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海戦型さんのつぶやき
つぶやき
海戦型
2014年 12月 08日 01時 26分
暇潰7
その組織は、表向きは海外から進出してきた警備会社の体を取っていた。
数年前に立ち上げられ、民間警備会社として必要な資質を有し、今現在も通常の警備業務を執り行っている。今や最も競争が激しい分野になった警備会社の界隈でもよくやっている方だと言えるだろう。
そんな会社に警察が疑いの目を向けたのは、つい最近の事だった。
次世代エネルギーとされたアイテールとそれを利用した霊素機関の登場による目覚ましい好景気の、光と影。都市の再開発によって乱立しては潰されていく鉄筋コンクリートの建造物たちのなかに、ある日奇妙なものが発見された。
老朽化が進んで解体されることになったビルの地下に、見取り図には存在しない部屋が発見されたのだ。中に転がっているのは放置された用途不明の機材に、建物内で焼かれたと思われる紙媒体。さながら秘密の研究所のようなその部屋は、出入り口から通気口まで完全にコンクリートで塞がれて地下に眠っていた。
解体業者が偶然にも足元から伝わる振動の違和感に気付かなければ恐らくそのまま100年は眠っていたかもしれないその部屋に、警察はきな臭いものを感じた。
調査を進めるうちに、そのビルを建設した会社は10年以上前に倒産した医療器具メーカーであることが分かった。
そこで警察は当時の社員を探してこの謎の部屋に関する情報収集を開始したのだが、元社員は口をそろえて「そんな部屋は知らない」と証言。元社長や重役たちはその多くが事故や病気で死亡しており、結局部屋の真相は分からずじまいだった。
だが、この部屋には何か秘密がある筈だ。
そう考えた警察は更なる調査を進めた。その結果、行きついたのがその会社……ということらしい。調べたのが自分ではないので、これから報告を受けるところなのだ。
「しかしこの件、異能課までお鉢が回ってくるってどういうことなんだろうねー霧埼ちゃんや」
「そりゃ、あれですよぉ。私たちって基本的に何でも出来ちゃう課だからぁ……『同じ警察の癖に権限強くて生意気だっ!』ってな風に厄介事押し付けられてるみたいなっ!」
キャピっ♪と変なポーズをとった頭が悪そうな自分の後輩に辟易しながら、大蔵警部はため息をついた。
異能課とは警察内でもベルガーを主として構成された課であり、ベルガーの異能が必要と判断された事件事故に駆り出されるのが日々の仕事の基本である。
だが、相手の心を覗けるベルガーは当然ながら何の事件だろうと取り調べに駆り出されるので出番が多い。身体能力を強化したり拳銃なしに強力な異能を行使できる人員は危険な事件に引っ張りだこ。つまり、彼等は警察所内の何でも屋扱いという訳だ。
「だからこっちが何もしなくても手柄を立てるチャンスが次々舞い込んでくる。やっかみを受けるのは当然と言えば当然なんだけどねー。俺だってほら、まだアラサーなのに課長なんてポジに置かれてさ。正直、あと3,4年は現場で仕事したかったよ」
「もぉ、愚痴っぽいですよぉ?それよりホラ、報告書見てくださいよぉ!ワタシ、張り切って色々調べちゃったんですからぁ!」
「へー……ふむふむ……」
目の前の後輩にして自分の部下である霧埼巡査部長の報告書を流し読みした大蔵は、その内容に目を細める。
「事故や病気で死亡した社員たちの足跡……死亡した12人の内、社長を含めた9人の戸籍が偽装……残りの3人は事故死か。この9人の家族は?」
「事故で本人が亡くなった後は行方知れずですぅ。えぇ、『誰一人』見つかりませんでしたよぉ?ホントに家族なんていたのかなーって思うくらいにですぅ」
気の抜けるマイペースな喋り方に反して、霧埼は非常に有能な人間だ。情報に間違いはないだろう。会社の存在が一気にきな臭くなってきた。社の上層が社長も含めて偽装戸籍など、犯罪の香りしかしない。あの地下で何をしていたのか、余計に気になってきた。
「そこから更に裏のルートを沢山梯子して調べてたら公安とかち合っちゃってぇ……そこからイロイロ聞けちゃいました!その結果繋がったのがこの会社でぇ、なんとココは公安の皆さんがマークしてたんですぅ!」
「公安の連中が?よく話聞けたなお前。さては意外と交渉上手?」
「オンナの交渉には色々あるんですよぉ?課長もワタシとベッドの上で夜の交渉、試してみますぅ?」
無駄に旨と太ももを強調するポーズで煽ってくる霧埼だが、そんな色仕掛けに引っかかる馬鹿は異能課にはいない。……別の部署や課の奴には有効だが。
「最近の若い子は下ネタ好きだねー……謹んで遠慮しておこう。それより公安から何を聞いたんだよ?」
「ぶーぶー!どーせ未だに独り身なくせにぃ!」
「モーだのブーブーだのと……次はコケコッコーか?」
「ワタシは家畜じゃありませんー!……まぁいいや。えーとですねぇ、戸籍を偽装してた9人は生きてたみたいですぅ。調べてビックリ、9人の死体はご本人じゃなくてホームレスを殺してそれっぽく仕上げただけぇ!しかも9人とも葬儀をしてないからお墓すらありませんでしたぁ!」
「何だと?つまりそいつらまだ生きてるってことか!!」
「はい!公安からずうっとマークされてる中統連のマフィア、『虎顎(こがく)』の人間と接触していることからそっち方面の人間と思われますぅ!そしてその人たちが再集結して立ち上げたのがぁ……?」
「ここ。民間警備会社『ボーンラッシュ』ってことか」
「あぁん、台詞取らないで下さいよぉ!」
虎顎と言えば中国の非合法組織でも3大勢力の一角とまで言われる大組織だ。日本へのちょっかいも多く、日本警察も散々苦杯を嘗めさせられた難敵でもある。それが日本で堂々と会社まで設立していたとなると、公安どころか
驚愕する大蔵だが、霧埼は更に話したいことがあるのか、親に嬉しかったことを報告するようにウキウキしている。
「それでですねぇ!実はなんと、連中の目的と現在の居場所まで判明してるんですぅ!もうすぐ検挙して国内の虎顎をぜーんぶお縄頂戴するって話があるので尻馬に………」
と、彼女の話を遮るように大蔵の携帯端末がけたたましい音を立てる。安っぽい電子音楽を漏らす端末を取り出した大蔵は、発信者の名前を見るなり直ぐに通話に出る。霧埼が不満そうな目でこちらを見るが、少し我慢してもらおう。
「――よう、カズ坊。何か用か?」
カズ坊――本名、梅小路法師。都内で何でも屋を営むベルガーの一人で、何かとトラブルに巻き込まれやすい男だ。
彼は何気に恩師の息子だったりするので子供の頃から付き合いがあり、子供の頃は一緒に遊んだりもした可愛い弟分でもある。
ただ、この弟分からの電話というのは厄介なもので――
『大蔵さーん……いやさ、今ちょっと紆余曲折あって『虎顎』っていう中国系マフィアに追われてるんだけど、助けてくんない?』
「………は?」
電話がかかってくるときは大抵の場合が予想の斜め上、かつ急を要する厄介事である。
= =
郊外にあるビルの一室を、初老の男がゆっくりと歩いている。上等そうな白いコートに身を包んだ男は柔和な微笑みを絶やさないまま、同じく部屋にいる男の周囲をゆっくりと回っていた。
初老の男の態度に反してもう一人の男性の顔面は蒼白であり、血の気の失せた表情からは脂汗さえ滲み出ている。
「大変なことになりましたねぇ……ああ、いやいや。責めてはいませんよ?むしろ喜ばしいじゃないですか。アビィがあれほどの力を持っていたなんてねぇ。彼女の能力は訓練された戦士さえも同情させる可能性があったがためにベルガーは周囲に置きませんでしたが……なるほど、このような使い方がありましたか」
まるで子供の活躍を聞いたかのように頬をほころばせる男は、手に持った書類を感慨深げに眺めながらつぶやく。
「Ability Validating for Impel Ecad(異能を有効的に発動させる適応生体)……頭の文字を取ってAvie(アビィ)。組織が数多の素体の屍を築いた末に完成したシステムです。あとはコアユニットであるあの子を取り込めば……アビィは完全な姿になる。これが完成された暁には、我々『虎顎』が日本の勢力図を塗り替えることも可能になるでしょう」
「………」
「して、捜索は?」
「……目下、現在回せる全ての人員を出動させて捜索しています。で、ですので――」
「大丈夫、貴方の事を責めてはいませんよ」
初老の男の手が、ぽんと男の方に置かれた。気遣うような柔らかさを持った手だった。
だが、それでも男の顔色は悪化するばかりか、触れられた片さえも震えだしてしまった。初老の男は、そんな様子を心苦しそうに見つめる。
「この失態で君の責任を追及する気はないさ。君は速やかに、用事を済ませればそれでいい」
「ひっ!?」
肩に置かれた掌がゆっくりと動く。万力のように、ゆっくりとゆっくりと男の方にめり込んでいく。
「見つけて、生きて連帰って、システムが完成する。その成果は失態を補って余りあるだろう。このような日本人だらけの地で、顔の形まで作り変えて研究を進めた君たちの苦労も報われるさ」
「ああ、あがぁ……ッ!?」
指先が脂肪の層を突破し、筋肉と骨を鷲掴みにしながらも、なおもゆっくりとめり込む。着てきたスーツごとぶちぶちと神経や血管が千切れる音が鳴り響き、掴まれる男の口から激痛に耐えきれず嗚咽と唾液が漏れる。
初老の男は組織の大幹部の一人であった。悲鳴を堪えきれなくなりつつあるその男の直系の上司で、日本進出とベルガーの異能を戦略的利用するための研究を行う研究者の側面も持つ。そんなインドアで人当たりのいい性格をしている彼はしかし、部下からは他の幹部にもまして恐れられている。「このような光景」を何度も見せられる羽目になるからだ。
だが、それをやっている筈の男はその様子を気にするそぶりも見せずに手を男の肩に押し込んでいく。気遣う言葉と相手を安心させるような笑顔はそのままに。
「大丈夫、あの子は世間知らずだ。目撃証言を探ればそう遠くない未来に見つかるさ。警察の方は別の人間が張っているんだろう?なら漁夫の利を狙うのも悪くない。私の部下にも手伝わせるよ――」
「あああ、あぎゃああああぁぁぁッ!?」
「――おや」
ばり、と音を立てて男の方の皮膚が裂け、皮膚の内側が露出した。血管は破裂し、筋肉はズタズタに裂けて血を噴きだし、鎖骨までもがへし折れる。想像を絶する猛烈な痛みに男の全身が痙攣し、口から泡を吹きながら絶叫した男は、そのままがくりと崩れ落ちた。
倒れた男を見て、初老の男はそこで初めて自分の掌に握られた彼の肩の肉に気が付く。倒れた際に、千切れたそれを見て、初老の男はその目に深い悲しみを宿した皺を寄せた。
「あ、ああ……ああ、いけませんね。また力加減を間違えてしまいましたよ。何年付き合っても異能という奴は嫌なものです。おかしいなぁ、ちゃんと苛立ちは抑えていた筈なんだけど……おーい、春々!春々、すまないがこの男の肩を治してやってくれないか!」
「師父、またですか……いい加減ご自重ください」
握力で肩を握りつぶされた男は、大量の血を流しながら辛うじて残る意識の中で「だからこの人は怖いんだ」と呟いて、意識を失った。
2014年 12月 08日 01時 26分