第一章 邂逅のブロンズソード
第5話 姫騎士の追憶
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を勝ち取れる。私は高貴な剣を拝見出来る。悪い話ではないでしょう」
「……」
それでも、その話はダイアン姫の関心を強く引きつけていた。罠であると頭でわかっていても、挑まずにはいられない。
そう思わせることが狙いだとしても……それ以外に、王国が苦境から抜け出す道があるとは思えない。
そんな逡巡が、彼女の脳裏を支配する瞬間。
「それに。貴方様の勇姿をご覧になれば……お父上もさぞお喜びになるでしょう」
「……ッ!」
最後に囁かれた悪魔の声が、彼女に決断を迫るのだった。
(ヴィクトリアは、きっと反対する。罠に違いないって。わたくしだって、それはわかってる。でも、わたくしはそれでも……!)
帝国の支配下に置かれ、敵兵の力に怯える国民。その姿に心を痛め、憔悴していく父。
そんな光景に苛まれてきた六年間を払拭できる唯一の方法が、目の前にある。
「……わかりました。わたくしの拙い剣でよければ、お見せしましょう」
「貴方様ならば、そう仰ると信じておりました。貴方様が戦う度に、王国に自由が戻っていく――実に素晴らしい、愛国心ですな」
戦う理由は、それで十分だった。
かくして彼女は、帝国による王国の支配を狭めるため、ババルオが主催する親善試合に参加することになったのである。
それから三ヶ月。ダイアン姫はババルオが差し向ける傭兵達と戦い、徐々に彼の支配から城下町を解放していくのだった。
三ヶ月前までババルオの私兵が闊歩していた街道では、争いに生きない人々の営みが平穏に築かれつつある。未だに帝国兵達の狼藉が続いている通りもあるが、それでも少しずつ、この町はかつての平和を取り戻していた。
そして、今日。
この試合に勝ちさえすれば、いよいよ王宮付近の地域がババルオの監視から解放される。そうなれば、萎縮している王国騎士団も勢いを取り戻せるだろう。
あと一勝。あと一勝で、この国に平和が戻る。どれほどその考えが甘かったとしても、今の彼女にはそれに縋る以外には手がないのだ。
――例え、それが。ヴィクトリアが不在の間に自分を籠絡し、王国を支配下に置こうとするババルオの謀略だったとしても。
もはやダイアン姫に、選択肢などないのである。
彼女が自分の勝利しか信じない性格であったならば、今この瞬間くらいは幸せだっただろう。しかし、そこまで彼女は愚かでもない。
薄々、勘付いているのだ。この戦いの先にある、非情の結末を。
(何が剣腕の披露……! こんな扱い、奴隷も同然ですわ……!)
何もかも投げ出して、逃げ出したくなるような結末を。
それでも、彼女は進まねばならない。
国民のため。自分の身を守れるようにと、剣技を授けてくれたヴィクトリアのため。そ
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