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あさきゆめみし―黒子のバスケ―
花 その一 春を、忘れなければ

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 陽射しが次第に暑くなりつつある四月初旬、それは都内のとある高校で行われた。

 木蓮の純白と染井吉野の淡い桜色が校内を満たす中、あちらこちらで在校生たちの声が聞こえてくる。

 誠凛高校の入学式名物……とも言えるだろうか、どこの部活動も新入生を因り多く獲得しようと必死の勧誘が華を咲かせていた。

 「左胸に咲いた赤い花」を着けているのだからまあ、それも致し方あるまい。

 これも誠凛高校に「入る」と言うことだ。

 しかし、それが劇化すればいくらなんでも教師が黙ってはいない。

 そうなれば、廃部or停学処分が目に見えている。

 だから、どの部も強気な姿勢を取れず、「仮入部」を用意する。

 その期間を経て、何人か残ったとしても、それが正規で活躍するかはまた別問題なのだが…。



(ん―――っ!やっと、終わったあ)



 その一方では、正門をちょうど出た所で小柄な少女が晴天に向かって軽く伸びをしていた。

 日増しに強くなる紫外線を気にも留めないその無邪気すぎる振る舞いは、言うなれば若さ故と言えよう。

 制服の着こなしや何もかもが初めてな新入生たちとは違い、目の端に浮かぶ涙をセーラー服の袖で拭う彼女の左胸にはあの「赤い花」はない。

 それ故、この人混みを難なく突破できた訳だが、その表情にはただの在校生として式に参加した疲れとは思えない陰りがあった。



『戻っては来てくれないんですか』



『……何を言っているの?もう、決めたことだよ』



『皆、待っているんです』



『……春を、忘れなければ今の君たちで充分やっていけるよ』



渡辺(わたなべ)先輩っ…』



 相手が次の言葉を発する前にその場を後にした。

 彼の顔なんて久しぶりに見た。

 部を一方的に飛び出してきてから丸二年。

 実際に文芸部に在籍していたのは一ヶ月もないだろう。

 それでも自分のことを未だに覚えてくれているなんて……嬉しい筈なのに……何故だろう、この胸の中にあるそれ以上の感情は。


「落としましたよ」


「へ?」


 正門から数歩進んだ頃、誰かに呼ばれた気がして振り返れば、自分よりも少し背の高い少年が今まで読んでいたであろう単行本に栞を挟んでいた。
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