第一章〜囚われの少女〜
第八幕『予告』
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のある、なめらかな肌。栗色の髪はこれ以上伸ばせない程に長く、それでいて艶やかだ。つい、見とれてしまう。深い、土色の瞳は真っ直ぐこちらを見つめていた。
「でも、ありがとう」
きらびやかな絹色のドレスから、華奢な腕がこちらに伸べられる。その肘から細い指先まで、上品に布のグローブに包まれている。
「勿体ないお言葉にございます」自分の頬に添えられた小さな手を取り、軽く口づける。「麗しの姫君の微笑みを頂けたというのならば、このアンダーソン。身に余る光栄にございます!」
姫様はまた、ふふっ、とお笑いになる。
「?」――よくわからないが、元気なご様子なので安心だ。
「姫様」姫の後ろから声がする。「なあに? キャスリン」
「髪を結わせて頂きたいのですが、よろしいですか?」姫様よりも小柄なその侍女は、キャスリン・ワトソン。その深緑色の瞳は、冷ややかにこちらを見上げる。「あなたは、扉の外を守るだけでよろしいのでは?」
幼い印象があるものだから、その小さな口が放つ言葉は地味にエグい。だが、俺も男だ。このまま引き下がるわけには行かない――が『相手は子供』と思い、ぐっとこらえる。
「では、姫様。私めは扉の外で待機しております。外出の際は、必ず私めをお頼りください。“女王様の命でございます”ので」(どうだ、ワトソンめ。これなら口出しはできまい)
姫は「ごめんね」といった風なお茶目な表情をなさる。そして軽くウインクを下さったのち、重々しく向こうへ閉じようとする扉。
「では、また――」――小さな唇の動きから、読み取る。「!?」
ドアが閉まった今も、そのときの姫様の表情が頭から離れなかった。明るい表情が一瞬にして曇ったのが余計に気になる。
“またあとで”――どのような考えがあるのだろうか。この、重々しい気持ちはなんだ。なにが、彼女をあんな表情にさせるのだ。
盗賊団に狙われているということは、キャスリン嬢から既にお聞きになっていると思うが。きっと、それはまた別の事なのだろう。姫様は、一体?
―
「姫様。このように結わせて頂きました」ドレッサーに向かったまま、背後から少女の声を聞いた。「お気に召して頂けたら嬉しいです」
私の髪はとても長く、よく伸びているのでとても自分では結ぶことが出来ない。しかしこの、私より少し小さな女の子はその髪を見事に編み上げてくれた。
「ありがとうキャスリン」
振り向き、軽く上目遣いになりながら座ったままキャスリンの方を見上げる。目が少し悪いので眼鏡をかけていて、乳白色の肌にはそばかすがある。肩につくかつかないか程の長さの髪が、身軽そうでうらやましい。
「いいえ。姫様の髪を結えるなんて、ワトソン家末代までの光栄です」
幼い雰囲気の、そんな彼女が言う言葉
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