていた。

 一方のヒルトも深く息を吸い込み、吐く――瞼を閉じ、神経を研ぎ澄ませ、意識を紅い機体へと集中させた。

 激しくぶつかり合う金属音、空気を切り裂く刃、秋なのに強い日差しがひしひしと感じる。

 ゆっくりと瞼を開き、俺は北落師門・真打ちを構えると、俺は真っ直ぐと相手に向かっていった。

 
 

 
後書き
そろそろゴーレム戦終わりそう、ってもまああくまでも第三アリーナに居たのが終わりだが 
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