つぶやき

海戦型
 
ひまつぶしpart.5
 
(考えてみればあの時の再現か……)

 ふと、不良集団に囲まれながらも雄大はそう思った。
 この都市に来たばかりで地理に疎かった雄大は、偶然にもその時に路地裏で襲われている統舞を発見した。
 抵抗する気力もなさそうな人間に寄ってたかって剣を突きつける連中を見て瞬時に頭に血が上ったは、すぐさま根性の腐ったその連中に殴りかかろうとした。だが介入した瞬間に統舞は立ち上がって不良に啖呵を切り、気が付けば二人で背中を合わせての乱闘騒ぎ。

 何だ、元気なんじゃないか――心底意外に思った。
 統舞の心の中には熱いものがあった。熱――いや、窯(かま)と形容するべきか。
 剣を精錬するために"運命"という名の鉄を熱する窯、それこそが意志だと俺は考えている。
 そして統舞の持つ窯の熱は、今まで俺の周囲では感じたことがないような激しさを内包していた。
 どこか未熟で初々しいが、それゆえに一層その輝きは一層力強く瞬く。

「そういえば……初めて会った時はそのまま意気投合したから聞きそびれてたけど、お前あの時なんで不良連中に絡まれてたんだ?倒せない相手でもなかっただろう?」
「んー……ノーコメントで。あの時に暴れたのは、お前に触発されてちょっと燃えちゃっただけだよ」
「なんだその"普段はちょっとドライです"みたいな言い方」
「乾燥してたほうが火がついた時に激しく燃えるだろ?」

 枯草か何かかよ、と統舞の言葉に内心で苦笑した。

「上手い事言ったつもりかよ……まぁいいや。いい加減やっこさんも痺れを切らしてきたらしい!準備はいいな!?」
「あたぼうよ!一手、俺の"剣之舞"で遊んでやるぜッ!!」
「何が舞だぁ!余裕ぶっこいてんじゃねぇぞぉぉぉぉぉぉッ!!」

 集団の一部が勢いよく足を踏み出して、手に握った様々な刃を大きく振りかぶり肉薄する。
 瞬間、雄大と統舞は弾かれるように同時に正面へ突っ込んだ。

「バカが!丸腰で死にに来たか!?」
「死ぬとしたら、俺じゃなくてお前らだマヌケッ!!」

 そんな脇の締まらない粗雑な太刀筋で人をどうこう出来るなどと、思い上がりすぎた。
 不良が振りかざした剣を唐竹割のように振り下ろす――が、下した時には既に攻撃を見切っていた雄大の拳が一直線に不良の顔面に突き刺さっていた。

「げふぅ……ッ!?」

 槍のように鋭い一撃は不良の意識を瞬時に刈り取る。

「ハエが止まるぜ。――次来いやぁ!!」
「な……なめんじゃねぇぞこのヤロ――ガハァッ!?」

 次に短剣を逆手持ちに突っ込んできた不良を、間合いに入られる前に蹴り飛ばす。
 こいつらは刃物の優位性や取り回し方というものを碌に理解していない。だからこそ、素手でも有剣者に勝てるまでに鍛えられた雄大にはその動きが酷く稚拙で緩慢に映る。
 雄大は怯んだ他の不良たちの懐まで一気に距離を詰め、地面を踏みしめて正面にいた不良のどてっぱらに鉄拳を叩きこんだ。驚くほどの膂力が込められた一撃に不良が吹き飛び、後ろにいた数名をなぎ倒す。
 だが、流石にそろそろ状況が見えてくる不良もいる。

「幾ら徒手空拳で強かろうが、こっちにはリーチの差があんだよォ!!」

 長剣を持った不良が側面から走り込み、俺にその刃を突き出した。
 剣が素手よりも優れる単純明快な解答――リーチの差。戦争では古来よりこのリーチの差がしばしば致命的になる。剣より槍、槍より弓、弓より大砲――人類はその距離を飛躍的に伸ばし、相手の手が届かない場所から敵を下す術を模索してきた。
 だが、こいつらは肝心なことを忘れている。
 人類は既に『剣法』というシステムの下、このリーチの差を覆す身体能力と技術を手に入れている事に。
 剣を出せなくとも、戦いようというものが存在することを、不良は理解できていなかった。
 不良は剣を突き出た瞬間、勝利を確信したようににやりと口元を歪めた。
 だがその表情はあっという間に驚愕に変わる。

「な……ッ、嘘だろオイ!」
「リーチの差があっても活かし切れてねぇんだよお前らは。だからこんな風に白羽取りなんて許しちまう。俺の言ってる事、分かる?」

 雄大は突き出された剣を、顔色一つ変えずに掴みとっていた。
 器用に刃で手を切らぬように掴みとられた剣をそのまま引き寄せ、カウンターの要領で蹴り飛ばす。

「グハッ!?ば、バケモノかよテメェ……!」
「お前らが世間を知らないだけだよ、"バカモノ"。俺に拳術を教えてくれた人はもっと強かったぞ」

 息も絶え絶えな不良へと向けられた雄大の大胆不敵な笑みに、既に不良集団は圧倒されていた。