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銀河英雄伝説〜その海賊は銀河を駆け抜ける
第三十九話  聞こえてくる声
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です。一つは我々の補給基地を叩き身動きを出来なくする。もう一つは我々を誘い出し殲滅する」

『うむ。補給基地を叩くのなら各個撃破のチャンスだ。帝国軍の戦力を削ぐことが出来るだろう』
「そうです、となればいずれ帝国軍は我々を誘引し殲滅しようとするでしょう。当然ですが帝国軍はわざと隙を見せるはずです、こちらはそこに勝機を探らざるを得ません」

ビュコック司令長官が大きく頷いた。
『戦場でローエングラム公を斃す……』
「はい」
『同盟を護る唯一の手だな。なんとかそこまで持って行かねば……』
司令長官の声には前途の険しさを思う憂いが有った。気弱とは思わない、私だってその実現の難しさには溜息しか出ない……。

司令長官との通信が終わるとシェーンコップが話しかけてきた。何時もの皮肉を帯びた口調ではない、至極生真面目な口調だ。
「なかなか上手く行きませんな。帝国軍は思いの外用心深い」
「……」
「何と言っても輸送部隊を撃破出来なかったのが痛い……」

その通りだ、輸送部隊を撃破出来ていればかなりこちらが有利になっていた。帝国軍に短期決戦を強いる、帝国軍に無理を強いる事が出来たのだ。
「まさか護衛に六個艦隊も動かすとは……」
「……」

六個艦隊、こちらの全戦力よりも多い戦力で輸送部隊を護っていた。こちらが姿を見せても輸送部隊の護衛を専一にして挑発に乗る事は無かった。しかも指揮官が凄い、ロイエンタール、ミッターマイヤー、ケンプ、ルッツ、ワーレン……。いずれも帝国軍の名将達だ、数だけではなく質でもこちらを圧倒した。そして指揮を執ったのは黒姫の頭領……。

挫けそうになった。それでもなんとか隙を突く事は出来ないかと後を追った。だがあの通信……。平文で打たれていた、明らかにこちらに聞かせるのが目的の通信……。無駄だと言っていた、こちらを甘く見るようなことはしないと……。

まるで目の前に大きな壁が立ち塞がったような思いだった、小揺るぎもしない大きな壁……。今思い出しても溜息が出る。帝国軍は手強い。戦力の優位を十二分に生かしてくる。そして嫌になるほど慎重だ。隙らしい隙が見えない。タッシリ星系での勝利も相手を上手く嵌める事が出来たからだ。そうでなければあの艦隊も無傷で撤退していただろう。

……作戦は立てた、僅かではあるが勝機は有るはずだ、そう思いたい。しかし帝国軍がこちらの策に乗るだろうか……。溜息を吐かざるを得ない……。
“邪魔をするのは許さない……”
黒姫の頭領の声が聞こえた。彼の声など聞いた事は無い、それでもあの輸送部隊の一件から聞こえるようになった。冷たく、威圧的で、そして喉をじんわりと締め付けてくるような声、黒姫の頭領の声だった……。


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