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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第二話 敵は幾千 我らは八百
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第二中隊兵站幕僚 新城直衛


「取り敢えず第二中隊の騎兵砲分隊はこちらの直轄にさせてもらうよ。
そちらの足を鈍らせるつもりはないからな」

 馬堂豊久大尉は火の点いていない細巻を弄びながら第二中隊兵站幕僚の新城中尉に砕けた口調で云った。
 新城直衛中尉は馬堂豊久の主家にあたる五将家の最有力者である駒城家の育預であり、位階は無位であるが駒城家の末弟として扱われるという面倒な立場に置かれていた。
 新城自身の人柄に問題があったこともあり、その面倒な立場は駒城家陪臣を含む将家の若者達からの悪感情を招いている。馬堂豊久はその中の例外であり、二十年近くの親交を結んでいる仲であった。

「えぇ、それは問題ありません。街道の積雪がある以上は、人力牽引の騎兵砲を持ち出すつもりはありませんから」
 新城自身も、二十年近い付き合いがあるこの青年を気が置けない仲だと思っている。何しろ駒城の家に住まうようになってから一番付き合いの長い同年代の人間である。

「そう云ってくれるのはありがたいね、なにしろ我が大隊の中じゃ一番手馴れているのは、大隊長殿かお前さんだからな」
 そう云って唇を歪めた。
「どうにも昨今、俺みたいな馬鹿なボンボン将校が出回ってるからな、どうにかやらかさないよう、上手く宥め賺してなんとかやってくれ」
 新城は苦笑した。
「其方は情報幕僚殿の本領でしょう」
 ――末端とは云え、陸軍軍令機関である軍監本部で情報を扱っていた事もある男だ、命令権なき発言力の扱い方は自分より一枚上手である
 少なくとも新城はそう評価していた。
「そうかな? だが中尉には本領でなくともそれをこなしてもらわなくてはならない」
 大隊長と話し込んでいる若菜大尉へ、視線を向けて云う。
「――焦った指揮官ほど性質が悪いのもないからな」

「僕の権限の及ぶ限りは」
 新城が言葉短く云う。
「うん、頼むよ ここで下手を打ったら迷惑を被るのは大隊だけではないからな」
 二つ年下の大尉も率直に頷き。
「無傷の中隊とまともな報告を持ち帰ってくれる事を祈るよ、新城中尉」
 最後に盛大な無茶ぶりをし、馬堂豊久大尉は大隊長の呼ぶ声に応えて足早に向かっていった。
 ――良い友人だ、本当に。
 こころなしか重くなった騎銃を担ぎ直しながら新城は無意識に唸った。



「情報幕僚からは何かあるか?」
 伊藤少佐は馬堂大尉を呼びつけ、尋ねると馬堂が頷き、若菜に云う。

「改めて第二中隊長に確認するが、真室大橋は真室川唯一の渡河点である。
敵軍も我が軍が真室大橋周辺に防衛線を引いている事は予想している筈だ。
敵もおそらく威力偵察隊を派遣しているだろうが、もし接触しても可能な限り戦闘を避けてもらいたい。
 今回の偵
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