戦車は愛と正義を否定する 前編
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るよう指示した。
粛々と承ったアッサムは、ルクリリやニルギリ、他のノーブル・シスターズのメンバーたちをともなって「紅茶の園」から退出する。表情には何も出さず。
「みんなよくできた淑女だね。
では、僕たちはアフタヌーン・ティーでも楽しもうじゃない」
玖波はダージリンなる女生徒の肩に手を置き、テラスへ誘う。
少年悪魔は、三歩遅れて彼らに付き従った。
テラスにおかれた豪奢なテーブルと、テーブル一つあたり二脚がおかれた椅子。
ハウスメイド風の衣装を着た職員が、玖波たち二人が座るテーブル席にティーセットをおく。
きちんと「ゴールデンルール」に則った100%ダージリンの典雅な香りが鼻をくすぐる。
しかし、さっきからその席で交わされる会話、いや、玖波の一方的なしゃべりは、それにふさわしいものとはおよそ言えなかった。
「なあ、君も思うだろ?
僕のような逸材を、性別だけで埋もれさせておく愚をね。
僕なら、世界一の戦車乗りにすらなれる。
……答えろ。なぜ連盟は僕を認めない?」
「……」
初めから認めるはずもない。
戦車道とは、先人たちがその血と命でようやく獲得した女たちのサンクチュアリなのだから。
そしてこの男は、自分がどれほど愚劣なことを語っているのか理解していない。
それは、今の相撲界を見ればわかることだ。上には上がいるのだ。
そして「国技」というより「日本固有の武道」というのがふさわしくなりつつある大相撲の後を追うことになるのだろう。戦車道も。
大相撲なら「国技」という建前を守る方法として「力士の帰化」という手段があるが、戦車道の場合は「乙女のたしなみ」というテーゼを永久に放棄することになるだろう。
返答の代わりに黙ったままテラスの外を眺めるダージリンは、そう考えていた。
室内で直立不動の姿勢で、身じろぎ一つしない少年悪魔は、まるで人形。
「西住の家だな……。だがそれも、もう終わりだ。
文科省の学園艦教育局は、一人なら例外として認めるべきだと次官を通じて大臣に上申した。
局長は僕を支持している。連盟理事長も裁可に動いている。
しかし、理事会が僕の入門を認めない。
最大流派の西住流が強硬に反対しているからだ。
最高師範自らが「外道」と呼んでいるそうだ。この僕を。極道の分際で。
だから対抗勢力の島田流の支持を、辻局長に取り付けに行かせている。
児玉理事長といっしょにね」
愚かなことを。ダージリンという女生徒は完全に制御された微笑の奥でそう思う。
児玉理事長など連盟のお飾りに過ぎない。
戦車に乗ったことすらない「男」が、宗家や館長の誰に戦車道を指南できるというのだろうか。
そのようなものを理事長として戴く理由など
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