第3部:学祭2日目
第13話『危機』
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カーテンを閉めた、薄暗い部屋。
クマのぬいぐるみなど、女の子らしい趣味が施された、澪の部屋。
学生服のままで、彼女はベッドに横になっていた。
顔や体に受けた傷は、シップや傷バンを貼って、どうにか痛みは抑えている。
このまま外にいると、どんなことが起きるかわからない。
その思いでいっぱいだったが、同時に……。
言葉の悲しげな顔も、脳裏に焼き付いていた。
伊藤がいなくなったら、自分には何も残らないと言っていた。
その伊藤も唯を気にして、どこかへ行ってしまった。
自分は臆病だな。
伊藤がいなくなったら、桂はどうなるかわからないのに……。
でも自分は……
二度とあんな目には、会いたくないんだ。
ピーンポーン。
玄関から、呼び鈴。その後、「空いてるぜ。失礼」と高い声。
律の声だと、すぐに分かった。
「よお」
いつものような、律の声。
「どうしてここが分かった?」
「伊藤から話を聞いてな。お前が桂から手を引くって。
いつも挫折した時、お前、部屋に閉じこもってただろ?」
「そう言えば、そうだったな……」
幼馴染の律は、澪の行動をよく理解しているようだ。
「ちょっと見舞いに来ただけさ」律は穏やかな声。「それでいいのかな、とは思ってるんだけど」
「怒らないんだな……」
澪は、以前軽音部が廃部寸前で、自分が入部しないと言った時、この人が、
『澪がベース、私がドラムでずっとバンドを組むって忘れたのか!?』
と怒鳴っていたのを思い出した。
成り行きとはいえ、それで自分がベーシストとして入部することになった。
いざというときは彼女、それだけ言いたいことをはっきり言う。
今回も桂を見捨てたことをとがめるだろうって、思っていたのだが。
律は澪の心を読んだのか、
「桂のことなら正直、どうでもいいと思ってるさ。あいつ、悪いうわさが絶えねえようだし」
「全部……デマだよ。私はそう思っているよ」
苦笑いしながら、澪はごまかした。
律は、笑わない。
そのまなざしは、穏やかそうで、実は真剣。
「しかしよ」律はにべもなく、「どうしてお前は、あんだけ桂に興味を持ったんだ?」
単刀直入すぎる。
だが、答えない理由はなかった。
あの時のことを、ゆっくりと思いだしながら、ゆっくりと答えていた。
「マックで初めて会ったんだ。
初めて見た時、本当にきれいな人だなって思った。
伊藤のことで悩んでいるのを聞いて、何となく助けてやりたいって思った。
助けた時の安堵した表情を見て、助けてよかったなって思ったんだけど……」
そうだった。
あの時笑顔を見せてくれたことが、嬉しかったんだ。
「そうか」
律は一呼吸おいて、
「まあ、あたしもできる限りのことは
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