「銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(旧版)」の感想

tukiyomi
tukiyomi
 
コメント
更新お疲れ様です。

流石にドーソン提督も、新人事による予想以上の練度低下は見過ごせなかったようで。「前政権下で干されていた予備役活用」「粛軍人事によって、結果的に能力が上がった地方部隊の積極的活用」を認める辺り、伊達に大将はやっていないですね。
これだとトリューニヒトの面目も潰しませんし、自派の若手筆頭であり子飼いでもあるエリヤにも手柄を立てさせますし。

まあ・・・あの余計な一言いう癖さえなければ、もっと人望あるはずなんですけどねえ。もっとも人望が薄いせいで自分の力で派閥拡大が出来ない(トリューニヒト派はドーソンの魅力ではなく、軍政を牛耳っているトリューニヒトの影響力で固まっているのが主体)からこそ、トリューニヒトが重用する一因となっている訳ですが。

カプランの意外な一面に頭を抱えるエリヤ。
まあ当人にしてみればどうしても最初の印象で判断してしまいますから、混乱するのは無理もない事ですが、それでもエル・ファシル警備隊にいたころの部下が、ヤンの元で才能を開花させている事例もある訳ですから、そこはもう判断を修正していくしかないですよねえ。

ハラボフの対応についてはまあどうなんでしょうねえ。
とりあえず上官に対して画像オフで答えるのは失礼にあたるとは思うんだけど。

ヤンを一流の政治家と見なすには抵抗がありますねえ。
確かにイゼルローン方面軍を一枚岩にして見せた手腕は認めますが、同時に方面軍を軍閥化させかねないと周囲から警戒されてしまった訳で。
現在の状況だからこそまだトリューニヒトも我慢していますけど、仮に帝国との和平が実現されたら、間違いなくヤンを更迭(名目上は栄典の上での飼い殺し)して、イゼルローン方面軍も解体させるでしょうし。

仮にヤンを一流の政治家とするならば、イゼルローン方面軍を掌握しててなお、「ヤン提督は政治的に安心だ」という安心感を政治家や有権者に与えておかないといけないのですよ。イゼルローン方面軍の武力と、彼の軍事指揮官としての名声は、一歩間違えると容易に国家への脅威へと転換されることになる訳ですから。
しかしヤンはクーデター勃発時に政治的配慮を怠った事で政治的忠誠心を疑われることになり、クーデター以降はより一層そういった点を注意しないといけないのに、やっていることは、国家権力の命令の意図的な無視。

これはもう政治家としては落第でしょう。
「反トリューニヒト派ではあるけれども国家には忠誠を誓っている」ならば、賛同も擁護も出来ますが「反トリューニヒト派であり且つ国家に対する忠誠心にも期待できない」と見なされたならば、世論の擁護なんて不可能なのは、クーデターの一件で証明されています。
更に「対立勢力ではあるけれども政治的に安心できる」のならば、まだ相手方も抑制した対応(理性的な対応)を取ることが可能ですが、「対立勢力であり政治的にも信用できない」と見なされたならば、全面抗争勃発です。それも相手を根絶やしにしなければ収まりがつかない程の感情的対立に陥りかねません。(指導者が抑制的に考えても支持者がヒートアップして引きずられるのはよくあることです。)
特に今の状況は、トリューニヒトが無理やり我慢している状況ですので、箍が外れた瞬間、彼の持っている憤懣が一気に爆発することになりますし。

以前、作者様が「ヤンは政治家嫌いであり、職業軍人の一典型」と評していましたけど、レベロやホアンと言った、彼の政治的信条に近い議員との接触すら怠っているように見えますので、最低限の政治的配慮も出来んのかと思いますけどねえ。
まあだからこそ原作でも、信条が同じなはずのレベロからすら信用されなくなっていた訳ですが。 
作者からの返信
作者からの返信
 
優秀だけど人望に欠ける人物って、権力者としては扱いやすいですよね。

エリヤはわりと自分で見た印象に左右されますよね。目の前で評価を改める何かがあれば、変わることもあるでしょう。

ハラボフはまあ、あれです。

不特定多数の支持獲得を目的にしない限りにおいては、排他的な集団を作って外部との緊張を高めていくって、政治的には極めてオーソドックスかつ有効な手段なんですよ。内部をまとめつつ、外部に対して要求を通す一挙両得の策です。内部がまとまらなければ意味ありませんし、外部が交渉のテーブルに着かなければ意味ありません。ヤンは両方できてるから、大した政治家です。政治というのは要求を通す技術であって、仲良くする技術や好かれる技術ではありません。勘違いされることが多いですが。

「強力だが忠実でない」と思われることそれ自体、政治的には有効なカードですよ。「忠実で強力」「信用できないが弱体」と思われたら、懐柔の対象になりませんから。名声を得た軍事集団が軍閥化して要求を引き上げだすのも、「強力だが忠実でない」と思わせた方がより良い待遇を得られることを知っているからです。強制排除に出ても勝てる自信があるなら、なおさら有効ですね。自分たちを排除しに来たその事実をもって、「誠意を尽くせ」と脅迫できますから。