つぶやき

海戦型
 
ひまつぶしpart.7
 
「その啖呵……ウチのチームに所属してないのが残念でならねえな。お前等はどちらかというとアウトローの臭いはするんだが……いいぜ、ここは退いておいてやるさ」

 意外にもあっさりと引き下がられ、統舞と雄大は顔を見合わせた。
 態々徒党を組んで仕掛けてきたのだから、ここで引っ込んでは逸れこそメンツが立たない物と思っていたが、ミスター木刀は存外にこの戦いに乗り気ではなかったのだろうかと疑問を抱く。

「おいおい、仕掛けてきておいてそれかよ!そんなにあっさり帰るんなら最初から仕掛けて来ないでほしいぜ……」
「まぁな。俺も偶には乗り気じゃない事をしなきゃならん事があるってわけさ。お前らを襲撃したのは……その、なんだ。近くにいたから取り敢えず難癖付けたら子分が顔を知ってたってだけだし」
「行き当たりばったりにも程があるだろ!やめろよそういう迷惑なの!」
「ヤダね。俺たち不良だし」
「……至極まっうなようでいて全く反省のない返答だな。一瞬関心しかけた自分にちょっと腹が立ったぞ」
「まぁそう言う訳で。お前らとっとと帰るぞ~!ノビた奴らの回収忘れんなよ~?」
「へいっ!!……って、ええっ!?マジで帰るんすか!?」
「帰って7時から始まるヒムラ動物園見ると俺は決めた!」
「リーダー、もう7時過ぎてます。あとヒムラ動物園は明後日の放送です」
「馬鹿お前こういうときは理由はどうでもいいんだよ。いいか?俺はだな……」

 といいつつ壁に立てかけてあった謎の箱――棺桶のようなサイズだ――を木刀でこんこんと突く。

「何かと理由をつけて謎の眼鏡野郎に押し付けられ『中央集剣都市』内部に運び込むよう依頼されたこの箱からとっとと離れたいの!!」
「はぁ……確かに、簡単な割にはやけに気前のいい客でしたね。しかも箱は絶対に開けてはいけないとか運び込んだ後は適当に捨てて良いとか怪しさ大爆発でしたもんね」
「だろ!?だからこの箱の置き場所に困ってウロウロしてた時にあいつらを見つけた時に適当に難癖付けて箱を押し付ける大作戦を思いついて実行したものの失敗したからナチュラルにその場を去って誤魔化そうとしたところをお前が掘り返すからいけないんだぞこのヴォケェェェェエエッ!!」

 ぱかーん!と木刀で殴り飛ばされる説明好きの子分。口は災いの元、と言っていいのだろうか。

 『中央集剣都市』の物流は、都市内の流通管理局という部署が全てチェックを行ってから内部に運び込まれる。
 つまり、あの棺桶のような箱はそのチェックをすり抜けた違法入荷物ということになる。
 この都市は特殊だ。入る者は勿論捨てるゴミも徹底的に処理が為され、『剣法』に関するありとあらゆる痕跡を外に漏らさないシステムになっている。
 その禁を破れば、たちまち都市内の治安維持部隊『違剣審査会』に取り押さえられて提訴されることだろう。
 逆を言えば、このウッドロウという連中は違剣審査会をすり抜けられる密入ルートを確保していることになる。
 ただのギャング紛いが出来る事とはとても思えなかった。
 が、それ以上に統舞には気になることがあったりした。

「というか、適当に捨てていいのなら文字通り適当に捨てておけばよかったんじゃ……?」
「いや、ここって実はギリギリでウッドロウの縄張りの外なんだよね。明確な区分ないけどね」
「ないのかよッ!そこはハッキリさせておけよッ!!」
「まぁそう言う訳だから。バッハハ~イ!」

 ミスター木刀はへらへら笑いながら、立剣製定された剣としてはかなり異例である木刀を肩にひっかけたまま一直線に路地裏へ歩いていく。呆然とその背中を見送った子分たちは、釈然としないものを胸に残しつつも慌てて親分の後に続き、怪我人も回収してぞろぞろと帰っていった。

「……………」
「……………」

 結果、棺桶のような箱と二人だけが取り残される。
 一方的に喧嘩を売られ、一方的に帰られる。
 争いが終わるのはいいことの筈なのに、何となく釈然としないものが胸に残る二人だった。

「無事に終わったな。しかし……箱の中身は何なんだろうな?俄然気になるんだが!」

 無剣雄大という男は好奇心が旺盛な男である。
 しかも怖いもの知らずで躊躇いがなく、厄介そうなものごとにも積極的に首を突っ込んでしまう節がある。そのことを良く知っていた統舞は、雄大に釘を刺した。

「言っておくが開けるなよ、あの箱。厄介事になるのが目に見えてるし、俺まで厄介事に巻き込まれたんじゃ適わん。いいか、絶対に開けるなよ!開けたら………時と場合によっては殺すかもな」
「フリって奴か?」
「違うわ!極めて本気の脅しだわ!……ったく」

 統舞は嫌そうな顔をしながら足早にその場を立ち去っていく。

「お、おい統舞。そんなに慌ててどこ行くんだ?」
「厄介事に巻き込まれる前に逃げるんだよ。俺の厄介センサーがその箱にビンビンに反応してんの!」
「何っ!?そんなセンサーが実戦投入されていたなんて……知らなかった!」
「物理的センサーじゃなくて第六感の話だよ!本当お前のマジボケに付き合ってると疲れるな!……わぁったらお前もさっさと帰れよ?ダチが面倒事に巻き込まれるのも、ダチに面倒事持ち込まれるのも俺が御免だからな!」

 それだけ言うと、統舞はそそくさと帰ってしまった。
 付き合いの悪い友達だ、と雄大はぼやく。
 そもそも違法品と言ってもまさか爆弾の類ではあるまいし、細菌兵器なら木製棺桶なんかに入れたりもしない。
 精々が内部でちょっとばかり規制を受けている小物類でも入っているのだろう。生物が入っている気配もない。

 怪しい薬や密輸武器という可能性もないわけではないが、それならそれで通報が必要だ。
 興味半分義務半分。雄大は一先ずその箱の中身を改めることくらいはしてもいいだろうと思い、箱に手をかけた。
 蓋はピクリとも動かない。注意深く観察すると、蓋には無数の釘が打ち込まれていた。

「釘って……今時こんな原始的な封のしかたをするなんて変わっているというか何というか………フンッ!!」

 力任せに板を引き剥がす。
 ……普通の人間ならばバールでも使わなければこじ開けるのは難しいが、雄大にそんな常識は無かった。

「さて、御用改めの時間ですよー……って、これは……?」

 雄大は、その桶の中に入っていた予想外な物体に目を丸くした。

「これは……剣、か?……運命力の結晶体としての剣でなく、『実剣』?」