「銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(旧版)」の感想

不来庵
不来庵
 
良い点
まさかのファルストロング伯再登場。
……あまりの脂っ気の抜けっぷりと、彼の語る門閥貴族の宿業に、菊池寛『忠直卿行状記』の末尾を思い出したり。
 
悪い点
うーん、ツァイス元帥府出さなくても説明可能では>ラインハルト麾下の高級士官の出世

今回の場合だと、いかに帝国軍の人事が恣意的だろうと帝国貴族は高々3800家ちょっと(すなわち歴然たる貴族出身の現役士官は、私設軍にまわっている士官を考慮しても、どう考えても総数1万を大きく超えることはありえない=各省高級官僚や領地経営に回る人数を考えると更に少なくなる)、これに対して帝国正規軍は正規艦隊の数なら同盟軍の五割増し(人数は実数不明だが、人口比(ほぼ倍)から考えても貴族の私設軍を除いてどれほど少なく見積もっても同盟軍の二割増し以上、私設軍込みなら八割り増しくらいはあるだろう)の規模。
となれば、平民や帝国騎士出身の士官にも、何も**公爵家家臣や@@元帥府所属でなくとも昇進の余地は存分にある公算大。何せ戦艦だけで一個艦隊あたり2~5千隻が必要なので、それだけで大佐が2万から3万人、連隊長等地上ポストや参謀ポスト、隊司令ポストを考えると……

また、全ての高級士官が元帥府所属というわけでもないようです。

と言うわけで、少将までなら別にエリヤ君よろしく「優秀で武勲大だから昇進したが、それを鼻にかけて爵位もないくせに出しゃばる若造(貴族目線)」をかり集めた、で済ませても特に問題のない範囲だと思うんですがねぇ>ラインハルト麾下の高級指揮官たち
逆に、ラインハルトが第四次ティアマト会戦前に参加した「ラインハルト以外爵位持ちだけの」会議は、フレーゲルの差し金によるイレギュラーなものと私には読みとれます。

なお、一巻冒頭でヤンについて「同盟全軍で二十数名しかいない(正確な数を失念しましたorz)二十代の将官」なんて台詞があったわけで、そのまま帝国軍に当てはめれば門閥貴族の妨害をはねのけ実力で昇進した四十名以上の二十代の将官がいてもおかしくない&皇族や門閥貴族の予備役での特急昇進(フレーゲル「少将」みたく)は別枠扱いと思われる節が(コミックだと「私もそろそろ少将に」なんて会話が貴族のパーティーでなされていたり)。
 
コメント
そりゃエリヤ君、若い女性が楽しみにしていた甘味を横取りしたらむくれられるに決まっているってw
……実兄じゃなかったら平手打ち喰らった上に振られてもおかしくないぞww

 
作者からの返信
作者からの返信
 
貴族は貴族で大変なのです。議員は引退できますが、貴族は引退できません。

リップシュタット戦役に参加した貴族は3740家。門閥貴族のすべてが参加したとは思えません。リヒテンラーデと近い門閥貴族、ブラウンシュヴァイクやリッテンハイムと不仲な門閥貴族は参加しなかったでしょう。中立の門閥貴族も相当いたはずです。そういうわけで本作中では「門閥貴族は6000家ほど」と設定しています。

原作では32歳で少将になった子爵家嫡子の門閥貴族のノルデンという人はかなり出世が早いように言われていますが、家門の力が大きいようです。家門の力無しでそれよりも早い出世を果たしたラインハルト麾下の提督たちには、何らかの背景があったと考えるのが自然でしょう。帝国が武勲だけで若くして出世できる国家でないのは、60近いメルカッツがアスターテの時点で大将に留まっていたことで明らかです。下級貴族から上級大将に栄達していたオフレッサーは武勇はもちろん、政界遊泳もそれなりにできそうな人でした。ラインハルトの栄達には、皇帝の意向が強く働いていました。しかし、ラインハルト麾下の提督たちは、門閥貴族にうまく取り入って武勲を認めてもらおうというタイプではないようです。

平民出身の提督も相当数いるとは思いますが、大半は40代以上でしょう。それも原作中の帝国社会の記述からすると、門閥貴族の覚えがめでたい人物が多いのではないでしょうか。20代や30代で将官になれる者がいたとしても、士官学校を首席で出た上に門閥貴族の覚えがめでたく、戦場でも活躍するといった絵に描いたようなエリートだと思います。

そもそも、武勲を立てたら何の背景のない若者でも20代で少将や准将になれるのが当たり前な社会なら、ラインハルト麾下の提督が現体制に不満を持つ理由はありません。彼らの望む実力社会はとっくに実現しているのですから。

「武勲だけでは栄達できないような社会で若くして高位を得た。それなのに権力者に取り行った形跡がない。それどころか睨まれている」

これは結構不思議な境遇です。説明をつけるために設定をでっち上げました。