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海戦型さんのつぶやき
つぶやき
海戦型
2014年 12月 12日 01時 16分
暇潰11
フィクションってどこまで嘘を入れて良いのか分からないけど、警察のあれこれは適当。
※ ※ ※
「と言う訳でシ。要は今戦っているのは全員虎顎の息のかかった連中なんでシ。連中、地下から何かを持ち出そうと違法改造の二脚重機まで持ち出して、もう滅茶苦茶でシ」
「そんな滅茶苦茶な状況下でも動かないのが公僕の辛い所だな……お前ら、準備はいいか!?」
急遽現場に駆け付けた大蔵は、自分の部下たちを一瞥する。
いつも通りニコニコしている馬鹿に、いつも以上に楽しそうな馬鹿。どいつもこいつも共通しているのが、この乱戦に飛び込むことに一切の抵抗を感じていないことだけである。
実を言うと異能課は公安五課とは摩擦が多い。
同じベルガーが優先的に回される場所であるが故、現場がかち合うことも少なくない。かち合うのは大抵が大きなヤマで、その度に二つの部署はどちらの管轄なのかで揉めることになる。犬猿の仲とまではいかなくとも仲良しこよしとはいかない程度には険悪で、ライバル関係と言えなくもない。
異能課はかつては公安五課以上の規模の集団だった。しかし、10年ほど前に起きたとある事件をきっかけに異能課は役立たずのレッテルを張られ、規模は縮小の一途をたどっていた。それを大蔵がどうにか公安五課と張り合える段階まで押し上げたのだ。
ありていに言えば手柄が欲しい。その為なら摩擦が起きることを承知でも公安と捜査権をかけてぶつかる必要があるのだ。
「霧埼様の情報によれば捜索に入るのはまだ先だという話でしたが……?」
「カズ坊の話ではあそこに監禁されていた少女が逃げ出したことで大きな混乱が起きたらしい。黒幕が撤収するそぶりを見せだしたから慌てて突入したといった所か」
「確かにぃ!だって普段の五課なら撃ち合いになる前に要所は全部抑えちゃうもんねぇ?」
「だが好機でもある。見た所、五課も異能者の一部が突入に間に合わなかったらしい。瞬間転移による電撃奇襲を仕掛けるならば今の内ぞ!」
やる気には満ち溢れているが、目的はあくまで限定的だ。
廃棄されたビルの地下室の真相。
少女の監禁容疑の有無。
一先ずそれを証明する事実や証拠が手に入ればそれでいい。
虎顎の行った犯罪行為に関しては、被害届や報告がこちらに来ていない以上は越権行為になる。取り敢えずその二つがこちらの管轄だとはっきりさせれば、あちら側も情報や証拠を独占する訳にはいかなくなる。最悪でも共同捜査ということになり、五課だけの手柄にはならないだろう。仲は悪くともいったん手を組めば仕事は早い。仕事は仕事、利権は利権。線引きはきっちり引かれている。
「さて、何が出てくるかは知らんが……取り敢えずこれでカズ坊のご期待に副(そ)えればいいんだがね」
「公私混同、よくないでシ」
「細かい事は気にするな。今日の帰りに一杯奢るから、な?」
「……警部って、やる気あるんだかないんだか分かんない時がありまシ」
部下の一人である玉木(たまき)にジトっとした視線を向けられつつも、大蔵は目の前の建物に集中した。
= =
モノレール駅まであと数分にまで迫っている現在、周囲に虎顎らしい存在は確認できない。だが、他のBFの報告によると、既に相当数の怪しい集団が町の大通りなどを監視しているそうだ。信号に捕まらないルートを選んだのが幸いしてまだ発見されてはいないようだが、モノレールに乗るのは時間との勝負になるかもしれない。
「俺、あの事務所から脱出した男が高速接近している。空力系の能力者か、それとも念動力の類か……ともかく空を飛んで、だ。いずれ追い付かれるぞ」
「そうか……衛!悪いが足止め頼んでいいか?」
「任されたよ、法師。悪いがここから先の敵は自力で片づけてくれ」
車の後部席でアビィと一緒にポテトスナックを齧っていた衛はティッシュで指を拭きながら頷き、そのまま横の窓を全開にした。
おかげでポテトの匂いが車の外に放出されたが、別に換気を意図しての事ではない。
こんな時までカロリー補給に余念がないというか、食いしん坊というか。しかしこれからの戦いを考えれば法師も止める事は出来ないし、アビィも人生初めてのスナック菓子に感動していたため口は挟まなかった。
「では、俺は少し行って来るよアビィ。残りのスナックは全部食べて良いから、ちゃんと法師の言う事を聞くんだぞ?」
「食べていいの!?やったぁ!」
「アビィ……きみ、自分が逃走中だって忘れてない?」
「え?………わ、忘れてません」
「ならいいけど。今回の件が片付いたら色々なお菓子をあげるから、ポテチに気を取られ過ぎないようにね?」
「……オカシってもっといっぱいあるの!?」
スナックの袋を受け取ったアビィからは既に緊張感の欠片も感じられない。既によそよそしい敬語も崩れつつあるようだ。それはそれで少々先行きが不安ではあるが、その分こちらが頑張ればいいと考え直すことにした。衛もそんなアビィを可笑しそうに笑った。
「ふふ……現金な子だ」
ちらっとミラー越しにそちらを見たが、女の姿の衛の笑顔を見ると、素直にきれいだと思う感情とだがあいつは男だという感情の間に激しい葛藤が生まれている気がする。顔立ちは元がいいだけあって美人なのだが、あれを素直に美人と呼んでよいものか。
俺も緊張感が足りてないかも、と反省した法師は頭を振って心持ちを整理し直した。
「では、あの男はきっちり足止めしておくからそちらもしくじるなよ!」
「当然!何年の付き合いだと思ってやがる!」
「来年で十周年だ!」
言葉には出さず首肯した法師をミラー越しに確認した衛は――そのまま車の窓を抜けて車の屋根に乗った。普通なら危険極まりない行為だが、衛にとってはよくある事だ。車を止めて降ろしているのではタイムロスが生まれるがゆえのこの方法、使った経験は一度や二度ではない。
「え?ま、マモルさんはどこに……?」
「もう外に出たよ。ま、気にしない事だ」
車内からは衛の一瞬の動きについて行けなかったアビィの困惑の声が聞こえる。普通なら風切り音で耳まで届かない筈だが、身体改造(モディフィケーション)で五感を人体の極限まで強化している衛ならばその程度は朝飯前だ。
周囲を眺めつつ、衛は車の後方約1キロを飛ぶ影を目視で確認した。
「……さて、と」
そして、極限まで強化されたその肉体は、例え形こそ女性のままであっても超人的な身体能力を発揮する。衛は車の上でしゃがみ、脚を踏ん張らせ――凄まじい瞬発速度で車を蹴って進行方向とは反対に跳躍した。
車はその衝撃に少々揺れ、車体表面にくっきりと衛の履いたシューズの跡が残る。もっとも、車体表面に使用されるナノコーティング済みの形状記憶プラスチックならば電力さえあれば元通りに修復できるので傷などどうでもいいが。
車の現在の走行速度が時速80キロ。
そして衛が瞬間的に加速した速度が――時速80キロ。
結果、慣性の法則による移動エネルギーが打ち消されて、衛は『ごく自然に』コンクリートの路上に着地した。
それを人間の所業と呼んでいいのかは甚だ疑問だ。だが現に衛はそれを実行できる能力がある。身体強化系の能力ならばあるいは真似できるかもしれないが、それを車の上という不安定な場所で平然と行える人間はそういない。
最強に強化された肉体。
最強を維持する精神。
最強を支える経験。
その3つが複合的に絡まった存在――それが衛という男……もとい、今は女だ。
衛はそのまま懐から拳銃を取り出す。霊素銃(アイテールガン)と呼ばれるベルガーにしか使えない特殊拳銃だ。ベルガーの異能を操作する因子に反応して初めてその能力を発揮する、いわば疑似的な異能。
「ふむ、まずはアレの足を止めるところから始めなければなるまい。そのまま頭上を通り過ぎられては格好がつかん」
2014年 12月 12日 01時 16分