第四十一話 雷鳴近づく
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守りに徹した相手に手古摺るのも事実だろう。時間稼ぎなら何とかなる、そして大兵力で押し潰す。……ローエングラム公の御気性ではその時間稼ぎが出来ない……」
苦い口調だ。それを聞いて思わず溜息が出た。
「やれやれだな、俺もとんでもない友人を持ったものだ」
「済まない、ナイトハルト」
「謝ってばかりだな。しょうがない、最後まで付き合うか」
俺が笑うとエーリッヒも笑った。二人の笑い声がウルヴァシーの夜空に響く。一頻り笑った後エーリッヒが口を開いた。深刻な表情をしている。
「私はヤン・ウェンリーの真の恐ろしさは邪道を極めている事だと思う」
「邪道?」
「少数を以て多数を破る、それさ」
「少数を以て多数を破るか……」
“ああ”とエーリッヒが頷いた。
「エル・ファシル、イゼルローン、どちらも本来なら勝てる戦いじゃなかった。しかし勝った。そして今回の戦い、本当なら同盟軍は一蹴されて征服されているはずだ。それなのに逆に帝国軍を追い詰めようとしている。有り得ない事だよ……」
なるほど、確かにその通りだ。少数をもって多数を破る事ばかりしている。
「敵より多数の兵力を集め、補給を整え敵を圧倒するのが戦争の常道だ。口にするのは容易(たやす)いが現実に行うのは容易(ようい)ではない。それを実現したローエングラム公は間違いなく名将だろう。となればヤン・ウェンリーは何と言うべきなのかな? 戦争の常道を否定してしまう彼を……」
「……化け物、かな」
エーリッヒがまた頷いた。
「私もそう思う、化け物さ。……今回の戦い、負ける事は出来ない。負ければヤン・ウェンリーは英雄になるだろう。そして少数が多数に勝つ事が常道になってしまうかもしれない。そんな事は許されない……」
「なるほど、邪道が常道になるか」
「うん」
エーリッヒは深刻な表情をしている。士官学校時代からエーリッヒの持論は戦争の基本は戦略と補給だった。それが原因で教官のシュターデンからも嫌われたが持論を曲げることは無かった。そんなエーリッヒにとってヤンは許し難い存在という事か。ウルヴァシーに残るのもそれが理由かもしれない……。
「少し冷えてきたな。風邪をひいてはいかん、基地の中に入ろうか」
「うん、そうしようか」
基地に戻りながら気になった事を訊いてみた。
「会議の後、ローエングラム公と話をしていたようだが……」
「ああ、ちょっと戦後の事をね、相談していた」
戦後? 勝った後の事か……。皆が解散する中、二人だけで話していた。
「突拍子も無い事ばかり言うと笑われたよ。でも感触は悪くなかった。最終的には総参謀長の意見を聞いてから決めると言っていた。まあ時間は沢山ある、焦って決める必要は無いさ……」
エーリッヒは笑みを浮かべていた。
宇宙暦 799年
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