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百合の軌跡 ー全身網タイツのくのいち少女ー

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百合の軌跡
  第2話 美しい光の糸

街の外に広がる、妖精の森。
私がこの森を選んだのには、理由がある。

スノウ「夜が近いわね……。」

シオン「そうね。」

この妖精の森は昼夜の差が激しいからだ。
夜に真価を発揮するくのいち…それに『夜の森』でなら、彼女も私の実力もはっきりと実感できるだろう。


スノウ「スノウ、よ。」

シオン「えっ?」

私は彼女に手を差し出す。

スノウ「私の名前。貴女の名前は?」

シオン「ああ…私はシオン、別に覚えなくてもいいわよ。」

スノウ「そう…シオン、ね。じゃあ…いきましょう。」

彼女は無表情のままそう言うが、ちゃんと私の差し出した手を握り返して握手をしてくれる。


シオン「少し暗いわね。」

日は既に暮れ、高い木々の間には月の光も射し込まない。
お互いどこにいるのかは確認できるが、少し相手の表情が見えにくい。

スノウ「そうね、なら……《ライト》・《シールド》…対象は私とシオン。」

私がそう呟くと、二人の周りが照らし出され、オーラの楯が浮かび上がった。

シオン「へぇ…。
(この楯堅そうね…それに、綺麗ね…。)」

魔法やスキルの同時発動はそれなりに難しく、それでいて青白く光るその楯は綺麗で、美しさと強さを兼ね揃えていた。


闇の中を、楯の灯りに照らされながらふたりで進む。
時折聞こえてくる、枝葉の触れ合う音。

ウォォォーン……
そして、遠くから狼の遠吠えが聞こえる。


スノウ「来たわよ…って……。」

横を見ると既に武器を抜き、戦闘スタイルをとるシオン…どうやら感覚強化により、迫り来る敵の気配をいち早く感じとっていたらしい。

その凛とした横顔を、青白い光が照らす。
私は、一瞬見とれてしまう。

スノウ「ん、ごほん。」

私は咳払いして、一瞬の沈黙を誤魔化す。

スノウ「要らない世話だったわね。さぁ…蹴散らしましょう!」

私もメイスを抜いて、モンスターの接近に備えた。

☆☆☆☆

シオン「ええ、私の足を引っ張らないでね。」

私はスノウに返事を返すと、一瞬消えたかのような動き…縮地と呼ばれる動きで前へ飛び出す。
そして闇から飛び出してきたウルフの一匹を素早く刀で斬り捨てます。

スノウの目にはまだ敵が見えていなかったにも関わらず、私は『そこ』から襲いかかって来るのが分かっていたかのような動き方で仕留めて。


続いて…また闇からウルフが4匹現れる。

シオン「ふっーー……ひゅっ!」

私の姿がゆらり揺れたと思うと、突然その姿と気配が消えて闇と同化する。
私が消え…次の瞬間、右のウルフの背後に現れ、そのウルフを刀で斬り捨てると、私はまた闇と同化して姿を消します。


シオン(残り…三匹…。)

くのいちの数あるスキルの中でも、私は特に姿を消す…『隠形術・おんぎょうじゅつ』系統のスキルに特化した戦闘スタイルにしていた。

私自身はそこまで筋力や力がなく、普通に戦っていてはモンスターや男性冒険者たちに劣ってしまう。
そんな状況を打開するために私はくのいちとなり、自身の速度を上げるスキル《縮地》…相手の気配をより感じとるためのスキル《感覚強化》…そして気配を断ち切って闇に紛れる『闇隠れ』のスキルをメインに成長させている。


ガッ!!
闇に紛れた私は、刀でまたウルフを斬り捨てる。

シオン(残り…二匹…。)

先に敵を見つけ、闇に紛れ、速くて鋭い攻撃をする『暗殺』のみに特化した戦闘…それが私のスタイルだ。

今の私は…夜ーーー闇の中での戦闘においては、ほぼ無類の強さを誇る。

☆☆☆☆

スノウ「流石、ね……。」

瞬く間にウルフのグループの二匹を切り捨てたシオン。
くのいち らしく、闇に紛れて大ダメージを与えて離脱するスタイルに特化しているようだ。

《闇隠れ》を使用して闇に紛れての不意討ち、それが単純なメレーではないのが分かる。
魔法《ライト・シールド》をかけていたお陰でおぼろげに位地は把握出来るが、そのスピードでシオンの姿を捉えることすら私は出来ない。


シオンがもう一匹ウルフを倒すと、闇に紛れたシオンを見失った残る二匹のウルフが私の方へと向かってきて。

スノウ「やっ!」

強化を施してスタンとノックバックを付与してあるメイスで二匹のウルフを釘付けにする。
ウルフはのけぞり、退き、棒立ちになり…そんな繰り返しで攻撃のチャンスを得させてあげない。

スノウ「《シールド》……必要無かったかしら?」

☆☆☆☆

シオン「っ…!」

私が姿を隠してしまったので、残る二匹のウルフがスノウの方に向かってしまい…私はまたいつもと同じ光景を繰り返してしまう。


シオン「ーーはぁああっ!」

スノウの攻撃で怯んだウルフの背後に私は現れ、そのまま刀で二匹を斬り捨てる。

シオン「……その…わ、悪かったわね 貴方の方に敵を逃しちゃって…。」

そして刀を鞘に入れ、少しだけ申し訳なさそうに思うがそれを見せず、私は無表情のまま彼女に言葉をかける……私と一緒に戦闘を体験した彼女はきっと、いつもの連中たちみたいに去っていくのだろうと思いながら。

☆☆☆☆

スノウ「いいのよ、私は大丈夫だから。」

シオン「えっ……あっ…。
(なんで…どうして…そんな優しい言葉を…?)」

私はメイスを納めて、謝ってくれるシオンの肩を叩く。
すると、どうやら彼女は私に優しくされ戸惑っているようだ。
なので、私は少し彼女に聞くことにしてみる。

☆☆☆☆

スノウ「もしかして、貴女……自分の戦闘スタイルを気にしているの?
迷惑なんじゃないか、って?」

シオン「っ…!?」

スノウに図星を当てられ、同様した私の目は泳ぎ、少し身体が震えてしまう。

このスタイルを今まで続けていると、他の冒険者が大怪我をした時に私を罵倒することなどもあった。
それでも私が生きていくには、"あの子たち"のために稼ぐには、私にはこの戦闘スタイルしかなかったので…他の冒険者が倒されようとも、申し訳ないと思いながらも今まで気丈に表情を隠して生きてきた。

☆☆☆☆

スノウ「なるほどね…。」

一瞬怯えたシオンを見て、私は彼女の過去に思いを馳せる。

冒険者となったシオンが、モンスターと戦う中で自分なりに選んだ戦闘スタイル。
そのスタイルと性格ゆえに野良で疎まれ、信頼できるパートナーや仲間に恵まれなかったのは想像に難くない。
それならば、彼女が表情を押し隠していたのも頷ける。


スノウ「ならやっぱり、私たち…パートナーになるべきだわ。
私には貴女が必要。
私一人ではこの先、どこまで危険なく進めるかわからないもの。
そして、それは貴女にも言えること。」

一度、私は言葉を区切る。
最大の効果を得るために…。

スノウ「きっと私たち、上手くいくわ。
ううん…きっと、じゃない…絶対、よ。」

☆☆☆☆

スノウ「……えっ…?」

私の戦闘スタイルを目の当たりにした彼女…だから今回もまた、パートナーを断られると思っていた。


スノウ「こ、こんな私が…必要…?」

でも…待っていた言葉は違ったもので、私に優しく言葉を紡いでくれるスノウ。

シオン「っっ…。」

そしてスノウの最後の言葉に…私は胸をドキッとさせ、無表情だった表情がゆるんで少し瞳を潤ませる。
優しそうな瞳でスノウは私を見つめていて、私は恥ずかしそうにして眼を逸らす…こんな優しい言葉を私にかけてくれた人は久しぶりで。


シオン「し、仕方ないわね…これも何かの縁だし、貴方のパートナーになってあげる。
……これからよろしく…スノウ…。」

無表情だった彼女の表情は…頬は赤く染まり、少し優しい微笑みを見せていた。
そして、呼び方を貴方から、スノウへと変わる。

☆☆☆☆

頬を染めて微笑むシオン。
私は、そんなシオンの肩をそっと両手で掴む。

スノウ「ふふっ…なら今からパートナー契約、しちゃう?」

シオン「あっ…。」

勿論、彼女に同意を求めたのではない。
顔を彼女に近づけ、二人のおでこを触れ合わせる…するとさらに頬を赤める彼女。

この世界のパートナー契約は少し特殊で、よりお互いの連携を高めるために契約をする形で。


スノウ「パートナー契約、対象は…シオン。」

シオン「パートナー…契約…た、対象は…スノウ…。」

二人の足元から柔かな光のカーテンが立ち上がる。
光が収束するとお互いの胸の中央に光の糸が見えた。

意識を集中しているときだけ見える、二人だけのリンクの糸。
まだか細いが、旅を続けて心を繋げていくうちにより確かなものになっていくのだ。

 
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