花 その四 「春」を忘れないで…
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と思って中を見たんです」
これには所有者の名は記していない。
誰が見ても言いように予め書かないようにしているのだ。
「部誌とはまた違う世界観があって…思わず引き込まれてしまいました」
じゃあ、何故、この少年はこれが自分のものだと思ったのだろう?
「やっと会えました」
不意に微笑まれ、思わずドキッとしてしまう。
想像するのと現実で見るのでは訳が違う。
「で、でも、……私にはっ」
「去年の学園祭で部員の人たちが渡辺先輩のことを話していたのを聞きました」
その声に、一気に……周囲の色が褪せていくのを感じた。
彼女のことを差し置いて自分の趣味に走ってしまったことを笑いに来たのだろうか。
「僕はまだ身近な、それも大切な誰かを失ったことはないので、言葉に重みがないのは解ってます」
「けれど、今、先輩がしていることは本当に貴女自身が望んだことですか」
「っ!!」
違う、と今にも叫び出してしまいそうになるのを何とか堪える。
そうでもしなければ、自分を閉じ込めて置けない気がした。
これも、赤いノートを手にしている所為だろうか…。
「僕は本を読むことはできても、書くことはできない。でも、渡辺先輩はそれができるのに逃げるんですか」
「違うっ!私の書いた稚拙なものなんて誰も読まないっ。誰も、私がまた書くことを望んでいないっ」
自分自身でも、充分理解していたことを突きつけられ、咄嗟に滑った口を掌で押さえても遅かった。
今思えば、誰かにこんなことを大声で言ったことは一度もない。
ふわりと優しい風が頬を撫ぜたのと同時に、一筋の涙が弓を描いた。
もう枯れてしまったとばかり思っていたのだが、どうやらそれにはまだまだ達していないらしい。
これからもいろんな悲しいことを乗り越えていかねばならない。
……祖母のいない世界で。
「泣かないで下さい」
差し出された白いハンカチには、一点の汚れもシワもない。
ありがとう、とそれを受け取ってから途端に恥ずかしくなる。
今日は情けない所を彼に見せてばかりいる。
でも、だからこそ、解ったこともある。
素朴で、誠実。
……それでいて真っ直ぐで、とても熱い。
『あっ、ごめんなさい』
『っ!?……いえ』
熱心に本を読んでいた黒子にすれ違い様にぶつかってしまった早苗よりも驚いていた顔は当分、忘れられそうにない。
今まで衝突事故を起こしたことはないのだろうか?
「渡辺(わ
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