IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第491話】
前書き
早目の更新
とりあえず、紅い襲撃者編終わりー
迫り来る真紅の粒子ビーム、シールドビットに妨害されていた俺はそれに気付くのが遅かった……遅すぎた。
回避しようにも間に合わない、防御しようにもエネルギーシールドの展開が遅れるのは目に見えていた。
更に悪いことに、俺は背面を向いている、ゼロリアクト・ターンを用いても被弾は免れない――つまり、俺の死は避けられない。
ならばどうする――そうこうしている間にも迫り来る真紅の粒子ビームに、内心焦るばかり。
『大丈夫なのですよぉ、マスター(b^ー゜)』
そんな暢気な声が聞こえてくる、イザナギのコアのナギだ。
一体何が大丈夫なのかわからず、疑問符を浮かべているとナギが口早に喋る。
『マスター! 背面の装甲を可変展開するのですよぉ!凸(`皿´) 目にものを見せるのですよぉ!(`ε´)』
言わんとする意味はよくわからないものの、ナギに言われた通りに俺は背面装甲を可変展開する。
スムーズに情報パネルをタップするや、背面装甲が展開、大きく形状が変わる様に可変した。
迫り来る真紅の粒子ビームを、加速した装甲が一身に受け止めるや、瞬時加速のゲージが一気に溜まる。
いや、溜まるというよりはゲージの過剰限界を超えていた。
そして、ハイパーセンサーに表示される【限界解放瞬時加速(オーバーリミット・イグニッション・ブースト)】の文字と共に装甲の一部分が真紅に染まった。
『フッフッフッ( ̄ー+ ̄) ナギちゃんの身体はマスターを守るための親切設計になってるのですよぉ( /ω\) 本当はマスターのお母さんが前にマスターがフレンドリー・ファイアを受けたのを危惧して付けた機能なのですよぉd( ̄^ ̄)』
ナギの言葉に、七月の福音事件の出来事を思い出した、福音とのファーストコンタクト時、俺は篠ノ之から誤射を受けていた。
俺個人で母さんに言った記憶は無いのだが、多分福音戦時の交戦ログを見て気付いたのだろう。
……とはいえ、そのお陰で助かったのだが。
可変展開した装甲からは、輝きを放つ粒子片を撒き散らせていた。
「こ、これが私の狙いだったのだ! だ、だから私は悪くない……、悪くない……!」
そんな篠ノ之の言葉が聞こえてくる――呆れを通り越して、渇いた笑いが出そうになった。
『むぅ(`ヘ´) マスターへの誤射の謝罪が無いのはナギちゃん激おこぷんぷん丸なのですよぉ凸(`ε´)』
当然と謂わんばかりのナギの抗議、すると立ち上がろうとした篠ノ之の機体、紅椿が突如――。
「…………なっ!? え、エネルギー切れだと!? バカな!! えぇぃ! 私に力を貸すんだ、紅椿!!」
理由は不明だが突如シールドエネルギーが枯渇した紅椿、何度動かそうと反応はせず、単一仕様の絢爛舞踏も発動する事はなかった。
紅い襲撃者のモノアイが篠ノ之を一瞥、妨害要素が無くなったのを確認したのか興味を無くしたのか、直ぐに視線を俺へと戻した。
「な、何故動かない紅椿! こ、ここで動かなければ……!」
そんな篠ノ之の言葉に応える事はなく、それを見かねた一夏が突如空中へと躍り出た。
「箒は下がってろ。 ……後は俺が何とかする!」
そう言って雪片を構える一夏だが、シールドビットに阻まれた時に大分エネルギーを消耗したのか、零落白夜の光刃は弱々しく輝いていた。
「……任せたぞ、一夏」
「応! ……ヒルト、悪いがここは俺に任せてもらうぜ!」
俺の返事も聞かず、瞬時加速で飛び出した一夏は、雪片を頭上に掲げて両手持ちに切り替えた。
「うおおおおおおおっ!!」
『――――――――』
木霊する一夏の叫びと共に振り下ろされる渾身の一撃――鈍い音がアリーナに響き渡った。
「……何ッ!?」
『――――――』
一夏の一撃は腕部装甲によって阻まれた、パワーアシスト機能の低下、零落白夜のエネルギーが足りないのも要因だろう。
だが、一夏はそれでも足掻きにも似た横一文字斬りを繰り出した。
「このまま、終わらせねぇッ!!」
再度響き渡る鈍い金属音、既に零落白夜の光刃の輝きを失っていた一夏の刃が装甲を切り裂く事はかなわなかった。
それと同時にエネルギーが枯渇、地表へと着地するや白式の装甲は光の粒子に変わり、空へと弾けた。
有言不実行、相変わらずというか予想の出来る結末に、俺も未来もため息がこぼれ出た。
『……やっぱりあの二人は残念なのですよぉ( ´ω`) マスター、まだオーバーリミット・イグニッションブーストは可能なのですよぉ!(b^ー゜) マスターが倒すのですよぉ!o(`へ')○☆パンチ!』
そう言って急かすナギ、簪はミサイルの再装填を急ぎ、未来は戦えなくなった一夏や篠ノ之二人を気にかけていた。
俺は改めて北落師門・真打ちを構える――だが、紅い襲撃者は俺ではなく地表に居る楯無さんへと向いていた。
まさか――そう思った矢先、真っ直ぐ楯無さんを狙おうと瞬時加速をかけて迫り、粒子ブレードを構えた。
不味い――俺はそう感じたその瞬間、瞬時加速で紅い襲撃者を追い掛ける。
各部装甲が一気に可変展開され、高機動モードに切り替わるや一瞬で肉薄した。
まるで驚きに満ちたようにモノアイを俺へと向ける紅い襲撃者、更に加速をかけ、狙いをつけると左腕を楯無さんの首を掴もうとした。
楯無さんの表情が変わる、ISを纏って無い状況下での相手の攻撃。
一瞬でそれを理解した楯無さんは瞼をキュッと閉じた。
「……!? させるかよッ!!」
楯無さんの首を掴もうとするその一瞬、俺は左肘間接に狙いを定めて一気に斬り上げる。
空を舞う紅い襲撃者の左腕、それはやはり機械仕掛けの腕で人間の物では無いということが完全に発覚した瞬間だった。
だが、紅い襲撃者はなおも楯無さんに狙いをつけている、目的が何か全くわからない――だが、ここで楯無さんを殺らせる訳にはいかない。
構えた粒子ブレード右で溜める――そして、それを左へと貫き通そうとした。
「チィッ!!」
粒子ブレードの切っ先が楯無さんの頭部を貫こうとするその一撃を、俺は蹴りあげて空へと逸らせ、発信源である右腕肘間接部分を叩き斬った。
「……悪いな、俺の目が黒い内は誰も死なせるつもりはないんでな。 それに、楯無さんには大変世話になってるんだ。 嫁入り前なのにこれ以上――これ以上、傷付けさせる訳にはいかないんだよォォッ!!」
「……ヒルト、くん……!?」
驚きに満ちた表情を浮かべる楯無さん、俺はそのまま紅い襲撃者をワイヤーブレードで拘束するや、アリーナ内壁へと叩き付けた。
激しい轟音が響く中、再装填を終えた簪は――。
「こ、今度こそ……! 山嵐、逃がさないから……!」
ミサイル全発射の音がけたたましく響き渡る、まるで戦争でもしてるかの様な錯覚に俺を陥らせた。
――否、実際は戦争なのかもしれない、この戦いはもしかするとこれから先起こりうる戦争の縮図なのかもと一瞬脳裏に過った。
爆ぜるミサイル郡、内壁に叩きつけられた紅い襲撃者は爆炎の中へと消えていく。
全てのミサイルが紅い襲撃者周辺へと着弾、アリーナ内壁の一部が崩れ落ちた――だが、襲撃者は各部バチバチと紫電を走らせていた。
だが、未だに機能停止しないところを見るに相当頑丈に作られたのだろう、簪も信じられないといった表情を浮かべていた。
俺は決着を着けようと再度瞬時加速を行う、直にオーバーリミット・イグニッションブーストの効果も無くなる、その前に――内心逸る気持ちを抑え、瞬時加速中に紅い襲撃者のパイルバンカー《ジャガーノート》を拾い上げる。
直ぐ様強制使用許諾によって使用許可を得ると、俺はジャガーノートによる一撃を襲撃者の機体頭部に叩き込んだ。
「これで……倒れろォォッ!!」
『!?!?!?』
瞬時加速による勢いのついたその強烈な一撃は、紅い襲撃者の頭部を胴体から切り離す様に吹き飛び、崩れ落ちたアリーナ内壁の向こう側の通路へと叩き付けられた。
膝から崩れ落ちる様に倒れる襲撃者、上がる息を落ち着かせるように何度も肺に空気を送り込む俺。
そして、完全に機能が停止したのを確認した俺は――。
「アンノウンの機能停止を確認。 ……第三アリーナの戦闘は終了、だな」
その言葉に、皆の緊張の糸が切れたのか表情が和らいだ――だが、あくまでも第三アリーナの戦闘が終えただけでまだ他の皆は戦っているのかもしれないと思った俺は直ぐ様未来と簪に告げた。
「簪、すまないが負傷者――楯無さんを学園医療室に運んでくれ。 血が止まってるとはいえ重傷なのは明白だから」
「わ、わか、った! お、お姉ちゃん、ゆ、揺れるけど我慢して、ね!」
「……ふふ、お願い……ね……」
気力で最後まで見届けた楯無さんだったが、血を流しすぎた為か貧血で気を失った様に見えた。
簪は慌ててバイタルチェックを行うと、心音が確りしてるのに安堵し、急いで学園へと楯無さんを運んだ、幸い学園への被害は無いので大丈夫だと思う。
「未来は一夏と篠ノ之を頼む、後……可能なら、雅――ううん、俺の乗っていた機体のコア回収を頼む、襲撃者の機体のコアは学園側がやると思うから」
「わかった。 ――でも、ヒルトはどうするの……? ――まさか……」
未来は察したのか不安げな表情を浮かべた、俺は小さく頷くと軟らかな笑みを浮かべる。
「まだ皆戦ってるかもしれない、だから俺はこのまま行くよ」
そう告げると、唇を真一文字に結んだ未来が――。
「わ、私も――」
「いや、未来はさっき言ったようにコアの回収と一夏達を頼むよ」
正直言えば未来が来てくれる方が有り難いが、一夏と機体の機能停止した篠ノ之を置いておくのも心配だった、明らかに襲撃者はあの二人『だけ』手を抜いていたのは明白だが――だからといって放置していて何か起きるのも後味が悪い。
俺が折れないとわかったのか、未来は小さく頷くと――。
「……わかった。 でも、無茶はダメだからね」
「あぁ、わかってるさ、これがな」
そう言って笑顔を見せた俺に、未来は眉根を下げて困ったように笑みを浮かべた。
俺はそれを見、第三アリーナの開いた天井から学園の上空へと躍り出た。
上空へと出た俺に近付く機影が二機――親父の黒夜叉と、予備のフライヤーユニットの一機だ、多分オート操作だろう。
黒夜叉を見ると、上空での戦闘の凄まじさを物語る様にあらゆる箇所の装甲が砕けていて、一部フレームが露出していた。
『よぉヒルト、無事に母さんの作った機体を受領出来たみたいだな』
「あぁ――てか親父、大丈夫なのか?」
『ん? 機体はまあぼろぼろだが、俺の強固かつムキムキな肉体ならかすり傷一つもついてないぜ、ワハハハハッ!』
いつものような親父の高笑いに、俺はほっと胸を撫で下ろした。
『――とはいえ、真理亜が援護に来てくれなかったら、流石の俺もヤバかったかもな』
「母さん?」
周囲一帯を見渡すが母さんの姿は見えない――と、周囲を飛行していた予備のフライヤーユニットから声が聞こえてきた。
『うふふ、お母さんはこれを使って援護してたのよぉ~』
「え? これって……フライヤーユニットの事か、母さん?」
『勿論よぉ~。 お母さん、こう見えてもフライトシミュレーションは得意なのよぉ』
間延びしたふわふわした声、母さんがフライトシミュレーション得意という話は初耳だった。
機動が制限された小型戦闘機にしか見えないフライヤーユニットを使って壊されずに居たのには驚きを隠せなかった。
『うふふ、まだまだお母さんの腕も錆びてないわよぉ。 この調子なら、これで模擬戦も行えるかも~』
「ははは……」
母さんの冗談だと思った、というかそう思うしかなかった。
『真理亜、その話は戦闘を終えてからにしよう。 ……ヒルト、見てわかる通り俺は援軍に駆け付けられないほど被弾してる。 正直上空警戒がやっとって感じだ、次戦闘に入れば流石の俺も殺られるだろう。 ――さっき母さんから聞いたの話では教師部隊の準備は約十分程だそうだ。 ……とはいえ、各セクションが最高レベルでロックされてるため、まだ暫く時間が掛かるらしい、学園外の自衛隊にも応援要請を頼んだんだが、そちらの到着もまだ未定だ』
親父の話に、現状の増援として動けるのが俺だけだというのが直ぐにわかった、簪は今楯無さんを学園医療室に運んでいる上に補給ともなると時間が掛かる、未来は一夏と篠ノ之、後は雅のコアの回収が済めば来れるかもしれないがこれもこれで未定だろう。
「……母さん、現状報告、誰を最優先に援護に行けば良いんだ?」
『現状は――セシリアちゃんと鈴ちゃんが最優先ね、次点でシャルちゃんとラウラちゃん。 美冬ちゃんと美春ちゃんの二人は問題なさそうよぉ、襲撃してきた機体の反応がロストしたからぁ。 ……最後はダリルさん、フォルテさんのお二人かしら……』
母さんから聞いた俺は、早々にセシリア達の援護に向かおうと飛翔するのだが――。
『ヒルト、待ちなさい。 ――イザナギの《可変展開装甲》のモードを《パッケージ》に変更しなさいな』
「パッケージに?」
言われるがまま、俺は可変展開装甲をパッケージに切り替える、すると装甲各種にパッケージ装着用アタッチメントが出現した。
それと同時に、フライヤーユニットがパーツ単位で分離され、イザナギの各部装甲に装着されていく。
『……これで継戦能力も向上するし、シールドエネルギーも回復したわよぉ』
言われた通り、シールドエネルギーがほぼ満タンまで回復していて、推進剤も半分ほど補給されていた。
『ヒルト、肝心な時に役に立たなくて悪いな。 ……本来なら俺ら大人が解決しなきゃいけないんだが――』
「……構わないさ親父。 戦うのは今も怖いが、戦えるのは今は俺だけだからな。 《一人の男が世界を変える》、以前親父に言われた言葉だが、せめてこの学園は――守りたい」
そんな俺の言葉に、親父は応える。
『……かぁーっ、何を一人前みたいな台詞を言ってんだよ! 尻が痒くならぁ! 良いから早くセシリアちゃん達の援護に行けよ!』
急かす親父に、忘れてた訳じゃないが急いで二人の居るアリーナへと飛翔していった。
一方、残された陽人は――。
『……ったく、尻の青い我がバカ息子が……へへっ』
何だかんだで嬉しそうにはにかむ陽人、上空警戒をしつつ、ヒルトの無事を願った。
「…………有坂陽人、か……」
風に乗って自分の名前を呼ぶ声が聞こえたものの、周囲を見渡しても誰もいなかった、相変わらずレーダーが効かないこの状況に参りながらも各アリーナの上空警戒を行った。
既に学園にイルミナーティのボスがあるアリーナの上空100メートル地点で待機してるとは夢にも思わずに……。
後書き
一応オリジナルでセシリア&鈴音救援編、シャル&ラウラ、ダリル&フォルテって続く予定
ゴードン・ラッセル編はいつになるやら
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