つぶやき

海戦型
 
【ネタ小説】ダンジョンに梨を持って行くのは間違っているだろうか
 
 人は何かを成す為に生を受け、成し終えた時死んで往く。

 とあるラスボスが残した名言だ。すなわち、その『何か』を見つけ、追求することに人生の神髄があるという意味になる。決して茄子食べに生を受け、梨を得た時死んで往く訳であない。というかそんなに茄子を食べたかったのに最期に得たのが梨とか悲劇でしかない。

「しかし何となくその言葉が気に入った俺は、人生最期の日にしっかり握る為の梨を果物屋で買う事を欠かさない……」
「馬鹿じゃないの!?っていうか、今の状況分かって言ってる!?」
「何ってお前、調子に乗って下の階層に行った結果ミノたんに追いかけられてんだろ?お前こそ何言ってるんだ、若年性痴呆でもあるまいしそんな事は確認するまでもない。真面目な話に茶々を入れるな、ベル!」
「何で僕が怒られてんの!?逃走中に突然ドヤ顔で梨を取り出した馬鹿を諌めてたんだけど!?っていうかミノたんって何さ!!アレがあんな可愛い生物には見えないんだけど!?」

 その日、俺達の運勢は最悪だった。
 田舎育ちでハーレム願望があるベルと、とにかく茶々を入れるのが好きな俺。二人は最近なんやかんやで神住まう土地オラリオで神の眷属(ファミリア)をやっていた。そして何やかんやで冒険を開始し、なんやかんやで――何故かこんな上の階層にいる筈がない超強いモンスターにケツを狙われていた。

 ヤツの名はミノタウロス。体の形は人間の癖に顔は牛で馬鹿力というよく分からない生物である。まぁモンスターなんて普通よく分からない存在だが。何気にモンスターの正体とかダンジョンの正体とか全く以て情報公開されてないもん。

 俺の名前?ねぇよ、ンなもん。
 というのは嘘であり、名前はバミューダ・トライアングルという。
 ハイそこ、「それは名前じゃなくて大西洋にある海域の俗称だ」って思った人!それ正解です。咄嗟にテキトーにつけました。

 実は俺、ふと気が付くと異世界にトリップしてしまった系男子なのだ。しかも都合がいい感じに自分の記憶だけ思い出せないというもどかしいヤツ。飛ばされたのが大体一昨年で、ベルとは1半年の付き合いになる。その間に俺はこの世界がラノベの「ダンまち」であることを素早く確認し、今のうちにと正体がゼウスなベルのじいさんにたかりにたかりまくって1年を過ごしたというセコイ経歴を持つ。

 なお、じいさんは俺が異世界にやってきてマジで困っていた事には気付いていたらしく、ボケたふりで色々と手助けしてくれたもんだ。ギリシャ神話ではあんまりいいイメージないけど直に接する限りでは割といい人だった。そのせいもあってかベルとは悪友とも言える関係になった。

 そして半年前――じじい、とうとうお隠れになる。

 これによってベルと俺は生活資金確保できなくなり、かねてからのベルの希望だったオラリオ行きに付き合ってやった次第である。途中でベルから離れて別のファミリアに行くこともちょっと考えたが、ベルがあんまりに寂しそうな目でこっちを見るんで諦めてロリ神の下へ下った。
 少々長くなったが、概ねこんな感じの理由で俺は原作時系列に到り、ミノタウロスに追いかけられている訳である。

(そういえばアニメ版では何故かベルが目の前にいるのに謎の壁ドンしてたな、あいつ。剣姫殿に追われて恐慌状態なのか?)

 当時確かレベル5だっけ。どっちでもいいけど明らかな実力の違いに動揺していたのかもしれない。つまりあいつ、ベルを追いかけているというよりは逃げた先にベルがいた感じなのか。だとしたら――俺は知恵を巡らせて、ひとつの方法を思いつく。

「ベル、俺にいい考えがある!」
「その発言を放った時に『いい考え』だった思い出が皆無なので却下ぁ!!」
「そうか、分かった」
「但し却下された際にヤケにあっさり諦めた際は大抵ちゃんとした考えがあるから採用ぉ!!」

 さすが付き合い1年。俺の事をよく分かっていらっしゃる。信用すれば裏切られ、信用しなくても裏切られたベルは言葉の裏の裏まで瞬時に考える頭脳を手に入れたのだ。
 やったねベルくん!原作より賢いよ!代償に純真さをちょっとだけ犠牲にしたけど。

「何かを得るには、それと同等の代価が必要だ………いいか、俺が今だと言ったら次の分帰路を右に飛べ!!」
「不吉な言葉が聞こえたけど信じてるからねぇ!?」

 全力疾走をしておた俺は、後ろを振り返りつつミノタウロスの歩幅や歩行速度をじっくり見極め――活路への道を確かめる。

「そろそろ曲がり角ぉ!急いでやってよぉ!!」
「了解!さあて、お前に俺の人生の最期を奉げてやろう!!」

 俺はミノタウロスの足の下に入り込むようにそっと――人生最期に得るつもりだった梨を滑り込ませて、叫ぶ。

「今だ!飛べよぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
「うおおおおおおおおッ!!」

 俺達が全力で跳躍した瞬間、全力疾走するミノタウロスの裸足の足が梨を踏み潰し、果汁が地面との摩擦係数を瞬時に奪い去った。

「ブモォォォォォォ……工工エエエェェ(´゚д゚`)ェェエエエ工工!?」

 ずるっビタァァァァァァァン!!と音を立ててミノタウロスは直進の道に向けて盛大に転倒(ファンブル)した。

「………時々思うけど、バミューダって土壇場に強いタイプだよね」
「おう、俺もそう思うわ。……時にベルや、ミノタウロスを追いかけて美人の姉ちゃんが来たぞ」
「またまたそんな事言ってぇ、その手に今まで何度騙されたと思っホワァァァアアアアアアアア!?滅茶苦茶美人で金髪金眼の美少女剣士がぁぁぁぁぁぁ!?」

 俺も時々思うが、こういう時のベルのリアクションは芸人に負けていないと思う。