第1部:学祭前
第3話『前兆』
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表情で答え、大車輪で演奏を始めた。
「ちょ、ちょっと唯先輩! 力みすぎです。トーンダウン、トーンダウン」
そして、帰宅までの間、必ずコンビニに寄り道をする。
誠に会うためだ。
大体6時頃を目安に行けば、大体誠がいる。
「伊藤くーん!!」
「あ、平沢さん」
いつも元気よく声をかけると、おだやかな声で、誠は返す。
そしてお互い、笑顔を浮かべる。
たまに世界や泰介と一緒にいたり、コンビニにいなかったりすることもあるが、たいていは一人で、夕飯のおかずを探している。
実際は誠と唯の帰る方向は正反対なのだが、唯はうまくごまかし、誠と行動を共にするようにした。
肩を並べ、誠の向かう榊野学園駅まで一緒に行くのだ。
たわいもない話をしながら。
「そうですか、今年榊野に」
「はい。まあ、受験前にひいひいしながら勉強したんですけど、運よく合格してね。あははは……」
「でもすごいじゃないですか! 私も一夜づけで勉強しましたし。桜ケ丘がやっとでしたよ……」
もっともっと、誠のことが知りたくて、誠が気付かぬうちに、彼のすぐそばに歩み寄る。もちろん誠は頬を染めて、
「あ、あの……人前だから、あまりくっつかないでくれません?」
「いいじゃないですか、伊藤君。たまには」
「ちょ、ちょっと……困るんですけど……」
「困っている伊藤君を見るのも、うれしいです」
明るい蛍光灯が、リビング全体を白く照らしている。
静かな部屋で誠は、世界と共に手製のシフォンケーキを食べていた。
その中でも、唯の笑顔が、焼きついて離れない。
改めて思う。
行きつけのコンビニで見かけていた子だった。
最初は地味だと思ったけど、あれだけ素敵な笑顔を見せる人は、初めて見たな。
「誠、何ボーッとしてんの?」
世界が怪訝な目で尋ねてくる。学祭の会議が長いためか、少し不機嫌なようだ。
「ううん……。なんでもない」
「なんか最近、誠変よ」
「そうか?」
「今頃なら、たぶん食前に私達、しているはずなのに」
彼の顔がぽんと赤くなってしまう。
というか世界、恥ずかしくないのか。
「な……! 恥ずかしいこと言うなよ……。別にいいだろ!! いつもそればっかりじゃお互い疲れるからさあ!!」
「まあいいけどね。学校の昼休みでもやりたがる貴方だから、ちょっと気になっただけだけど」
世界の目が、若干厳しくなる。
無視して誠はシフォンケーキを再び食べ始めた。
そういえば、唯ちゃんと出会ってから、彼女の笑顔を見れたら十分で、最近特にしたいとは思ってないんだよな。
不思議なもんだな。
まあとりあえず、唯と親しくなっていることは知られていないらしい。
彼は軽く、息をついた。
そんな日々が続い
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