第二章 追憶のアイアンソード
第18話 勇者召喚
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
ある、夏の日。
喪に服した人々の中に――他の人とは異なる服装に身を包む少年がいた。
新品のブレザーを着た、初々しい顔立ちを持つその少年は――暗い闇に沈んだ表情で、視線の先にある遺影を見つめている。白いハンカチで涙を拭う、母の涙声を聞きながら。
そんな彼の瞳には、在りし日の父の笑顔が、映し出されていた。
(なんで。なんでだよ。なんで、俺じゃなくて……父さんが……死んじゃうんだよ)
どうして、こうなってしまったのか。自分はどうすれば良かったのか。
そう思い悩む彼の脳裏には――父の最期が、色濃く刻まれている。
数日前――少年が、小学校一年生の夏休みを満喫していた頃。
大好きな父と共に楽しんだ海水浴の帰り。……少年は明日から、また楽しい一日が始まるのだと、信じて疑わなかった。
夕焼け空を見上げる彼の瞳には、希望の色しかなかったのだ。
横断歩道を駆け出す瞬間、眼前に信号無視のトラックが現れるまでは。
「竜正ぁあぁっ!」
何もかもが、一瞬の出来事だった。
最愛の父が、必死の形相で自分の名を叫んだのも。その勢いのまま自分を突き飛ばしたのも。――自分の身代わりとなり、トラックに撥ねられたのも。
何もかもが一瞬で、砕け散ったのだ。少年が信じていた日常が、全て。
――そして、全てが終わった時。
トラックの運転手が呼んだ救急車のサイレンが響く中、少年は呆然とした表情で……倒れ伏した父の傍に、膝を着いていた。
だが、そんな彼の様子とは裏腹に――我が子を見遣る父の表情は、穏やかなものだった。
息子の無事に安堵し、微笑む彼は、何も語らず……あるいは、語れず。静かに、眠るように。
瞼を閉じ――目覚めることはなかった。
生まれた頃から傍にいた、掛け替えのない家族は、もういない。
父だった遺体は灰となり、この世から消え去った。
それでも。生前の父の姿は、少年の心に深く住み着いている。共に過ごしてきた日々も、最期の瞬間に見せた笑顔も。
色褪せることなく、少年の中に生きていた。
(父さん……俺……)
自分のせいで父が亡くなったこと。その重さを背に感じながら、少年は隣にいる母を見遣る。
夫を喪った悲しみに沈む彼女の姿は、少年の心をさらに締め付けた。
(せめて……母さんは……母さん、だけは……!)
その重圧に追い詰められた少年は、悲痛な表情で決意を固める。
残された母は、自分が守らなくてはならない。母を、一人にしてはいけない。
父を殺してしまった今の自分に、出来ることがあるとすれば……それだけなのだから。
――しかし。
少年は、それすら叶えられなかった。
……数年後。中学校の入学式を迎える日。
時
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ