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渦巻く滄海 紅き空 【上】
二十三 中盤戦
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彼女の喉を煙が塞ぐ。ぱちぱちと火が爆ぜる音がしたが、病気の少女にはどうしようもなかった。
病か、火災か。おそらく双方が原因だろう。遠退く意識の中で少女は誰かに運ばれ、そして気づけばこの地下牢に入れられていたのだ。連なった牢の向かいには村人の姿もあったが、熱のために声を発するのも彼女は億劫だった。

病に侵されたまま、この牢に閉じ込められ、そしてまた隔離されている。恐る恐る此方を覗くように見つめてくる村人達の視線から少女は逃げた。零れ落ちる熱気に抗いながら、床の上にだらしなく手足を投げ出す。海中のクラゲのように何度も浮き沈む意識。気絶と覚醒を繰り返し、それでも彼女は生にしがみついていた。

(みんなみんな―――)
翳む視界の端で、向かいの牢から逃げ出す村人の姿を捉える。熱に浮かされ脂汗が滲む顔を少女はいよいよ歪ませた。再び途切れそうになる意識を必死に繋ぎ止めようとするが、彼女の思いとは裏腹に目の前が真っ黒に塗り潰される。
己の身体なのに儘ならない。重い瞼を抉じ開けようとすればするほど前後不覚に陥る自分に苛立ち、そして理不尽な世を恨んだ。
病気に侵されてから何度も何度も経験した失神。混濁する澱みの渦へと少女は深く深く沈んでゆく。
(憎い…ッ!!)
再度声なき呪詛を呟いて、少女――アマルは昏睡する。操り人形の糸が切れるようにぷつりと意識を失っても、彼女の全身からは黒々としたチャクラが立ち上っていた。







斜めに切り立てられた椅子。巨大な鉄球を当てたかのように窪む壁。罅割れた石畳。広間の四隅に積み上げられた大理石の山は以前より遙かに多い。
無残な崩壊を残す室内は戦闘の激しさを窺わせる。絢爛たる大広間の面影は今や何処にも無かった。

壁に激突した男が平然と立ち上がる。全く息を乱していない彼は、やけに勿体ぶった顔つきで語り始めた。
「―――筋肉とは破壊と再生を繰り返し、強化されていく。医療忍術による再生のメカニズムさえ把握していれば……」
薄笑いを浮かべる。神農が一言一句発するたびに、今までナルトに負わされた傷がみるみる治っていった。
「破壊するだけで強靭な肉体を手に入れることが、いつでも可能になる」
隆々たる筋肉を誇らしげに、胸を張る神農。横柄な態度をとる彼に、「ご丁寧な解説、どうも」とナルトは軽い口調で返した。
年齢にしては不釣り合いな落ち着きを見せるナルト。彼が慌てふためく様を期待した神農は不愉快そうに眉根を寄せる。だがすぐ余裕を取り繕い、彼はナルトを見つめた。
「さて。お次はどうする?さっきみたいに『開門』でも開くか?それとも『景門』?……『八門』全て開けば、太刀打ち出来るかもしれんなぁ」

チャクラの流れる経絡系上には頭部から順に『開門』『休門』『生門』『傷門』『杜門』『景門』『驚門』『死門』
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