第1部
ロマリア〜シャンパーニの塔
勇者の心と秋の空
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いってのは、いつものユウリと様子がちょっと違うって言う意味だよ。何か深刻な問題でもあったの?」
「ああ、大有りだ」
ユウリはきっぱりと言い放った。
「事は一刻を争うというのに、なぜ勇者である俺が盗賊退治なんぞ引き受けなきゃならないんだ!! そもそもその辺の野良盗賊なんかに大事な宝を取られるだなんて、この国の防衛能力はどうなってるんだ!! 不条理だろ!! 取り返すんだったら自分の国のやつらがやればいいだろうが!!」
勇者とは思えない発言に私はたじろぎながらも、それはそれで一理あるなと思った。
「えー……。だったらユウリ、断ればよかったじゃない」
「仮にも一国の王の頼みだぞ!! あの場で断れるわけないだろ!!」
ようするに、世間体ってやつなのだろうか?
「ユウリもいろいろ大変だね」
「ああ。特にお前みたいな世間知らずの田舎者の話し相手をするのはひときわ疲れる」
そこまで言わなくても……。
ともあれ、この『金の冠』を取り返す件、公の場で了承はしたけれど、当のユウリは全く乗り気じゃないらしい。
「あのさあ、それなら……」
「いっそのこと、あのサルをシャンパーニの塔に放り込んで、その隙に冠を取り返すか」
あのサルというのは、ユウリ語でナギのこと……らしい。
当然ながら私は断固否定した。冗談かどうかはさておき、ナギを囮役にするなんて考え、受け入れられないに決まっている。
ユウリは渋っていたが、やがて次の案を思いついた。
「じゃああのザルウサギをシャンパーニの塔に(以下略)」
「だから駄目だって!!」
ザルウサギというのは、ユウリ語でシーラの(以下略)。
ユウリのむちゃくちゃな提案に、私は首を思い切り横に振った。
「なんていうか、それじゃあ全然勇者らしくないよ。勇者ならその盗賊を退治して奪い返せばいいんじゃないの?」
すると、急にユウリの目つきが変わった。まるで一番最初にルイーダさんの酒場で出会ったときのような、侮蔑に満ちた目。
「『勇者らしく』って、なんだ?」
「え!?」
急にそんなことを言われたので、私は次の言葉に詰まった。だって、いつも自分のこと勇者だとか言ってる人が、なんでそんな矛盾したことをいうんだろう?
「…………ふん」
私が黙ったままだからか、ユウリは私から目をそらし、そのまま先に歩いていってしまった。
ぽつんと一人取り残されて、私は一人考えを巡らせる。
―私何か、まずいこと言っちゃったのかな……?
しばし悩んだが、頭の足りない私はそれ以上答えを導き出せるはずもなく、考えをやめてひとまず宿に戻ることにした。
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